2006年 05月 14日
ウォールストリートへの「道」 |
金融の中心地であるウォールストリート(米証券業界)では、実に色々なバックグラウンドの人たちが活躍しています。かつては白人男性の社会であったとされるウォールストリートは、90年代から急速に女性やマイノリティ、そして外国人を受け入れるようになり、そのことは業界の発展に大きく寄与したと言われています。
そんなウォールストリートで是非働いてみたいと思う人もいると思うのですが、具体的な就職方法となると、そのマニュアルのようなものはほぼ皆無と言っても過言ではないと思います。その理由としては、現在に至るまでこちらで働いている日本人が少ないということがあると思うのですが、投資銀行業界だけでもこれだけ外国人を採用しているわけですから、日本人にもその「道」は確実に存在すると言えます。
ということで、以下に参考までに、私が知っている限りのウォールストリートでの就職方法をまとめてみます。
まず、一般的にアメリカの専門技術を必要とする業界は、ウォールストリートに限らずシリコンバレーにしてもハリウッドにしても、外国人に対して極めて寛容であり、実力さえあれば本当に誰でもそこで仕事を見つけることが出来ます。ただ、世界をリードするアメリカで実力を認めてもらうのは容易なことではなく、またアメリカ人と比べると、どうしても就職に色々な「障害」が伴うのも残念ながら事実です。
アメリカ国籍や永住権を持たない人(外国人)にとって最大の障害となるのが、労働ビザの問題です。ご存知の通り、外国人がアメリカで就職する場合には就労ビザの取得が必要であり、そのためには雇い主の企業が「この外国人がこのポジションには絶対に必要だ」と言ってビザ取得のスポンサーになってくれることが必要です。
しかしこちらの企業は採用の際に、アメリカで職経験があるかどうかを非常に重視する傾向があります。そもそも「ビザを得て職を得る」ということと「職経験を得る」ということが「鶏と卵」の関係であるため、これは大きな問題となります。そして現地での職経験がないと、どんなに英語が流暢でも、また日本で一流大学を出て一流企業に勤務していた経験があっても、現地就職するのは困難になってしまいます。
よって日本人でありながらウォールストリートでのキャリアを得たければ、まず考えられるのは、日本人であることを生かせる仕事を探す方法です。
その中で主なものは、在米日本企業に対する証券営業の仕事(日本語)、日本株を運用しているバイサイド向けの日本株営業の仕事(主に英語)、そして投信、年金、ヘッジファンドなどでの日本株運用の仕事(主に英語)です。これらはアメリカでの職経験にあまり関係なく得られる仕事であるため、現在関連した仕事を東京でしているか、またはアメリカに留学している人にとっては、確実に一つの「道」と言えると思います。
特に最近は日本株が好調であることもあり、多くの運用会社が日本株へのエクスポージャーを増やそうとして、日本語が出来る人間を探しています。もちろんいきなり日本の担当となるのはある意味極めてニッチなポジションになるわけですが、日本が世界第二位の経済大国であることを考えれば、これは一つの魅力的な仕事と言えると思います。
では日本人であることを生かさずに、現地企業を相手とした仕事を得るにはどうすればよいかという話ですが、ここでビザの問題が顕在化します。というのは、採用主に「この人を取りたい」と思わせるには、アメリカでの職経験が必須だからです。
ウォールストリートでは、アメリカ以外でどんな経験を持っていてもあまり評価されないと言う現実があります。よってそんなアメリカで現地就職したければ何とか職経験を得る必要があり、その方法として考えられるのは、アメリカの一流大学でMBAなどを取得した後に現地で就職活動をするか、外資系証券の社内転勤を利用すると言う方法です。
MBAを取得して就職活動をする場合には、入学した直後の1年生の秋~冬に行われるサマーインターンの面接を突破することが、二年後に仕事を得る条件となると言っても過言ではありません。特に投資銀行ではその傾向が顕著であり、各社ともインターンで実際に学生を使ってみて、その中から優秀な人にオファーを出す傾向があります。
それを知っている学生達はサマーインターンの募集に殺到し、その結果そのプロセスは非常にコンペティティブになります。面接のプロセスもかなり厳しいもので、学生にこんなことを聞いて分かるのかということをバンバン聞いたり、カクテルパーティの場での発言や行動を注意深く観察したりします。世界のトップスクールでの就職活動なんだから当たり前なのかもしれませんが、アメリカでこのプロセスを突破するのは、MBAが始めての留学と言う人にとっては高いハードルかもしれません。
外資系証券の社内転勤については、支店(東京)から本社(NY)への異動は通常困難であるため、日本で実績を残して会社に「NY研修」を認めさせるという方法が考えられます。こうすれば安全確実にウォールストリートで職経験を得ることが出来るため、最終的に現地化を目指す人にとっては大きなプラスとなります。
ただ、研修制度を利用してNYに来る人たちほぼ全員が認めることですが、NYの職場環境は東京と比べて極めてコンペティティブであり、更に仕事内容もビジネスカルチャーも日本と全く異なるため、そこで認められて面白いディールを担当させてもらえるようになるためには、相当の努力と、また運も必要になってきます。更にトレイニーと言う立場上、アメリカで現地化するには東京オフィスとの折衝が必要となります。東京側は当然「帰って来い」と言うわけで、そこでNYの豊富な人材と比べてもこいつが絶対に必要だ、と現地のマネージャーに言わせるのは、簡単なことではありません。
では現地で転職してしまえばよいではないかと思うかもしれませんが、通常トレイニーはL1と呼ばれる転勤者用の「転職不可」のビザで来るため、特にバイサイドなどは、ビザが無いという理由だけで面接すら受けさせてくれないケースが多く見られます。
こうして見てみると、一番順当にウォールストリートで現地就職を勝ち取る方法は、日本の外資系証券などで数年間のキャリアを積んだ後に、出来ればNYに研修で赴いて職経験を獲得し、その後にMBAに留学して現地の就職活動を突破する、と言う方法な気がします。MBA卒業生はビザの問題が存在しないため、実力さえあれば就職出来ると言う意味で極めて大きなチャンスとなります。
その際にこちらの就職活動で日本人が苦労するのは、金融の知識とビジネスカルチャー(積極性?)の部分のようです。これらの点は日本の外資系証券に勤務している人でも大変苦労するようなので、意識して補強しておくと良いかもしれません。
以上、ウォールストリートでの就職は色々と困難が伴うものの、外国人の就職状況を見ていても、強い意志さえあれば誰でも十分に可能であると断言できます。そして一度切符を手に入れてしまえば、厳しい中でも充実した経験が出来ることは間違いないと思います。興味がある方の幸運をお祈りします。
(画像はhttp://www.london.edu、http://www.harvardsquarelibrary.orgより)
そんなウォールストリートで是非働いてみたいと思う人もいると思うのですが、具体的な就職方法となると、そのマニュアルのようなものはほぼ皆無と言っても過言ではないと思います。その理由としては、現在に至るまでこちらで働いている日本人が少ないということがあると思うのですが、投資銀行業界だけでもこれだけ外国人を採用しているわけですから、日本人にもその「道」は確実に存在すると言えます。
ということで、以下に参考までに、私が知っている限りのウォールストリートでの就職方法をまとめてみます。
まず、一般的にアメリカの専門技術を必要とする業界は、ウォールストリートに限らずシリコンバレーにしてもハリウッドにしても、外国人に対して極めて寛容であり、実力さえあれば本当に誰でもそこで仕事を見つけることが出来ます。ただ、世界をリードするアメリカで実力を認めてもらうのは容易なことではなく、またアメリカ人と比べると、どうしても就職に色々な「障害」が伴うのも残念ながら事実です。
アメリカ国籍や永住権を持たない人(外国人)にとって最大の障害となるのが、労働ビザの問題です。ご存知の通り、外国人がアメリカで就職する場合には就労ビザの取得が必要であり、そのためには雇い主の企業が「この外国人がこのポジションには絶対に必要だ」と言ってビザ取得のスポンサーになってくれることが必要です。
しかしこちらの企業は採用の際に、アメリカで職経験があるかどうかを非常に重視する傾向があります。そもそも「ビザを得て職を得る」ということと「職経験を得る」ということが「鶏と卵」の関係であるため、これは大きな問題となります。そして現地での職経験がないと、どんなに英語が流暢でも、また日本で一流大学を出て一流企業に勤務していた経験があっても、現地就職するのは困難になってしまいます。
よって日本人でありながらウォールストリートでのキャリアを得たければ、まず考えられるのは、日本人であることを生かせる仕事を探す方法です。
その中で主なものは、在米日本企業に対する証券営業の仕事(日本語)、日本株を運用しているバイサイド向けの日本株営業の仕事(主に英語)、そして投信、年金、ヘッジファンドなどでの日本株運用の仕事(主に英語)です。これらはアメリカでの職経験にあまり関係なく得られる仕事であるため、現在関連した仕事を東京でしているか、またはアメリカに留学している人にとっては、確実に一つの「道」と言えると思います。
特に最近は日本株が好調であることもあり、多くの運用会社が日本株へのエクスポージャーを増やそうとして、日本語が出来る人間を探しています。もちろんいきなり日本の担当となるのはある意味極めてニッチなポジションになるわけですが、日本が世界第二位の経済大国であることを考えれば、これは一つの魅力的な仕事と言えると思います。
では日本人であることを生かさずに、現地企業を相手とした仕事を得るにはどうすればよいかという話ですが、ここでビザの問題が顕在化します。というのは、採用主に「この人を取りたい」と思わせるには、アメリカでの職経験が必須だからです。
ウォールストリートでは、アメリカ以外でどんな経験を持っていてもあまり評価されないと言う現実があります。よってそんなアメリカで現地就職したければ何とか職経験を得る必要があり、その方法として考えられるのは、アメリカの一流大学でMBAなどを取得した後に現地で就職活動をするか、外資系証券の社内転勤を利用すると言う方法です。
MBAを取得して就職活動をする場合には、入学した直後の1年生の秋~冬に行われるサマーインターンの面接を突破することが、二年後に仕事を得る条件となると言っても過言ではありません。特に投資銀行ではその傾向が顕著であり、各社ともインターンで実際に学生を使ってみて、その中から優秀な人にオファーを出す傾向があります。
それを知っている学生達はサマーインターンの募集に殺到し、その結果そのプロセスは非常にコンペティティブになります。面接のプロセスもかなり厳しいもので、学生にこんなことを聞いて分かるのかということをバンバン聞いたり、カクテルパーティの場での発言や行動を注意深く観察したりします。世界のトップスクールでの就職活動なんだから当たり前なのかもしれませんが、アメリカでこのプロセスを突破するのは、MBAが始めての留学と言う人にとっては高いハードルかもしれません。
外資系証券の社内転勤については、支店(東京)から本社(NY)への異動は通常困難であるため、日本で実績を残して会社に「NY研修」を認めさせるという方法が考えられます。こうすれば安全確実にウォールストリートで職経験を得ることが出来るため、最終的に現地化を目指す人にとっては大きなプラスとなります。
ただ、研修制度を利用してNYに来る人たちほぼ全員が認めることですが、NYの職場環境は東京と比べて極めてコンペティティブであり、更に仕事内容もビジネスカルチャーも日本と全く異なるため、そこで認められて面白いディールを担当させてもらえるようになるためには、相当の努力と、また運も必要になってきます。更にトレイニーと言う立場上、アメリカで現地化するには東京オフィスとの折衝が必要となります。東京側は当然「帰って来い」と言うわけで、そこでNYの豊富な人材と比べてもこいつが絶対に必要だ、と現地のマネージャーに言わせるのは、簡単なことではありません。
では現地で転職してしまえばよいではないかと思うかもしれませんが、通常トレイニーはL1と呼ばれる転勤者用の「転職不可」のビザで来るため、特にバイサイドなどは、ビザが無いという理由だけで面接すら受けさせてくれないケースが多く見られます。
こうして見てみると、一番順当にウォールストリートで現地就職を勝ち取る方法は、日本の外資系証券などで数年間のキャリアを積んだ後に、出来ればNYに研修で赴いて職経験を獲得し、その後にMBAに留学して現地の就職活動を突破する、と言う方法な気がします。MBA卒業生はビザの問題が存在しないため、実力さえあれば就職出来ると言う意味で極めて大きなチャンスとなります。
その際にこちらの就職活動で日本人が苦労するのは、金融の知識とビジネスカルチャー(積極性?)の部分のようです。これらの点は日本の外資系証券に勤務している人でも大変苦労するようなので、意識して補強しておくと良いかもしれません。
以上、ウォールストリートでの就職は色々と困難が伴うものの、外国人の就職状況を見ていても、強い意志さえあれば誰でも十分に可能であると断言できます。そして一度切符を手に入れてしまえば、厳しい中でも充実した経験が出来ることは間違いないと思います。興味がある方の幸運をお祈りします。
(画像はhttp://www.london.edu、http://www.harvardsquarelibrary.orgより)
by harry_g
| 2006-05-14 15:34
| キャリア・仕事