2013年 04月 30日
日本人はウォールストリートで活躍できない? |
しばらく時間が開いてしまいましたが、久しぶりにキャリアネタを一つ書いてみたいと思います。
現在ニューヨークをベースに活躍している日本人の元同僚・先輩が、先日、興味深い指摘をしていました。それは、「日本人が経営している在米のスタートアップで、一流VC(ベンチャーキャピタル)から資金を得ている所をほとんど知らない」というものです。
同氏はその理由として、「日本人はプレゼンテーションが得意でない」可能性と、「一流VCに日本を良く理解している人や、日本人のプロフェッショナルがいない」可能性の二点を、指摘していました。
シリコンバレーに限らず、VCを含む広義のウォールストリートでは、確かに日本人のプロフェッショナルは、他の外国人と比較すると、少ないかもしれません。もちろん統計などを見たことがある訳ではありませんし、大いに活躍している人も少なくないとは思いますが、あくまで比較論では、間違っていない気がします。
今回は、それが何故であるかという話と、どうすればアメリカの金融業界でも働いていけるか、という話について、少々思うところを書いてみたいと思います。例によって、自分の経験と偏見に基づいていることを、ご了承下さい。
「在米の日系ベンチャーに一流VCの資金が入っていない」という問題提起に対して、何人かの人が、以下のようなコメントをしていました。
1)起業家にとって重要なのは、商品とKPIであり、プレゼン能力はあまり関係ない
2)シリコンバレーはアメリカ内でも特殊で、その文化に染まれないと厳しい
3)日本でLBOが盛り上がらないのと同様、資本主義に対する考え方の違いがある
4)日本で十分豊かな生活が出来るので、苦労してアメリカに行く理由がない
5)そもそも日本人の母数が少ないので、活躍している人が少なくて当然
この中で、後ろの3つについては、「モチベーション」に関することであると言えるかもしれません。とある人は、この話と関連して、日本人メジャーリーガーの現地定着率の低さを、比喩として挙げていました。
しかし中には、MBA留学などを経て、現地就職を目指す人もいるかと思いますので、ウォールストリートに日本人が皆無である、というわけではないと思います。私自身、活躍するとは程遠いレベルではありましたが、10年間ウォールストリートで現地社員として働いた経験があります。
帰国子女でない私が、それだけの期間をなんとか生き残ることが出来たのには、能力とは関係ない、いくつかの「コツ」があった気がします。これは、アメリカに長い人にとっては、至極当たり前のこととして、実感がないかもしれません。しかし、日本で生まれ育った私にとっては、結構大きな「気付き」でした。
その経験が、ウォールストリートを含むアメリカ現地でのキャリアを目指す人の参考になるかもしれませんので、幾つかご紹介したいと思います。
「アメリカ人」に成り切れるか
まず第一点目は、その「コツ」の中に、「日本人であること」や、「日本について詳しいこと」は、一切入っていないということです。むしろ、アメリカでのキャリアを成功させるには、「日本人であることを忘れる」ことが、非常に重要である気がします。
これは何も、日本だけに当てはまる話ではありません。アメリカで働いた10年間で、ウルグアイ人、メキシコ人、イスラエル人、パキスタン人、ドイツ人、スイス人、フランス人、ロシア人、中国人、韓国人、インドネシア人など、様々な国から来た同僚と働く機会に恵まれました。しかし正直なところ、誰がどの国出身か(アメリカ人ではないのか)は、職場で意識したことはありません。
これはもしかしたら、アメリカの特殊事情であるかもしれません。例えば同じ投資銀行でも、ロンドンオフィスでは、イタリア人同士はイタリア語で、ドイツ人同士はドイツ語で話していますし、香港オフィスでも、様々な言語が飛び交っています。
しかしニューヨークで、特にマザーマーケットであるアメリカ市場をカバーしている投資銀行部のような部署の中で、英語以外の言語が聞かれることはまずない、と言ってよい気がします。
以前にも幾つかのエントリーで紹介したことがありますが、アメリカ社会には、「英語以外が話せない人の前で、英語以外の言語を話すことは無礼である」という、暗黙のルールがあります。これは職場のみならず、学校や社交の場にも当てはなることだと思います。
それを知ってか知らいでか、私の周辺では、ドイツ人同士も普通に英語で会話していましたし、中国人同士などでも同様でした。そんな中、唯一と言える例外が日本人であることが、多かった気がします。
日本人は、「日本は特別である」、「日本に詳しいことはプラスである」、「アメリカ人は日本(人)を高く評価してくれる」という考えがあるようで、アメリカ人との会話の中で「In Japan, we are....」と言ってみたり、「Japanese culture is unique because...」と言ったりするケースを多く見かけました。
しかしアメリカは、そもそもが移民の国であり、誰もが「アメリカ人」たるべくして生活しています。よって、自ら「私は外国人です」と言わなければ、誰も出自を大っぴらに気にすることはない気がします。
こいつスペイン語訛りの英語だな、と明らかに分かっていても、「出身国はどこ?」などと聞かれることはまずありませんし、彼らが「In Mexico, we....」や「Uruguay is unique in a sense...」などと言っているのを、聞いたことがありません。
つまり、ウォールストリートを含むアメリカで活躍するための、重要かつ絶対に外せない第一歩は、「日本人であること」を一切表に出さないこと、である気がします。これは言い換えると、アメリカ人になり切ること、とも言えるかもしれません。
そして、アメリカ人になり切ってしまった日本人は、その他の日本人とあまり付き合うことが無くなることも、そういう人が目立たなくなる理由の一つになっている気がします。と言うのは、日本人同士で英語を話すような態度を取ると、日本人社会の中では「空気が読めない存在」になってしまうリスクがあるからです。
例えば子供の学校の集まりで、クラス20人のうち、日本人が3人いたとします。アメリカ的ルールからすると、その3人の親同士でも、学校という場であれば、英語で話したいところです。しかし日本人の通常の感覚からすると、そこで英語で話そうという人は、英語の苦手意識も手伝ってか、ほとんどいないのではと思います。
しかしそこで日本語で会話をしてしまうことで、他の17人の親との間に、見えない壁のようなものが出来てしまいます。一度、そのようなものが出来てしまうと、それを取り払うのは困難です。よって本気でアメリカ社会に溶け込みたければ、日本人社会で「浮く」ことを覚悟で望まなければならず、これはかなり高いハードルと言える気がします。
「出来て当然」のメンタリティ
以上のような事を書くと、「そもそも自分は英語のハンディがある」、「アメリカ的な人との接し方を知らない」、「いきなりアメリカ人と同レベルを求められるのはフェアではない」などという意見がよく聞かれます。実際、私自身も、言葉も当然ながら、社交については今でも苦労しますし、ごくもっともな意見であると思います。
しかし、アメリカ側から言わせれば、「英語が出来ない、アメリカ的な社交能力がないのは、あなたの責任でしょう」となります。厳しいかもしれませんが、現地で働く以上は、当たり前ともいえます。
アメリカの良いところは、逆にこれらがしっかりと出来ていれば、別に国籍がどこであろうとも、アメリカ人と区別されるということは、少なくとも体面上はありません。もちろんビザの問題では誰でも苦労しますが、少なくとも職場では、しっかりとチャンスが与えられる気がします。
その意味では、高校か大学くらいから、アメリカ式の教育を受けていれば、社会性を身につけると言う意味で、大きなプラスになることと思います。大学院・MBAからそれをやろうとしても、相当苦しいというのが実態であり、実際に投資銀行で、MBAの学生の採用活動に携わった際には、現地での就職活動で苦労する人を沢山見かけました。
ただし、これは「能力」の問題ではなく、単に「態度」や「興味のレベル」の問題である気がします。例えばインターンでの面接で、日本人の留学生からは、「非金融業界出身なので、金融のことはMBAで勉強するつもりだ」、「自分は32になるが、26のアソシエイトに使われる事はあるか」といった質問を度々受けました。
しかし諸外国の学生は、業界未経験にも関わらず、MBA入学当初のサマーインターンの面接時点で、業界人かと思わせるほどの知識を持ち、更に「何でもします、死ぬほど働きますので採用してください!」と熱く訴えかけて来る人が、多くいたように思います。
興味深いことに、ドイツ人とフランス人には、若干日本人と似た部分を感じることがありました。その話を実際に彼らとした所、「我々は母国の経済規模が大きいので、いずれそこに帰るつもりだ。だからアメリカ人にはなり切れない」と言っていました。
日本人のMBA学生の多くも、「自分は日本ではエリートサラリーマンだったのに、アメリカで口だけ上手い奴に負けるのは癪だ」と、日本での就職を選んだ人を多く見かけました。この点は、最初に触れた議論の中の、「そもそもモチベーションが高くない」という点を、ある程度裏付けている気がします。
別にこのような日本人やフランス人の態度が、悪いこととは全く思いません。マザーマーケットに帰って活躍することも素晴らしいことであり、アメリカに残ればよいという話ではないと思います。ただ、当初の問題提起にあった、アメリカの金融業界で活躍する日本人が少ない理由としては、最大のものの一つだと個人的には感じます。
ちなみに謙虚さを美徳とする日本では、コップに半分水が入っていれば、「半分しか入っていない」というところを、アメリカでは「ほとんど全部入っている」と言い切ってしまうくらいの勢いがあります。これもまた、「出来て当然のメンタリティ」の一助になっているのかもしれません。
日本人でもウォールストリートで活躍できる
上記の話を整理してまとめると、要は「郷に入らば郷に従え」の態度で望めば、日本人でもウォールストリートで活躍できる、と結論付けられると思います。日本社会がアメリカ型資本主義でないとしても、個人がアメリカで活躍できない理由は、どこにも無いように思います。
英語でのコミュニケーション力に加えて、投資銀行であれば会計や金融の基礎知識を、VCであれば、金融に加えてコンピュータサイエンスやメディカルなどの特定分野での高い専門知識を持ち合わせていれば、「日本人だから」と区別や差別を受けることは、ほとんど無いと言えると思います。
実際、大手投資銀行の上層部に外国出身者やマイノリティの人を多く見かけることが、その事を証明していると言えるかもしれません。
ちなみにこれは、コネや家柄がある人が有利ではない、と言っている訳ではありません。信用面から考えれば、当然、名門の家の出の人などは、スタート地点から有利なポジションに立っていると言えると思います。
しかし、それが無いからと言って出世できない、アメリカ人でないとトップに行けない、という事は、ないと思います。その点アメリカは、移民に対して極めてフェアな国と言える気がします。
「個性が重視され」「多様性が広く受け入れられた」社会であるアメリカですが、その基礎として、皆が「アメリカ的」なることが求められているということは、意外と知られていない気がします。自国を特殊だと考える傾向があるに見える日本人にとっては、これは特に気をつけた方が良い点かもしれません。
少々時間が経っていますが、過去に関連したエントリーを幾つか書いたことがあるので、興味のある方はそちらも参照してみてください。
アメリカ金融業界でのキャリア
http://wallstny.exblog.jp/15144010/
ウォールストリートへの道
http://wallstny.exblog.jp/3428686/
アメリカでLBOが活発な理由
http://wallstny.exblog.jp/2225457/
現在ニューヨークをベースに活躍している日本人の元同僚・先輩が、先日、興味深い指摘をしていました。それは、「日本人が経営している在米のスタートアップで、一流VC(ベンチャーキャピタル)から資金を得ている所をほとんど知らない」というものです。
同氏はその理由として、「日本人はプレゼンテーションが得意でない」可能性と、「一流VCに日本を良く理解している人や、日本人のプロフェッショナルがいない」可能性の二点を、指摘していました。
シリコンバレーに限らず、VCを含む広義のウォールストリートでは、確かに日本人のプロフェッショナルは、他の外国人と比較すると、少ないかもしれません。もちろん統計などを見たことがある訳ではありませんし、大いに活躍している人も少なくないとは思いますが、あくまで比較論では、間違っていない気がします。
今回は、それが何故であるかという話と、どうすればアメリカの金融業界でも働いていけるか、という話について、少々思うところを書いてみたいと思います。例によって、自分の経験と偏見に基づいていることを、ご了承下さい。
「在米の日系ベンチャーに一流VCの資金が入っていない」という問題提起に対して、何人かの人が、以下のようなコメントをしていました。
1)起業家にとって重要なのは、商品とKPIであり、プレゼン能力はあまり関係ない
2)シリコンバレーはアメリカ内でも特殊で、その文化に染まれないと厳しい
3)日本でLBOが盛り上がらないのと同様、資本主義に対する考え方の違いがある
4)日本で十分豊かな生活が出来るので、苦労してアメリカに行く理由がない
5)そもそも日本人の母数が少ないので、活躍している人が少なくて当然
この中で、後ろの3つについては、「モチベーション」に関することであると言えるかもしれません。とある人は、この話と関連して、日本人メジャーリーガーの現地定着率の低さを、比喩として挙げていました。
しかし中には、MBA留学などを経て、現地就職を目指す人もいるかと思いますので、ウォールストリートに日本人が皆無である、というわけではないと思います。私自身、活躍するとは程遠いレベルではありましたが、10年間ウォールストリートで現地社員として働いた経験があります。
帰国子女でない私が、それだけの期間をなんとか生き残ることが出来たのには、能力とは関係ない、いくつかの「コツ」があった気がします。これは、アメリカに長い人にとっては、至極当たり前のこととして、実感がないかもしれません。しかし、日本で生まれ育った私にとっては、結構大きな「気付き」でした。
その経験が、ウォールストリートを含むアメリカ現地でのキャリアを目指す人の参考になるかもしれませんので、幾つかご紹介したいと思います。
「アメリカ人」に成り切れるか
まず第一点目は、その「コツ」の中に、「日本人であること」や、「日本について詳しいこと」は、一切入っていないということです。むしろ、アメリカでのキャリアを成功させるには、「日本人であることを忘れる」ことが、非常に重要である気がします。
これは何も、日本だけに当てはまる話ではありません。アメリカで働いた10年間で、ウルグアイ人、メキシコ人、イスラエル人、パキスタン人、ドイツ人、スイス人、フランス人、ロシア人、中国人、韓国人、インドネシア人など、様々な国から来た同僚と働く機会に恵まれました。しかし正直なところ、誰がどの国出身か(アメリカ人ではないのか)は、職場で意識したことはありません。
これはもしかしたら、アメリカの特殊事情であるかもしれません。例えば同じ投資銀行でも、ロンドンオフィスでは、イタリア人同士はイタリア語で、ドイツ人同士はドイツ語で話していますし、香港オフィスでも、様々な言語が飛び交っています。
しかしニューヨークで、特にマザーマーケットであるアメリカ市場をカバーしている投資銀行部のような部署の中で、英語以外の言語が聞かれることはまずない、と言ってよい気がします。
以前にも幾つかのエントリーで紹介したことがありますが、アメリカ社会には、「英語以外が話せない人の前で、英語以外の言語を話すことは無礼である」という、暗黙のルールがあります。これは職場のみならず、学校や社交の場にも当てはなることだと思います。
それを知ってか知らいでか、私の周辺では、ドイツ人同士も普通に英語で会話していましたし、中国人同士などでも同様でした。そんな中、唯一と言える例外が日本人であることが、多かった気がします。
日本人は、「日本は特別である」、「日本に詳しいことはプラスである」、「アメリカ人は日本(人)を高く評価してくれる」という考えがあるようで、アメリカ人との会話の中で「In Japan, we are....」と言ってみたり、「Japanese culture is unique because...」と言ったりするケースを多く見かけました。
しかしアメリカは、そもそもが移民の国であり、誰もが「アメリカ人」たるべくして生活しています。よって、自ら「私は外国人です」と言わなければ、誰も出自を大っぴらに気にすることはない気がします。
こいつスペイン語訛りの英語だな、と明らかに分かっていても、「出身国はどこ?」などと聞かれることはまずありませんし、彼らが「In Mexico, we....」や「Uruguay is unique in a sense...」などと言っているのを、聞いたことがありません。
つまり、ウォールストリートを含むアメリカで活躍するための、重要かつ絶対に外せない第一歩は、「日本人であること」を一切表に出さないこと、である気がします。これは言い換えると、アメリカ人になり切ること、とも言えるかもしれません。
そして、アメリカ人になり切ってしまった日本人は、その他の日本人とあまり付き合うことが無くなることも、そういう人が目立たなくなる理由の一つになっている気がします。と言うのは、日本人同士で英語を話すような態度を取ると、日本人社会の中では「空気が読めない存在」になってしまうリスクがあるからです。
例えば子供の学校の集まりで、クラス20人のうち、日本人が3人いたとします。アメリカ的ルールからすると、その3人の親同士でも、学校という場であれば、英語で話したいところです。しかし日本人の通常の感覚からすると、そこで英語で話そうという人は、英語の苦手意識も手伝ってか、ほとんどいないのではと思います。
しかしそこで日本語で会話をしてしまうことで、他の17人の親との間に、見えない壁のようなものが出来てしまいます。一度、そのようなものが出来てしまうと、それを取り払うのは困難です。よって本気でアメリカ社会に溶け込みたければ、日本人社会で「浮く」ことを覚悟で望まなければならず、これはかなり高いハードルと言える気がします。
「出来て当然」のメンタリティ
以上のような事を書くと、「そもそも自分は英語のハンディがある」、「アメリカ的な人との接し方を知らない」、「いきなりアメリカ人と同レベルを求められるのはフェアではない」などという意見がよく聞かれます。実際、私自身も、言葉も当然ながら、社交については今でも苦労しますし、ごくもっともな意見であると思います。
しかし、アメリカ側から言わせれば、「英語が出来ない、アメリカ的な社交能力がないのは、あなたの責任でしょう」となります。厳しいかもしれませんが、現地で働く以上は、当たり前ともいえます。
アメリカの良いところは、逆にこれらがしっかりと出来ていれば、別に国籍がどこであろうとも、アメリカ人と区別されるということは、少なくとも体面上はありません。もちろんビザの問題では誰でも苦労しますが、少なくとも職場では、しっかりとチャンスが与えられる気がします。
その意味では、高校か大学くらいから、アメリカ式の教育を受けていれば、社会性を身につけると言う意味で、大きなプラスになることと思います。大学院・MBAからそれをやろうとしても、相当苦しいというのが実態であり、実際に投資銀行で、MBAの学生の採用活動に携わった際には、現地での就職活動で苦労する人を沢山見かけました。
ただし、これは「能力」の問題ではなく、単に「態度」や「興味のレベル」の問題である気がします。例えばインターンでの面接で、日本人の留学生からは、「非金融業界出身なので、金融のことはMBAで勉強するつもりだ」、「自分は32になるが、26のアソシエイトに使われる事はあるか」といった質問を度々受けました。
しかし諸外国の学生は、業界未経験にも関わらず、MBA入学当初のサマーインターンの面接時点で、業界人かと思わせるほどの知識を持ち、更に「何でもします、死ぬほど働きますので採用してください!」と熱く訴えかけて来る人が、多くいたように思います。
興味深いことに、ドイツ人とフランス人には、若干日本人と似た部分を感じることがありました。その話を実際に彼らとした所、「我々は母国の経済規模が大きいので、いずれそこに帰るつもりだ。だからアメリカ人にはなり切れない」と言っていました。
日本人のMBA学生の多くも、「自分は日本ではエリートサラリーマンだったのに、アメリカで口だけ上手い奴に負けるのは癪だ」と、日本での就職を選んだ人を多く見かけました。この点は、最初に触れた議論の中の、「そもそもモチベーションが高くない」という点を、ある程度裏付けている気がします。
別にこのような日本人やフランス人の態度が、悪いこととは全く思いません。マザーマーケットに帰って活躍することも素晴らしいことであり、アメリカに残ればよいという話ではないと思います。ただ、当初の問題提起にあった、アメリカの金融業界で活躍する日本人が少ない理由としては、最大のものの一つだと個人的には感じます。
ちなみに謙虚さを美徳とする日本では、コップに半分水が入っていれば、「半分しか入っていない」というところを、アメリカでは「ほとんど全部入っている」と言い切ってしまうくらいの勢いがあります。これもまた、「出来て当然のメンタリティ」の一助になっているのかもしれません。
日本人でもウォールストリートで活躍できる
上記の話を整理してまとめると、要は「郷に入らば郷に従え」の態度で望めば、日本人でもウォールストリートで活躍できる、と結論付けられると思います。日本社会がアメリカ型資本主義でないとしても、個人がアメリカで活躍できない理由は、どこにも無いように思います。
英語でのコミュニケーション力に加えて、投資銀行であれば会計や金融の基礎知識を、VCであれば、金融に加えてコンピュータサイエンスやメディカルなどの特定分野での高い専門知識を持ち合わせていれば、「日本人だから」と区別や差別を受けることは、ほとんど無いと言えると思います。
実際、大手投資銀行の上層部に外国出身者やマイノリティの人を多く見かけることが、その事を証明していると言えるかもしれません。
ちなみにこれは、コネや家柄がある人が有利ではない、と言っている訳ではありません。信用面から考えれば、当然、名門の家の出の人などは、スタート地点から有利なポジションに立っていると言えると思います。
しかし、それが無いからと言って出世できない、アメリカ人でないとトップに行けない、という事は、ないと思います。その点アメリカは、移民に対して極めてフェアな国と言える気がします。
「個性が重視され」「多様性が広く受け入れられた」社会であるアメリカですが、その基礎として、皆が「アメリカ的」なることが求められているということは、意外と知られていない気がします。自国を特殊だと考える傾向があるに見える日本人にとっては、これは特に気をつけた方が良い点かもしれません。
少々時間が経っていますが、過去に関連したエントリーを幾つか書いたことがあるので、興味のある方はそちらも参照してみてください。
アメリカ金融業界でのキャリア
http://wallstny.exblog.jp/15144010/
ウォールストリートへの道
http://wallstny.exblog.jp/3428686/
アメリカでLBOが活発な理由
http://wallstny.exblog.jp/2225457/
by Harry_G
| 2013-04-30 21:47
| キャリア・仕事