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 「企業でDX(デジタルトランスフォーメーション)人材が不足していて、どんな人材を育成したり採用したりすればよいかが見いだせないとき、DXを推進するために必要な専門スキルや人材を見極める参考にしてほしい」。経済産業省情報技術利用促進課の平山利幸デジタル人材政策企画調整官は、IPA(情報処理推進機構)と連携して2022年12月に公開した「デジタルスキル標準(DSS)」についてこう話す。

 デジタルスキル標準は、ビジネスパーソン個人にとっての学習指針、DXを進める企業にとっての人材を育成・確保する際の指針である。経産省とIPAは、DXを推進する人材が担う役割や習得すべきスキルを定義した「DX推進スキル標準(DSS-P)」を新たに策定。経産省が2022年3月に公開済みの「DXリテラシー標準(DSS-L)」とセットにしたものをデジタルスキル標準として公開した。

デジタルスキル標準の構成を示した図。公開済みのDXリテラシー標準に、DX推進スキル標準を加えてデジタルスキル標準としてまとめている
デジタルスキル標準の構成を示した図。公開済みのDXリテラシー標準に、DX推進スキル標準を加えてデジタルスキル標準としてまとめている
(出所:経済産業省、情報処理推進機構)
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 デジタルスキル標準の対象は、デジタル技術を駆使して競争力の向上などに取り組む、企業の経営層を含めた全てのビジネスパーソンだ。IT関連スキルを体系化した従来の「ITスキル標準」などはITエンジニアが対象なので、大きな違いだ。

 企業やビジネスパーソンがこのデジタルスキル標準を活用する際、「やってはいけない」と言える2つの使い方が見えてきている。その詳細を解説していこう。

標準に挙がる全ての人材をそろえようとしてはいけない

 第1の「やってはいけない」活用法は、主に企業がデジタルスキル標準に挙がる全てのDX人材をそろえようとすることだ。

 前述した通り、デジタルスキル標準は、企業がDXを進めるのにふさわしい人材を育成・確保する際に、指針とするものだ。デジタルスキル標準のうち、新たに策定したDX推進スキル標準では「ビジネスアーキテクト」「デザイナー」など5つの人材類型を設定。さらに人材類型と関連させる形で、15の「ロール(役割)」に細分化している。

DX推進スキル標準における人材類型の定義。5つの類型はつながりを示す線で結ばれている
DX推進スキル標準における人材類型の定義。5つの類型はつながりを示す線で結ばれている
(出所:経済産業省、情報処理推進機構)
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 各ロールでは、DXを推進していくうえで担う責任、主な業務、必要なスキルをまとめてあるが、「書かれている全てのロールに該当するDX人材をそろえる」といった形で活用してはいけない。デジタルスキル標準は、様々な産業や職種で適用できるように汎用性を高めたつくりにしているからだ。

 加えて、企業によってDXの取り組み内容は様々で、必要なDX人材が異なることも大きい。こうしたことを踏まえて、経産省の平山調整官は「各社が先々を見据え、デジタルによる変革の方向性、ビジョンといった戦略を描くことが大切だ。そのうえで、不足しているDX人材やスキルの見極めなどにデジタルスキル標準を活用してほしい」と話す。

 ITスキル標準が公表された際も、ITベンダーの中には、事業戦略を描くことなく標準に示された全ての人材を確保する動きがあった。このやり方で様々な人材を擁したITベンダーは「どんな案件でも対応できる」などと標榜してはいたものの、結局は自社ならではの強みを示せなかったり、そろえた人材を生かせなかったりするケースが少なくなかった。こうした事態に陥らないようにするためにも、企業としてDXの戦略を固めたうえで、戦略遂行に必要なDX人材の要件を見極めてから、デジタルスキル標準を活用していくようにしたい。