カテゴリ:鉄道:建設・工事 > 上野東京ライン・品川駅再開発
東北縦貫線建設工事(2012年9月15・16日取材)
公開日:2012年10月01日23:43
東海道線東京駅と宇都宮・高崎線上野駅の間では現在「東北縦貫線」の建設が進められています。当ブログでは概ね3カ月置きの調査を行っており、前回の調査から3カ月が経過したことから2週間ほど前に再度調査を行いました。今回は東京駅上野寄りから秋葉原駅付近にかけての状況をお伝えします。
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東北縦貫線建設&品川駅構内の工事(2012年6月15日取材)(2012年6月21日作成)
■東北縦貫線の概要
東北縦貫線の位置
東北縦貫線は東海道線の東京駅と宇都宮・高崎・常磐線の上野駅を接続する新線で、2000(平成12)年に発表された運輸政策審議会(現・通政策審議会)第18号答申で2015(平成27)年までに整備するべき路線として位置づけられています。この区間には現在山手線・京浜東北線が走っていますが、その混雑率は着工前の2006年の数字で218%と国内最高レベルを誇っていました。その後、湘南新宿ラインの新設やつくばエクスプレス線開通などの影響により、2009(平成21)年には最混雑路線の座を総武緩行線(錦糸町→両国)に譲ったものの、現在も混雑率は依然として200%を超えており、対策が急務となっています。東北縦貫線が完成すると、東京止まりとなっている東海道線と、上野止まりとなっている宇都宮線・高崎線・常磐線の列車を直通運転することが可能となり、山手線・京浜東北線への乗り換えが不要になるため混雑率は180%以下へ大幅に緩和される見込みです。
左:東北縦貫線着工前の神田駅付近の東北新幹線高架橋。高架橋の継ぎ足しが可能な構造となっている。2006年5月4日撮影
右:御徒町駅付近にあった留置線。3本なる線路のうち2本を縦貫線に転用する。2010年2月6日撮影
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東北縦貫線はその構造により「東京~秋葉原間」と「秋葉原~上野間」に大別することができます。「東京~秋葉原間」は東北新幹線の高架橋の上に橋脚・橋桁を継ぎ足して縦貫線用の線路を敷設します。そもそも東京駅と上野駅の間はかつて「回送線」と呼ばれる線路で結ばれており、回送線を撤去して東北新幹線が建設されたという歴史があることから、今回の縦貫線建設は「40年ぶりの回送線の復活」と言い換えることもできます。神田駅付近の東北新幹線の高架橋はこの回送線の復活を想定し、高架橋が継ぎ足し可能な構造で建設されており、縦貫線はその構造を活用して建設されることとなりました。しかし、重層化に関しては沿線で反対運動が展開されたことから、桁の一部を在来線側に寄せるなどの配慮がなされており、耐震性向上のため橋脚に補強を施したり、桁を軽量化するなどの工夫も行われています。一方、「秋葉原~上野間」は前述の回送線の名残で現在も宇都宮・高崎・常磐線の留置線があることから、その一部を営業線用に改修して縦貫線として使用します。
この東北縦貫線は当初2009(平成21)年度の完成が予定されていましたが、前記した神田駅付近での反対運動により着工が遅れたことに加え、2011(平成23)年3月に発生した東日本大震災の影響により5年遅れの2014年度に延期されています。総工費は約400億円で、全額をJR東日本が自己負担します。
■2012年9月の状況
●東京駅(東海道線引上げ線)
東京駅7・8番線ホームから上野方面を見る。左側の軌道の敷設もほぼ完了した。(同じ場所の2011年11月26日の様子)
東京駅の上野方は2線ある東海道線用の引上げ線をそのまま東北縦貫線の本線として使用します。2011年秋頃より留置線を1本ずつ使用停止にして軌道を本線用の規格に改修する工事が行われており、現在は7・8番線側(将来縦貫線下り線になる線路)を使用停止にして工事が行われています。軌道敷設自体はほぼ完了しており、まもなく2線とも使用を再開できるものと思われます。
●神田駅付近(二重高架区間)
神田駅のホームから上野方面を見る。奥に見える緑色の機械が二重高架の桁を架設する。(同じ場所の2012年6月15日の様子)
神田駅付近は東北新幹線の高架橋の上に橋脚と桁を継ぎ足すことにより縦貫線の線路を敷設します。橋脚は全て鋼製で、全体が260個の部品に分割されており、2009年後半から2011年前半にかけて毎夜終電から初電までの間に東北新幹線の線路上を通じて搬入・取り付けが行われました。桁の架設は橋脚継ぎ足しの後を追うようにして行われており、東京駅側から専用の架設機が出来上がった橋脚の上を走行しながら桁の組み立て・取り降ろしを行っています。桁の架設の手順は
(1)架設機後方で桁を組み立てる。
(2)組み立てた桁を架設機内部に取り込む。
(3)架設機の下にある走行用ガーターを手前に押し出す。
(走行用ガーターは架設機の走行用レールと取り込んだ桁の落下防止装置を兼用している。)
(4)架設機に取り込み済みの桁を降下させ既定の位置に架設する。
(5)押し出した走行用ガーターを使って架設機を前進させる。
というサイクルとなっています。架設機のサイズは高架橋の高さと同じくらいある巨大なもので、近くから見るとかなりの迫力があります。
左:山手線外回り電車の車内から見た二重高架区間の工事。
右:神田~秋葉原間で交差する靖国通りから架設機を見る。
※クリックで拡大
2010年夏頃に東京駅側の作業台を発進した二重高架の架設機は、途中東日本大震災による工事中断があったものの、これまで無事故で桁の架設を続けており、現在は神田駅を過ぎて靖国通り付近の工事終点まであと3スパン程度を残すところまで進んできています。今後は徐々に東北新幹線の軌道上から外れて新幹線・在来線の間に建設済みのコンクリート製高架橋に取り付いて工事は完了となる模様です。
●秋葉原駅付近(現在線取り付け区間)
秋葉原駅のホームから建設中の東北縦貫線高架橋を見る。神田駅付近の二重高架区間へ向かって急傾斜で登る形状となっている。(同じ場所の2010年8月14日の様子)
二重高架区間は靖国通りとの交差地点で終了し、そこから先は33パーミルの急勾配で下り、秋葉原駅付近で既存の留置線の高架橋に取り付きます。この区間には回送線時代の高架橋が一部残存していることから、その高架橋を取り壊して新しく高架橋を建設する区間と、既設の高架橋を嵩上げのうえ再利用する区間が混在しています。
左:嵩上げのうえ再利用されている佐久間架道橋(同じ場所の2011年3月6日の様子)
右:その先は既設の高架橋の上にコンクリート製の枠と床面を設置し、高架橋をかさ上げする。
※クリックで拡大
秋葉原駅ホーム脇の高架橋はこのうち「既設の高架橋を嵩上げのうえ再利用する区間」に当たります。この付近は2010年頃に留置線としての使用が停止され、軌道が撤去されました。その後、佐久間通りと交差する部分の橋桁が縦貫線の線形に合わせて斜めに持ち上げられ、次いで周囲の高架橋の耐震補強と床面の嵩上げが行われています。高架橋の嵩上げは既設の構造物への負担を減らすため、単純に土やコンクリートを盛るのではなく、既設の高架橋の梁や柱の位置に合わせて鉄筋コンクリートの枠を組み、その上にコンクリートの床面を設置することにより行われています。
本日(10月1日)、国土交通省より2011(平成23)度の三大都市圏の鉄道の混雑率が発表されました。それによると、東北縦貫線が建設中の山手線上野→御徒町の混雑率は前年比-1%の200%となっており、総武線に次ぐ国内2番目の高さとなっています。近年、山手線・京浜東北線では前記した並行路線の整備に加え、車体幅の広い新型車両が投入されたことにより、数字上の混雑率は低下傾向にありますが、輸送量自体が減ったわけではなく、依然として激しい混雑が続いているのが現状です。東北縦貫線開業後は利用者の大半を占める宇都宮・高崎線の列車が品川駅やそれ以南まで延長運転されることが予想され、山手線・京浜東北線の混雑緩和に大きく寄与します。湘南新宿ラインに続く第2の首都圏南北の直通運転としての活躍を期待したいと思います。
▼参考
宇都宮・高崎・常磐線の東京駅乗り入れについて(東海道線との相互直通運転) - JR東日本(2002年3月27日発表)
宇都宮・高崎・常磐線の東京駅乗り入れ工事の着手について - JR東日本(PDF)(2008年3月26日発表)
2012 年度設備投資計画について - JR東日本(PDF)(2012年4月12日発表)
August 2010:特集「新幹線直上に架けるJR東北縦貫線」| KAJIMAダイジェスト | 鹿島建設株式会社
平成23年度の三大都市圏における鉄道混雑率について(公表) - 国土交通省
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