2012年 02月 28日
非金融業界からバイサイド(運用会社)への転職 |
当ブログを開始して比較的間もない2006年に、「キャリアの選択」というエントリーを書いたことがあります。内容は、投資銀行からヘッジファンドへの転職についてのものですが、合わせてヘッジファンド業界の説明や、投資銀行でのキャリアとどう関係しているか、という話を簡単に書きました。
最近その記事に対して、金融業界以外の方から、比較的長いご質問を頂きました。当ブログをお読み頂いている方の中には、同じようなご質問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんので、ここに頂いた質問に対する回答について、エントリーを書いてみます。(質問者の個人情報は、当然ですが、非開示とさせて頂きます。)
当ブログでは、過去にもウォールストリートでのキャリアについてのエントリーを比較的多く書いて来ました。それらのエントリーにはこのリンクもしくは以下のURLから行くことが出来ます。
http://wallstny.exblog.jp/i5
例えば、バイサイドへの就職を希望する学生の方からのご質問を元にしたエントリー、「PF・HFへのキャリア」を書いたことがあります。転職のケースとは必ずしも一致しない部分も多いですし、当時と今とでは市場環境も全く異なりますが、何らかの参考になるかもしれません。転職については、一般的に言えることですが、現在の立場がどのようなものであるかは、非常に重要なポイントだと思います。その意味では「ウォールストリートへの「道」」なども参考になるかもしれません。
質問:
セルサイド、バイサイドの仕事の共通点。エントリー内では「基礎部分は同じ」と書いているが、金融バックグランドがないため、具体的なことが分からない。共通している知識、スキル、あると有利な資格、読むと参考になりそうな書籍等を、できるだけ広範に教えて欲しい。
回答:
セルサイド(証券会社・投資銀行)とバイサイド(運用会社)の中には、実に様々な職種が存在します。その職種によって共通点は大きく異なりますので、一般化して説明することは少々困難です。証券会社の内部の事情については、「ウォール両側のカルチャー」などのエントリーが参考になるかと思いますが、ここではバイサイドとの関連性についても書いてあります。
ここでは、主に投資銀行・株式調査業務と、株式運用業務・プライベートエクイティ投資業務の共通点について、書きたいと思います。
一番の共通点は、どちらの仕事でも「財務分析」の能力が必要であるという点です。財務分析に必要な知識は、会計(日本基準、米国基準など)や法律、市場のルールなど様々ですが、セルサイドとバイサイドのどちらでも、同じ能力や知識が求められると思います。また、実際の分析を行う際に必須である、Excelのようなスプレッドシートを自由に使いこなす力も、非常に重要と言える気がします。
次に、これは当然といえば当然ですが、証券市場に関する知識や関心も、とても重要と言えると思います。株式、債券、為替などに一切興味がないのに、セルサイドやバイサイドの一線で働くというのは、困難である気がします。関連して、世界中の経済の動向についての興味関心や、英語を使っての情報収集能力なども、求められる共通のスキルと言えるかもしれません。
投資銀行(コーポレートファイナンス)の仕事では、こうした基礎的な金融・財務の力が幅広く身につくため、アメリカにおいてヘッジファンドやPEファンドで勤務している人の多くが、最初のキャリアとして、投資銀行部門での勤務経験を持っていると言ってもよいかと思います。この点については、「IBのスキルの汎用性」というエントリーもご参照下さい。
そしてPEファンドとヘッジファンドではどう違うのか、という質問も追加で出て来そうですが、その点についても過去に「ファンドの仕事の共通点」というエントリーを書いたことがあります。この中にも、どのようなスキルが共通しているのかという話が書いてあると思います。
あると便利な資格と言うのは難しいですが、弁護士、会計士、証券アナリスト、MBA、Ph.Dなどの資格を持っている人は多く存在します。ただ、資格があれば仕事で成功するかというと、そんなことは決してなく、これはアメリカ社会で共通した考え方ですが、資格はあくまで「スタート地点」と言えるかもしれません。ちなみに怠け者の私は、以上のどれも持っていません。
外資系での勤務が希望であれば、英語は最低でもビジネスレベルは出来ることが必要だと思います。これは、読み、書き、口頭でのコミュニケーションの全てを含みます。
少々厳しいようですが、世界共通語である英語が出来なければ、世界で情報を集めることは出来ず、国境を越えて情報が飛び交う金融業界で働く際に、決定的に不利になる気がします。当然、企業内での出世も不利になります。
読んだ方がよい書籍という質問も、業務やファンドの投資戦略によって異なるため、なかなか難しいですが、個人的にお勧めな本は、株式投資関連も含めて、ライフログに載せてあります。財務分析や会計、経済の知識が未熟だと思えば、そこは必須の分野ですので、その分野の書籍を集中的に読んだ方が良いでしょうし、金融商品開発などに関わるのであれば、そうした専門書を読むのもよいかもしれません。
質問:
雇用環境(レイオフ)について。ヘッジファンド等では、レイオフが頻繁に起ると理解しているが、具体的な期間はどれくらいか。アナリストレベルでも、1年以内に結果を出す事が求められるのか。若手を一から育ててくれるような環境はないか。
回答:
恐らく外資系のファンドを念頭においた質問かと思いますが、よく言われる通り、外資系では収益を上げられなければレイオフされるというのは本当の話です。実態は更に厳しく、個人で成績が良くても、会社の方針に合わない、会社全体の業績が悪いなどの理由から、大量一時解雇がされることはよくある話です。しかしこれらは、アメリカの労働市場の柔軟性を担保しており、業績が戻れば雇用が戻るというサイクルを繰り返しています。
この点についても、過去にもご質問を頂いたことがあり、「ウォールストリートのレイオフの実態」というエントリーを書いたことがあります。楽に大金が稼げると誤解されがちなウォールストリートですが、実は数多くの人が、自主的か強制かに関わらず、事実上のレイオフを経験していると言ってよいかと思います。その際には収入はゼロになり、生活も極めて不安定になり、精神的にも多大な苦痛を味わうことになります。また、生涯賃金を比べると、日本企業の方が遥かに高いという話も聞いたことがあります。
「アナリストレベルでも1年以内に結果を出すことが求められるのか」という質問ですが、端的に答えると「イエス」だと思います。多くのファンドや投資銀行が、「2年以内に」などと言いますが、実際には2年間を通じて、徐々にその人の適正や能力は分かって行きます。その意味では、1年であっても確実に成長が難しいと判断されれば、レイオフの対象になると言えると思います。
一から育ててくれる環境はないのか、というご質問については、「ある」とお答えしたいと思います。それはどこかと言うと、投資銀行です。ただしこれは、学卒後のアナリストプログラム、MBA後のアソシエイトプログラムに限った話であり、30歳前後でMBAなしで転職するというのは、特に現在のような市場環境では極めて困難かもしれません。最初に紹介した「ウォールストリートへの「道」」が参考になるかと思います。
質問:
バイサイド間(PE / HF)での転職は頻繁に起るのか。
回答:
市場環境(雇用条件)にもよりますが、比較的頻繁に転職が起こっているように思います。ただし、セルサイド(投資銀行)と比較すると、ファンドは社風から投資戦略まで、性格が千差万別であり、特にヘッジファンドについては、トップのマネージャーやパートナー達への俗人的な関係が重要であることが多くあります。その意味では、A社で活躍したら、B社でもC社でも同じように活躍できるとは、全く限りません。
投資銀行業界では、Morgan StanleyであろうがMerrill LynchであろうがCredit Suisseであろうが、面接で受ける質問や、求められる能力や適正は非常に似ており、社風の違いこそあれ、事実上転職の翌日から、フル稼働が可能であると言える気がします。それと同じ流動性がバイサイドにもあてはまるかと言うと、そんなことはないように思います。
質問:
投資銀行とヘッジファンドの両方を経験した上で、人間関係や睡眠時間等を含めて、どちらが精神的に、より過酷な環境であったか。
回答:
最初にこの二つの仕事の違いを端的に言うと、投資銀行の方が「物理的な」拘束時間が長く、ヘッジファンドの方が「精神的な」拘束時間が長いと言えると思います。よって、睡眠時間はヘッジファンドの方が長く取れるかもしれませんが、どちらが深く眠れるかと言われると、微妙かもしれません。
人間関係については、ヘッジファンドはほとんどがパートナーシップであり、トップまたは一握りのパートナーの個人商店、と言っても過言ではありません。よってその人(複数の場合もありますが)とそりが合わなければ、そこで成功することは、ほぼ不可能になります。
ただファンドによっては、一匹狼のトレーダーのような人を多く集めて、自由にカネを稼がせるという戦略を採用している会社もありますので、一概にはいえません。そのようなファンドでは、パフォーマンスによって昇進や給与が合理的に決まっているため、人間関係の面倒さはありませんが、評価基準はより厳格で、精神的ストレスも高いかもしれません。
大企業の投資銀行でも、チームヘッドからの命令は絶対であり、そこの人間関係の難しさは、パートナーシップと似ているかもしれません。特にジュニアレベル(アナリストとアソシエイト)では、パフォーマンス評価基準の最重要項目の一つに「Attitude」というものが含まれており、文字通り軍隊的な服従が要求されます。
ヘッジファンドと比較してどちらが楽かと言うのは難しいですが、個人的には、物理的拘束時間の長い投資銀行の方が、若干厳しかった気がします。昔「Busyの定義」、「IBのダウンサイド」というエントリーを書いたことがありますが、これらは軍隊的な投資銀行のカルチャーについての話です。
また現在、転職支援サイトのBizReachなどを経営している友人のスイミー(南壮一郎氏)が指摘してくれた投資銀行の問題点についてのエントリー、「IBの問題点(友人の指摘)」も、参考になるかもしれません。そこでは投資銀行にのみ触れていますが、バイサイドでも同じような問題があると言える気がします。
質問:
セルサイドとバイサイドのキャリアを包括的に比較して、それぞれの魅力や欠点はどこにあるか。
回答:
この質問への回答は、個人のキャリアゴールによって、全く違うものとなる気がします。金銭的リターンの大きさも、完全に「ケースバイケース」です。
2006年前半にニューヨークで、米国の投資銀行からヘッジファンドに移った私自身は、当時「何でこんなに儲かっている仕事を辞めるのか」、「せっかく出世しているのに、何故そのポジションを捨てて、また一からやり直すような道を選ぶのか」と、多くの友人や知人から指摘されました。
しかし、あくまで結果論ですが、そのまま投資銀行でLBOに関わる仕事をしていたら、二年後にはレイオフされ、持っていた株の価値も大暴落していた可能性が高かった気がします。また、私は学生の頃より、「アメリカで投資の仕事がやりたい」と、何となく考えていたので、ニューヨークの投資銀行で十分な経験を積ませてもらったと感じた時点で、バイサイドへの転職に関する迷いは、一切ありませんでした。
そうした点にご理解を頂いた上で、敢えて投資銀行とヘッジファンドの魅力や欠点について考えてみると、以下のようなことが言えるかもしれません。(業界の皆様には異論反論があるでしょうが、その場合にはコメントして頂ければ、更に皆様の参考になるかと思います。)
セルサイド(投資銀行業務)最大の魅力の一つは、やはり「企業を変える」仕事が出来るという点だと思います。投資家やジャーナリストのように、外から事実を調査したり後追いするのではなく、自らが企業と共に、変化を「作りだす」ことが出来ます。そうした仕事に、極めて優秀な同僚たちと一緒に関わることが出来るというのは、非常に魅力的です。また、多くの投資家に接する機会のあるセルサイドは、まさに情報収集マシンであり、世界の動きが非常によく見えます。これもまた、とても魅力的な経験です。
逆に欠点は、自らはあくまで中間業者であることから、永遠にアウトサイダー(アドバイザー)であり、企業内部の人や投資家ほど、様々な達成感を感じられないであろう、という点です。また、投資銀行業務に関しては、仕事内容がチームプロジェクトであるため、物理的な拘束が極めて厳しい点も、大きな欠点です。大企業が嫌いな人にとっては、大企業的なカルチャーも、マイナス点として挙げられるかもしれません。
バイサイド(運用会社)の最大の魅力は、投資銀行の欠点の裏返しになりますが、自ら投資を実行し、その判断の正否によってパフォーマンスが決まる、という点である気がします。責任も重大ですが、より個人のパフォーマンスが結果に反映されやすく、成功した際の喜びも大きいと言える気がします。
また、株式投資に関する仕事は、言わば「真実は何かを見抜く」仕事であり、バンカーのように世界を動かすM&AやIPOを先導することは出来ないかもしれませんが、世界や市場で何が起こっているのかの真実を追究するというのは、非常に知的好奇心を刺激される仕事でもあります。PEファンドやアクティビストファンドであれば、資金を投入するのみならず、実際に企業の経営にも関与するため、投資銀行とヘッジファンドのやりがいを合わせたような遣り甲斐が、あるかもしれません。
バイサイドの欠点は、事業が極めて不安定であることです。ヘッジファンドであれば、パフォーマンスが悪ければ1年でも会社は破綻してしまうかもしれませんし、PEファンドであれば、市場環境が悪化すると、魅力的な投資を見つけることは極めて困難になります。その意味では証券会社よりも更に、市場環境の変化に影響を受けやすいと言えるかもしれません。
ただしこれも、大手投資信託運用会社などであれば、この限りではないかもしれませんし、一概には言えません。ただ事業や雇用環境が安定していればしているほど、もらえる責任の大きさや金銭的リターンは、単年度で見ると低くなると言って間違いない気がします。またPEファンドの友人達がよく言うPEファンドの欠点は、やはり「アウトサイダー感」であるようです。
結論:
いつも通り、思いつきで書いてしまいましたが、一意見として参照してもらえれば幸いです。ウォールストリートの仕事は極めて専門性が高く、やる気さえあれば誰でも転職できて活躍できる、というものでは無いかもしれません。と同時に、職種は幅広く、チャンスは常に存在するため、興味があれば是非チャレンジしてみては、と思います。本文中で紹介したBizReachなどのサイトなども、大いに利用価値がある気がします。
最近その記事に対して、金融業界以外の方から、比較的長いご質問を頂きました。当ブログをお読み頂いている方の中には、同じようなご質問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんので、ここに頂いた質問に対する回答について、エントリーを書いてみます。(質問者の個人情報は、当然ですが、非開示とさせて頂きます。)
当ブログでは、過去にもウォールストリートでのキャリアについてのエントリーを比較的多く書いて来ました。それらのエントリーにはこのリンクもしくは以下のURLから行くことが出来ます。
http://wallstny.exblog.jp/i5
例えば、バイサイドへの就職を希望する学生の方からのご質問を元にしたエントリー、「PF・HFへのキャリア」を書いたことがあります。転職のケースとは必ずしも一致しない部分も多いですし、当時と今とでは市場環境も全く異なりますが、何らかの参考になるかもしれません。転職については、一般的に言えることですが、現在の立場がどのようなものであるかは、非常に重要なポイントだと思います。その意味では「ウォールストリートへの「道」」なども参考になるかもしれません。
質問:
セルサイド、バイサイドの仕事の共通点。エントリー内では「基礎部分は同じ」と書いているが、金融バックグランドがないため、具体的なことが分からない。共通している知識、スキル、あると有利な資格、読むと参考になりそうな書籍等を、できるだけ広範に教えて欲しい。
回答:
セルサイド(証券会社・投資銀行)とバイサイド(運用会社)の中には、実に様々な職種が存在します。その職種によって共通点は大きく異なりますので、一般化して説明することは少々困難です。証券会社の内部の事情については、「ウォール両側のカルチャー」などのエントリーが参考になるかと思いますが、ここではバイサイドとの関連性についても書いてあります。
ここでは、主に投資銀行・株式調査業務と、株式運用業務・プライベートエクイティ投資業務の共通点について、書きたいと思います。
一番の共通点は、どちらの仕事でも「財務分析」の能力が必要であるという点です。財務分析に必要な知識は、会計(日本基準、米国基準など)や法律、市場のルールなど様々ですが、セルサイドとバイサイドのどちらでも、同じ能力や知識が求められると思います。また、実際の分析を行う際に必須である、Excelのようなスプレッドシートを自由に使いこなす力も、非常に重要と言える気がします。
次に、これは当然といえば当然ですが、証券市場に関する知識や関心も、とても重要と言えると思います。株式、債券、為替などに一切興味がないのに、セルサイドやバイサイドの一線で働くというのは、困難である気がします。関連して、世界中の経済の動向についての興味関心や、英語を使っての情報収集能力なども、求められる共通のスキルと言えるかもしれません。
投資銀行(コーポレートファイナンス)の仕事では、こうした基礎的な金融・財務の力が幅広く身につくため、アメリカにおいてヘッジファンドやPEファンドで勤務している人の多くが、最初のキャリアとして、投資銀行部門での勤務経験を持っていると言ってもよいかと思います。この点については、「IBのスキルの汎用性」というエントリーもご参照下さい。
そしてPEファンドとヘッジファンドではどう違うのか、という質問も追加で出て来そうですが、その点についても過去に「ファンドの仕事の共通点」というエントリーを書いたことがあります。この中にも、どのようなスキルが共通しているのかという話が書いてあると思います。
あると便利な資格と言うのは難しいですが、弁護士、会計士、証券アナリスト、MBA、Ph.Dなどの資格を持っている人は多く存在します。ただ、資格があれば仕事で成功するかというと、そんなことは決してなく、これはアメリカ社会で共通した考え方ですが、資格はあくまで「スタート地点」と言えるかもしれません。ちなみに怠け者の私は、以上のどれも持っていません。
外資系での勤務が希望であれば、英語は最低でもビジネスレベルは出来ることが必要だと思います。これは、読み、書き、口頭でのコミュニケーションの全てを含みます。
少々厳しいようですが、世界共通語である英語が出来なければ、世界で情報を集めることは出来ず、国境を越えて情報が飛び交う金融業界で働く際に、決定的に不利になる気がします。当然、企業内での出世も不利になります。
読んだ方がよい書籍という質問も、業務やファンドの投資戦略によって異なるため、なかなか難しいですが、個人的にお勧めな本は、株式投資関連も含めて、ライフログに載せてあります。財務分析や会計、経済の知識が未熟だと思えば、そこは必須の分野ですので、その分野の書籍を集中的に読んだ方が良いでしょうし、金融商品開発などに関わるのであれば、そうした専門書を読むのもよいかもしれません。
質問:
雇用環境(レイオフ)について。ヘッジファンド等では、レイオフが頻繁に起ると理解しているが、具体的な期間はどれくらいか。アナリストレベルでも、1年以内に結果を出す事が求められるのか。若手を一から育ててくれるような環境はないか。
回答:
恐らく外資系のファンドを念頭においた質問かと思いますが、よく言われる通り、外資系では収益を上げられなければレイオフされるというのは本当の話です。実態は更に厳しく、個人で成績が良くても、会社の方針に合わない、会社全体の業績が悪いなどの理由から、大量一時解雇がされることはよくある話です。しかしこれらは、アメリカの労働市場の柔軟性を担保しており、業績が戻れば雇用が戻るというサイクルを繰り返しています。
この点についても、過去にもご質問を頂いたことがあり、「ウォールストリートのレイオフの実態」というエントリーを書いたことがあります。楽に大金が稼げると誤解されがちなウォールストリートですが、実は数多くの人が、自主的か強制かに関わらず、事実上のレイオフを経験していると言ってよいかと思います。その際には収入はゼロになり、生活も極めて不安定になり、精神的にも多大な苦痛を味わうことになります。また、生涯賃金を比べると、日本企業の方が遥かに高いという話も聞いたことがあります。
「アナリストレベルでも1年以内に結果を出すことが求められるのか」という質問ですが、端的に答えると「イエス」だと思います。多くのファンドや投資銀行が、「2年以内に」などと言いますが、実際には2年間を通じて、徐々にその人の適正や能力は分かって行きます。その意味では、1年であっても確実に成長が難しいと判断されれば、レイオフの対象になると言えると思います。
一から育ててくれる環境はないのか、というご質問については、「ある」とお答えしたいと思います。それはどこかと言うと、投資銀行です。ただしこれは、学卒後のアナリストプログラム、MBA後のアソシエイトプログラムに限った話であり、30歳前後でMBAなしで転職するというのは、特に現在のような市場環境では極めて困難かもしれません。最初に紹介した「ウォールストリートへの「道」」が参考になるかと思います。
質問:
バイサイド間(PE / HF)での転職は頻繁に起るのか。
回答:
市場環境(雇用条件)にもよりますが、比較的頻繁に転職が起こっているように思います。ただし、セルサイド(投資銀行)と比較すると、ファンドは社風から投資戦略まで、性格が千差万別であり、特にヘッジファンドについては、トップのマネージャーやパートナー達への俗人的な関係が重要であることが多くあります。その意味では、A社で活躍したら、B社でもC社でも同じように活躍できるとは、全く限りません。
投資銀行業界では、Morgan StanleyであろうがMerrill LynchであろうがCredit Suisseであろうが、面接で受ける質問や、求められる能力や適正は非常に似ており、社風の違いこそあれ、事実上転職の翌日から、フル稼働が可能であると言える気がします。それと同じ流動性がバイサイドにもあてはまるかと言うと、そんなことはないように思います。
質問:
投資銀行とヘッジファンドの両方を経験した上で、人間関係や睡眠時間等を含めて、どちらが精神的に、より過酷な環境であったか。
回答:
最初にこの二つの仕事の違いを端的に言うと、投資銀行の方が「物理的な」拘束時間が長く、ヘッジファンドの方が「精神的な」拘束時間が長いと言えると思います。よって、睡眠時間はヘッジファンドの方が長く取れるかもしれませんが、どちらが深く眠れるかと言われると、微妙かもしれません。
人間関係については、ヘッジファンドはほとんどがパートナーシップであり、トップまたは一握りのパートナーの個人商店、と言っても過言ではありません。よってその人(複数の場合もありますが)とそりが合わなければ、そこで成功することは、ほぼ不可能になります。
ただファンドによっては、一匹狼のトレーダーのような人を多く集めて、自由にカネを稼がせるという戦略を採用している会社もありますので、一概にはいえません。そのようなファンドでは、パフォーマンスによって昇進や給与が合理的に決まっているため、人間関係の面倒さはありませんが、評価基準はより厳格で、精神的ストレスも高いかもしれません。
大企業の投資銀行でも、チームヘッドからの命令は絶対であり、そこの人間関係の難しさは、パートナーシップと似ているかもしれません。特にジュニアレベル(アナリストとアソシエイト)では、パフォーマンス評価基準の最重要項目の一つに「Attitude」というものが含まれており、文字通り軍隊的な服従が要求されます。
ヘッジファンドと比較してどちらが楽かと言うのは難しいですが、個人的には、物理的拘束時間の長い投資銀行の方が、若干厳しかった気がします。昔「Busyの定義」、「IBのダウンサイド」というエントリーを書いたことがありますが、これらは軍隊的な投資銀行のカルチャーについての話です。
また現在、転職支援サイトのBizReachなどを経営している友人のスイミー(南壮一郎氏)が指摘してくれた投資銀行の問題点についてのエントリー、「IBの問題点(友人の指摘)」も、参考になるかもしれません。そこでは投資銀行にのみ触れていますが、バイサイドでも同じような問題があると言える気がします。
質問:
セルサイドとバイサイドのキャリアを包括的に比較して、それぞれの魅力や欠点はどこにあるか。
回答:
この質問への回答は、個人のキャリアゴールによって、全く違うものとなる気がします。金銭的リターンの大きさも、完全に「ケースバイケース」です。
2006年前半にニューヨークで、米国の投資銀行からヘッジファンドに移った私自身は、当時「何でこんなに儲かっている仕事を辞めるのか」、「せっかく出世しているのに、何故そのポジションを捨てて、また一からやり直すような道を選ぶのか」と、多くの友人や知人から指摘されました。
しかし、あくまで結果論ですが、そのまま投資銀行でLBOに関わる仕事をしていたら、二年後にはレイオフされ、持っていた株の価値も大暴落していた可能性が高かった気がします。また、私は学生の頃より、「アメリカで投資の仕事がやりたい」と、何となく考えていたので、ニューヨークの投資銀行で十分な経験を積ませてもらったと感じた時点で、バイサイドへの転職に関する迷いは、一切ありませんでした。
そうした点にご理解を頂いた上で、敢えて投資銀行とヘッジファンドの魅力や欠点について考えてみると、以下のようなことが言えるかもしれません。(業界の皆様には異論反論があるでしょうが、その場合にはコメントして頂ければ、更に皆様の参考になるかと思います。)
セルサイド(投資銀行業務)最大の魅力の一つは、やはり「企業を変える」仕事が出来るという点だと思います。投資家やジャーナリストのように、外から事実を調査したり後追いするのではなく、自らが企業と共に、変化を「作りだす」ことが出来ます。そうした仕事に、極めて優秀な同僚たちと一緒に関わることが出来るというのは、非常に魅力的です。また、多くの投資家に接する機会のあるセルサイドは、まさに情報収集マシンであり、世界の動きが非常によく見えます。これもまた、とても魅力的な経験です。
逆に欠点は、自らはあくまで中間業者であることから、永遠にアウトサイダー(アドバイザー)であり、企業内部の人や投資家ほど、様々な達成感を感じられないであろう、という点です。また、投資銀行業務に関しては、仕事内容がチームプロジェクトであるため、物理的な拘束が極めて厳しい点も、大きな欠点です。大企業が嫌いな人にとっては、大企業的なカルチャーも、マイナス点として挙げられるかもしれません。
バイサイド(運用会社)の最大の魅力は、投資銀行の欠点の裏返しになりますが、自ら投資を実行し、その判断の正否によってパフォーマンスが決まる、という点である気がします。責任も重大ですが、より個人のパフォーマンスが結果に反映されやすく、成功した際の喜びも大きいと言える気がします。
また、株式投資に関する仕事は、言わば「真実は何かを見抜く」仕事であり、バンカーのように世界を動かすM&AやIPOを先導することは出来ないかもしれませんが、世界や市場で何が起こっているのかの真実を追究するというのは、非常に知的好奇心を刺激される仕事でもあります。PEファンドやアクティビストファンドであれば、資金を投入するのみならず、実際に企業の経営にも関与するため、投資銀行とヘッジファンドのやりがいを合わせたような遣り甲斐が、あるかもしれません。
バイサイドの欠点は、事業が極めて不安定であることです。ヘッジファンドであれば、パフォーマンスが悪ければ1年でも会社は破綻してしまうかもしれませんし、PEファンドであれば、市場環境が悪化すると、魅力的な投資を見つけることは極めて困難になります。その意味では証券会社よりも更に、市場環境の変化に影響を受けやすいと言えるかもしれません。
ただしこれも、大手投資信託運用会社などであれば、この限りではないかもしれませんし、一概には言えません。ただ事業や雇用環境が安定していればしているほど、もらえる責任の大きさや金銭的リターンは、単年度で見ると低くなると言って間違いない気がします。またPEファンドの友人達がよく言うPEファンドの欠点は、やはり「アウトサイダー感」であるようです。
結論:
いつも通り、思いつきで書いてしまいましたが、一意見として参照してもらえれば幸いです。ウォールストリートの仕事は極めて専門性が高く、やる気さえあれば誰でも転職できて活躍できる、というものでは無いかもしれません。と同時に、職種は幅広く、チャンスは常に存在するため、興味があれば是非チャレンジしてみては、と思います。本文中で紹介したBizReachなどのサイトなども、大いに利用価値がある気がします。
by Harry_G
| 2012-02-28 21:35
| キャリア・仕事