2006年 04月 15日
ファンドの仕事の共通点 |
先日とあるヘッジファンドで働いている友人が、「MBAの就職活動の際にLBOファンドとロングショートのヘッジファンドで迷う人が多いが、両者とも投資家として共通する点は多いと思う」と言う話をしていました。確かにどちらもマーケットに関係なく絶対リターンを上げることを目的に存在している点は共通しており、だからこそ伝統的運用手法(ミューチュアルファンド)に代替する投資手法、「オルタナティブ」投資と呼ばれるわけです。
(セントラルパークを見下ろすPlaza Hotelの後ろのビルに、KKR、Apollo、Och-Ziffなど大手のファンドが入居しています。)
その友人によると、現場レベルでどんな仕事をしているかも、ある程度似ているようです。買収ファンドも株式ヘッジファンドも投資先が公開企業であるのが通常なため、その財務分析やバリュエーション(企業価値評価)と言うスキルが共通に必要となってくるためなのでしょう。
そんなこともあり最近アメリカでは、投資銀行(2~3年)→LBOファンド(2年)→MBA(2年)→ヘッジファンド、と言ったようなキャリアパスが頻繁に見られるようになっています。ただLBOファンドの方が投資の意志決定やディールのエクセキューションに時間がかかりますし、ヘッジファンドの方が比較的短期でお金を動かすので、仕事のスタイルとして好き嫌いがあることは間違いない気がします。(隣の芝が青く見えるだけかもしれませんが。)
もちろんこれは株式ロングショートのヘッジファンドの話で、同じ株式のヘッジファンドでも、イベントドリブンやリスクアービトラージと呼ばれるトレーディング中心のファンドもあり、こういうファンドでは基本的に株式部のトレーダー出身者を多く雇う傾向があるようです。加えて債券や為替といった別の専門スキルが必要なファンドも当然多く存在し、これらは基本的に投資銀行の債券部の人間を雇用しています。私の友人の中には、MITで数学の修士を取得した後に投資銀行の債券部でクレジットデリバティブズの経験を積み、20代にしてデリバティブを専門に扱うヘッジファンドを立ち上げた人間もいます。
LBOファンドとヘッジファンドの現場の仕事内容の話に戻りますが、LBOファンドでの仕事の重要な部分を占めるのは、投資先の企業について「LBOモデル」と言うモデルを構築することになります。LBOモデルのゴールは前にも書いたかもしれませんが、ターゲットとするIRR(内部収益率)を達成するために幾らまで買収価格を払えるか、どれだけのデットを利用することが出来るか、と言ったを見極めることにあります。そのプロセスではバリュエーション(買収価格分析)よりも、どういったデットをどれだけ使えるか、そのコストは幾らか、キャッシュフローでどの程度のデットの返却が可能かと言った点により大きなフォーカスが置かれます。この作業は一般に「モデリング」と呼ばれますが、投資銀行やヘッジファンドでも必ず必要になる財務分析のスキルになります。
それに加えてLBOファンドでは、デット返済の原資となるキャッシュフローを増やすための事業の合理化は可能か、追加のM&Aでシナジーを出せないかなどについても、自社で抱える業界出身の専門家やコンサルティング会社を雇ったりして検証します。投資銀行でLBOファンドと働いているとキャッシュフローやキャピタルストラクチャーの分析にフォーカスが置かれますが、ファンド側にいると例えばどの工場を閉鎖できるか、何人くらいリストラ出来るかなど、事業面の分析にも相当時間を費やすようです。(投資銀行でも業界担当のマニアックなバンカーがデューディリジェンスを行いますが、仕事柄ファンドの現場ほどは徹底していないように思います。)
株式ロングショートのヘッジファンドでは、基本的なゴールは割高・割安株を見つけることであり、もっと言えばセルサイドのリサーチアナリストの予想や会社の業績発表の「間違い」を見つけることになります。マーケットでは一般に知られている事実は全て株価に織り込まれていると考えられ、特にセルサイド(証券会社)の業績予想や会社の業績予想はその最たるものです。
よってヘッジファンドでは、そういったマーケットの「思い込み」を如何に破るか、株価を動かす要因になりそうなイベント(カタリストといいます)をいかに見つけるかが勝負の一つとなります。そのためヘッジファンドのアナリスト達は、企業のIR部に電話をかけ、証券会社のアナリストと話をし、企業の取引先や実際の店先での商品の売れ行きの調査まで行って、自社での業績予想モデルを作り上げます。そのプロセスはまさに投資銀行やLBOファンドで行われている分析に近いものがあると言えるかもしれません。
またLBOファンドとヘッジファンドのどちらでも、セクターナレッジ(業界知識)が極めて重要になる点も共通しているかもしれません。やはり自分の良く知っているセクターであればあるほど、一般に知りえないような情報を知りえる可能性が高くなります。もちろんその結果思い込みが発生し「目が曇って」しまっては意味がありませんが、LBOファンドが特定のセクターにフォーカスしたり、ヘッジファンドの多くが「グローバルセクターファンド」と呼ばれる業界ごとのファンドを運用している理由も頷けます。
これは情報を「売って」いる投資銀行では更に極端で、アナリストやインベストメントバンカーの中には下手をすると業界人以上に業界に詳しい人などもいます。よって人によっては、ディープな業界知識を行かせるようなベンチャーキャピタルに移って行く人もいます。ベンチャーキャピタルはオルタナティブ投資ファンドの中でも最も業界知識が求められる存在で、かつテクノロジーとヘルスケア業界に投資するファンドが大半なため、エンジニアリングやバイオのPh.D.を持つ人を多く雇用しているようです。
こうやって見てみると、確かにアプローチは違えどもLBOファンドとヘッジファンドの現場がやっている事や目指していることには共通している点が相当多そうです。キャリア・人材面でもお互いの行き来が普通に行われているわけですから、投資銀行が自社でヘッジファンドやリンシパル・インベストメント部門を立ち上げたり、ヘッジファンドがLBOのようなことをやったりLBOファンドがヘッジファンドを始めたりと言う最近の業界トレンドも、全く自然な流れなのかもしれません。
(写真はhttp://the-plaza-hotel.visit-new-york-city.com/より。)
(セントラルパークを見下ろすPlaza Hotelの後ろのビルに、KKR、Apollo、Och-Ziffなど大手のファンドが入居しています。)
その友人によると、現場レベルでどんな仕事をしているかも、ある程度似ているようです。買収ファンドも株式ヘッジファンドも投資先が公開企業であるのが通常なため、その財務分析やバリュエーション(企業価値評価)と言うスキルが共通に必要となってくるためなのでしょう。
そんなこともあり最近アメリカでは、投資銀行(2~3年)→LBOファンド(2年)→MBA(2年)→ヘッジファンド、と言ったようなキャリアパスが頻繁に見られるようになっています。ただLBOファンドの方が投資の意志決定やディールのエクセキューションに時間がかかりますし、ヘッジファンドの方が比較的短期でお金を動かすので、仕事のスタイルとして好き嫌いがあることは間違いない気がします。(隣の芝が青く見えるだけかもしれませんが。)
もちろんこれは株式ロングショートのヘッジファンドの話で、同じ株式のヘッジファンドでも、イベントドリブンやリスクアービトラージと呼ばれるトレーディング中心のファンドもあり、こういうファンドでは基本的に株式部のトレーダー出身者を多く雇う傾向があるようです。加えて債券や為替といった別の専門スキルが必要なファンドも当然多く存在し、これらは基本的に投資銀行の債券部の人間を雇用しています。私の友人の中には、MITで数学の修士を取得した後に投資銀行の債券部でクレジットデリバティブズの経験を積み、20代にしてデリバティブを専門に扱うヘッジファンドを立ち上げた人間もいます。
LBOファンドとヘッジファンドの現場の仕事内容の話に戻りますが、LBOファンドでの仕事の重要な部分を占めるのは、投資先の企業について「LBOモデル」と言うモデルを構築することになります。LBOモデルのゴールは前にも書いたかもしれませんが、ターゲットとするIRR(内部収益率)を達成するために幾らまで買収価格を払えるか、どれだけのデットを利用することが出来るか、と言ったを見極めることにあります。そのプロセスではバリュエーション(買収価格分析)よりも、どういったデットをどれだけ使えるか、そのコストは幾らか、キャッシュフローでどの程度のデットの返却が可能かと言った点により大きなフォーカスが置かれます。この作業は一般に「モデリング」と呼ばれますが、投資銀行やヘッジファンドでも必ず必要になる財務分析のスキルになります。
それに加えてLBOファンドでは、デット返済の原資となるキャッシュフローを増やすための事業の合理化は可能か、追加のM&Aでシナジーを出せないかなどについても、自社で抱える業界出身の専門家やコンサルティング会社を雇ったりして検証します。投資銀行でLBOファンドと働いているとキャッシュフローやキャピタルストラクチャーの分析にフォーカスが置かれますが、ファンド側にいると例えばどの工場を閉鎖できるか、何人くらいリストラ出来るかなど、事業面の分析にも相当時間を費やすようです。(投資銀行でも業界担当のマニアックなバンカーがデューディリジェンスを行いますが、仕事柄ファンドの現場ほどは徹底していないように思います。)
株式ロングショートのヘッジファンドでは、基本的なゴールは割高・割安株を見つけることであり、もっと言えばセルサイドのリサーチアナリストの予想や会社の業績発表の「間違い」を見つけることになります。マーケットでは一般に知られている事実は全て株価に織り込まれていると考えられ、特にセルサイド(証券会社)の業績予想や会社の業績予想はその最たるものです。
よってヘッジファンドでは、そういったマーケットの「思い込み」を如何に破るか、株価を動かす要因になりそうなイベント(カタリストといいます)をいかに見つけるかが勝負の一つとなります。そのためヘッジファンドのアナリスト達は、企業のIR部に電話をかけ、証券会社のアナリストと話をし、企業の取引先や実際の店先での商品の売れ行きの調査まで行って、自社での業績予想モデルを作り上げます。そのプロセスはまさに投資銀行やLBOファンドで行われている分析に近いものがあると言えるかもしれません。
またLBOファンドとヘッジファンドのどちらでも、セクターナレッジ(業界知識)が極めて重要になる点も共通しているかもしれません。やはり自分の良く知っているセクターであればあるほど、一般に知りえないような情報を知りえる可能性が高くなります。もちろんその結果思い込みが発生し「目が曇って」しまっては意味がありませんが、LBOファンドが特定のセクターにフォーカスしたり、ヘッジファンドの多くが「グローバルセクターファンド」と呼ばれる業界ごとのファンドを運用している理由も頷けます。
これは情報を「売って」いる投資銀行では更に極端で、アナリストやインベストメントバンカーの中には下手をすると業界人以上に業界に詳しい人などもいます。よって人によっては、ディープな業界知識を行かせるようなベンチャーキャピタルに移って行く人もいます。ベンチャーキャピタルはオルタナティブ投資ファンドの中でも最も業界知識が求められる存在で、かつテクノロジーとヘルスケア業界に投資するファンドが大半なため、エンジニアリングやバイオのPh.D.を持つ人を多く雇用しているようです。
こうやって見てみると、確かにアプローチは違えどもLBOファンドとヘッジファンドの現場がやっている事や目指していることには共通している点が相当多そうです。キャリア・人材面でもお互いの行き来が普通に行われているわけですから、投資銀行が自社でヘッジファンドやリンシパル・インベストメント部門を立ち上げたり、ヘッジファンドがLBOのようなことをやったりLBOファンドがヘッジファンドを始めたりと言う最近の業界トレンドも、全く自然な流れなのかもしれません。
(写真はhttp://the-plaza-hotel.visit-new-york-city.com/より。)
by harry_g
| 2006-04-15 14:38
| キャリア・仕事