2024年12月3日火曜日

【緊急開催】クレジットカード会社等による表現規制「金融検閲」問題を考える【院内集会】

クレジットカード会社等による表現規制「金融検閲」問題を考える

日時:2024年12月3日(火)16:30
場所:参議院議員会館 講堂

登壇:
 ジャック・ラーナーさん(情報法学者/カリフォルニア大学アーバイン校教授)
 (通訳:オリバー・ボルツァーさん)
 山田太郎さん(参議院議員)

事務局:うぐいすリボン



 外資系の寡占的クレジットカード会社の意向によって、日本では、電子書籍ストアから特定の題材を扱ったマンガ・アニメ・ゲーム等のフィクションの作品が撤去されたり、同人書店でクレジットカードが使えなくなる事態が続いています。
「金融検閲」(Financial Censorship)と呼ばれるこうした問題をどう考えるべきか、参議院議員会館において集会を開催しました。

 この問題についてクレジットカード会社の米国本社等と意見交換を続けてきた参院議員の山田太郎さん(自由民主党)からは、最新の状況と、今後の考え得る政策の選択肢について紹介をして頂きました。

 表現の自由の専門家で、カリフォルニア大学教授のジャック・ラーナーさんからは、これまでの性表現をめぐる法令とプラットフォームと金融をめぐるアメリカの動向について紹介して頂きました。

 漫画家でマンガ図書館の設立者でもある参院議員の赤松健さん(自由民主党)からは、「マンガ図書館Z」が、決済会社から突然売り上げの支払を拒絶されて閉館に追い込まれた事情についての説明がありました。

 残念ながら衆院の本会議と時間が被ってしまったため、集会に参加を希望していた衆院議員の方々からは激励のメッセージが寄せられました。
 ・ 田中健 衆院議員(国民民主党)
 ・ 松尾明弘 衆院議員(立憲民主党)
 ・ 五十嵐衣里 衆院議員(立憲民主党)
 ・ 松下玲子 衆院議員(立憲民主党)

 会場には、この問題に詳しい多数の関係者・有識者も詰め掛けていたため、ご発言をいただくのは一握りに限られてしまいましたが、下記の皆様からご発言をたまわりました。
 ・ 市川孝一さん(コミックマーケット準備会共同代表)
 ・ 稀見理都さん(マンガ評論家)
 ・ 内田朋紀さん(日本同人誌印刷業組合理事長)
 ・ 野口尚志さん(日本インターネットプロバイダー協会理事)
 ・ 境真良さん(iU准教授)
 ・ 舘登志子さん(海老名市議会議員)
 ・ 土井洋彦さん(日本共産党学術・文化委員会責任者)
 ・ 岩永千絵美さん(AFEE女性支部代表)

 金融検閲についての基本情報の提供のため、駿河台大学教授の八田真行さんから承諾を頂き、Yahooニュース掲載のコラムを印刷配布させて頂きました。また、ブロガーのHeatwave_p2pさんに、書きおろしの記事をご執筆いただきました。


報道:

2024年12月2日月曜日

金融検閲と表現の自由:PayPalとOnlyFansの事例から

  12月3日の院内集会 "クレジットカード会社等による表現規制「金融検閲」問題を考える" 開催にあたって、インターネットの自由とプライバシーの問題に詳しいブロガーの heatwave_p2p さんに寄稿して頂きました。


金融検閲と表現の自由:PayPalとOnlyFansの事例から

 寄稿:

Heatwave_p2p(ブロガー)


「検閲」とは一般に、国家などの公権力が表現や言論を精査し、不適切と判断したものの発表や公開を禁止することを指す。たとえば、デジタル大辞泉では次のように述べられている。

> 公権力が書籍・新聞・雑誌・映画・放送や信書などの表現内容を強制的に調べること。日本国憲法では禁止されている。

 だがデジタル時代における検閲は、必ずしも公権力による表現や言論の取り締まりだけに限られなくなった。その一つの例が、金融システムを通じた事実上の検閲だ。2012年のPayPalによる電子書籍販売規制と2021年のOnlyFansによるアダルトコンテンツ禁止の試みは、金融機関の判断が表現活動に重大な影響を及ぼしうることを明らかにした象徴的な出来事であると同時に、それに対する抵抗が検閲の決定を覆しうることを示した出来事でもあった。

 

PayPalによる電子書籍販売規制

 2012年、PayPalは突如として、特定のアダルトコンテンツを含む電子書籍の販売に対して決済サービスの利用を制限すると通告した。電子書籍セルフパブリッシングプラットフォームのスマッシュワーズが、このPaypalからの通告とその対応についてユーザに説明するメールを公表したことで、Paypalの決定は大きな注目を浴びることになった。

 

 Paypalが取り扱いの禁止を求めてきたのは、主に獣姦、強姦、近親相姦などを含む作品である。いずれも「世間一般」には不道徳のそしりを免れないことは確かだが、スマッシュワーズが扱う小説作品に描かれていたとしても、それらはフィクションであって現実ではなく、何らかの犯罪・違法行為に該当するものではない。

 だが、決済の大部分をPaypalに頼っていたスマッシュワーズには、Paypalに従う以外の選択肢はなかった。Paypalとの取引を停止されれば、サービスの存続は不可能だった。

 また当時の報道によれば、Paypalの決定は、必ずしもPaypal独自の判断ではなかったようだ。Paypalが取引先に送付したメールでは、決定の背景について以下のように説明されていた。

 

「私たちの銀行パートナーやクレジットカードネットワークが、この問題について非常に厳しい姿勢をとっています。(…)銀行パートナーとの関係は、私たちがオンラインサービスやモバイルサービスをお客様に提供する上で欠くことのできないものです。したがって、強姦、獣姦、近親相姦を含むコンテンツを禁止する彼らの規則を遵守し続けなければなりません。」

 この動きに対し、全米書店協会、全米作家組合、電子フロンティア財団 (EFF)やアメリカ自由人権協会  (ACLU)は共同で反対運動を展開した。彼らは、決済プラットフォームが事実上の検閲者とし振る舞うことの危険性を指摘し、合法的なコンテンツへの過剰な規制であると反発した。

 

OnlyFansによるアダルトコンテンツ禁止の試み

 それからおよそ10年後の2021年8月、今度はOnlyFansが同年10月からアダルトコンテンツの投稿を禁止すると突如発表した。OnlyFansはクリエイターとファンとつなぐサブスクリプション型のSNSプラットフォームで、とりわけアダルトパフォーマーに人気があった。また、コロナ禍で収入を断たれたポルノ俳優やセックスワーカーたちの新たな収入源として期待されていた矢先の出来事だった。

 アダルトパフォーマーに支えられていたはずのOnlyFansが、なぜアダルトコンテンツの禁止という方針転換に踏み切ったのか。OnlyFansのティム・ストークリーCEOは、「一部の銀行がクリエイターへの送金を停止したため」と説明し、この禁止措置が取引先の銀行の意向であることを明かした。

 ではなぜ銀行はアダルトコンテンツの取り扱いに難色を示したのか。その背景にあったのは、Mastercardの規約変更だ。同社は、提携銀行(アクワイアラ)がアダルトコンテンツを扱うサイトの決済を処理するに際して、厳格な年齢確認や公開前の事前承認など、遵守が困難な要件を課すよう求めていた。この規約はまさに2021年10月に発効することになっていた。

 Mastercardがこのような規約変更に踏み切ったのは、子どもの性的虐待、リベンジポルノなどの動画を公開していたPornhubの問題を受けてのもので、それ自体はやむを得ない部分もある。だが、誰もが性的な動画を投稿でき、誰もが閲覧できるチューブサイトのPornhubとは違い、OnlyFansは自ら登録したパフォーマーが、月額課金してくれたファンにコンテンツを提供するサイトである。Pornhubのように違法な動画が溢れていたサイトではないのだ。

 当然、クリエイターやユーザーはOnlyFansの決定に強く反発した。性産業従事者の組合、アダルト・パフォーマー・アクターズ・ギルド(APAG)や、EFF、ACLUなどの市民団体からも批判の声が上がった。その結果、OnlyFansは6日後にこの方針を撤回、銀行パートナーとの協議を重ね、アダルトコンテンツの継続を可能にする解決策を見出した。

 方針の撤回後、OnlyFansは公式Twitterアカウントでこのようにツイートした。

声を上げてくれたすべての人々に感謝します。当社は多様なクリエイターのコミュニティーをサポートするに足る保証を確保し、10月1日に予定していたポリシーの変更を凍結しました。OnlyFansはインクルージョンを支持し、あらゆるクリエイターに居場所を提供していきます」

 

金融検閲の構造的問題

 これらの事例が示すのは、金融システムを通じた表現規制の問題だ。特に注目すべきは、この規制が必ずしも法的要請によるものではないという点である。むしろ、人身売買や搾取との関連性への懸念、投資の観点からの圧力、レピュテーションリスクの回避など、複合的な要因が金融機関の判断を形作っている。また、カード会社(ネットワーク)の規約が、加盟店に直接ではなく、アクワイアラ(提携銀行)を通じて執行されることが、過剰な規制に繋がりうることも示唆される。

 さらに、National Center on Sexual Exploitation(NCOSE)のような宗教的バックグラウンドを持つ組織が、人身売買・搾取対策を口実として、より広範な道徳的コンテンツ規制を推進しようとする動きも見られている。このアプローチは、合法的なコンテンツと違法コンテンツの境界を意図的に曖昧にし、結果として適法な表現活動まで制限するよう金融機関に圧力をかけるものともなりうる。

 

表現の自由を守る闘い

 だが、これらの事例は同時に、業界・組合・市民社会による表現の自由を守る力強い抵抗も示している。いずれの事例でも、EFFやACLUなどの市民団体、全米書店協会などの業界団体、全米作家組合やAPAGなどの組合、さらに個々のユーザやクリエイターが声を上げたことで、方針転換を促した。

 これらの経験は、金融システムを通じた表現規制という新たな課題に対して、いかに対応すべきかを示す重要な先例と言えるだろう。表現の自由を守るためには、法的な保護のみならず、金融システムの中立性を確保するための継続的な監視と行動が必要とされている。