2012年 10月 14日
中国バブル崩壊のトリガー |
最近何日間かNYに帰り、かつて勤めた投資銀行やヘッジファンドの同僚たちと、旧交を温める機会がありました。ダウンタウンのTribecaのレストランや、郊外行き電車が発着するGrand Centralのバーなどで色々語り合っていると、やはりNYの人や空気は刺激的で、魅力的だと感じます。
香港・中国から直行便で16時間、地球の裏側であるNYで、マクロのヘッジファンドやPEファンドなどに勤めている元同僚達から「1億ドルの質問」として一番よく聞かれたのは、相変わらず「中国経済のバブルは、いつ、どのように崩壊するのか」という話でした。
ウォールストリートがこのように中国に高い関心を示すのは、中国のGDPが世界第二位の規模であるという事よりも、むしろそのような巨艦が、今まで年間10%前後のペースで成長していた為だと言える気がします。これはつまり、世界経済の「成長幅」の多くを中国が占めていたことを意味しており、これは単に「現在世界第二位の規模」、という事よりも、遥かに重要です。
(だからこそ、今でも「世界大三位」の経済大国であるはずの日本には、全く関心が集まらないわけですが、そうした話は「海外から見た日本・アジア」というカテゴリーを新作して、ここ数年で何度も書いて来た通りです。)
ちょうど一年ほど前にも、中国経済の先行きに対する見方は、北京から遠く離れるほどに悲観的であるように感じる、と書いた気がします。中でも世界の金融センターであるNYでは、中国経済はバブルである、とほぼ断定したような見方が、非常に多いように感じます。
繰り返しになりますが、彼らが気にしているのは、中国そのものの先行きもありますが、中国を需要地として依存している、資源国などの動向でもあります。もちろん、世界経済のけん引役が大コケしてしまえば、数多くの多国籍企業を抱える欧米経済も、当然無傷では済まないでしょうから、どうしても中国の動向には、高い関心が集まります。
ともかくウォールストリートにおける中国への見方は、「バブル」で大方一致しているように話していて感じるわけですが、そこで皆が頭を悩ませているのは、「バブルの崩壊は何によって引き起こされるのか」という話です。
中国経済の特殊性
中国経済は、特に現地に頻繁に足を運んでいると、そう簡単に大きく転ぶようには感じられません。中国共産党のここ十数年の経済運営の実績は、疑いようがありませんし、多額の外貨準備を抱え、GDP比での負債比率も比較的低い中国では、いざとなったら幾らでも景気刺激策を打てるのでは、と感じてしまいます。
また、一人当たりGDPではまだ途上国の域を出ていない中国経済は、まだまだ伸びシロがあるようにも思えます。また中国人は大変勤勉で、「アメリカンドリーム」ではないですが、誰もが頑張って勉強や仕事に励み、その結果裕福になることを、熱望しているように思います。そんな国だけに、突然の経済破綻という画を想像するのは、なかなか困難な話です。
しかし中国経済は、「システム」自体は1978年の改革開放期から、完全に資本主義に移行していますが、まだまだ多くの規制の下で「管理」されていると言える気がします。政府系の企業(SOEs)は巨大で、金融、運輸、通信、エネルギーなど、主要産業を独占や寡占の下に支配しています。
また、これだけの経済大国で、輸出依存国であるにも関わらず、人民元は管理通貨制を維持しています。それはつまり、内外の資金の流れが規制されている事を意味し、国内の金利も自由化されていません。そもそも大手銀行が全て政府系であることから、貸し出しの目標額まで「赤い電話」で指示されるとの話もあります。
そう考えると、政府が手綱を握っている限りは、1985年に日本がプラザ合意によって円の急騰を受け入れ、その対抗策としての日銀が過剰の金融緩和が資産バブルを引き起こして、その引き締め転換によってバブルが突如崩壊した、などと言うことは、起こらないかもしれません。
では何が中国のバブル(があるとすれば)を崩壊させ得るのでしょうか?
過剰投資がバブル崩壊を招く?
その手がかりとして、そもそも中国経済の問題の本質は何か、を考えてみることは、有用かもしれません。中でもアメリカ人投資家が一番懸念しているのは、世界中でバブルを形成しては崩壊させて来た、過剰投資の問題である気がします。
少し前になりますが、7月17日のFinancial Timesに、「The road to nowhere(どこにも続かない道)」というコラムが掲載されていました。そこでは、産業化が進み、国内でも最も裕福な省の一つである山東省(Shangdong)の青島(Qingdao)に、2011年に開業した橋が紹介されていました。
そのコラムによると、そのベイブリッヂは、市街地と、そこから遠く離れた農村地帯を結んでおり、6車線で全長42.5キロという、巨大なものだそうです。将来のベッドタウン化を睨んでの投資、ということになるかと思いますが、現時点ではガラガラだそうで、このコラムでは、このような無駄な投資を「bridge to nowhere」、どこにも続かない(先行きのない)橋、と揶揄していました。
このコラム二ストは、多くの政府関係者や投資家は、中国がまだまだインフラ投資が必要であると考えていることは認める、と書いています。しかし中国は実に9年間連続で、GDPの4割以上を固定資産投資に依存して来たそうで、6-7割が国内消費である先進国の経済との差は歴然としています。
投資の原資となるおカネは、もちろん高度経済成長によって作り出されたものもあるでしょうが、やはり管理通貨制の結果としての流動性の過剰供給という側面が強いことは、中国経済楽観派であっても、否定しないところである気がします。
そのような資産効率を考えない過剰投資は、「目標過達」を必題とした共産主義時代の悪習でもあると、中国人の友人は指摘しています。更に中国では、党内での激しい出世競争に勝ち抜くために、各都市の上層部が実績作りに奔走する傾向があります。それは、日本などの民主主義国が、おらが村に利益誘致をして選挙で票を獲得しようとする流れと、何ら違いはありません。
一つ違うのは、主要産業の多くが政府系(省営・市営も多い)であることから、いわゆる「政官財トライアングル」は、癒着を通り越して「一体化」していると言える点です。政府は政府系企業に大きな仕事を発注し、そこから金銭的、政治的見返りを受ける。この流れは、中国が過去2000年ずっと続けて来た、皇帝と一部官僚が全てを牛耳る王朝政治と全く同じであるという指摘も、よく耳にします。
過剰投資が行われている可能性のあるエリアは、道路、空港、オフィスビル、高層住宅、自動車工場、鉄工所、石炭炭鉱など、数え切れないほど存在するように思います。どれも「中国経済が発展を続ければ、いずれは必要になる」と言われますが、過剰なキャパシティは、必ず資金繰りの悪化や過剰在庫の問題を作り出し、景気減速と共に流動性危機や価格暴落、つまりバブル崩壊を導き兼ねないことは、言うまでもないかと思います。
管理通貨制は諸刃の剣?
先日、香港島と九龍半島の間のビクトリアハーバーを見下ろすIFC Mallの中にあるフレンチレストランで、食事をする機会がありました。煌びやかな内装、天井まで続く巨大なワインセラー、豪華な服装を身にまとった客、そして場違いにみすぼらしい服装の家族が1万円以上するディナーを食べている場面を見ていると、これがバブルでなくて何なのかと感じます。
またここ一週間で、少なくとも3人のヘッジファンド業界の同僚たち(全員がアメリカ人かヨーロッパ人)から、香港のマンションの家賃は高すぎて、家族を養うに必要な広さでそれなりの場所にある物件にはとても手が出ない。曲りなりにも自分はキャリアでそこそこ成功しているつもりなのに、これは一体どういうことだ、という話を聞きました。
それも、彼らの大家に言わせれば、そんなに高い家賃を取っていても、ここ数年で買った人にとっては、元々取得した時点での物件の値段が高すぎて、ネガティブイールドなのだそうです。香港の金利が2-3%と極めて低い水準であることを考えると、まさにアメリカの住宅バブル崩壊以前の世界を髣髴させるようです。
香港で不動産バブルが膨らんでいる要因は、少なくとも二つある気がします。一つは本土からの巨額の資金流入で、かつては100万米ドル相当の不動産投資を行えば、香港永住権を取れたことから、政府関係者やビジネスマンがこぞってマンションを買い漁り、子弟をを送り込んでいたそうです。
高速鉄道事故で有名になってしまった、起業家や投機の精神に溢れる人が多いといわれる温州(Wenzhou)のいわゆる「温州商人」も、その買い手の一派だと言われますが、2008年の金融危機以降、アメリカが大幅な金融緩和を実施し、その時期と香港の不動産価格暴騰が一致していることは、偶然ではない気がします。
つまり、そのような投機をひきつける理由はそもそも何かと言えば、やはり「管理通貨制」の問題に行き着くように思われます。香港ドルは米ドルとペッグされており、人民元も若干の変動はあるにせよ、基本的には米ドルに連動して動いています。先ほど書いた通り、中国では金利も管理されていて、インフレ率が預金金利を上回る状況もザラです。
経済が絶好調なのに、金利や為替の上昇という形でリバランスできない香港や中国は、その歪みが資産価格の暴騰という形で現れていても、不思議ではない気がします。行く先のないマネーが不動産や高級ワインに向かうという流れは、まさに80年代の日本のバブルと同じ現象に見えてしまいます。(一部の高級酒などは、賄賂としても利用価値大と考えられているようです。)
そのように考えると、アメリカ経済が今後も回復基調を続け、金利上昇を伴って通貨価値が上昇し始めるようなことになると、今までとは逆の流れが発生して、中国や香港の不動産市場は、一気に崩壊してしまうかもしれません。そのような事になれば確実に、中国経済は大問題を抱えることになる気がします。
中国のバブルは世界と日本の大問題
このように考えてみると、実は中国バブルを崩壊させるトリガーは、いくつもあるように思えてきます。
輸出依存度の高い中国経済は、日本と同様に、欧州経済減速の煽りをもろに受けているように見えます。そこに政府による不動産価格の抑制政策も重なって、経済は確実に減速しています。このような状況が長く続けば、過剰投資の問題が表面化するのは、時間の問題かもしれません。
また最悪ケースでは、拡大した貧富の差が、かつて中国の王朝が何度も経験して来たように、地方や農村で社会不安を引き起こしてしまうかもしれません。昨今の反日デモに参加した人達が、低所得者層の人であるという噂は、本土のインターネットでも広がっているようですが、そうした社会不安の抑制が共産党政府の最優先課題であることは、広く知られている通りです。
そして中国経済の問題は、世界全体の問題であることは、最初にも触れた通りです。そしてこれは何も、先進国に限った話ではありません。
発展目覚しい途上国を「BRICs」と持ち上げてみても、「B(ブラジル)」と「R(ロシア)」は基本的に資源輸出国であり、最近注目を集め始めていたインドネシアなども、その例外ではありません。それらの国は、中国経済減速の煽りを、今後一層強くに受けてしまうかもしれません。
また「I(インド)」は、中国同様に巨大な人口を抱え、うまく行けば巨大な市場となってくれることが期待される国ですが、社会主義の悪弊や、政治腐敗、過剰な人口増に追いつけないインフラ、地域格差の拡大など、無数のに苦しんでおり、すぐに中国のような目覚しい発展を遂げそうもありません。
そして10月13日のWall Street Journalの記事「China Dispute Casts Pall Over Japan Growth(中国との領土問題が日本の経済成長の足かせに)」の中でも触れられていたように、中国経済の減速は、同じく輸出依存の日本経済にとって、大きな打撃となることが予想されます。
記事の中では、日本が期待している2%のGDP成長が、対中輸出が3割落ちることで0.6%減速する、と書かれていましたが、どうもこういう憶測は、問題を過小評価しているように感じます。実際リーマン危機後も、世界で最もGDPが減速したのは日本であり、「GDPに占める純輸出の割合が極小だから関係ない」と主張していたエコノミストの予想が外れたことは、記憶に新しいところです。
香港セントラルの最近
香港の金融街は、香港島でビクトリア湾に面したCentral(中環)というエリアにあります。ぎざぎざのパズルのような中国銀行のビルなどは、香港のスカイラインの中でも有名なものであり、かつて香港の金融界を牛耳った英国系の香港上海銀行やStandard Chartered Bank(ともに兌換銀行)も、軒並みこのエリアに本拠を構えています。
そのセントラル(香港のウォールストリート)も、このような中国経済の状況を受けて、かなり状況は苦しくなっています。日本で聞かれるような投資銀行の大幅なリストラの話は、まだ香港では聞かれませんが、採用抑制や部分的なリストラなどは、確実に進行していると聞きます。
株式市場の冷え込みによって中国企業のIPOが激減していることもあり、株式部では、売上がが3割近くも減少していると聞きます。株式の売買手数料が主要な売上である証券会社にとって、絶対株価の下落は、フィーの絶対額の減少(株価100ドルの1%か、株価50ドルの1%かの違い)、投資家のリスク許容度縮小による売買高の減少など、何重もの痛手になります。
こうした状況た続けば、更に不動産市場には痛手になってしまいます。これは本土でも同じことが言えると思いますので、株式市場の下落も、特に香港や上海のような金融センターでは、看過できない問題である気がします。
バブル崩壊回避の方法
どうすれば中国は、バブル崩壊を回避して、経済を軟着陸させることが出来るのでしょうか。これこそ正に、1兆ドルの質問と言えるかもしれませんが、一番簡単なのは、欧米経済の復調である気がします。しかしそれが、ユーロの混乱によって叶わないとすると、中国はもう、現段階で徐々に始まっているように見える地道な構造改革を、続けるしかないのかもしれません。
世界経済が減速する中で、中国当局には、極めて難しい舵取りが求められますが、何とか今までの実績を続けて欲しいものです。来月11月には、アメリカ大統領選挙と重なって、中国で10年に一度の政権交代が行われる、共産党大会も開催されます。どちらも世界経済の今後にとって極めて重要なイベントとなるだけに、ウォールストリートの注目も一層高まることが予想されます。
香港・中国から直行便で16時間、地球の裏側であるNYで、マクロのヘッジファンドやPEファンドなどに勤めている元同僚達から「1億ドルの質問」として一番よく聞かれたのは、相変わらず「中国経済のバブルは、いつ、どのように崩壊するのか」という話でした。
ウォールストリートがこのように中国に高い関心を示すのは、中国のGDPが世界第二位の規模であるという事よりも、むしろそのような巨艦が、今まで年間10%前後のペースで成長していた為だと言える気がします。これはつまり、世界経済の「成長幅」の多くを中国が占めていたことを意味しており、これは単に「現在世界第二位の規模」、という事よりも、遥かに重要です。
(だからこそ、今でも「世界大三位」の経済大国であるはずの日本には、全く関心が集まらないわけですが、そうした話は「海外から見た日本・アジア」というカテゴリーを新作して、ここ数年で何度も書いて来た通りです。)
ちょうど一年ほど前にも、中国経済の先行きに対する見方は、北京から遠く離れるほどに悲観的であるように感じる、と書いた気がします。中でも世界の金融センターであるNYでは、中国経済はバブルである、とほぼ断定したような見方が、非常に多いように感じます。
繰り返しになりますが、彼らが気にしているのは、中国そのものの先行きもありますが、中国を需要地として依存している、資源国などの動向でもあります。もちろん、世界経済のけん引役が大コケしてしまえば、数多くの多国籍企業を抱える欧米経済も、当然無傷では済まないでしょうから、どうしても中国の動向には、高い関心が集まります。
ともかくウォールストリートにおける中国への見方は、「バブル」で大方一致しているように話していて感じるわけですが、そこで皆が頭を悩ませているのは、「バブルの崩壊は何によって引き起こされるのか」という話です。
中国経済の特殊性
中国経済は、特に現地に頻繁に足を運んでいると、そう簡単に大きく転ぶようには感じられません。中国共産党のここ十数年の経済運営の実績は、疑いようがありませんし、多額の外貨準備を抱え、GDP比での負債比率も比較的低い中国では、いざとなったら幾らでも景気刺激策を打てるのでは、と感じてしまいます。
また、一人当たりGDPではまだ途上国の域を出ていない中国経済は、まだまだ伸びシロがあるようにも思えます。また中国人は大変勤勉で、「アメリカンドリーム」ではないですが、誰もが頑張って勉強や仕事に励み、その結果裕福になることを、熱望しているように思います。そんな国だけに、突然の経済破綻という画を想像するのは、なかなか困難な話です。
しかし中国経済は、「システム」自体は1978年の改革開放期から、完全に資本主義に移行していますが、まだまだ多くの規制の下で「管理」されていると言える気がします。政府系の企業(SOEs)は巨大で、金融、運輸、通信、エネルギーなど、主要産業を独占や寡占の下に支配しています。
また、これだけの経済大国で、輸出依存国であるにも関わらず、人民元は管理通貨制を維持しています。それはつまり、内外の資金の流れが規制されている事を意味し、国内の金利も自由化されていません。そもそも大手銀行が全て政府系であることから、貸し出しの目標額まで「赤い電話」で指示されるとの話もあります。
そう考えると、政府が手綱を握っている限りは、1985年に日本がプラザ合意によって円の急騰を受け入れ、その対抗策としての日銀が過剰の金融緩和が資産バブルを引き起こして、その引き締め転換によってバブルが突如崩壊した、などと言うことは、起こらないかもしれません。
では何が中国のバブル(があるとすれば)を崩壊させ得るのでしょうか?
過剰投資がバブル崩壊を招く?
その手がかりとして、そもそも中国経済の問題の本質は何か、を考えてみることは、有用かもしれません。中でもアメリカ人投資家が一番懸念しているのは、世界中でバブルを形成しては崩壊させて来た、過剰投資の問題である気がします。
少し前になりますが、7月17日のFinancial Timesに、「The road to nowhere(どこにも続かない道)」というコラムが掲載されていました。そこでは、産業化が進み、国内でも最も裕福な省の一つである山東省(Shangdong)の青島(Qingdao)に、2011年に開業した橋が紹介されていました。
そのコラムによると、そのベイブリッヂは、市街地と、そこから遠く離れた農村地帯を結んでおり、6車線で全長42.5キロという、巨大なものだそうです。将来のベッドタウン化を睨んでの投資、ということになるかと思いますが、現時点ではガラガラだそうで、このコラムでは、このような無駄な投資を「bridge to nowhere」、どこにも続かない(先行きのない)橋、と揶揄していました。
このコラム二ストは、多くの政府関係者や投資家は、中国がまだまだインフラ投資が必要であると考えていることは認める、と書いています。しかし中国は実に9年間連続で、GDPの4割以上を固定資産投資に依存して来たそうで、6-7割が国内消費である先進国の経済との差は歴然としています。
投資の原資となるおカネは、もちろん高度経済成長によって作り出されたものもあるでしょうが、やはり管理通貨制の結果としての流動性の過剰供給という側面が強いことは、中国経済楽観派であっても、否定しないところである気がします。
そのような資産効率を考えない過剰投資は、「目標過達」を必題とした共産主義時代の悪習でもあると、中国人の友人は指摘しています。更に中国では、党内での激しい出世競争に勝ち抜くために、各都市の上層部が実績作りに奔走する傾向があります。それは、日本などの民主主義国が、おらが村に利益誘致をして選挙で票を獲得しようとする流れと、何ら違いはありません。
一つ違うのは、主要産業の多くが政府系(省営・市営も多い)であることから、いわゆる「政官財トライアングル」は、癒着を通り越して「一体化」していると言える点です。政府は政府系企業に大きな仕事を発注し、そこから金銭的、政治的見返りを受ける。この流れは、中国が過去2000年ずっと続けて来た、皇帝と一部官僚が全てを牛耳る王朝政治と全く同じであるという指摘も、よく耳にします。
過剰投資が行われている可能性のあるエリアは、道路、空港、オフィスビル、高層住宅、自動車工場、鉄工所、石炭炭鉱など、数え切れないほど存在するように思います。どれも「中国経済が発展を続ければ、いずれは必要になる」と言われますが、過剰なキャパシティは、必ず資金繰りの悪化や過剰在庫の問題を作り出し、景気減速と共に流動性危機や価格暴落、つまりバブル崩壊を導き兼ねないことは、言うまでもないかと思います。
管理通貨制は諸刃の剣?
先日、香港島と九龍半島の間のビクトリアハーバーを見下ろすIFC Mallの中にあるフレンチレストランで、食事をする機会がありました。煌びやかな内装、天井まで続く巨大なワインセラー、豪華な服装を身にまとった客、そして場違いにみすぼらしい服装の家族が1万円以上するディナーを食べている場面を見ていると、これがバブルでなくて何なのかと感じます。
またここ一週間で、少なくとも3人のヘッジファンド業界の同僚たち(全員がアメリカ人かヨーロッパ人)から、香港のマンションの家賃は高すぎて、家族を養うに必要な広さでそれなりの場所にある物件にはとても手が出ない。曲りなりにも自分はキャリアでそこそこ成功しているつもりなのに、これは一体どういうことだ、という話を聞きました。
それも、彼らの大家に言わせれば、そんなに高い家賃を取っていても、ここ数年で買った人にとっては、元々取得した時点での物件の値段が高すぎて、ネガティブイールドなのだそうです。香港の金利が2-3%と極めて低い水準であることを考えると、まさにアメリカの住宅バブル崩壊以前の世界を髣髴させるようです。
香港で不動産バブルが膨らんでいる要因は、少なくとも二つある気がします。一つは本土からの巨額の資金流入で、かつては100万米ドル相当の不動産投資を行えば、香港永住権を取れたことから、政府関係者やビジネスマンがこぞってマンションを買い漁り、子弟をを送り込んでいたそうです。
高速鉄道事故で有名になってしまった、起業家や投機の精神に溢れる人が多いといわれる温州(Wenzhou)のいわゆる「温州商人」も、その買い手の一派だと言われますが、2008年の金融危機以降、アメリカが大幅な金融緩和を実施し、その時期と香港の不動産価格暴騰が一致していることは、偶然ではない気がします。
つまり、そのような投機をひきつける理由はそもそも何かと言えば、やはり「管理通貨制」の問題に行き着くように思われます。香港ドルは米ドルとペッグされており、人民元も若干の変動はあるにせよ、基本的には米ドルに連動して動いています。先ほど書いた通り、中国では金利も管理されていて、インフレ率が預金金利を上回る状況もザラです。
経済が絶好調なのに、金利や為替の上昇という形でリバランスできない香港や中国は、その歪みが資産価格の暴騰という形で現れていても、不思議ではない気がします。行く先のないマネーが不動産や高級ワインに向かうという流れは、まさに80年代の日本のバブルと同じ現象に見えてしまいます。(一部の高級酒などは、賄賂としても利用価値大と考えられているようです。)
そのように考えると、アメリカ経済が今後も回復基調を続け、金利上昇を伴って通貨価値が上昇し始めるようなことになると、今までとは逆の流れが発生して、中国や香港の不動産市場は、一気に崩壊してしまうかもしれません。そのような事になれば確実に、中国経済は大問題を抱えることになる気がします。
中国のバブルは世界と日本の大問題
このように考えてみると、実は中国バブルを崩壊させるトリガーは、いくつもあるように思えてきます。
輸出依存度の高い中国経済は、日本と同様に、欧州経済減速の煽りをもろに受けているように見えます。そこに政府による不動産価格の抑制政策も重なって、経済は確実に減速しています。このような状況が長く続けば、過剰投資の問題が表面化するのは、時間の問題かもしれません。
また最悪ケースでは、拡大した貧富の差が、かつて中国の王朝が何度も経験して来たように、地方や農村で社会不安を引き起こしてしまうかもしれません。昨今の反日デモに参加した人達が、低所得者層の人であるという噂は、本土のインターネットでも広がっているようですが、そうした社会不安の抑制が共産党政府の最優先課題であることは、広く知られている通りです。
そして中国経済の問題は、世界全体の問題であることは、最初にも触れた通りです。そしてこれは何も、先進国に限った話ではありません。
発展目覚しい途上国を「BRICs」と持ち上げてみても、「B(ブラジル)」と「R(ロシア)」は基本的に資源輸出国であり、最近注目を集め始めていたインドネシアなども、その例外ではありません。それらの国は、中国経済減速の煽りを、今後一層強くに受けてしまうかもしれません。
また「I(インド)」は、中国同様に巨大な人口を抱え、うまく行けば巨大な市場となってくれることが期待される国ですが、社会主義の悪弊や、政治腐敗、過剰な人口増に追いつけないインフラ、地域格差の拡大など、無数のに苦しんでおり、すぐに中国のような目覚しい発展を遂げそうもありません。
そして10月13日のWall Street Journalの記事「China Dispute Casts Pall Over Japan Growth(中国との領土問題が日本の経済成長の足かせに)」の中でも触れられていたように、中国経済の減速は、同じく輸出依存の日本経済にとって、大きな打撃となることが予想されます。
記事の中では、日本が期待している2%のGDP成長が、対中輸出が3割落ちることで0.6%減速する、と書かれていましたが、どうもこういう憶測は、問題を過小評価しているように感じます。実際リーマン危機後も、世界で最もGDPが減速したのは日本であり、「GDPに占める純輸出の割合が極小だから関係ない」と主張していたエコノミストの予想が外れたことは、記憶に新しいところです。
香港セントラルの最近
香港の金融街は、香港島でビクトリア湾に面したCentral(中環)というエリアにあります。ぎざぎざのパズルのような中国銀行のビルなどは、香港のスカイラインの中でも有名なものであり、かつて香港の金融界を牛耳った英国系の香港上海銀行やStandard Chartered Bank(ともに兌換銀行)も、軒並みこのエリアに本拠を構えています。
そのセントラル(香港のウォールストリート)も、このような中国経済の状況を受けて、かなり状況は苦しくなっています。日本で聞かれるような投資銀行の大幅なリストラの話は、まだ香港では聞かれませんが、採用抑制や部分的なリストラなどは、確実に進行していると聞きます。
株式市場の冷え込みによって中国企業のIPOが激減していることもあり、株式部では、売上がが3割近くも減少していると聞きます。株式の売買手数料が主要な売上である証券会社にとって、絶対株価の下落は、フィーの絶対額の減少(株価100ドルの1%か、株価50ドルの1%かの違い)、投資家のリスク許容度縮小による売買高の減少など、何重もの痛手になります。
こうした状況た続けば、更に不動産市場には痛手になってしまいます。これは本土でも同じことが言えると思いますので、株式市場の下落も、特に香港や上海のような金融センターでは、看過できない問題である気がします。
バブル崩壊回避の方法
どうすれば中国は、バブル崩壊を回避して、経済を軟着陸させることが出来るのでしょうか。これこそ正に、1兆ドルの質問と言えるかもしれませんが、一番簡単なのは、欧米経済の復調である気がします。しかしそれが、ユーロの混乱によって叶わないとすると、中国はもう、現段階で徐々に始まっているように見える地道な構造改革を、続けるしかないのかもしれません。
世界経済が減速する中で、中国当局には、極めて難しい舵取りが求められますが、何とか今までの実績を続けて欲しいものです。来月11月には、アメリカ大統領選挙と重なって、中国で10年に一度の政権交代が行われる、共産党大会も開催されます。どちらも世界経済の今後にとって極めて重要なイベントとなるだけに、ウォールストリートの注目も一層高まることが予想されます。
by harry_g
| 2012-10-14 00:26
| 中国の経済