| Home |
2010.10.17
図書館となら、できること/最近の若者は……
少女:ねえ。
少年:前も言ったけど、授業中だよ。
少女:放課後、空いてる?
少年:……今日は図書館は休みだ。
少女:休館日は知ってる。だから尋ねてるの。
少年:……どこ、行きたいの?
少女:うちに来ない? 調べものしたいし。
少年:はあ。
少女:盛大にため息ついてるわね。
少年:別に。調べものって、「うち」でできるの?
少女:ネットを使えばね。
少年:だったら、「うち」じゃなくてもいいんじゃ……。
少女:はあ。
少年:……何を調べるって?
少女:あ、そうね。あれにしようかな。「近頃の若い者は……」ってやつ。
少年:うーん。
少女:なによ?
少年:いいよ、それで。
少女:前にネットで検索したら、調べてる人がいたわ。柳田國男とプラトンまで行きついたみたい。
少年:google?
少女:そうよ。
少年:「翻訳して検索」は使った? 検索結果の左下に出るはずだけど。
少女:ううん。
少年:使うと、あとヘシオドスとキケロとアシモフとバックミンスター・フラーが出てくると思う。
少女:調べたことあるの?
少年:少し。これといった成果はなかったけど。
少女:そうなの。
少年:……授業が止まってる。あ、大丈夫です、ケンカじゃないです。……ねえ、続きは放課後にしようよ。
少女:で、何から探す?
少年:自分だったらどうする?
少女:調べるんじゃないの?
少年:ぼくだったら、まず人に聞く。
少女:意外。
少年:……大半の人はそうする。だから、まずは質問サイトというか人力検索系サイトを覗く。こういう雑学系の質問は、普通に検索してもそういうサイトにあたることが多いから、先に見ておくってこともある。ひとつ見つけると、関連のある質問へのリンクがあるのも都合がいい。
少女:「はてな」とか「教えて!Goo」とか「Yahoo!知恵袋」とか「OKWave」とか?
少年:うん。横断検索ドットコムhttp://www.oudankensaku.com/ で一度に検索できる。中でつかってるのはgoogle検索だけど。
少女:普通にgoogleで探しちゃいけないの?
少年:かまわないけど。ただ広い範囲を探すときは、検索ワードを限定的なものにしないと、検索結果が多過ぎて収拾がつかなくなるだろ? 逆に検索範囲を絞ることができると、検索ワードを曖昧なものにできる。
少女:どういうこと?
少年:たとえば「近頃の若者」で検索するか「最近の若い者」にするか、それとも「今どきの若いもん」でいくか迷わない?
少女:……みんな入れればいいんじゃない?
少年:そう。最初は絞らずに、いろんなものがヒットするようにしたい。でもさすがに「若者」だけで検索しようとは思わないでしょ?
少女:そうね。
少年:横断検索ドットコムだと、これくらいでもなんとかなると思う。
googleで「若い者」「若いもん」「若者」を検索した結果
横断検索ドットコムで「若い者」「若いもん」「若者」を検索した結果
少女:問題は書いてある内容よ。当てになるの?
少年:大抵はならない。でも、デマも当て推量も、情報のうちだよ。とくに本当か嘘か怪しいものを探す時には、手がかりになる。
少女:「シュメール 粘土板」とか「エジプト パピルス」とか「ポンペイ 居酒屋の壁」とか、ね。
少年:あとは検索結果を見て、関係ありそうな結果に登場するキーワードを拾って、検索ワードに追加する。求めている答えに含まれていそうなのがいい。検索ワードが増えてきたら、「(検索ワード)に一致する情報は見つかりませんでした。」となるから、今度はgoogleを使って捜索範囲を広げる。
少女:今の場合だと、たとえば「出典」って単語を足せばいいのね?
googleで「若い者」「若いもん」「若者」と「出典」を検索した結果
少女:あ、わたしが見たサイト、これよ。
わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる: 最も古い「最近の若者は…」のソース

少年:うん。あとは、単に「出典」と入れるだけだと「出典不明」「出典はわかりませんでした」みたいなのもヒットするから、もっと絞る手もある。
少女:どうすればいいの?
少年:たとえば「site:ac.jp」を検索に加えて、大学のサイトだけを検索対象にする。これだと絞り過ぎだとわかったら、ちょっとブキッシュというかスノッブな考え方だけど、同じ出典でも、日本語の一般書やサイトのURLより、欧文文献が出ているサイトの信用度は一般的に高いと仮定して、欧文文献を並べる時によく使われる表記を検索ワードに加える。
学術書や論文に出てくる略号をまとめてみた 読書猿Classic: between / beyond readers

少女:どれにする?
少年:とりあえず「et al.」を使おう。著者が多いときに使われるから必ずあるわけじゃないけど、文献リストや引用文献の指示によく使われて、それ以外だとあまり出てこないから。
少女:検索したけど、なんか関係ないものばかり並んだわ。
少年:そしたら、「エジプト」や「シュメール」をひとつずつ加える。
googleで「若い者」「若いもん」「若者」と「et al.」「エジプト」を検索した結果
少女:このサイト、ものすごく詳しい。第6回まであるし。
近ごろの若いもん(エジプト編・1)CommentsAdd StarFeZn

少年:ほんとだ。エジプト起源の話は、これで十分って気がする。
少女:これで、おしまい?
少年:まだ、シュメールと、あと古代ギリシャ起源の話がある。
少女:何から取りかかる?
少年:いくつかやり方はあるけど。日本語サイトで不十分なら、海外の質問サイトも見る。http://ask.metafilter.com とか http://answers.google.com とか。
少女:英語だと、検索するキーワードはどうするの?
少年:楽なのは翻訳サイトを使うことだけど、やっぱり精度は悪い。外国語に自信がない場合は、固有名詞をつかって検索するとズレが少なくて済む。
少女:今のだとエジプトEgyptとかシュメールSumerとか?
少年:それでもいいけど、出典を探すときは、探しているもののフレーズが断片でもあると、圧倒的に作業が進むんだ。さっき見つけた詳しいサイトに、英語の引用文が載ってた。あれを使おう。普通は質問から答えを探すけど、今は答え(のひとつ)から質問を探す。「We live in a decadent age.」って一節があったよね。あれをhttp://ask.metafilter.comで検索して、このフレーズが答えに出てくるような質問を探す。その質問には、他の(シュメールや古代ギリシャやそれ以外の)答えがぶら下がってるはずだよ。
少女:Your search - "We live in a decadent age." - did not match any documents. だって。みつからないみたい。
少年:じゃあ、「The young no longer respect their parents.」だ。「""」でくくらない方がいいよ。この手の引用文は、表現のゆれがあって、少しずつ違っている場合があるから。
少女:あ、今度はうまくいったみたい。
http://ask.metafilter.comで「The young no longer respect their parents.」を検索した結果
少女:一番目のは「I am no longer married to」とか書いてあるから違うみたいね。二番目のには「Children no longer obey their parents,」ってあるわ。若者と子どもの違いはあるけど。
少年:多分当たりだと思う。見てみよう。
"These youths wearing their togas halfway down their legs"
少女:うわ、すごい数の回答。いろんな人の引用がある。
"Times are bad. Children no longer obey their parents, and everyone is writing a book."
― Marcus Tullius Cicero
少女:これがキケロのね。えーと、「なんという時代だ。子どもは親のいうことを聞きもしない。それに誰もが本を書いている」。ねえ、ここ笑うとこ?
少年:……多分。でも、キケロがどこでそんなことを言ってるか、誰も分からない。
少女:どういうこと?
少年:出典不明、もしくはキケロに仮託したものだってこと。
少女:仮託って、勝手に「キケロ作」にしたってこと?
少年:そう。試しにキケロ以外が書いたのを探してみる。
「Children no longer obey their parents -Cicero」をgooleで検索してみる
少年:みつかった文句はこれ。
The Earth is degenerating today. Bribery and corruption abound. Children no longer obey their parents, every man wants to write a book, and it is evident that the end of the world is fast approaching. (Mesopotamian Proverbs - Wikiquote)
(今の世は衰退に向かっている。賄賂や不正が蔓延している。子どもは親に従わず、誰もが本を書きたがっている。世界が終わる兆しが急速に近づいている。)
少年:なかには、この文章に「--Assyrian clay tablet 2800 B.C. 」とついているものもある。
「The world must be coming to an end. Children no longer obey their parents and every man wants to write a book.」(世界は終わるに違いない。子どもは親のいうことを聞きもしないし、誰もが本を書きたがっている)
少年:こっちは「Tablet, Babylon.」で、やっぱり紀元前2800年のものらしい。それから、さっきのhttp://ask.metafilter.comであったアイザック・アシモフ(Isaac Asimov's Book of Facts (1979))が紹介してるっていう「紀元前約2800年前のアッシリアの粘土板 an Assyrian clay tablet dating to approximately 2800 BC」に書いてあるフレーズはこんなのだった。
"Our earth is degenerate in these latter days. There are signs that the world is speedily coming to an end. Bribery and corruption are common."(この世は衰退に向かっている。世界が終わる兆しが現れた。賄賂や不正は日常茶飯事となっている)
少女:微妙に違うけど似過ぎてる。なんか、パクリっぽい。
少年:「The world must be coming to an end」の方は、Suzy Platt(1989), Respectfully Quoted: A Dictionary of Quotations. Library of Congress.って引用句辞典なんだ。 これには面白い解説がついてる。
http://www.bartleby.com/73/456.html
Leewin B. Williams, Encyclopedia of Wit, Humor and Wisdom, p. 299 (1949).によれば、バビロンにほど近いところで出土した、紀元前2800年のものであるタブレットに書かれたものとされる(Attributed)。これの拡大版は
“Our earth is degenerate in these latter days; there are signs that the world is speedily coming to an end; bribery and corruption are common; children no longer obey their parents; every man wants to write a book and the end of the world is evidently approaching,”
で、こちらもWilliam L. Patty and Louise S. Johnson, Personality and Adjustment, p. 277 (1953).によれば、紀元前2800年のアッシリアの石板のものとされる。
しかし、どちらの引用句も偽物である。おそらく「誰もが本を書きたがっている」の元ネタは、旧約聖書「伝道の書」12:12.だろう。
少年:このWilliam L. Patty and Louise S. Johnson (1953), Personality and Adjustment,American Journal of Nursing 53 (11) , 1312-1313.って論文はくせ者で、Respectfully Quotedには、これを出典にしたもう一つの引用句が掲載されてる。
The children now love luxury; they have bad manners, contempt for authority; they show disrespect for elders and love chatter in place of exercise. Children are now tyrants, not the servants of their households. They no longer rise when elders enter the room. They contradict their parents, chatter before company, gobble up dainties at the table, cross their legs, and tyrannize their teachers.
(近頃の子供は贅沢が大好きで。マナーは悪く、権威を馬鹿にする。年長者を軽蔑してみせ、運動する場所でおしゃべりばかりしている。近頃の子供は暴君と同じだ。部屋に年長者が入ってきても起立もしない。親にはふてくされ、客の前でも騒ぎ、食事のマナーを知らず、足を組み、師に逆らう)。
少女:これもさっきhttp://ask.metafilter.comで見たわよ。ソクラテスの言葉だってことになってたけど。
少年:これについてはこんな解説がある。
http://www.bartleby.com/73/195.html
この一節は1960年代にとても流行ったもので、元はアムステルダムの市長だったGijsbert van Hallがデモのときの演説で使ったものだ。これを1966年4月3日のニューヨーク・タイムス
が報じた(p. 16.)。フォーブス誌の同年4月15日号の若者について取り上げた社説(p. 11)で、この一節が用いられ、同じ号の“Side Lines”という見出し(p.5-6.)では、学者や研究者が本当にソクラテスかプラトンの言葉なのか確かめようとしたが見つけることができなかった顛末を書いてる(Richard D. Irving, William A. Katz(1988), Reference services and public policy,pp.82-83. )。
少女:?どういうこと? PattyさんとJohnsonさんが「ねつ造」したものを、後で市長さんが使って流行っちゃったの? 何千年前なんて真っ赤なウソで、実はせいぜい50年くらいの歴史しかないってこと?
少年:いや、そういう訳じゃないけど。Google bookで「Children no longer obey their parents」を探すと、1910年代のものがみつかる。そのひとつ、1916年にテキサス州の教職員組合が出したThe Texas outlookには、「6000 Years of Juvenile Delinquency」(少年犯罪の6000年)という見出しで、「Our earth is degenerate in these latter days. There are signs that the world is coming to an end. Children no longer obey their parents. Everybody wants to write a book. The end of the world is near…」って例の下りが始まってる。コネチカット州図書館が1917年に出したReport of the State Librarian to the Governorには、「A tablet (Assyrian) 2800 BC says : " Our earth is degenerate in these latter days ; there are ...」と、アッシリアの紀元前2800年のタブレットに、例の一節があると書いてある。
少女:なんだか頭がこんがらがってきた。ねえ、続きは明日にしない。調べたことを図書館に持っていって、先生がどういうか聞いてみたいわ。
少年:前も言ったけど、授業中だよ。
少女:放課後、空いてる?
少年:……今日は図書館は休みだ。
少女:休館日は知ってる。だから尋ねてるの。
少年:……どこ、行きたいの?
少女:うちに来ない? 調べものしたいし。
少年:はあ。
少女:盛大にため息ついてるわね。
少年:別に。調べものって、「うち」でできるの?
少女:ネットを使えばね。
少年:だったら、「うち」じゃなくてもいいんじゃ……。
少女:はあ。
少年:……何を調べるって?
少女:あ、そうね。あれにしようかな。「近頃の若い者は……」ってやつ。
少年:うーん。
少女:なによ?
少年:いいよ、それで。
少女:前にネットで検索したら、調べてる人がいたわ。柳田國男とプラトンまで行きついたみたい。
少年:google?
少女:そうよ。
少年:「翻訳して検索」は使った? 検索結果の左下に出るはずだけど。
少女:ううん。
少年:使うと、あとヘシオドスとキケロとアシモフとバックミンスター・フラーが出てくると思う。
少女:調べたことあるの?
少年:少し。これといった成果はなかったけど。
少女:そうなの。
少年:……授業が止まってる。あ、大丈夫です、ケンカじゃないです。……ねえ、続きは放課後にしようよ。
少女:で、何から探す?
少年:自分だったらどうする?
少女:調べるんじゃないの?
少年:ぼくだったら、まず人に聞く。
少女:意外。
少年:……大半の人はそうする。だから、まずは質問サイトというか人力検索系サイトを覗く。こういう雑学系の質問は、普通に検索してもそういうサイトにあたることが多いから、先に見ておくってこともある。ひとつ見つけると、関連のある質問へのリンクがあるのも都合がいい。
少女:「はてな」とか「教えて!Goo」とか「Yahoo!知恵袋」とか「OKWave」とか?
少年:うん。横断検索ドットコムhttp://www.oudankensaku.com/ で一度に検索できる。中でつかってるのはgoogle検索だけど。
少女:普通にgoogleで探しちゃいけないの?
少年:かまわないけど。ただ広い範囲を探すときは、検索ワードを限定的なものにしないと、検索結果が多過ぎて収拾がつかなくなるだろ? 逆に検索範囲を絞ることができると、検索ワードを曖昧なものにできる。
少女:どういうこと?
少年:たとえば「近頃の若者」で検索するか「最近の若い者」にするか、それとも「今どきの若いもん」でいくか迷わない?
少女:……みんな入れればいいんじゃない?
少年:そう。最初は絞らずに、いろんなものがヒットするようにしたい。でもさすがに「若者」だけで検索しようとは思わないでしょ?
少女:そうね。
少年:横断検索ドットコムだと、これくらいでもなんとかなると思う。
googleで「若い者」「若いもん」「若者」を検索した結果
横断検索ドットコムで「若い者」「若いもん」「若者」を検索した結果
少女:問題は書いてある内容よ。当てになるの?
少年:大抵はならない。でも、デマも当て推量も、情報のうちだよ。とくに本当か嘘か怪しいものを探す時には、手がかりになる。
少女:「シュメール 粘土板」とか「エジプト パピルス」とか「ポンペイ 居酒屋の壁」とか、ね。
少年:あとは検索結果を見て、関係ありそうな結果に登場するキーワードを拾って、検索ワードに追加する。求めている答えに含まれていそうなのがいい。検索ワードが増えてきたら、「(検索ワード)に一致する情報は見つかりませんでした。」となるから、今度はgoogleを使って捜索範囲を広げる。
少女:今の場合だと、たとえば「出典」って単語を足せばいいのね?
googleで「若い者」「若いもん」「若者」と「出典」を検索した結果
少女:あ、わたしが見たサイト、これよ。
わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる: 最も古い「最近の若者は…」のソース

少年:うん。あとは、単に「出典」と入れるだけだと「出典不明」「出典はわかりませんでした」みたいなのもヒットするから、もっと絞る手もある。
少女:どうすればいいの?
少年:たとえば「site:ac.jp」を検索に加えて、大学のサイトだけを検索対象にする。これだと絞り過ぎだとわかったら、ちょっとブキッシュというかスノッブな考え方だけど、同じ出典でも、日本語の一般書やサイトのURLより、欧文文献が出ているサイトの信用度は一般的に高いと仮定して、欧文文献を並べる時によく使われる表記を検索ワードに加える。
学術書や論文に出てくる略号をまとめてみた 読書猿Classic: between / beyond readers

少女:どれにする?
少年:とりあえず「et al.」を使おう。著者が多いときに使われるから必ずあるわけじゃないけど、文献リストや引用文献の指示によく使われて、それ以外だとあまり出てこないから。
少女:検索したけど、なんか関係ないものばかり並んだわ。
少年:そしたら、「エジプト」や「シュメール」をひとつずつ加える。
googleで「若い者」「若いもん」「若者」と「et al.」「エジプト」を検索した結果
少女:このサイト、ものすごく詳しい。第6回まであるし。
近ごろの若いもん(エジプト編・1)CommentsAdd StarFeZn

少年:ほんとだ。エジプト起源の話は、これで十分って気がする。
少女:これで、おしまい?
少年:まだ、シュメールと、あと古代ギリシャ起源の話がある。
少女:何から取りかかる?
少年:いくつかやり方はあるけど。日本語サイトで不十分なら、海外の質問サイトも見る。http://ask.metafilter.com とか http://answers.google.com とか。
少女:英語だと、検索するキーワードはどうするの?
少年:楽なのは翻訳サイトを使うことだけど、やっぱり精度は悪い。外国語に自信がない場合は、固有名詞をつかって検索するとズレが少なくて済む。
少女:今のだとエジプトEgyptとかシュメールSumerとか?
少年:それでもいいけど、出典を探すときは、探しているもののフレーズが断片でもあると、圧倒的に作業が進むんだ。さっき見つけた詳しいサイトに、英語の引用文が載ってた。あれを使おう。普通は質問から答えを探すけど、今は答え(のひとつ)から質問を探す。「We live in a decadent age.」って一節があったよね。あれをhttp://ask.metafilter.comで検索して、このフレーズが答えに出てくるような質問を探す。その質問には、他の(シュメールや古代ギリシャやそれ以外の)答えがぶら下がってるはずだよ。
少女:Your search - "We live in a decadent age." - did not match any documents. だって。みつからないみたい。
少年:じゃあ、「The young no longer respect their parents.」だ。「""」でくくらない方がいいよ。この手の引用文は、表現のゆれがあって、少しずつ違っている場合があるから。
少女:あ、今度はうまくいったみたい。
http://ask.metafilter.comで「The young no longer respect their parents.」を検索した結果
少女:一番目のは「I am no longer married to」とか書いてあるから違うみたいね。二番目のには「Children no longer obey their parents,」ってあるわ。若者と子どもの違いはあるけど。
少年:多分当たりだと思う。見てみよう。
"These youths wearing their togas halfway down their legs"
少女:うわ、すごい数の回答。いろんな人の引用がある。
"Times are bad. Children no longer obey their parents, and everyone is writing a book."
― Marcus Tullius Cicero
少女:これがキケロのね。えーと、「なんという時代だ。子どもは親のいうことを聞きもしない。それに誰もが本を書いている」。ねえ、ここ笑うとこ?
少年:……多分。でも、キケロがどこでそんなことを言ってるか、誰も分からない。
少女:どういうこと?
少年:出典不明、もしくはキケロに仮託したものだってこと。
少女:仮託って、勝手に「キケロ作」にしたってこと?
少年:そう。試しにキケロ以外が書いたのを探してみる。
「Children no longer obey their parents -Cicero」をgooleで検索してみる
少年:みつかった文句はこれ。
The Earth is degenerating today. Bribery and corruption abound. Children no longer obey their parents, every man wants to write a book, and it is evident that the end of the world is fast approaching. (Mesopotamian Proverbs - Wikiquote)
(今の世は衰退に向かっている。賄賂や不正が蔓延している。子どもは親に従わず、誰もが本を書きたがっている。世界が終わる兆しが急速に近づいている。)
少年:なかには、この文章に「--Assyrian clay tablet 2800 B.C. 」とついているものもある。
「The world must be coming to an end. Children no longer obey their parents and every man wants to write a book.」(世界は終わるに違いない。子どもは親のいうことを聞きもしないし、誰もが本を書きたがっている)
少年:こっちは「Tablet, Babylon.」で、やっぱり紀元前2800年のものらしい。それから、さっきのhttp://ask.metafilter.comであったアイザック・アシモフ(Isaac Asimov's Book of Facts (1979))が紹介してるっていう「紀元前約2800年前のアッシリアの粘土板 an Assyrian clay tablet dating to approximately 2800 BC」に書いてあるフレーズはこんなのだった。
"Our earth is degenerate in these latter days. There are signs that the world is speedily coming to an end. Bribery and corruption are common."(この世は衰退に向かっている。世界が終わる兆しが現れた。賄賂や不正は日常茶飯事となっている)
少女:微妙に違うけど似過ぎてる。なんか、パクリっぽい。
少年:「The world must be coming to an end」の方は、Suzy Platt(1989), Respectfully Quoted: A Dictionary of Quotations. Library of Congress.って引用句辞典なんだ。 これには面白い解説がついてる。
http://www.bartleby.com/73/456.html
Leewin B. Williams, Encyclopedia of Wit, Humor and Wisdom, p. 299 (1949).によれば、バビロンにほど近いところで出土した、紀元前2800年のものであるタブレットに書かれたものとされる(Attributed)。これの拡大版は
“Our earth is degenerate in these latter days; there are signs that the world is speedily coming to an end; bribery and corruption are common; children no longer obey their parents; every man wants to write a book and the end of the world is evidently approaching,”
で、こちらもWilliam L. Patty and Louise S. Johnson, Personality and Adjustment, p. 277 (1953).によれば、紀元前2800年のアッシリアの石板のものとされる。
しかし、どちらの引用句も偽物である。おそらく「誰もが本を書きたがっている」の元ネタは、旧約聖書「伝道の書」12:12.だろう。
少年:このWilliam L. Patty and Louise S. Johnson (1953), Personality and Adjustment,American Journal of Nursing 53 (11) , 1312-1313.って論文はくせ者で、Respectfully Quotedには、これを出典にしたもう一つの引用句が掲載されてる。
The children now love luxury; they have bad manners, contempt for authority; they show disrespect for elders and love chatter in place of exercise. Children are now tyrants, not the servants of their households. They no longer rise when elders enter the room. They contradict their parents, chatter before company, gobble up dainties at the table, cross their legs, and tyrannize their teachers.
(近頃の子供は贅沢が大好きで。マナーは悪く、権威を馬鹿にする。年長者を軽蔑してみせ、運動する場所でおしゃべりばかりしている。近頃の子供は暴君と同じだ。部屋に年長者が入ってきても起立もしない。親にはふてくされ、客の前でも騒ぎ、食事のマナーを知らず、足を組み、師に逆らう)。
少女:これもさっきhttp://ask.metafilter.comで見たわよ。ソクラテスの言葉だってことになってたけど。
少年:これについてはこんな解説がある。
http://www.bartleby.com/73/195.html
この一節は1960年代にとても流行ったもので、元はアムステルダムの市長だったGijsbert van Hallがデモのときの演説で使ったものだ。これを1966年4月3日のニューヨーク・タイムス
が報じた(p. 16.)。フォーブス誌の同年4月15日号の若者について取り上げた社説(p. 11)で、この一節が用いられ、同じ号の“Side Lines”という見出し(p.5-6.)では、学者や研究者が本当にソクラテスかプラトンの言葉なのか確かめようとしたが見つけることができなかった顛末を書いてる(Richard D. Irving, William A. Katz(1988), Reference services and public policy,pp.82-83. )。
少女:?どういうこと? PattyさんとJohnsonさんが「ねつ造」したものを、後で市長さんが使って流行っちゃったの? 何千年前なんて真っ赤なウソで、実はせいぜい50年くらいの歴史しかないってこと?
少年:いや、そういう訳じゃないけど。Google bookで「Children no longer obey their parents」を探すと、1910年代のものがみつかる。そのひとつ、1916年にテキサス州の教職員組合が出したThe Texas outlookには、「6000 Years of Juvenile Delinquency」(少年犯罪の6000年)という見出しで、「Our earth is degenerate in these latter days. There are signs that the world is coming to an end. Children no longer obey their parents. Everybody wants to write a book. The end of the world is near…」って例の下りが始まってる。コネチカット州図書館が1917年に出したReport of the State Librarian to the Governorには、「A tablet (Assyrian) 2800 BC says : " Our earth is degenerate in these latter days ; there are ...」と、アッシリアの紀元前2800年のタブレットに、例の一節があると書いてある。
少女:なんだか頭がこんがらがってきた。ねえ、続きは明日にしない。調べたことを図書館に持っていって、先生がどういうか聞いてみたいわ。
- 関連記事
| Home |