技術部 大山 宏
このたび、エスティーアイ株式会社が開発したHiFiオーディオ・インターフェースAD216を、 当社にて販売することになりましたので、ここにご紹介させていただきます。
兼ねてから、社内の信号処理部隊から、 お手軽なA/D・D/AコンバータとDAI(ディジタル・オーディオ・インターフェース)が欲しいとの要望があり、 なにか安くていいものはないかと捜していました。しかし、なかなかこちらの要求に添うものが見当たらず困っていたところ、 それならば、この勝手な注文に合わせて作ってしまおうとの話しが、エスティーアイ株式会社から持ち上がり、 当社も、開発の企画段階から参画させていただき、このたびの発売となりました。
1. オールインワン・オーディオ・インターフェース
コンピュータで音の情報を扱っている方々は、音の信号をアナログ信号からディジタル信号に変換するA/Dコンバータ、 その逆を行うD/Aコンバータをどこかでお使いになっておられることと思います。 このコンバータは、多くのメーカーから用途に応じて様々なタイプの製品が出されておりますが、 使用するにあたっては、対応するホストコンピュータ、インターフェース、アンチエリアジングフィルタ、マイクアンプ、パワーアンプ、ヘッドホンアンプなど、 コンバータ本体の他、それに付随して用意しなければならない機器があることをわずらわしくお思いの方も多いのではないでしょうか。
外形寸法 | 210W×132H×350D | |
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電源 | 電源電圧 | AC100V±10% |
電源周波数 | 47~65Hz | |
消費電力 | 約50VA | |
AD/DA変換 | ライン入出力 | 0dBV、BNCコネクタ |
マイク入力 | -40dBV、VR可変、Ri=3.3kΩ、プラグインパワー対応、ステレオミニジャック | |
モニタ出力 | オーディオパワー10W、連続1W、8Ω | |
チャンネル数 | 入出力ともに2ch | |
サンプリング周波数 | 48kHz、44.1kHz、32kHz、およびその1/2、1/4、1/8、1/16、1/32 | |
A/Dコンバータ | 16ビット、64倍オーバーサンプリング、ΔΣ方式、THD=0.005%、S/N=94dB | |
D/Aコンバータ | 18ビット、64倍オーバーサンプリング、5次ΔΣ方式、S/N=97dB | |
ディジタルオーディオインターフェース(DAI) | 入出力コネクタ | 75Ωシングルライン、光ファイバーコネクタ、110Ωバランスライン(オプション) |
入出力信号 | EIAJ CP-340ディジタルオーディオインターフェース規格に準拠 | |
サンプリング周波数 | 48kHz、44.1kHz、32kHz | |
FIFOバッファメモリ | 方式 | FIFO |
容量 | 1MB | |
ホストコンピュータインターフェース | SCSI-2インターフェース(シングルライン) | |
付属品 | 基本コントロールソフトウェア(パラメータ設定、録音/再生、データ表示など)、電源ケーブル |
AD216 (\980,000-)
AD216は、このような問題を一気に解決します。
まず、コンピュータ・インターフェースは高速データ転送が可能なSCSI形式を採用しておりますので、 ほとんどのコンピュータに接続が可能となります。
次に、A/D・D/Aコンバータには民生用のDATなどに使われている64倍オーバーサンプリングΔΣ方式のデバイスを採用しておりますので、 外付けのアンチエリアジングフィルタを接続する必要はありません。分解能は、A/D 16bit、D/A 18bitを確保しておりHiFiサウンドに対応します。 サンプリング周波数は1~48kHzで可変となっていますので、さまざまな用途でお使いいただけます。
また、ディジタルオーディオインターフェースを光と同軸でサポートしておりますので、 CDやDATと直接ディジタルでデータのやり取りが可能です。
さらに、1MバイトのFIFOタイミングバッファメモリを搭載しておりますので、長時間のハードディスクレコーディングを可能にしています。
そして、この機械の大きな特徴はマイクアンプ、パワーアンプ、ヘッドホンアンプを内蔵している点です。 こういったアナログ系の回路をディジタル回路と同居させることは、ノイズ等の問題が発生しやすいものですが、 そこは細心の注意を払って設計されております。このため、マイクを直結して音の取り込みができ、 また取り込まれた信号をヘッドホンやスピーカで直接聞くことができます。もちろん、ラインの入出力も装備しておりますので、 お手持ちのアンプをつなぐこともできます。
このようにAD216は、周辺機器を必要とせず、A/D・D/Aに必要な機能をこの1台に凝縮したオールインワンのシステムで、 まさにオーディオ・インターフェースとなっています。
また、価格も、980,000円と、これまでの同様の機器に比べて、かなり低く設定できたと考えております。
2. アプリケーション
次に、このオールインワン・オーディオ・インターフェースAD216を用いたアプリケーションの一例をご紹介致します。
多目的聴感実験システム「真耳(しんじ)」
音に携わる人々の音に対する理解を高め、音を聞き分ける能力を育成し、音を実際に聞きながら評価することにより、 人間の心理にもたらす影響を把握するとともに、音に関する指標を明確にすることを目的として開発された、 多目的な聴感実験システムで、次の主な2つの機能から構成されています。
ア 呈示音作成機能
呈示音の作成には、多彩な信号処理技術を導入して、ソフトウェアによる自由な波形編集及び周波数特性編集を可能にしています。 本機能は、時間波形編集、ディジタル・フィルタリングの2つのモジュールから構成されています。 時間波形編集では、呈示音データの録音再生、様々な波形の加工、さらにFFTによる周波数特性の分析をサポートしています。 また、ディジタル・フィルタリングでは、IIR型、FIR型の双方のフィルタを設計可能でディジタルグラフィックイコライザ機能により理想的階段状特性を実現しますので、 透過損失や挿入損失シミュレーションなどを行うことが可能です。フィルタリングの演算はソフトウェア上のバッチ処理で行います。 (FIRの場合は、インパルスレスポンス畳み込み演算となります。逆フィルタ作成などもオプションでサポートします。)
波形編集
実験中の被験者端末(パソコン使用時)
リアルタイム応答集計システム(被験者端末)
- イ 聴感実験機能
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聴感実験では、ユーザの目的に応じた様々な実験方法及び分析方法を用意しています。 実験方法では、音感トレーニング、精神物理学的測定法、尺度構成法、SD法をサポートしています。 また、分析方法では、音感トレーニングに対する正答率の集計、SD法の実験結果を用いた因子分析、クラスター分析、重回帰分析などをサポートしています。 なお、被験者の情報をデータベース化することにより、実験結果の個人差による分類を行うことも可能です。
このシステムにおいて、AD216は、呈示音作成の中で、基準とする音源の取り込み、ソフト上で加工された音の呈示に活用されます。
OSS(基準的音響伝送系)
本誌4号でもご紹介いたしましたOSSに、このAD216を用いることができます。
OSSは、コンサートホール、レコーディングスタジオなどの音場の評価や、自動車や列車などの騒音の評価、 オーディオ機器などの音質の評価のツールとして、また、アミューズメント施設、 テレビ・ラジオ、レコード・CDなどの3Dオーディオ実現のために利用されているもので、ダミーヘッドマイクロホンを用いてDAt等に録音されたバイノーラル音を、 2つのスピーカを用いて立体音場再生するものです。
AD216は、バッチ処理でOSSを実現させる際の、ダミーヘッドマイクロホンからの信号のA/D変換や、 DATからのディジタルデータ転送、OSSソフトウェアによるOSSネットワーク係数の畳み込み演算結果のD/A変換などに活躍します。
各種音響測定・分析システム
インパルス応答測定、逆フィルタ作成、畳み込み演算、FFT分析、フィルタ設計、フィルタリング、 聴感シミュレーションなど様々な音響測定・分析のフロントエンドとしてAD216をお使いいただけます。
オールインワンパッケージですので、周辺機器を最小限に抑えてシステムを構築することができます。
市販信号処理ソフトのフロントエンド
『DADiSP』:アストロデザイン(株)、『SpeechEditor』:(株)アルカディアなどの市販信号処理ソフトのフロントエンドとしてAD216は動作予定です。 その他の汎用信号処理ソフトとも動作を検討中です。
当社では、AD216を用いたアプリケーション開発を積極的に行っており、 お客様のご要望にできるだけ対応していきたいと考えておりますので、お気軽にご相談下さいますようお願い申し上げます。