第42回 一気通読の巨体萌えパラダイス―『完全記憶探偵』(執筆者・♪akira)

 
 全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは! 今までイケメンペアとか美老人とかいろいろ取り上げてきましたが、今回は初の“巨体萌え”(デブ専とは言わない)案件! ニューヨークタイムズのベストセラーリスト1位、徹夜必至の面白本、デイヴィッド・バルダッチ『完全記憶探偵』(関麻衣子訳/竹書房文庫)は、XLラヴァーの方が必読の本なのですよ!
 

完全記憶探偵 上 (竹書房文庫)

完全記憶探偵 上 (竹書房文庫)

完全記憶探偵 下 (竹書房文庫)

完全記憶探偵 下 (竹書房文庫)

 主人公のエイモス・デッカー(42歳)は、ヴァーモント州バーリントン署の元刑事。相棒のメアリー・ランカスター刑事と、署内でもトップの逮捕歴を誇るほど優秀な刑事だったが、15ヶ月前、妻と9歳の娘、そして義理の兄が自宅で惨殺されてしまう。署は総力を挙げて犯人を捜すが、数ヶ月経ってもいっこうに見つからず、自暴自棄になったデッカーは警察を辞職する。差し押さえられた自宅を離れ、アパートからモーテルへ、さらに友人宅を追い出された後に身を寄せたホームレスのシェルターは不況で閉鎖され、公園や駐車場で野宿をするまでになる。しかしある日、太り過ぎで不潔な世捨て人のような自分を見て、死んだ妻と子ががっかりすると思い直し、日雇い仕事で貯めた金で私立探偵の仕事を始める。
 
 実はデッカーには特殊な能力があります。それは、目の前のすべてのことについて、細かい点まで頭のなかに取りこむことができ、脳がそれを整理していくという超記憶症候群です。世界でも数人と言われるその力がデッカーに備わったのは22歳の時、NFLの開幕戦の衝突事故でした。念願かなっての一軍入り、ついにスタメンで出場できたデッカーは、相手チームの新人の強烈なタックルで身体ごと吹っ飛び心肺停止、全身を怪我した上に、使っていない脳の領域が解放されたのです。
 
 プロ選手としての将来が断たれたデッカーは、警察官の道を選びます。その記憶力が大いに役に立ち、順当に昇進した彼を待ち受けていたのは家族の悲劇。気力を失った後、彼は196センチで158キロの肥満体ホームレスとなってしまったわけなのですが、このサイズ感、まったく想像できないと思っていたら、あとがきで訳者の関さんが「これに近い体型は白鵬関」と書かれていて、なるほど!と納得。ちなみに196センチで私が思い出したのは、ロック様ことドウェイン・ジョンソン。こちらは約120キロだそうですが、いやー、同じ身長で100キロ超えでも、そこまでシルエットが違うとは驚きです。
 
 話を物語に戻しますと、家族惨殺事件に突然の転機が訪れます。なんと犯人がバーリントン署に自首してきたのです。デッカーはいてもたってもいられず古巣に向かったところ、出身校でもある地元の高校で銃乱射事件が発生、多数の死傷者が出ていました。同僚の家族も大勢巻き込まれた未曾有の事件に、かつての上司ミラー警部の頼みで、デッカーはコンサルタントとして雇われることになります。
 
 捜査が進むうちに、銃乱射と家族惨殺、全く異なる2つの事件のつながりが見えてきます。そこからは、デッカーの特殊能力と相棒とのチームワークという、王道の犯罪捜査ミステリに突入。さらには、野心あふれる地元紙の女性記者が邪魔をしたり、FBIの介入があったりと、ハラハラドキドキの展開もてんこもり。真犯人の目星がついてからというものは、お腹が減ろうが電車を乗り過ごそうが、最後まで読まずにはいられない怒濤のエンタメです!
 
 でも、巨体萌えっていう割には一人しかいないんだけど!と思った方、すみません! 実はまだまだいるのです! まずは元上司のミラー警部、50後半で、ウシガエルのような体型と肌の色(ってどんな色なんだ!)、でっぷりとせり出した腹の持ち主なんですが、この人のデッカーに対する態度はちょっと萌えます。それからFBIのボガートは身長180センチ強で、デッカーよりも50キロぐらい軽いとのことですが、それでも100キロ超えてますしねえ。しまった身体で肩幅のひろい40代だそうです。最後は殺された義兄。この人も180センチですが、デッカーと同じ体格で、建設現場の作業員をしていたそうで、トラックをベンチプレスできるぐらい、と説明があります。
 ものは試しに著者の画像をググってみたところ、ご本人は太ってはおらずガッシリ体型で、二の腕もかなり鍛えているようで、ボガートに近いかな? それにしても元相棒2人、性格的にも体型的にも『LAW & ORDER クリミナル・インテント』のゴーレン(ヴィンセント・ドノフリオ)とエイムズ(キャスリン・アーブ)を思い出さずにはいられません。ランカスター刑事、クールでかっこいいですよねえ。
 
 この本のおかげで、体重と体格は恐ろしい武器になる、ということがよくわかりました。あと、ファスト・フードはほどほどにしないと(以下略)。すでに続編は本国でベストセラーだそうなので、もう少しシェイプした(?)デッカーの活躍(と邦訳)に期待しています!
 

 さて、同じく記憶をテーマにした映画、『クリミナル 2人の記憶を持つ男』が2/25(土)に公開になります。
 CIAロンドン支局のエージェント、ビル・ポープ(ライアン・レイノルズ)は、すべての米軍の兵器を遠隔操作できるプログラムを開発した天才ハッカー(マイケル・ピット)と接触し、取引する任務を遂行中、富豪のスペイン人テロリスト一味に捕まり殺されます。ロシアの介入も浮上し、一刻も早くハッカーを見つけなければなりませんが、潜伏先は死んだビルしか知りません。焦るCIA支局長ウェルズ(ゲイリー・オールドマン)は、まだ開発途中の記憶移植手術でビルの記憶を取り戻そうと、研究者のフランクス博士(トミー・リー・ジョーンズ)に執刀を要請しますが、博士が移植先に選んだのは、服役囚の死刑囚ジェリコ(ケヴィン・コスナー)の脳だったのです。
 

 まだまだ未知の領域と言われる記憶と脳、なのでこんな奇想天外な物語もまったく否定できないとはいえ、まずびっくりしたのは、CIAの予算ってすごいな!!でした(笑)。だって、わざわざアメリカからイギリスまで極秘に死刑囚を運んできちゃうんですよ! でもそれには理由があって、ジェリコは子供の頃に脳に損傷を受けたおかげで、罪の意識もなく犯罪を繰りかえすソシオパスになったのですが、脳の多くが発達していないため、その空いている領域が他人の記憶を受け付けるのに最適だと選ばれたわけです。
 

 手術は成功したかのようでしたが、ビルの記憶は断片的にしか現れず、ブチ切れたジェリコは逃走し、ロンドン市内で暴虐の限りを尽くします。この暴走還暦オヤジのケヴィン・コスナーが、もうほんと凶悪すぎて笑っちゃうんですよ!<? 下手に記憶が植え付けられたのでビルの妻子も巻き込まれるわけですが、それに逆上するウェルズ支局長の方も、こんなにアグレッシブなオールドマンを観たのは久しぶりでは(笑)。
 
 さて、ここまで来ればおわかりかと思いますが、この映画、中年オヤジ版『君の名は。』なのですよ!<宣伝さん命名 まさに「What's your name!?」と迫るシーンや、「入れ替わっちゃった〜!?」と脳内で付け加えたいシーンが満載!
 

 
 監督はアリエル・ヴロメン(『ICEMAN 氷の処刑人』も激しく面白いので未見の方はぜひ!)、ガル・ガドットが妻役、スコット・アドキンスも脇役で出演と、豪華キャスティングも楽しいスパイアクション、ラストもびっくりしてください!
 
●映画『クリミナル 2人の記憶を持つ男』予告編

 
●映画 『クリミナル 2人の記憶を持つ男』特別映像【1】

 
●映画 『クリミナル 2人の記憶を持つ男』特別映像【2】

 
●映画『クリミナル 2人の記憶を持つ男』特別映像【3】

 

 

    
♪akira


  BBC版シャーロックではレストレードのファン。『柳下毅一郎の皆殺し映画通信』でスットコ映画レビューを書かせてもらってます。トヨザキ社長の書評王ブログ『書評王の島』にて「愛と哀しみのスットコ映画」を超不定期に連載中。
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