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イヤホンKZ ZASの再購入とKZ AZ09 Proによる無線化

最近立て続けに2つも無線イヤホンを買ったが、やはり音質に不満があったので、有線イヤホンを無線化して運用することにした。以前使っていて音質に満足していたKZ ZASを買い直し、それに対応したBluetoothレシーバKZ AZ09 Proも購入した。これで音質と機能性を両立して最強になった。電池持ちが懸念点だったが、AACなら10時間半の連続再生に耐えることが分かった。


最近は長野の山奥で過ごすことが多く、またちょこちょこジョギングやらサイクリングやらもしている。山奥で畑仕事なり読書なりをしている間や、運動の間には、音楽を聴いていることが多い。よって、その音質や使い勝手は生活の質に直結する。個人的に音質最強と思っている中華イヤホンKZ ZASと古いウォークマンNW-S15を長らく使ってきたのだが、イヤホンを紛失してしまったのをきっかけに、無線化した。まずはSoundpeatsのSonic Proを買ったが、壊してしまったので、同じくSoundpeatsのEngine 4を買った。
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BA(バランストアーマチュア)ドライバ2機搭載のSonic ProとDD(ダイナミックドライバ)2機搭載のEngine 4の音は両極端と言っていいほど異なるものだったが、双方とも味があって楽しめた。精細な高音を楽しめるBAと深みのある低音を楽しめるDDだ。そして無線なので、移動していたり作業していたりする最中にもケーブルがひっかかったりケーブルの摩擦音に悩まされたりすることがなく、快適に生活できていた。

しかし、BA7機とDD1機を積んだマルチドライバ構成のZASの音を知ってしまっている身としては、なんか物足りない。高音も低音も両方楽しめるマルチドライバの音がまた聴きたくなった。完全無線イヤホン(TWS)でそこまでのマルチドライバの製品は存在せず、近いものを探すとウン万円を出さねばならなくなるが、その沼には嵌りたくない。なので、ZASを買い直すことにした。そしてヤフオクとメルカリを巡回していたところ、良さげな条件の出品を発見したのでポチった。

ZASの良さについては以前書いたが、とにかくいろんな音が良く聞こえるのだ。イヤーピースを耳の奥に突っ込んで聴くと、小さい音でも低音の迫力を感じられる。低音に特化したDDの音がハウジング内で「ドゥーン」と響いた音が鼓膜に届いてくる。この響きはカナル型かつ低音重視のイヤホンならではで、スピーカーで同じ音を感じようとしたらかなり高くてでかい機材が必要になりそうだ。それでいて、BAを7機も積んでいるので、中音や高音の楽器や声もしっかりと聞き取れる。以前使っていたSonic Proの高音は明瞭だし、Engine 4の低音は迫力があるが、ZASはそれらをきちんと両立させている。しかも安い。
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カナル型イヤホンは耳垢で汚れやすい。頻繁に耳掃除をしていても、どうしても耳垢がイヤホンに付着してしまう。フィルタに耳垢がこびりつくとメッシュの細かい穴を塞いでしまって音質が悪化するので、定期的に掃除する必要がある。フィルタは非常に薄いナイロンか何かのメッシュなので、ティッシュとかで擦るとすぐ破れてしまう。以前持っていたZASのフィルタもSonic Proのフィルタもそれで破れてしまった。ZASはノズル内にBAユニットを入れていないので、フィルタが破れてもすぐに内部の部品に耳垢が付くことはなさそうだが、フィルタがない状態で運用するのは長期的にはよろしくない。よって、今回こそはフィルタが破れないように注意して掃除する。掃除する前にドライヤー等でカラカラに乾かしておいて、そうしてカサカサになった耳垢を柔らかいブラシで落とす。レンズペンのブラシを使うといい感じに掃除できそうだ。毛先が柔らかめの歯ブラシでも良いだろう。

イヤーピースの選定にあたり、eイヤホン秋葉原本館で視聴しまくった結果、結局は以前に使っていたSymbio Eartips Type FのLサイズが最善という結論に至った。イヤピは実店舗で試着視聴して決めた方が絶対に良い。イヤホンの軸の太さと長さで付けられるイヤピは限定されるが、付けてみないと相性はわからない。個々人の外耳道の形でイヤピとの相性は決まるが、これも嵌めてみないとわからない。そして、音質の好みは聞いてみないわからない。イヤピが聴感に与える影響は絶大なので、ちゃんと選ぶべきだ。

各種のイヤピ製品を試聴してみると、自分にとって重要な点が見えてくる。私にとっては、まず第一に、ノズルの先端を鼓膜にどれだけ近づけた状態で固定できるかが重要だ。ZASのノズルは細長いので、イヤピの軸も細長いものがよいのだが、ノズルを奥まで突っ込むとノズル先端がイヤピの開口部と揃えられるのが望ましい。そうすると、鼓膜とノズル先端が近くなり、外耳道内での反響音の割合が減る。結果として音が鮮明になるとともに、イヤピの材質に影響されにくくなる。それでも私はウレタンフォーム製のものが好きなのだが、その理由は、その方が若干低音に迫力があるのと、付け心地が良いからだ。歩いたり頭を動かしたりした際の体内ノイズを拾いにくいという長所もある。また、Symbio Eartips Type Fはウレタンフォームの割には中高音を減衰させないので気に入っている。シリコン製だとfinal type EとDivinus Velvetが良かった。ウレタンフォーム製だとType Fの他にNUARL Magic Ear+9も良かった。





Type Fも素晴らしいのだが、もっと鼓膜とノズル先端を近づけられるイヤピを見つけた。それはEngine 4に付属していたイヤピのLである。こいつはノズル先端とイヤピの先端がほぼ完全に揃う上に、カバーの形状が丸まっていて外耳道の奥まで突っ込めるようになっている。下の写真の左がType Fで右がEngine 4付属のものだが、比べると位置の違いがよくわかる。ノズル先端が鼓膜のぎりぎりまで来ると、もはや材質の違いなど関係なく、シリコンなのに低音がめっちゃ聞こえるようになる。ウレタンで体内ノイズを減衰するType Fの方が積極行動時には使えるが、座ってじっくり音楽や映像作品を楽しみたい時にはEngine 4付属イヤピの方が満足度が高い。他のイヤピでも、ノズル先端がギリギリまで前に来る形状なら同じような効果があるだろう。



音質的には満足して生活していたのだが、やはりケーブルが邪魔に感じてきた。TWSの便利さを知ってしまっている身としては、首からケーブルがブラブラと垂れ下がるのは耐えられない。ケーブルの摩擦音や風切り音が鬱陶しいし、行動中にケーブルが家具や草木に引っかかった時は耳介がもげそうになって、向かうところのない怒りを溜め込むことになる。Tシャツの中にケーブルを入れればそれらの問題はマシになるのだが、ウォークマンをズボンのポケットに入れておかねばならず、それによって衣服が制限されるのも鬱陶しい。また、ウォークマン側のイヤホンジャックの接触部を起因とするノイズも気になる。ウォークマンがポケットの中で動くたびに、「ザザッ」と不快な音が伝達されてくる。

てことで、ZASの無線化を決断した。最近は両耳に別れた耳掛け方式のBluetoothレシーバが一般化してきていて、KZ社やその他の2ピン端子の中華イヤホンに対応するものも多く出てきている。耳掛け方式(イヤーフック)だと耳から外れて落ちる心配がないし、必要であればイヤホンとレシーバの個々を換装できるのも良い。モノリシックデザインに対するマイクロデザインの優位性をここに見出す。しかし、ピンの形状や極性などの相性問題があるので、製品選定には慎重を要する。とりあえず同じKZ社の製品にするのが無難だろうから、その中から製品選定することにした。例によってまずは要件を挙げる。

  • 再生時間が長い。できれば8時間以上。
  • ホワイトノイズが少ない。
  • 充電ケースにレシーバとイヤホンを結合した状態で収納できる。
  • 接続部がC-pin(2-pinで0.75mm間隔)

仕様や各種レビューを漁ったところ、上記を満たすもので一番安いのはKZ AZ09 Proっぽい。それより古いAZ 09無印はホワイトノイズが多いらしく、また再生時間が6時間しかない。それより新しい機種はハイレゾ対応やゲームモードを謳うものが多いが、そういった機能は私には不要だ。ZA 09 Proの再生時間は単体で8時間で、ケース込みで48時間再生なのは十分だ。ホワイトノイズとケースの使い勝手に関しても悪い評価は見当たらなかった。
kz-audio.com

中古で安く入手しようとオークションサイトを漁ったが、どうやらAli Expressで新品を買うのが最安だ。3375円なので、イヤホン本体5000円と合わせると8375円。これでマルチドライバ有線イヤホンの音質とTWSの利便性が両立できる。安い買い物ではないが、コスパ最強の選択と言えるのではないか。なお、KZ等の中華イヤホンはCピンとBピンのものがあるが、ZASはCピンなのでレシーバもCピンのものを選ばなければならない。

製品が届いた。まず気づくのは、ケースがでかいことだ。7.4mm*8.7mmなので、手のひら一杯に広がる感じだ。衣服のポケットには到底入らないので、ケースを持ち歩くならバッグに入れるのが必須だ。とはいえ、普通に出かけるだけならケースを持ち歩く必要はないので、ケースが大きいことは問題にはならない。

レシーバとイヤホンを合体させた状態でそのままケースに入れられることはかなり重要だ。AZ09 Proとほぼ同じ仕様のTR BT20s Proとかのケースだと、ケースが小さいのは良いが、イヤホンをつけたままだとレシーバをケースに入れられないので、イヤホンとレシーバを別個に保管または運搬せねばならない。そんなことをしたら高い確率でイヤホンを紛失してしまうし、イヤーピースだけ取れて紛失する頻度はそれよりも高いだろう。また、レシーバのケーブルとイヤホンを接続する2ピン端子は弱いので、頻繁に付け外しをすると故障する危険性が高い。KZのAZシリーズはイヤホンとレシーバを合体させたまま入れられるので、その点は安心だ。ケースはバッグに入れざるを得ず、必然的にバッグを持ち歩かない場合はケースも持ち歩かないことになるが、その際にはイヤホンは耳にかけっぱなしにするのが上策だ。下手に外すと無くしたり壊したりしてしまうからだ。

ZAXとAZ09 Proを組み合わせた重さは、片耳で10.6gだ。これはEngine 4の片耳6.5gよりも顕著に重い。しかし、外耳道との摩擦だけで重さを支える普通のTWSと違って、耳掛け方式は耳介の上部全体で重さを支えるので、安定感や安心感が圧倒的に上だ。走ったり飛んだり自転車を漕いだりしても落ちる気配が全くない。普通のTWSはつけているうちに段々と外側にずれてきてしまうので、気づいたら押し込み直すような手癖がついてくるが、耳掛けならその必要はない。掛け心地も良く、一日中付けていても痛くなる気配はない。外音が聞きたい場合にはイヤーフックを耳介に掛けたままノズルを耳道からずらせばいい。なお、ケースと左右のイヤホンを合わせると110gにもなるので、旅行でもなければケースは持ち歩きたくないところだ。



ZAS単体を有線で使った場合と、ZASとAZ09 Proの無線接続を組み合わせた場合で、音は若干異なる。たとえロスレスのデータ転送をしたとしても、音源機器のDACとアンプを使うかレシーバ側のDACとアンプを使うかの違いがあるので、出力される音が違うのは当然だ。とはいえ、その違いのほとんどは音量とホワイトノイズであり、周波数特性はほとんど同じらしいので、音量を合わせたら弁別に手こずるだろう。個人的にはAZ09 Pro越しだとなんとなく低域が弱くなっているような気がしているのだが、あまり自信がない。とりあえず言えるのは、ウォークマンNW-S15とAquos R3とMacbook Air M1のどれを音源機器にしても、有線とAZ09 Proの間でどれが高音質か断言できるほど私の耳は肥えていないということだ。ゆえに、私にとっては、AZ09 Proの音質は有線と同等だと言える。

AZ09 Proは周波数特性に関してスタンダードモードとブーストモードがあり、左耳のボタンをトリプルクリックすることで切り替えることができる。スタンダードモードは上述の通り有線とほとんど同じ周波数特性だが、ブーストモードは低音と高音を持ち上げる強ドンシャリ気味になるのが特徴だ。両者を聴き比べるとブーストモードの濃いめの味付けの方が一瞬良いような気がしてしまうが、その鳴り方だと聞き疲れるし早々に飽きてしまうので、基本的にはスタンダードモードを使うのが良いだろう。たまに気が向いて強ドンシャリ気味にしたい場合はブーストモードを使っても良いが、かなり極端に変わるので、プレーヤ側のイコライザを使った方が所望の周波数特性には近づけやすいだろう。

Bluetoothのコーデックによる音質の差はほぼない。Androidの開発者オプションでBluetoothのコーデックをSBC/AAC/Apt-Xで切り替えてみても、私は区別はできない。ゆえに、他のTWSのレビューでも同じことを書いたが、コーデックはSBCで十分であり、AACもApt-Xも必須ではないし、LDACなんて全く要らない。どれでもいいなら、とりあえずApt-Xを使っておけば良いだろう。なお、AZ09 ProはQCC3040チップを積んでいるのでApt-X Adaptiveも実装しているはずだが、Apt-X Adaptiveは初期ロットでだけ有効化されていたが現在買えるものでは無効化されているらしい。私の個体でも無効化されていた。

AZ09 Proのホワイトノイズは確かにある。アプリ等で再生を止めた無音状態だと「サー」といった音が微かに聞こえていて、30秒くらい待ってスリープモードになった時にそれが消えると真の無音との違いが分かる。AZ09 Proのホワイトノイズは起動している限り鳴り続け、音量設定を変えてもホワイトノイズの音量はほとんど変わらない。音源やDAC由来のノイズであればアンプで出力を上げればノイズも増えるはずだが、そうでないということは、アンプが増幅した後のアナログ信号にノイズが混入しているということだ。なので、再生機器側から送信する音量を上げつつイヤホン側の音量(絶対音量)を下げるという技が使えたとしても、ホワイトノイズを低減することはできない。ノイズが音量とともに増幅しないのなら、聴覚上のS/N比を上げるには音量を上げるのが有効だが、そうするとうるさくなるので、その点ではノズル先端と鼓膜に距離が開くイヤーピースの方が有利ということになる。しかし、このホワイトノイズは音が再生されている状態では全く気づかない程度なので、あまり気にしても仕方がない。環境音がある場合にもほとんど気づかない。空調や風切り音などの環境音の方が大きいし、自分の血流や呼吸に起因する体内ノイズも常に聞こえているので、しばらくするとホワイトノイズも慣れて感じなくなる。S/N比はQCC5xxx系のチップの方が顕著に高いらしく、それを積んでいるAZ20やXZ10のホワイトノイズは皆無だとかいう話だが、AZ09 Proでも実用上の問題はない。

AZ09 Proでわかりやすく残念なところは、イヤホン側で音量の設定ができないということだ。音源機器側で音量を設定してもBluetoothのプロファイル(AVRCP)でイヤホン側のアンプを操作することになるので同じことなのだが、わざわざカバンからスマホを出すのが面倒くさい。また、イヤホン側で音量設定ができるとスマホ側の開発者オプションで絶対音量を無効化するとイヤホン側とスマホ側で別々に音量設定ができるようになって音量の自由度が上がるのだが、それもできない。また、曲送りや曲戻しなどの操作をカスタマイズするアプリがないのも残念だ。特に、ダブルクリックでアシスタントが起動するのは誤作動が多いので無効化したいのだが、それができない。

AZ09 Proのイヤホンをケースに入れた時に、充電が始まっただけではBluetooth接続が切られない仕様になっている。Soundpeatsのイヤホンだと勝手に接続を切ってくれるのだが、AZ09 Proはそうなっていない。これは明らかに使いづらい。音源機器側を操作して接続を切らないと、わずかではあるが、無駄に電力を消費し続けることになる。充電ケースに入れた状態で音を鳴らす奴は居ないのだから、自動的に切れるべきだ。開発者が自分達でも使っていたらこんな仕様にはならんと思うのだが。

充電したつもりでも、結構な頻度で充電されていないことがある。おそらく接触不良だ。本体側の端子に油や泥汚れが付いているとうまく充電されないので、たまに拭き拭きした方が良い。本体をケースに置いた際に、LEDが赤くなっていれば充電中で、青くなっていれば充電完了なのだが、なぜかLEDが光らないことがある。置きなおしても一向にだめだ。その状態でも充電はできていることが多いので、謎だ。LEDの光り方の意味するところをちゃんと説明書に書いておいてほしいものだ。なお、LEDが青色に高速点滅した場合、それは左右のイヤホンが互いをペアとして認識できていないことを示しているので、左右ともケースに置いた状態で同時にボタンを15秒押してリセットしてやる必要がある。

各所のレビューでも書かれていたが、AZ09 Proを操作した際の音声ガイダンスの英語がめちゃくちゃ中国語訛りなのも若干気になる。めちゃくちゃ日本語訛りの英語しか話せない私が言うのもなんだけども、訛っていると聞き取りづらいし、何度も聞いているとその訛りが感染りそうで不安にすらなる。というか、なんでそんなところでコスト削減しているのか理解に苦しむ。10種類くらいしかない音声データなんて、ネイティブ話者一人を1時間雇うだけで済みそうなものだが。それに、設定アプリもないし、ソフトウェアの出来にあまり頓着しない会社なのかもしれない。

KZのAZ09 Pro以降の製品はTWS+(True Wireless Stereo Plus)という規格に対応していることがセールスポイントの一つで、私のスマホAquos R3も同じことを謳っている。従来の方式では、音源機器と左右どちらかのイヤホンが接続を確立してマスターになり、マスターイヤホンからスレーブイヤホンに音を送るという構成になっている。よって、マスターは、マスターで鳴らすデータとスレーブで鳴らすデータの両方を受け取り、さらにスレーブにデータをリレーしなければならないので、マスターの電池の減りが早いのと、遅延が増えるという問題がある。また、音源機器とマスターの間のデータ転送量が多いことは、接続性を悪化させる。一方、TWS+では音源機器と左右のイヤホンが別個に接続して通信するので、それらの問題が解決されるらしい。ここまで聞くとTWS+を是非とも使ってみたくなるわけだが、Bluetooth接続画面を見ても左右が別々に接続されている様子はない。つまり、TWS+は実装されていない。調べてみると、AZ09 Proが使っているQCC3040チップが実装しているのはTrueWireless Mirroringであり、TWS+とは若干異なる技術らしい。TrueWireless Mirroringではマスターとスレーブの役割はありつつも、スレーブはマスターからでなく音源機器から直接信号を傍受する仕組みらしい。さらにマスターとスレーブを動的に入れ替えて接続性を向上させるくれたりもする。TWS+と同様に接続性の向上と省電力化と低遅延が図れつつも、音源機器側の仕様を問わないのが利点だ。

実際のところ、TrueWireless Mirroringのおかげか、接続性は悪くない。Bluetooth 2.1の古いウォークマンと接続すると街中で接続がブチブチ切れるが、Bluetooth 5.0のAquos R3では全くと言っていいほど切れない。音源機器と左右のイヤホンどちらかに通信ができれば、通信できた方がマスターとして振る舞うからだ。コーデックをSBC/AAC/Apt-Xのどれにしても接続性に問題はない。AndroidではHDオーディオという設定を有効にしていると接続時に最も高音質のコーデックを選択するので、Aquos R3とAZ09 Proの組み合わせではApt-Xになる。よって、外出時にSBC接続にしてできるだけ長時間聞きたい場合にはHDオーディオを無効にしたくなるが、そうすると音質が犠牲になる。HDオーディオを無効にするとSBCのbitpool設定が53(328kbps)から35(229kbps)に下がるらしい。ビットレートを下げずにSBCに切り替えるには、開発者オプションのBluetoothコーデックの項目で選択すると良い。ただし、この設定は接続をしなおす度にリセットされるので、ちょっと面倒くさい。どうしてもバッテリーを長持ちさせたいなら音質を妥協してHDオーディオを無効にするのありかもしれない。それでもFMラジオ並みの音質は確保される。

スマホのバッテリーの減りとコーデックの関係について実験した結果は以下の記事にまとめた。どの設定でも意外にスマホ側のバッテリーは減らないので、イヤホン側が先に死ぬことの方が多いだろう。AACだとスマホ側もイヤホン側もバッテリーが長持ちするし音質も悪くないので、できればそれを使いたいところだ。しかし、AndroidだとデフォルトではApt-Xに繋ごうとして、イヤホンを接続し直す度に開発者オプションでコーデックを設定するのもだるいので、私は特段の事情がない限りはApt-Xを使っている。
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AZ09 ProをApt-XでAquos R3に繋いで最大何時間バッテリーが持つのかを測定してみた。聞き始めてから8時間3分で右イヤホンが「Low Battery」のアナウンスを始め、その3分後くらいに左イヤホンもアナウンスを始めた。つまりカタログスペック通り8時間持つ。アナウンスを初めてから右イヤホンが死ぬまで45分くらいの間があり、その間ずっと「Battery Low」と連呼され続けるので、実用にはならない。右が死んでから3分後くらいに左イヤホンも死んだ。利便性を考えると「Battery low」アナウンスの頻度は10分の1くらいにすればいいのにと思うが、バッテリーの寿命を考えると完全に電力が無くなるまで使って欲しくないのかもしれない。アナウンスが出始めた時のスマホのバッテリー残量は77%だったので、音楽を聴くだけなら1日中聴いていてもスマホ側のバッテリーは足りるだろう。左右の寿命がほとんど同じなのはTrueWireless Mirroringのおかげとも言えるが、左右を動的に切り替えると言ってもバッテリーが多い方をマスターにするわけじゃなくて通信状況が良い方をマスターにするだけなので、たまたま左右の寿命が均等になることもあるというだけだ。同じことをSBC接続でやったところ、アナウンスが始まるまで9時間34分持ち、AAC接続でやったところ、10時間38分持った。よって、イヤホン側のバッテリー持ちを最大化したいならAAC接続にするのが良いだろう。




Androidで音楽のバックグラウンド再生をするアプリは、PulsarかOnkyo HF Playerが良い。両者とも普通にアルバムやアーティストで曲のグループ化をした上でバックグラウンド再生できるので、機能的には十分だ。Pulsarは広告無しだが、イコライザが使えない。HF Playerは広告は出るがイコライザが使える。



ZASの良さをイコライザを使って引き出したい。その前提として、ZASのデフォルトの周波数特性を知る必要がある。以下のサイトのレビューにそれが載っている。デフォルトでは、150Hzから1500Hzあたりが顕著に凹んでいて、2000Hzあたりに山があって、3500Hzから7000Hzあたりが少し凹んでいるらしい。
www.thephonograph.net
KZ - ZASwww.headphonezone.in

ところで、だいたいどのイヤホンも似たような周波数特性の曲線になっているのだが、これは人間の聴覚の等ラウドネス曲線(等感曲線)を考慮しているらしい。各周波数帯が同じ音量だと感じるには、500Hz以下の低音と5000Hz以下の高音は上げるとともに、なぜか1500Hz付近も上げて、そして3500Hz付近は下げるべきということになる。

カナル型のイヤホンではあまりないことだが、環境音に紛れて音が聞き取りにくいが音量を上げると中音ばかり目立って楽しめないという場合には、上述の等ラウドネス曲線を意識した補正をすることになる。ジョギングやサイクリングなどで風切り音や体内ノイズが大きい場合にもそうしたくなる。60phonの曲線に着目すると、10000Hzの山、3500Hzの谷、1500Hzの山、800Hzの谷を作って、両端は上げるという感じか。ZASは低音も高音もちゃんと鳴るので、デフォルトの弱ドンシャリでも楽しめるし、この設定のような強ドンシャリにしても楽しめる懐の深さがある。AZ09 Proのブーストモードも似たような周波数特性に寄せるっぽいが、こちらの設定の方がより控えめで聴きやすい。

音源を忠実に楽しみたいならば、むしろ逆に等ラウドネス性を打ち消してフラットな方向に調整をすることになる。理想的には、その音源をミキシングする際にエンジニアが使っていた再生装置の周波数特性に合わせるべきで、それはフラット気味の調整になっているのが一般的らしい。また、ミキシングの際に等ラウドネス性を鑑みて調整している音源の場合、イヤホン側で同じことをやると二重適用になってしまう。なので、とりあえずはフラット気味のイコライザ設定を探ってみることにする。上掲のZASの周波数特性図を参照しつつ、中高音をちょっとだけ持ち上げてフラット気味にする設定を作った。過補正で破綻するよりは補正不足の方が遥かにマシなので、かなり弱めの調整になっている。これはプリセットのPop設定に似ているが、それよりはちょっと高音重視だ。低音はカナル型な時点で十分に聞こえる。

フラット気味の設定で音楽を聞いてみると、確かに中音が持ち上がって、特に人の声が聞き取りやすくなる。バスドラムがうるさ過ぎる楽曲でも長時間聞けるし、特定の帯域が鳴り過ぎると感じることもない。この設定だと、迫力とか臨場感みたいなものは弱まってしまう反面、小音量でも楽曲が楽しめるので、読書中のBGMに向いている。他方、騒音があるわけでもなくBGMとして流すわけでもない状況で純粋に音楽や映像作品を楽しみたいなら、イコライザを切れば良い。すると、ZASデフォルトの弱ドンシャリな周波数特性による聴き心地の良さを楽しめる。低音がズンズン響いてきて迫力があり、それでいて中高音もちゃんと聞こえる。Engine 4は中高音が埋もれるのでイコライザで低音を抑える羽目になって逆に低音が楽しめないという矛盾があったが、ZASだとイコライザに頼らなくても十分に楽しめる。映画やアニメなどを見る際にもデフォルト設定で十分であり、モブの台詞やちょっとした効果音も聞き取れる。既に聴いた楽曲を聴き直したり映像作品を見直したりするとまた新たな発見がある。イヤホンとスピーカじゃ音の情報量が全く違うので、作り手の工夫や努力を100%感じたいならイヤホン一択だ。そしてZASはイヤホンの中でも情報量が頭抜けて高い。

まとめ。マルチドライバで音質に定評のある有線中華イヤホンKZ ZASに同社のKZ AZ09 Proを組み合わせて、無線かつ高音質のイヤホンシステムが実現できた。元来のTWSで片耳8ドライバも積んでいる製品は存在しないので、有線イヤホンを無線化するしかない。そうすれば、音質も機能性も申し分なくなり、しかも合計8000円ちょいで実現できるので、コスパが非常に良い。最初からこうしていれば良かった。ここに至るまでに無線イヤホンを何本も買ってしまったが、それらは授業料ってことで。とにかくKZ ZASの音質は良いので、こいつは買うべきだ。KZ AZ09 Proはまだ進化の途上といった感じなので、とりあえず実用にはなるが、満足というほどではない。より省電力かつホワイトノイズが少なく音量調整ができてUIがまともな製品が安くなっていたらそれに買い替えるかもしれない。有線イヤホンと無線レシーバの組み合わせだと、どちらかだけを替えられるのも魅力だ。私が愛する収穫逓減の法則に基けば、既に理想に近い音質を持つKZ ZASを超える製品を獲得しようすると湯水の如く金を使わねばならない。一方で、欠点が多いKZ AZ09 Proよりもマシな製品は少しの投資で手に入るだろう。とはいえ、Bluetooth系の技術は日進月歩なので、明らかに利便性があるものが現れるまでは静観するのが上策だろう。

追記:AZ09 Proは、買ってから1ヶ月ほどで故障したので、返品した。普通に使っていたら、突然動作しなくなって、充電もできなくなった。電源を入れると赤と青のLEDがずっと点灯するのだが、おそらく内部で配線が切れたかショートしたかで動作不良になったのだろう。さらに憶測を重ねると、湿気や汗が充電端子部分から侵入したのではないかな。FIIOのUTWS5はその理由で製造中止になっていて、その問題を克服する後継機が未だに出せないでいるので、KZのBluetoothレシーバ製品群も似たようなものなんじゃないかな。AZ09 Proの製品ページには "Life-level sweat proof" とか書いてあるけど、嘘っぱちだ。Youtubeに分解した動画があるが、接合部にシーリングが全く施されていないので、これで防水性があるはずがない。耳掛け方式だと耳の裏に溜まる汗を一身に受け止めてしまうという弱点があるので、運動時に使うと壊れやすいことは覚悟せねばならないだろう。ともかく、普通に使っていて壊れたので、返品することにした。Ali Expressの90日返品無料は結構使えて、返品用のフォームに上記の旨を英語で書いたら1日後に承認されて、返品手順にすんなり入れた。その2日後に佐川が集荷に来て、そこで購入時の箱や備品一式を入れた箱を引き渡した。着払いなので無料だ。あとは千葉の船橋にあるらしい倉庫に送られて、その到着を持って返品完了で返金ということになるらしい。返品手順を指示するメールにはラベルを印刷するように書いてあるが、そのリンクは無効になっている。その代わりに4桁の番号を返送するダンボールに書いておくと、佐川がラベルを張って処理してくれる。

FIIOおよびKZ/CCAのBluetoothレシーバは汗に弱いと仮定すると、代わりの製品を選ぶのが苦労する。2-pinの耳掛け方式のBluetoothレシーバでちゃんとした防水性能がありそうなものがなかなかない。しばらくは、ZASは家で有線で使って、出先ではEngine4を使うという使い分けをすることになりそうだ。