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2010.07.17
自爆する蟻、奴隷を狩る蟻
「フルミ・キャミキャーズ」
何だって?
「Fourmi Kamikaze」
フランス語? カミカゼ蟻?
「Suicide Bombing Antと書いてあるページもあった」
“自爆テロ”アリかよ。絶対、ひどい誤解があるな。待て、学名が書いてある。
「カンポノータス・サウンデルシ(Camponotus saundersi)」
Camponotusってことはオオアリ属か。日本の大抵のところにいる大きい蟻がクロオオアリで学名Camponotus japonicusだ。
「……バクダンオオアリ」
うーん……。
「図解があった」
下にキャプションがあるな。「このカミカゼ蟻は、敵を行動不能にするために大鰓腺(だいさいせん)を爆発させる」くらいの意味か?
「大鰓腺って何? アリに鰓(エラ)があるの?」
アリとかハチ……って区別して呼んでるが、生物分類上は、ハチ目 Hymenoptera-ハチ亜目 Apocrita-有剣下目 Aculeata-スズメバチ上科 Vespoidea-アリ科 Formicidaeと、アリはハチの一種だ。スズメバチとミツバチよりも、スズメバチと(すべての)アリの方が近い生き物だ。で、大鰓腺ってのは、ハチの顎の付け根にある分泌腺だ。ミツバチだと、ここからロイヤルゼリーが分泌される、というか大鰓腺から分泌された物質をロイヤルゼリーと呼んでるんだが。
「だったらお腹じゃなくて頭が爆発するんじゃないの?」
……ちょっと調べてみるか。……フランクフルト大学のマシュヴィッツ教授がマレーシアの熱帯雨林で見つけたアリの自爆について「爆発する働きアリ:社会性膜翅目における新しい敵防衛法」って論文で報告してる(Maschwitz & Maschwitz, 1974)。普通は頭部に収まる大鰓腺が、このアリの場合、肥大してて腹部まで達してるみたいだな。これにネバネバした物質が充満してる。で、負けそうになるとこいつを破裂させる。ピンセットでつまんでも自爆するみたいだ。
「そしてロイヤルゼリーを敵に浴びせかける!」
いや、ロイヤルゼリーうんぬんは忘れてくれ。
原著論文
Maschwitz, U. and E. Maschwitz, 1974. Platzende Arbeiterinnen: Eine neue Art der Feindabwehr bei sozialen Hautflüglern. Oecologia Berlin 14:289–294 (in German)
http://www.springerlink.com/content/v0kjl37610tk2426/
参考URL
http://www.antweb.org/description.do?rank=species&genus=Camponotus&name=saundersi&project=worldants
http://books.google.com/books?id=IbT2pd_p8AUC&pg=PA2&dq=%22Camponotus+saundersi%22#v=onepage&q=%22Camponotus%20saundersi%22&f=false
(内部構造の図(Figure1.1):Mandibular glandが大鰓腺、Poison glandが毒嚢、Dufour's glandがデュフール腺)
「ハラキリ蟻はいないの?」
いないが、サムライ蟻はいるな。やってることは山賊だが。
「どこに?」
日本に。サムライアリ、学名 Polyergus samurai。こいつの仲間、Polyergus 属は、北半球に5種類が知られているが、みんな奴隷狩りや巣の乗っ取りを行う。
「なんでサムライアリっていうの?」
……日本人が付けたんだ(Yano, 1911)。英語じゃPolyergus属の蟻をamazon antというらしい。
「アマゾネスから来てるの?」
多分。……梅谷献二って人が書いてるんだが(「サムライアリ/虫の雑学」)、1967年の7月、とある新聞に「みごとなアリの統率」って題の、こんな投書があったそうだ。
私の幼い娘たちが庭で数千匹の黒アリの集団が移動しているのを発見した。 そのアリは庭続きの花壇の穴に次々と入り、今度は穴から出てくるアリが白い幼虫を抱え、元の方向に引き上げはじめた。 その統率と集団行動の見事さにすっかり感心したが、娘たちの質問には満足に答えてやることができなかった。あるいは予測されている今年の異常乾燥を関知しての湿地帯への引っ越しなのか、御存じの方は教えて欲しい。
「ご存知だったのね」
ああ。で、梅谷氏はこんな「回答」を投稿欄に寄せた。
これはサムライアリの兵隊アリによる奴隷狩で、 襲われた巣はクロヤマアリという別の種類のものである。サムライアリは強力な軍隊(兵隊アリ)を持つが、労働力(働きアリ)はない。自分では女王の世話も、 育児も、巣作りや餌集めすらできない。そこで、クロヤマアリの巣を襲い、繭(さなぎ)や成長した幼虫を奪って持ち帰り、羽化した働きアリを奴隷として使う。 その上、自分たちの臭いまで奴隷たちから受け継ぐので、奴隷たちは自分が奴隷だという自覚もない。この暴挙にクロヤマアリは抵抗するが、 軍隊相手では勝負にならない。しかも、この軍隊はやたらに相手を噛み殺さず、クロヤマアリも全滅は免れる。また、初夏のころの何度かの出陣を除けば、 ふだんサムライアリの巣を出入りしているのは奴隷だけなので、外見でサムライアリの巣を見分けることは困難である。この事実にお子さんたちが虫嫌いにならないかちょっと心配だが……。
「子供向けのページがあった。『はたらかないハタラキアリ?』」
うーん。事実は教えた方がいいってことか?
原著論文
Yano, M. (1911) A new slave-making ant from Japan. Psyche 18: 110-112.
参考文献
Hasegawa, E. & Yamaguchi, T. (1995). Intercolonial differences in raiding activities in the Japanese slave-making ant Polyergus samurai. Insectes Sociaux, 42: 187-199. http://www.springerlink.com/content/n44n89577784u664/
サムライアリの生態と奴隷狩りでの行動についての詳細な報告。
参考URL
日本産アリ類画像データベース「サムライアリ」
http://ant.edb.miyakyo-u.ac.jp/J/Taxo/F80801.html
Polyergus breviceps (Slave Raiding Ant)がサナギを運び去る動画
http://www.tightloop.com/ants/images/movies/polbre/DSCN9994-2.MOV
何だって?
「Fourmi Kamikaze」
フランス語? カミカゼ蟻?
「Suicide Bombing Antと書いてあるページもあった」
“自爆テロ”アリかよ。絶対、ひどい誤解があるな。待て、学名が書いてある。
「カンポノータス・サウンデルシ(Camponotus saundersi)」
Camponotusってことはオオアリ属か。日本の大抵のところにいる大きい蟻がクロオオアリで学名Camponotus japonicusだ。
「……バクダンオオアリ」
うーん……。
「図解があった」
下にキャプションがあるな。「このカミカゼ蟻は、敵を行動不能にするために大鰓腺(だいさいせん)を爆発させる」くらいの意味か?
「大鰓腺って何? アリに鰓(エラ)があるの?」
アリとかハチ……って区別して呼んでるが、生物分類上は、ハチ目 Hymenoptera-ハチ亜目 Apocrita-有剣下目 Aculeata-スズメバチ上科 Vespoidea-アリ科 Formicidaeと、アリはハチの一種だ。スズメバチとミツバチよりも、スズメバチと(すべての)アリの方が近い生き物だ。で、大鰓腺ってのは、ハチの顎の付け根にある分泌腺だ。ミツバチだと、ここからロイヤルゼリーが分泌される、というか大鰓腺から分泌された物質をロイヤルゼリーと呼んでるんだが。
「だったらお腹じゃなくて頭が爆発するんじゃないの?」
……ちょっと調べてみるか。……フランクフルト大学のマシュヴィッツ教授がマレーシアの熱帯雨林で見つけたアリの自爆について「爆発する働きアリ:社会性膜翅目における新しい敵防衛法」って論文で報告してる(Maschwitz & Maschwitz, 1974)。普通は頭部に収まる大鰓腺が、このアリの場合、肥大してて腹部まで達してるみたいだな。これにネバネバした物質が充満してる。で、負けそうになるとこいつを破裂させる。ピンセットでつまんでも自爆するみたいだ。
「そしてロイヤルゼリーを敵に浴びせかける!」
いや、ロイヤルゼリーうんぬんは忘れてくれ。
原著論文
Maschwitz, U. and E. Maschwitz, 1974. Platzende Arbeiterinnen: Eine neue Art der Feindabwehr bei sozialen Hautflüglern. Oecologia Berlin 14:289–294 (in German)
http://www.springerlink.com/content/v0kjl37610tk2426/
参考URL
http://www.antweb.org/description.do?rank=species&genus=Camponotus&name=saundersi&project=worldants
http://books.google.com/books?id=IbT2pd_p8AUC&pg=PA2&dq=%22Camponotus+saundersi%22#v=onepage&q=%22Camponotus%20saundersi%22&f=false
(内部構造の図(Figure1.1):Mandibular glandが大鰓腺、Poison glandが毒嚢、Dufour's glandがデュフール腺)
「ハラキリ蟻はいないの?」
いないが、サムライ蟻はいるな。やってることは山賊だが。
「どこに?」
日本に。サムライアリ、学名 Polyergus samurai。こいつの仲間、Polyergus 属は、北半球に5種類が知られているが、みんな奴隷狩りや巣の乗っ取りを行う。
「なんでサムライアリっていうの?」
……日本人が付けたんだ(Yano, 1911)。英語じゃPolyergus属の蟻をamazon antというらしい。
「アマゾネスから来てるの?」
多分。……梅谷献二って人が書いてるんだが(「サムライアリ/虫の雑学」)、1967年の7月、とある新聞に「みごとなアリの統率」って題の、こんな投書があったそうだ。
私の幼い娘たちが庭で数千匹の黒アリの集団が移動しているのを発見した。 そのアリは庭続きの花壇の穴に次々と入り、今度は穴から出てくるアリが白い幼虫を抱え、元の方向に引き上げはじめた。 その統率と集団行動の見事さにすっかり感心したが、娘たちの質問には満足に答えてやることができなかった。あるいは予測されている今年の異常乾燥を関知しての湿地帯への引っ越しなのか、御存じの方は教えて欲しい。
「ご存知だったのね」
ああ。で、梅谷氏はこんな「回答」を投稿欄に寄せた。
これはサムライアリの兵隊アリによる奴隷狩で、 襲われた巣はクロヤマアリという別の種類のものである。サムライアリは強力な軍隊(兵隊アリ)を持つが、労働力(働きアリ)はない。自分では女王の世話も、 育児も、巣作りや餌集めすらできない。そこで、クロヤマアリの巣を襲い、繭(さなぎ)や成長した幼虫を奪って持ち帰り、羽化した働きアリを奴隷として使う。 その上、自分たちの臭いまで奴隷たちから受け継ぐので、奴隷たちは自分が奴隷だという自覚もない。この暴挙にクロヤマアリは抵抗するが、 軍隊相手では勝負にならない。しかも、この軍隊はやたらに相手を噛み殺さず、クロヤマアリも全滅は免れる。また、初夏のころの何度かの出陣を除けば、 ふだんサムライアリの巣を出入りしているのは奴隷だけなので、外見でサムライアリの巣を見分けることは困難である。この事実にお子さんたちが虫嫌いにならないかちょっと心配だが……。
「子供向けのページがあった。『はたらかないハタラキアリ?』」
うーん。事実は教えた方がいいってことか?
原著論文
Yano, M. (1911) A new slave-making ant from Japan. Psyche 18: 110-112.
参考文献
Hasegawa, E. & Yamaguchi, T. (1995). Intercolonial differences in raiding activities in the Japanese slave-making ant Polyergus samurai. Insectes Sociaux, 42: 187-199. http://www.springerlink.com/content/n44n89577784u664/
サムライアリの生態と奴隷狩りでの行動についての詳細な報告。
参考URL
日本産アリ類画像データベース「サムライアリ」
http://ant.edb.miyakyo-u.ac.jp/J/Taxo/F80801.html
Polyergus breviceps (Slave Raiding Ant)がサナギを運び去る動画
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