給料取り(サラリーマン)の会議は、高い給料の人間を一定時間拘束するわけですから大きなコストがかかります。会議がなければもっと他の儲け仕事をできたかもしれない(高い機会費用)訳ですから、つまらない会議をつづけていると「また意味のない会議か」となって、会議での意志決定に不可欠な人物が土壇場になって欠席したり、参加者が席におちつかず会議室を出たり入ったりすることになります。詰まるところ「意味がない会議」として軽く見られているのです(その割には会議は減りませんが)。
つまらない会議の代表的なもの
1 なにも決まらない会議 2 誰も発言しない会議 3 一人がだらだら「熱弁」して、他の人が発言できない会議
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ミーティングのノウハウ
ノウハウ1:「話し合い」をしない
ミーティングのコツのひとつは「話し合い」をしないことです。
何故でしょうか?声を使った話し合いには3つの欠点があります。
話し合いの欠点
1 声の大きい人・話好きの人の意見しか出ない 2 言い合いとなると感情的になって、冷静な議論が妨げられる 3 記録が残らない・言いっぱなしになる
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ボランタリーな活動や団体だと、ミーティングでも「やる気」のある人がやってきます。
ところが、時折、「自分のおもい」を熱弁して、人の意見を聞かない(しゃべりまくって、他人に話すの時間を与えない)人がいます。会社の会議より、ボランタリー活動・団体にこそ、この手の人が登場しやすいのです(経験ありませんか?)。
声を使うと同時に複数の人が意見を表明することができません。
誰かが話している間中、ほかの人間はずっと聞いていなければなりません。2時間しかないミーティング時間で、10人の参加者がいるとします。平均すれば、一人当たり12分づつの「持ち時間」があるはずですが、誰かが30分の熱弁を振るえば、かわりに二人の人が発言の機会を奪われます。長くしゃべる人は往々にして何度もしゃべる人であるので、被害はさらに拡大します。
何度も長時間話す人は、たいていは「私の思いは伝わっていない」と感じるものですから、同じ内容を何度も繰り返します(普段、彼/彼女の周りの人は、もう誰も耳をかさなくなっているのかもしれません。なので、発言を求められるミーティングでは、ここぞとばかりに発言するのです)。
その中身は、別段間違ってはいない「正義の表明」や「やるべき論」だったりするので、「それはちがうよ」と止めにくいものです。ですが、ほかの誰もが「もういいよ。そんなことはわかってるんだよ」と思ってうんざりしているので、あまり熱心には聞きません。そうするとまた、熱弁者は「私の思いは伝わっていない」と感じるものですから、同じ内容を何度も繰り返すことになります。みんなの貴重な共有資源であるミーティングの時間は、どんどん消費されていきます。
何度ミーティングをやっても、同じ人が同じ内容で熱弁をふるっているとなると、人々の足はミーティングから遠ざかります。そんなミーティングに出ても仕方がないですから。
ことによると、すばらしい成果をあげられたかもしれないボランタリー活動や団体が、こうしてたった一人の(しかもとりわけ熱意のもった)「熱弁者」のために、崩壊してしまいます。
複数の、少しばかり互いに意見の異なった「熱弁者」を抱える活動や団体も、一つ間違うとひどいことになります。
ミーティングとなるといつもいつも、かれら「熱弁者」同士のバトルとなって、どちらが正しいか白黒つけるまでほかの議題に取りかかれない(だから永遠に、中身のある議論がはじめられない)となれば、またしても誰も発言できず、誰もミーティングにやってこなくなります。
多くは彼ら「熱弁者」の意見の対立なんて、ほんのささいなもの、どっちでも変わらないと周りは思っているものです。
もともと対立するグループなり人々が参加して始めた活動なり団体でも、もちろん同様のことが起こります。以前の対立をいつまでもミーティングの場に持ち込めば、せっかく手打ちして一緒になって始めたことが水の泡になってしまいます。いったいどうすればいいのでしょうか?
解決の基本は「話し合い」を避けることです。
ボランタリーな活動や団体の場合、基本原則としてもよいと思いますが、意見は書くことです。もちろん書くことが苦手あるいは困難な参加者がいる場合は、補助手段を考えるべきですが、声をペンに変えるだけで、今並べたような困難の大半が回避できます。
書面で意見を提出となると、とても読み切れない膨大なものを出す人もいますから(しかも何度も同じことを繰り返し書く)、字数や書く紙の大きさは制限するとよいでしょう。よくつかわれる75mm四方のポストイットは、張り付けることもできて便利です(これにも細かい字でびっしり書く人もあるので油断できませんが)。
書くミーティングの3つの利点 1 声と違って、複数の人間が同時に意見を出せる 2 繰り返しが避けられる。同じ意見はまとめられる 3 記録が残る。各自が書くので、書記の労力を分散できる
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「声」を扱うことは難しい。掴むことも脇に寄せることもできず、大きな声にその場を占拠されてしまいます。声を声で制しようとしても、またしても声が氾濫するだけです。
一方、書くことで「モノ」になった意見は逆に、つまむことも、移動することも、重ねることも、分類することも、もう一度確かめることも容易です。つまり意見のハンドリングが容易です。
もちろん、ミーティングの楽しい場を、むっつりと沈黙で埋めよという訳ではありません。手とペンとカードで意見を述べる間に、フリーになった楽しいおしゃべり(ときに無駄話)をすることもできます。ミーティングには、お互いに交流する役目もあるのですから(これは活動や団体を維持するのに不可欠です)。
これまでとちがうのは、「無駄話」ですから誰もが聞いていなければならない訳ではありません。一生懸命、自分の意見書きに打ち込んでもかまいません。「聞かなくてもいい話」は、つまらなければ誰もが無視する訳ですから(これが重要です)、楽しくない話は淘汰される傾向にあります。つまり「熱弁者」の聞いていたくない主張は、「話し合い」のルールが守ってきた保護権益だったのです。そんなものはさっさと撤廃することが、気持ちよく有意義なミーティングへの第一歩です。
意外に思われるかもしれませんが、「話し合い」を「共同作業」に置き換えた方が、参加者の親密度は増します。
「話し合い」は、聞き手への戦略(かけひき)行為の側面がありますが(より優位に立とう、よく思われよう、立派なことを言おう、嫌われたくない・・・)、「共同作業」は意見やアイデアの創造・編集の作業で、対象が「相手(人間)」ではなく「アイデア」そのものとなるからです。そして共通の対象をもつ共同行為は、参加者の間に共通の感情や協同感覚を呼び起こすものです。(そういった感情は、人間という種がひとりではできなことをやるために進化してきた感情だからです)。多くのお祭りや宗教儀式が、共通の対象(御輿やらトーテムやら「聖なるもの」やら)に対する共同行為に支えられているのもそのためです。
ノウハウ2:少人数にわける
前に立っている人には逆らわないというすり込みが、年少の頃からなされるためか、多くの場合、議長は孤独です。ひとりでミーティングのすべてを切り盛りするはめに陥り、最悪の場合「何か意見がありませんか」と何度も声を張り上げることになります。
多くの会議はそれを織り込んで、さっさと根回しして、会議自体が議長という祭司が執り行う儀式のようなモノになっています。ひとつの建物にメンバーがあらかじめ放り込まれており、根回しのための移動時間が小さい場合はまだいいのですが、それぞれバラバラに暮らしている市民の活動で根回しをやろうとするととんでもないコストがかかります。
根回しコストがペイするのは、内輪の会議だけであり、なるべく開かれた・内輪でない会議には到底適合的でありません。そして根回しなしの会議をやったことがない人々は途方に暮れることになります。
根回し前提の会議は、創造的ではありません。あらかじめ「落としどころ」=落ち着くべき予定された結論があるのですから、儀礼的に=みんなが期待しているとおりに執り行われることが肝要です。こうした儀礼としての会議は、否定すべきものではありません。それは互いに集団性や組織なるものを確認し心理的に再生産するための儀礼であって(要するに村祭りみたいなものです)、組織には不可欠なモノですが、衆知を集めるためのものではありません。
儀礼=祭りは集まりが大きいほど厳粛になり、主として精神的な効果は高まります。
逆に衆知を集めるためのミーティングは、人数が増すほど機能しなくなります。
しかし意見の多様性を確保するには、いろんな人に参加してほしいですし、せっかくやってきた参加者を、多すぎるからと追い返してしまうのは得策ではありません。
多くては機能しがたいが、多くの参加を可能にしたい。相反する要求を満たすには、参加者を少人数のグループに分割すればよいのです。
10人では多すぎます。つまり自分たちでは「小グループ」だと思っていても、ミーティングには「多すぎる」かもしれません。
人数が多すぎると、かならず「お客さん」(いるだけで実質的に参加しない人)が生まれます。できれば、発言せずにすませたいと考える人には好都合でも、ミーティングの目的からすれば、誰もが人の影に隠れられない人数がよいです。ときおりミーティングの「発言の偏り」をチェックすることは必要です。すわっている通りの形で、参加者の名前を紙に書いて、発言順番とおりに矢印で結んでいきましょう。一度も矢印が通らない人、何度もその人ばかりに矢印が通る人、がいるはずです。
有効なミーティングの人数は、まずは最大でも5人と考えましょう。そして最低でも2つのグループをつくることから初めてましょう。これによって、いつも同じ人が議長・進行役をつとめることも回避しやすくなります。もちろん、グループ分けはそのたびごとに変えること。固定的な派閥ができては元も子もありません。
全体をいくつかのグループに分けるわけですから、よそのグループの成果を知らせあう機会が必要かつ重要になります。あまりうじうじして、グループでの作業が進まないと、いざ発表の時、ほかのグループはできているのに自分のところだけできていないことにもなりかねませんから、この発表機会は一種の競争圧力として働きます。また、自分たちのミーティングを手短にまとめるなければなりませんから、エッセンスを取り出す圧力にもなります。そのためにも、ミーティングは「話し合い」よりも、意見がモノとして残る「書くミーティング」である方が望ましいのです。
また小グループでの作業時間はタイトな方がよいでしょう。短時間で結果を出す方が、密度の濃いものとなります。
20人を前に話をしろ、というと多くの人は物怖じしますが、3~4人相手に互いに話をするのはそれほど異常な経験ではありませんから、まだなんとかなるものです。そして一度相手に話した(場合によっては一度誰かに承認された)意見は、少しは主張する自信がもてるものです。アイデアは表現される(外に出す)ことで、つまり誰かが聞くことで初めて誕生します。小グループは、大人数の会議では浮かび上がらなかったアイデアを生き延びさせるかもしれません。
「何か意見はありませんか」と繰り返し叫ぶことになる人は、数人づつのグループでの話し合いの後、各グループに尋ねてみるとよいでしょう。知り合いの先生は、授業でこの方法を使っています。
ノウハウ3:主語+述語のあるレジュメをつくる
限られた時間を有効に使うためには、今日のミーティングで取り組むすべての議題を、最初にみんなで確認・共有する必要があります。
ミーティングは、いくつかの資源(参加者の知識や知恵、用意した資料、それから時間)を動員して、「ゴール」となる成果を出すプロセスです。
議題は、そのミーティングで出すべき成果を示した「ゴール」です。議題がはっきりしないと、努力のしようがありません。
レジュメで「@@について」というのがよくありますが、よくありません。何をテーマにするのかわかっても、それをどうするのか、なにが達成できればよいのかがまるでわからないからです。「@@について」についての様々なレベルの「思いつき」が出されるだけで、結論が出ず次回へ持ち越しとなりがちです。
ゴールとしての「議題」を明記するためには、レジュメはきちんと「@@を**する」と主語述語を入れて書くことを心がけましょう。
よくない議題 | よい議題 |
1 今後の予定について
2 予算について 3 その他 |
1 今後3ヶ月の中期予定を決定・合意する
2 提示された予算案について、修正を行う 3 その他連絡事項があれば行う |
議題はミーティングの「アウトプット」です。
ミーティングの「インプット」についても、レジュメに書いておくと良いでしょう。議題ごとに「報告者」「準備資料」それから「割り当て時間」を記入します。もちろん「割り当て時間」の合計が、ミーティング時間を越えないように。忘れがちですが、レジュメには開始時刻とともに終了時間を明記しましょう。
レジュメの提案
月日:○○月××日
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最初に確認した議題(ゴール)のそれぞれについて、どんな成果が出たかを最後にみんなで確認します。
ミーティングが終わってから、議長のところへあれこれ言いに来る人がいます。切り捨てないで、しかしそういったことがなくなるようにミーティングを工夫すべきです。その人は、ミーティングで言うべきことを何らかの理由で言えなかったから、そうしてやってくるのです。その理由を理解し改善できれば、それだけミーティングは意義あるモノとなります。
負担を集中させない
ミーティングには、事前準備も事後処理も必要です。けれど代表者や担当者だけがそれを担うのは問題です。
負担が特定の人に集中すると、それ以外の参加者が「お客さん」となり、傍観者的な無責任は発言や行動が増えていきます。
できるだけ事前・事後の処理を減らす工夫をすることが(と、同時にミーティングの質を向上させることが)、長続きのコツです。
スペシャルなノウハウ:マッチングボード
せっかく人が集まるのにミーティングだけじゃもったいない、ということもあります。
とくにミーティングだけがメンバーと顔を合わす機会である活動や団体では、お互いの近況や相談事のやりとりをやることは、グループを維持・活性化することに必要です。全員が話し出すと長くなるのであれば、紙を回してポストイットに書いたものを貼っていけばよいのです。
このシステムを改良して、ミーティング自体に組み入れたシステムが「マッチング・ボード」です。
単なる定期報告や情報交換だけでおわるミーティングは、しばしば義務感だけで支えられますが、これは個人的にもメリットがある/ミーティングの準備や整理も、みんなでできる工夫です。簡単に言うと、「あげます/ください」ボードを、ミーティングに導入したものです。
ニーズ
(必要・ほしいこと等) |
シーズ
(提供・できること等) |
◎本日のミーティング議題
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◎本日の決定事項
◎決定した宿題担当者
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◎前回の宿題
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◎宿題の回収
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◎今日の「ほしいこと」
・~おしえて ・~してほしい ・~がほしい |
◎今日の「持ち寄り」
・情報(イベントなど) ・ネタ、アイデア、知識 ・~できる人紹介 ・もってきました(お菓子、お土産) |
マッチング・ボードをA3版の紙でつくって、ミーティングで回して、参加者にそれぞれポストイットを張り付けてもらって、その場でつくっていきます。
1.せっかく集まったもらった参加者に、それぞれ「して欲しいこと」や「教えて欲しいこと・知りたいこと」「ほしいもの・さがしてるもの」を出してもらって、「ニーズ」側に記録します(各自に小さなポストイットに書いてもらって張り付けてもらいます)。とりあえずメンバーのニーズが浮かんできて、「自己紹介」もかねています。
2.参加者はまた、何か提供できるものを「持ち寄り」することにしましょう(シーズ側に張り付けます)。これは有形・無形を問いません。イベント情報や読んでおもしろかった本やテレビの紹介、アイデアや知識などでもいいし、あるいは近況報告もよいでしょう。「あまりもの」「おみあげ」などはもちろん歓迎します。
3.ミーティングの議題も「ニーズ(要求)」側にはりつけておきます。ミーティング後、決定した事項や、次回までの宿題になったことは「シーズ(提供)」に記録します。つまり団体やグループにとっての「してほしいこと」(こっちが「ニーズ」です)に対して、参加者が「作業や宿題の成果」なんかを提供する(こっちが「シーズ」)、と見なす訳です。
4.前回の宿題をニーズ側に張り付けて、ミーティングの最初にそれぞれ担当者から回収の上、その結果をシーズ側に張り付けましょう。これは分担作業の進行状況を、メンバー全員が共有するために必要です。
5.マッチングボードは、次回に持ち越します。前回のマッチングボードがあれば、ポストイットを張り替えていけば(また必要な分だけ追加すれば)、ミーティングの最初で「レジュメ」も「情報交換」もできてしまいます。
事前準備としての「レジュメつくり」も事後処理としての「ミーティングの記録づくり」も、ミーティングの最中にみんなでやってしまえます。加えて、メンバー間の交流・情報交換・相互扶助のツールともなります。
半時間で108のアイデアを生む/後処理をにらんだブレイン・ライティングの工夫その他 読書猿Classic: between / beyond readers
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