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 どうしたらこんなばかばかしい騒ぎになるんだろうね。何の話かというと、マイナンバー関連の一連のトラブルで、デジタル庁をはじめ政府が火だるまになっている件だ。現行の健康保険証の廃止とマイナンバーカードへの一体化を延期する、しないでドタバタ劇まで演じる始末。おいおい、一体どうなっているんだ。そもそもトラブルの件数が8500件程度なら大騒ぎになるような「大事件」ではないぞ。

 まあ、そうは言っても、そりゃ国民からすると不安が高まるのは当然だ。何せマイナンバーカードを使ったコンビニ証明書交付サービスでの誤交付、別人の住民票などが交付されたという問題を皮切りに、マイナンバーを利用した各種事業で個人情報のひも付け誤りなどのトラブルが次から次への明るみに出たわけだしね。ただし、それがマイナンバー制度への不信感へと直結してしまったり、保険証の廃止時期を延期しようとしたりするのは明らかに行きすぎだ。

 冒頭に書いたトラブル件数だが、これは2023年7月7日現在の数字だ。正確に言うと8551件。そのうち、マイナンバーカードを健康保険証として利用する「マイナ保険証」に別人の情報が登録されてしまったというトラブルが、抜きんでて多く7312件。それ以外にも公金受取口座の誤登録が940件(家族の口座へのひも付けは除く)、マイナポイントのひも付け誤りが172件、コンビニ交付サービスで他人の証明書を交付してしまった事案が14件など、多種多様なトラブルが相次いだ。まさにシステム関連のトラブルの「博覧会」といった様相だ。

 確かにけしからんと言えば、けしからん事態ではある。特にコンビニ交付サービスの交付誤りなどは個人情報の漏洩だから、かなり深刻な事案。公金受取口座の誤登録問題を調べるために、個人情報保護委員会がデジタル庁への立ち入り検査を実施したのも当然だ。ただねぇ、私から言わせれば「よくこの程度で済んだな」である。もちろん今後、さらに深刻なトラブルが発生するかもしれないから、「この程度で済む」かどうかは確定してはいないが、今のところ政府が火だるまになるような大事件ではない。

 何と言っても、トラブル件数は「たかが」8500件程度である。このコラムが「極言暴論」だから「木村はわざとあおっているな」と思う読者もいるかもしれないが、私は本当にそう思っている。関連するシステムは、各自治体のシステムやコンビニ証明書交付サービスのシステムなど多岐にわたる。個人情報のひも付けなど入力作業を担う人は本人だったり自治体関係者だったりと様々だ。しかも、マイナンバーカードの保有枚数を増やすために「国民を利(=マイナポイント)で釣った」ことなどもあり、短期間に入力作業なども一気に増えた。

 だから「よくこの程度で済んだな」と思うわけだ。「さすが日本人、作業が丁寧だ」とも思うぞ。なのに、なぜこんな大騒動になるのだ。こんなことで日本社会や行政のDX(デジタルトランスフォーメーション)の足を引っ張ってどうするつもりなのか。そもそも岸田文雄首相や河野太郎デジタル相をはじめとする政治家や、デジタル庁などの政府機関、地方自治体、そして富士通などのITベンダーはこの程度、あるいはそれ以上のトラブルが発生することを想定していなかったのだろうか。誠にもって不可解である。