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スマホで音楽を鳴らすとバッテリーはどれだけ減るか

スマホで音楽を聴くにあたり、バッテリーがどれだけ減るのかは気になるところだ。有線接続イヤホンとBluetoothイヤホンでそれぞれバッテリーの減り方を測定してみた。コーデックによる差も比較した。


使ったスマホは、Aquos R3だ。5年前の機種だが、バッテリー容量は3200mAhある。Bluetoothのバージョンは5.0だ。最新機種のバッテリー容量は5000mAhくらいでかなり多く、Bluetoothの最新バージョンは5.4で節電機能が進化しているので、最新の環境の方がこの実験結果よりかなりバッテリー持ちが良いはずだ。とはいえ、Aquos R3でも音楽を聴くだけなら1日持つ。
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充電100%状態でスマホを再起動した後に、Android定番の音楽再生アプリOnkyo HF Playerと純正タイマーアプリのみを起動し、音楽を再生した状態で1時間毎のバッテリーの減り方を記録した。画面はタイマーの操作時以外はオフにした。イヤホンとの接続方式でバッテリーの減り方は違うので、以下の実験を分けて行なった。

  • 有線接続イヤホンKZ ZAS
  • 無線接続イヤホンSoundpeats Engine 4のSBCコーデック
  • 無線接続イヤホンSoundpeats Engine 4のAACコーデック
  • 無線接続イヤホンレシーバKZ AZ09 ProのSBCコーデック
  • 無線接続イヤホンレシーバKZ AZ09 ProのApt-Xコーデック

有線接続ではDACとアンプはスマホ側のものが使われる。アンプの消費電力は音量に依存するが、音量は私が普段聞いている程度にした。というか実際に聞きながら測定した。無線接続ではDACとアンプはイヤホン側のものが使われる。消費電力は通信方式に依存する。Soundpeats Engine 4はBluetooth 5.3を実装するTWSだ。KZ AZ9 Proは有線イヤホンを無線化する耳掛け方式のレシーバで、Bluetooth 5.2を実装している。Bluetoothのバージョンは端末間で低い方が採用されるので、今回は両方とも5.0になる。AZ09 Proは左右独立通信をするTWS+(True Wireless Stereo Plus)という規格に対応しているはずなのだが、同じくTWS+を実装しているはずのAquos R3に接続してもなぜかTWS+は有効にならなかった。






1時間ごとタイマーをかけてスクショを撮るという地道な作業をひたすら続けた結果は以下の通りだ。スマホのバッテリー残量の計測が必ずしも正確ではないので厳密なテストではないが、傾向を知るには十分だろう。

接続 1時間後 2時間後 3時間後 4時間後 5時間後
ZASの有線接続 97% 96% 94% 91% 89%
Engine 4のSBC 96% 93% 91% 89% 87%
Engine 4のAAC 100% 97% 96% 93% 92%
ZAS + AZ09 ProのSBC 97% 94% 92% 91% 89%
ZAS + AZ09 ProのAAC 100% 97% 95% 93% 91%
ZAS + AZ09 ProのApt-X 98% 96% 94% 92% 90%

結果を考察しよう。有線が最も消費電力が少ないと思っていたが、意外にも無線のAACが最も優秀だった。AACだと5時間聞いても8%や9%しか減らないので、15時間聴き続けても25%くらいしか減らない計算になる。とはいえ、有線でもSBCでもAACでもApt-Xでも、普通に画面を明るくしてスマホを使っているのに比べれば、電力消費は無いようなものだ。スマホ側の消費電力を理由に接続方法やコーデックを選ぶ必要はない。有線でのスマホ側の消費電力が思ったより大きいのは、DACとアンプの消費電力が大きく、Bluetooth通信の方が小さいということだ。SBCの消費電力が大きいのは、通信量が多いからだと思われる。最近のSBCの実装はbitpoolが53なのが一般的で、そのビットレートは328kbpsだ。AACのビットレートは実装依存だが、一般的なAndroid端末では256kbpsらしい。Apt-Xは384kbpsだ。つまりAACが最も通信量が少ない。通信量が大差ないSBCとApt-Xの消費電力は同じくらいだと思ったが、Apt-Xの方が若干優秀だ。アルゴリズムが効率的なのか、チップが最適化されているのかはわからないが、とにかくエンコーダの効率が良いのだろう。イヤホン側がEngine 4かAZ09 Proかの違いはスマホ側では誤差程度の差しか生まないようだ。

イヤホン側の消費電力に関しては電力が必要ない有線が最強で、無線のコーデックに関してはそれぞれの実装に依存する。Engine 4においてSBCで10時間くらい、AZ09 ProにおいてApt-Xで8時間くらい持つので、日中の暇な時間に使うなら十分だろう。SBCとAACの電力消費は同じくらいで、Apt-Xにするとバッテリーの持ちが80%くらいになると巷では言われているが、少なくともAZ09 ProではApt-Xでもカタログスペックの8時間持つ。一方で、SBCにすると9時間半持ち、AACにすると10時間半持つので、Apt-Xの方が消費電力が大きいというのは本当で、かつAACの方がSBCより長持ちする。パケットの受信やデータのデコードにかかる消費電力はApt-Xの方が高いのかもしれないし、チップが最適化されていないだけかもしれない。ともかくイヤホン側を長持ちさせたい場合にはAACを選択しても良いだろう。まあ10時間以上ぶっ通しで音楽を流し続けることもそうそうないとは思うが。

音質に関しては、有線>Apt-X>AAC>SBC であると巷では言われている。しかし、イヤホンのドライバやハウジングやイヤーピースに起因する違いに比べれば、接続方式に起因する音質の違いは非常に小さいので、正直どれでも問題ない。ZASの有線とAZ9 Pro越しの無線接続で聴き比べてみると、音量を揃えたとしてもホワイトノイズの乗り方で有線と無線の違いは弁別できる。再生される楽音や音声も有線と無線で微妙に違いがある。これはBluetoothの層での情報の欠損や歪みだけではなく、DACとアンプが違うことにも起因する。AZ9 Proに関して言えば若干高音重視の周波数特性になるような印象があるが、逆に言えばAquos R3が低音重視の周波数特性になっているわけで、どちらが良いという話ではないし、周波数特性はイコライザで柔軟に変えられる。音の解像度に関しては、再生するイヤホンが同じであれば、有線接続のケーブル内でのノイズの混入と無線接続のコーデックによる情報欠損の勝負になってくるが、素人の耳には大差ない。聴き比べてみると有線の方が若干良いような気もするが、プラセボ効果の影響が拭いきれないので、何とも言えない。無線でも十分に良いのだ。

そして、無線のコーデックの間での音質の差異は全く感じなかった。開発者オプションでコーデックを素早く切り替えながら聞いてみても、違いが全然わからん。ブラインドテストで弁別できる奴がいたらかなり尊敬する。SBCもAACもApt-Xも44.1kHzかつ16bitのデータを転送するが、それは非圧縮だと44.1kHz*16bit*2ch=1411.2kbpsのビットレートになる。SBCは328kbpsなので23%に圧縮して、AACは256kbpsなので18%に圧縮して、Apt-Xは384kbpsなので27%に圧縮して転送している。ビットレート192kbpsのMP3データと非圧縮のWAVデータの弁別は玄人にも難しいことから考えると、今時のどのコーデックでも素人が弁別できるほどの音質劣化は無いと言っていいだろう。

まとめ。音楽を流しっぱにした時のスマホのバッテリー消費を計測したところ、有線でも無線でも大差ないことがわかった。強いて言えば無線のAACが最善だ。音質は有線が若干良い気がするが、無線でも大差ないし、コーデックによる差はほぼない。よって、無線イヤホンを躊躇なく使って良いと思う。スマホを持ち歩くことを前提とすると、ウォークマンなどのDAPを別途持ち運ぶよりは、モバイルバッテリーを持ち歩いた方が幸せになりそうだ。