東北縦貫線建設工事(2010年8月14日取材)


神田駅から見た東北縦貫線の桁を架設するトラベラークレーン

2008(平成20)年に開始された東北縦貫線東京~上野間の工事ですが、前回(今年2月)の取材から半年が経過し、進展がありましたので再度レポートしたいと思います。

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東北縦貫線工事(2009~2010年取材まとめ)(2010年3月15日作成)

■東北縦貫線の概要

東北縦貫線は東京駅の東海道線ホームと上野駅の東北・高崎・常磐線ホーム(2階)を接続する路線です。
この区間にはかつて「回送線」と呼ばれる連絡線がありましたが、東北新幹線の建設時に用地が確保できず、やむなく回送線を取り壊して新幹線が建設されたという経緯があります。このため、同区間の高架橋は当初から回送線の復活に備えて上階を継ぎ足せる構造で建設されており、今回の東北縦貫線の建設ではこの構造を利用して高架橋が建設されています。また、この区間の前後は回送線の名残で現在も留置線として線路が残されており、東北縦貫線はその一部を転用して通すことになっています。
当初、2009(平成21)年の開業を目指して着工されたこの東北縦貫線ですが、重層高架となる神田付近の沿線住民が環境悪化を恐れて反対を主張したため調整に手間取り、開業予定は2013(平成25)年度に延期されています。東北縦貫線の開業後は並走する山手・京浜東北線の混雑率が現在よりも大幅に改善される見込みです。

(東北縦貫線に関しては3月作成の記事でより詳しく解説しておりますのでそちらもご覧ください。)

東北縦貫線の構造
東北縦貫線の構造(2月の記事の図を再掲)

■現在の状況(2010年8月14日取材)
神田駅3・4番線ホームから東京駅方向を見る。奥に桁を架設するトラベラークレーン(緑色の物体)が見える。
神田駅3・4番線ホームから東京駅方向を見る。奥に桁を架設する移動式クレーン(緑色の物体)が見える。

東北縦貫線の工事は2008(平成20)年に開始されており、現在は東京~上野間のほぼ全区間で何らかの工事が行われている状況となっています。
このうち、神田駅付近では既設の東北新幹線の高架橋に縦貫線の構造物を継ぎ足すという工事が行われています。この工事は既設の高架橋に縦貫線の橋脚部材を継ぎ足した後、東京駅側の重層高架のアプローチ部分から発進した移動式の桁架設機を使用して桁を順次架設していくという手順が取られています。東北縦貫線の軌道位置は沿線住民に配慮して既設の新幹線よりも在来線側に張り出す形に変更されており、施工に当たっては既設橋脚への負担を低減するため、軽量な部材を開発・採用しています。また、縦貫線の部材追加に伴い、既設の東北新幹線の橋脚の一部に現行の耐震基準を満たさないものが出ることが判明したため、該当する橋脚については中空だった鋼製の橋脚内部にスパイラル筋を使用した鉄筋コンクリートを充填し、強度をアップしています。
既設橋脚に部材を追加する工事は新幹線の通常運行を維持した状態で終電~初電の間に行うため、作業ができるのはひと月の半分程度の日数しかなく、時間も移動や安全確認を含めると1回3時間程度しか確保できません。そのため、資材の搬入は終電後に東京駅の新幹線ホーム(20~23番線)南側に設けられた作業基地から資材を積んだ作業車と100t吊の大型クレーン車が新幹線の線路を通じて直接現場へ向かうという手法が採用されています。現場では新幹線の上下線の架線の間をすり抜ける形で橋脚の部材を吊り上げることになるため、数ミリの狂いも許されない非常に難易度の高い作業となります。橋脚は16基あり、一度に全てを施工することはできないため全部で260の部品に分けて組み立てが行われることになっています。

ボルトが未だ仮締め状態の橋脚。 神田駅脇の橋脚1基は溶接により部材が接合されている。
左:ボルトが未だ仮締め状態の橋脚。
右:神田駅脇の橋脚1基は溶接により部材が接合されている。

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現在は神田駅のホーム脇でこの橋脚の架設作業が行われており、ホームからは組み立て途中の橋脚を間近に見ることができます。未だ完成していない橋脚については既設橋脚と新設部材の接合部分のボルトが一部しか無い仮締め状態のものも多く、作業時間が少ないことをうかがわせています。なお、神田駅脇の橋脚1基は既設橋脚にボルト穴が準備されているにもかかわらず何故か片側の新設部材が溶接で接合されており、既設橋脚側の穴も当て板を溶接して塞いでいます。この理由については現在のところ不明です。
なお、東京~神田間のアプローチ部分ではすでに移動式の桁架設機のセッティングが完了しており、橋脚の完成後直ちに発進できるよう準備が進められています。

留置線の線路が撤去された秋葉原駅付近
留置線の線路が撤去された秋葉原駅付近

一方、秋葉原駅以北については既設の留置線を営業用の線路に改修する工事が進められています。現在は秋葉原駅付近にあった留置線の線路が全て撤去されており、今後は軌道の全面改築と高架橋のかさ上げによる重層高架へのアプローチ部分の構築が行われるものと思われます。

■品川車両基地の再開発も開始
線路が撤去された品川駅10番線 品川駅10番線の撤去で行き止まりとなった田町車両センターの留置線
左:線路が撤去された品川駅10番線
右:品川駅10番線の撤去で行き止まりとなった田町車両センターの留置線。2枚とも2010年5月22日撮影

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東北縦貫線の開業後は東海道線と東北・高崎線の両路線で一体的な車両運用が可能となることから、品川~田町間にある総面積20万平方メートルの車両基地(田町車両センターなど)が大幅に縮小される計画となっています。すでに昨年から遊休化していた設備の撤去が開始されており、旧東京機関区の機関庫などが更地化されました。そして今年春にはいよいよその範囲が品川駅構内にも及ぶこととなり、品川駅の臨時ホーム10番線の線路が全面的に撤去されました。これに伴い、品川駅に近い留置線も行き止まりとなったため車止めが新設されましたが、その構造はレールを曲げただけの簡素なもので、近いうちに留置線そのものを撤去することが前提になっているものと思われます。
車両基地の再開発にあたっては山手線・京浜東北線の新駅設置も計画されています。都心の一等地に位置するということで、今後どのような再開発が行われるのか注目されることとなりそうです。

▼参考
宇都宮・高崎・常磐線の東京駅乗り入れについて(東海道線との相互直通運転) - JR東日本(2002年3月27日発表)
宇都宮・高崎・常磐線の東京駅乗り入れ工事の着手について - JR東日本(PDF)(2008年3月26日発表)
August 2010:特集「新幹線直上に架けるJR東北縦貫線」| KAJIMAダイジェスト | 鹿島建設株式会社
東北縦貫線プロジェクトの概要と架設計画 - 橋と基礎2009年8月号77~79ページ
東京都品川周辺の街づくり、JR東の再開発案件に追い風 | ビジネスニュース | Reuters(2007年9月11日)
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