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 文部科学省はこのほど、クラウドを活用して国会答弁書の作成業務などを効率化したと明らかにした。SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)を本格導入してファイルの共同編集などの機能を生かし、中央省庁ならではの課題をいくつも解決。業務の効率化につなげている。

文部科学省は4年に1度のIT環境更改のタイミングで、ITインフラをクラウドへ移行した
文部科学省は4年に1度のIT環境更改のタイミングで、ITインフラをクラウドへ移行した
(写真:日経クロステック)
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 2022年1月、パソコンやメール、ファイルサーバーなどのIT環境を一新した。従来はオンプレミス(内部所有)で主に運用していた各種システムをSaaS主体に移行した。

クラウド型オフィスソフトの共同編集機能を生かす

 例えば米Microsoft(マイクロソフト)のオフィスソフト「Microsoft Office」を、共同作業が容易なクラウド型の「Microsoft 365 E5」に切り替えた。1つの文書ファイルを職員が同時に編集できる機能を活用し、各種の文書作成を効率化した。

 効果が顕著な例は国会答弁書だ。国会答弁書の作成は、官僚泣かせの業務の代表格。議員からの作成依頼が、答弁する前日の午後になってようやく出てくることが少なくない。それから担当する職員を割り振り、手分けして作成に当たるため作業負荷が大きい。

 従来は次のように作成していた。まず答弁書を取りまとめる職員が、答弁を作成する担当者たちへメールでファイルを送信する。担当者はそれぞれの担当部分を作成し、その後に取りまとめ担当者へメールで送り返す。ファイルがそろったら、取りまとめ担当者が内容を統合する。

 この方法では、答弁書のファイルが完成するまでに取りまとめ役と答弁作成の担当者の間でメールのやりとりが何度も発生するなど、時間がかかりやすかった。担当者がそれぞれ別のファイルで答弁の作成に当たるため、進捗も把握しにくかった。ある担当者の進捗が遅れても他の職員による応援が後手に回る。こうした非効率が積み重なり、完成が答弁当日の午前3~4時になることさえあった。

 新たなIT環境では、担当者全員が同じファイルを同時に編集するようにプロセスを改善した。複数の担当者が同じファイルで一斉に答弁書を作るため、それぞれの進捗も把握しやすい。文部科学省の福井孝典大臣官房政策課サイバーセキュリティ・情報化推進室長補佐は「同時並行で作業ができるようになって作成スピードが大きく向上した」と話す。

 議員からの答弁書の作成依頼や、答弁の前提となる質問の通告が早まらない限り、抜本的な負荷の削減にはつながりにくい。それでも、「ファイルの共同編集といった事務作業の効率化による負荷の軽減効果は小さくない」(福井氏)という。