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2011.09.25
今度こそは→難解な哲学書を読めるようにする16の新書
文章を読むときのアタマの情報処理は、大きく分けると次の2つがある。
文章から情報を組み上げる(文章→アタマ)処理と、頭の中の情報を本の情報と結びつける(アタマ→文章)処理だ。
すぐにわかるように、自分の中に、その本の内容と結びつけるものが少ないと、文章から情報を組み上げる(文章→アタマ)処理が優勢となる。
実は、文章から情報を組み上げる(文章→アタマ)処理だけの読書はつまずきやすい。
頼りになるのが文章から来る情報だけになるから、単語や語句に、文や段落のつながりに、文章のテーマや取り上げられるトピックに、そのどこかに分からないところがあると、途端に理解に支障が出るからだ。
逆に、自分のアタマから文章へ向かう情報が豊富だと、文章から来る情報に不明な点があっても、何とか進むことができる。
このことは、特に難しい本や外国語の本を読むときには、心にとめておいた方が良い。
アタリマエのことだけれど、読もうとしている本に関連ある知識を入手しておけばそれだけ、理解は深まり速度は上がり、なにより挫折する可能性が小さくなる。
具体的なやり方はよし、もう一度→ムリ目な難解書を読む5つの方法 読書猿Classic: between / beyond readers に書いたので、今回は難しめの本を読む先導になるような入門書を紹介する。
初回なのでジャンルは哲学。
メジャーどころの哲学者について一人につき一冊ずつ、手に入りやすさから新書やそれに類するものから選ぶことにした。一応、歴史順で。
ソクラテス (岩波新書) (1957/01/17) 田中 美知太郎 商品詳細を見る |
プラトン (岩波新書) (1972/10/20) 斎藤 忍随 商品詳細を見る |
まずはソクラテスとプラトン。
もっと新しいもの、たとえば岩波新書でも、藤沢令夫『プラトンの哲学』 (岩波新書)なんかがあるけれど、古い方にした。
プラトンが書いたものは、読みやすさでいえば、哲学書の中で右に出るものがない。つるつる読める。
その〈柔らかさ〉に添わせるには、藤沢のは、やや張り切り過ぎている気がしたという、主として叙情的な理由からである。言い過ぎれば、プラトン哲学入門ではあっても、プラトン入門やましてやソクラテス入門にはどうなんだろう、と。むしろブラック『プラトン入門』 (岩波文庫)なんかと比べる本なのだ。
田中美知太郎のも、斎藤 忍随のも、今読むと、ちょっとほんわかし過ぎの感がある。だが、これからプラトンを読むには、それがいいと思った。
アリストテレス入門 (ちくま新書) (2001/07) 山口 義久 商品詳細を見る |
対して、アリストテレスものは基本的に講義ノートかメモなので、読み物としてはうまくない。
なので、こちらはもっときっちりしたのを用意した。
古い本の対抗馬では出隆『アリストテレス哲学入門』(岩波書店)を考えていたが、これは勝負あった感じ。ちくま新書のを強くオススメする。
哲学の入門書を何か一冊、という人にも推薦できる出来。
アウグスティヌス講話 (講談社学術文庫) (1995/07/04) 山田 晶 商品詳細を見る |
古代ローマの哲学についてはすっとばすことになって心残りだが(ヘーゲルが敷いた哲学史のフレームワークから未だ抜け出せない感じがしてうざい)、この本で気を取り直そう。
アウグスティヌスに興味がなくてもいい、突き抜けるくらいの秋の晴れた空を思わせるこの本を。
読みやすい上に感動する。
トマス・アクィナス 『神学大全』 (講談社選書メチエ) (2009/11/11) 稲垣 良典 商品詳細を見る |
同じ著者の『トマス・アクィナス』 (講談社学術文庫)も良いが、今のところ、トマス・アクィナスの入門はこの本で決まりだろう。
デカルト (岩波新書) (1966/07/20) 野田 又夫 商品詳細を見る |
デカルト自体が〈哲学の入門〉みたいな扱いなので、実際に案外短いし、言葉遣いもそれほどめんどくさくないし、いきなり読めと言われることが多いけれど、入門書となると手薄である。新しい方の
方法序説 (岩波文庫)の訳者、谷川 多佳子のデカルト『方法序説』を読む (岩波セミナーブックス)は数少ない例外だけれど、軽く触れるだけにとどめて、メインは野田又夫の古い岩波新書を。
薄い本なのに、怒涛の理解と感動が押し寄せる名品。同じ岩波新書、野田又夫だと
パスカル (岩波新書 青版 145)も感動ものだが、パスカルについては次で触れる傑作があるので割愛する。
パスカル―痛みとともに生きる (平凡社新書) (2002/11) 田辺 保 商品詳細を見る |
ふつう書評では禁じ手になっている言葉を使おう。
この本はよい本である。
従来の日本で読まれてきた『パンセ』の読み方を一新させ、現代的水準に引き上げんとする名著。
カント入門 (ちくま新書) (1995/05) 石川 文康 商品詳細を見る |
この記事を新書中心で書こうと思ったきっかけの一冊。
カントは、日本だと哲学そのものといった扱いで、その著書も挫折させてきた人の数もおびただしく、入門書や概説書も少なからぬ有様だが、この本はその中でも群を抜いた出来。
他には黒崎 政男『カント『純粋理性批判』入門』 (講談社選書メチエ)や、ハンス・ミヒャエル・バウムガルトナー『カント入門講義〈新装版〉』 (叢書・ウニベルシタス)。
新しいヘーゲル (講談社現代新書) (1997/05/20) 長谷川 宏 商品詳細を見る |
正直いうと、「ですます」と「である」が気持ち悪く混じる長谷川 宏のヘーゲルの翻訳は好きじゃない。
それでも分かりやすいとは思うし、この本もよく書けていると思う。ヘーゲルについて一冊というなら、今はこれ。
あとは金子武蔵(ヘーゲル『精神現象学』の壮絶な方の訳者)が、長野県南佐久郡で学校の先生たちがやってた勉強会で解き語った口調も楽しい『ヘーゲルの精神現象学』 (ちくま学芸文庫)が読みやすく分かりやすい。
キルケゴール (センチュリーブックス 人と思想 19) (2000) 工藤 綏夫 商品詳細を見る |
キルケゴールの入門書が意外に少ない。
みんなキルケゴールなんかに入門したくないのかも知れない。
だがみんな読まず嫌いだと思う。読めばノリノリで腹がよじれるほどひどい。ニーチェなんか目じゃないほどだ。
上に上げた本は、もうちょっと落ち着いて学習できる本。
図解雑学 ニーチェ (図解雑学シリーズ) (2002/10) 樋口 克己 商品詳細を見る |
ニーチェとなると、やたらめったら本があって、もうどうにでもして、という感じである。
どうしようもない本が多いけれど(いくらでも勘違いできるところがニーチェがこんなにも好まれる理由の一端だとしてもだ)、趣味に走らずがっちり分かるのに向いた本だと、意外な良書があるこのシリースのこの本が良い。
この本でなければ、ジャン グラニエ『ニーチェ』 (文庫クセジュ)と、渋いところをあげようと思っていた。
西尾 幹二『ニーチェ』 (ちくま学芸文庫)も、今はあんなだけど、若い頃はよい仕事をしていたのだと分かる。
ベルクソン (文庫クセジュ) (1993/05) ジャン・ルイ ヴィエイヤール・バロン 商品詳細を見る |
ベルクソンに入門したいという人がいるとは思えないが、哲学史の鬼門にあたるこの方面を等閑視する訳には行かない。
ジル・ドゥルーズの美しい本『ベルクソンの哲学』 (叢書・ウニベルシタス)もよいが(ドゥルーズが最良のベルクソニアンであることがよくわかる)、必ずしも読みやすいとは言えないので、上のクセジュのにした。
フッサール 起源への哲学 (講談社選書メチエ) (2002/05/10) 斎藤 慶典 商品詳細を見る |
フッサールという飛び切り頭の悪い人がはじめた現象学は、その後の哲学すべてを覆いつくさんばかりに広がることになるが、読むとなると極めつけに手に負えない難読書になる(講義もひどいものだったらしい)。
こういった書物にこそ、先行オーガナイザーが有効で、この記事の趣旨に叶う。
だが選書には手間取った。正直、他の本ほどの確信がないが、この本を推しておく。
ハイデガーの思想 (岩波新書) (1993/02/22) 木田 元 商品詳細を見る |
自分だけかも知れないが、こういったラインナップに木田元を持ち出してくるのは、
安易なオチというか、哲学史の本を教えろと言われて加藤尚武『ジョーク哲学史』と答えるあざとさというか、そんな感じだ。
古東哲明『ハイデガー=存在神秘の哲学』 (講談社現代新書)の方がよい本だという確信もある。
だが、木田の本のほうが分かりやすいことは分かりやすいし、読みやすいことは間違いない。説明できることしか書いてないからだが、それも見識ではある。
図解雑学 サルトル (図解雑学シリーズ) (2003/08) 永野 潤 商品詳細を見る |
サルトルは、あんなに馬鹿みたいに流行する必要はないが、普通に読めば普通の書き手以上に面白い男である。
時代と一蓮托生にするには、少しだけ勿体無い。
バルザックと政治的信条を同じくしなくても、バルザックの小説は面白く読めるだろう。それと同じだ。
実はいろいろと大事な問題を提示してくれたり、抱えてもいる。
今となっては入門書を探すのは簡単ではなくなったが、こんなところに小さな花を見つけた。良書。
ウィトゲンシュタイン (現代思想の冒険者たちSelect) (2005/12/16) 飯田 隆 商品詳細を見る |
ウィトゲンシュタインは取り上げる必要はない気がしたが、フッサールをあげてしまったことだし、選ぶことにした。
哲学のことを何も知らなかったこの男は、フッサールのような執拗さとはまた違った歩幅で、哲学のこっちからあっちまでを渡り歩いて行った。哲学を学ばなければ陥るはずのない穴にいくつもいくつも落っこちて、這い上がるたびに紡がれた言葉が、新しい時代の哲学の種となった。
今時、ウィトゲンシュタインをニーチェのように読む人間はいないだろうが、もう決してそんな読み方ができないようになる入門書を選んだ。
後、新書だがぜんぜん入門書でない鬼界 彰夫『ウィトゲンシュタインはこう考えた-哲学的思考の全軌跡1912~1951 』(講談社現代新書)は、次のオススメ。
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