第10回名古屋読書会​レポ(前編)(執筆者・大矢博子)

 第10回名古屋読書会『夢幻諸島から』レポート前編「強風の島」


 2月14日金曜日、名古屋は前週を上回る大雪に見舞われた。
 明日の読書会は大丈夫なのか。車は危ないぞ。遠方参加組は来られるの?──スタッフ間を飛び回るメール。懸念が広がるツイッター。関東から当日名古屋入り予定の参加者たちは、こんなふうにつぶやいている。


>>とりあえず東海道新幹線の始発がどうなるかを見る。最寄りの路線は止まっているので、地下鉄の駅までタクシーかバスか最悪徒歩。
>>バスは動いていなかった。
>>都内のJRはほぼ全滅。
>>東京駅は新幹線難民で溢れてます。在来線も殆ど動いてなかった。


 名古屋メンバーは足元を危ぶみ、遠方参加組はJRの根性に祈りを捧げた日。そんな波乱の中、ひとりだけ「てかウチの方、ぜんぜん降ってないんですけど? 皆さんタイヘンだら〜」と三河弁で余裕ぶっこいていたのは、名古屋読書会世話人のひとりにしてレジュメ担当幹事・K藤氏であった。──しかしこれが彼にとって、文字通り「嵐の前の静けさ」だったとは、知るよしもなかったのである。


 2月15日土曜日。読書会当日。
 前日までの大雪が嘘のように晴れ渡った名古屋。昨夜の雨のおかげで、道路の雪もほぼ消えている。東海道新幹線も通常運行。いやいや良かった良かった、これも日頃の行いっていうか? 神様は見てる的な? と胸を撫で下ろし、会場となった会議室へ向かった。

 
 ちなみに今回の参加者は、当日体調不良で2名のキャンセルが出たため、39名。時期的に「子供が受験」「スキーシーズン」「インフルエンザ」「バレンタイン翌日でラブラブ」「来週結婚式」などの理由で常連さんの欠席が見込まれていたため、やや少なめの人数になるだろうと思っていたが、蓋を開けてみれば前回と同数。減ると見込まれたパイが、そっくりそのまま初参加のSF者で埋まっているではないか。しかもSF評論家の渡辺英樹氏や長澤唯史教授など、いやいやそれ普通はゲストだがや、なんで一般参加させとるんだバチがあたるんでにゃあか、という顔ぶれが混じっているのである。恐縮至極である。


 これは名古屋読書会幹事団唯一のSF者K桐くんがそっち方面に告知してくれたおかげだが、やはり課題図書の魅力あってこそだろう。おりしも課題図書のクリストファー・プリースト『夢幻諸島から』(古沢嘉通訳/早川書房)は、『SFが読みたい!2014』で海外編1位を獲得したばかり。『このミステリーがすごい!2014』でもランキング入りを果たしており、訳者の古沢さんがゲスト参加されるとあってはSF・ミステリ両クラスタが前のめりになるのもムリはない。これは面白くなりそうだ。


 スタッフ集合時間から私が5分遅れて入室すると既に10名ほどが到着しており、机を動かして三つの島が作られ、パーティションもホワイトボードもいつものようにセッティングされていた。すごいな君たち。5分でこれやったのか。毎度のこととは言え、慣れたもんだなあ。入口のデスクには経理担当I嬢と受付担当S嬢がスタンバイ。彼女たちの手元にはチーム分け表と領収書の束。その脇には例によって……例によって……あれ?


 「受付した人に渡す名札は?」「まだなのよ」「レジュメもまだ来てないんです」「レジュメ製本しなくちゃなんないから、ホチキス用意して待ってるのに(チキチキ)(←ホチキスの音)」「K藤さんまだなの?」「まだですね」「珍しいね」「どうしよう(チキチキ)」「とりあえず来た人から受付やっちゃおう。K藤さん来たらレジュメと名札を配るってことで」「Tさん持ち込みの個人レジュメがありますので、そっちから配っておきましょうか」「わあ、これは素晴らしい!(チキチキ)」「……あっ、K藤さんがツイッターに」


 不意に訪れた静寂。全員が意味を理解するまで2秒。そして響き渡る絶叫。


 「ギャース!」「なんだとぉ!」「どどど、どーすんの!(チチチ、チキチキ)」「まだ豊橋だって?」「こだま通常運行でしたよ?」「在来線って書いてる」「名鉄?」「JR?」「こだま使えよ!」「今からこだまに(チキチキ)」「そんな本数ないでしょ」「走る?って言うと、走るって言う/間に合う?って言うと、間に合うって言う/そうして出発時刻になって、やっぱりダメだって言う」「こだまでしょうか、いいえ名鉄」「え〜しぃ〜♪」「言うてる場合か」


 「強風って」「だからこだまを使えと」「ていうかボケてるよこの人この状況で」「真剣味が足りない!」「呑気なんだよ三河人は。鳴くまで待とうの土地柄だから」「来れぬなら来させてみしょうホトトギス」「来れぬならころ」「それはやめろ」「それはやめろ」「せめて名札とレジュメだけはお助けを」「レジュメどうしよう(チキチキ)」「20分遅れならギリ大丈夫では」


 「今、金山かよ!」「でも55分に着くなら間に合うか」「製本してる時間あるかな(チキチキ)」「このツイートの通りならそろそろ名駅では」


 「ダメだあああああ!」「もう走れ、いっそそこから走れ」「飛べ! 念じれば飛べる!」「ちょ、レジュメはまだしもK藤班どうすんの。リーダーがいないよ」「あっ」「あっ」「K藤班、板書係は?」「はいっ!(挙手)」「K藤さん来るまで繋げる?」「やってみるっ」「じゃあ進行表渡すからタイムテーブルと注意事項見といて。今、そっちのiPadに送った」「来た」「頼んだ」「押忍!」


 そしてついに定時。すべてを諦め、大矢が登壇して開始を宣言したその時。ドアが、開いた。


 「来た!」「来た!」「来た!」「すすすすみませんすみませんすみません!」「よく間に合ったねえ」「よかったあ」「とりあえず名札!」「レジュメ!(チキチキ!)」「名札みんな自分でとって! 紙二つ折りにしてケースに入れて首から下げて! 自分で!」「レジュメ!(チキチキ!)」「もうホチキス止めしてる時間ないよ」「……(チキチキ)」「とりあえず順番だけ揃えてセルフで二つ折り!」「黄色い厚紙が外側、あと適当!」「ページ順違ってても雰囲気で読め!」


 参加者のうち、要領を知っている経験者組総出で入り乱れ、名札ケースが飛び交い、名前を書いた紙が広げられ、レジュメがばらまかれる。ひとつだけお断りしておくと、ここまでのドタバタは名古屋読書会始まって以来初めてであり、いつもはもっと余裕を持って優雅に読書会を始めるんです。決してこれが常態ではないんです。初参加のSFクラスタの皆さん、どうかこれがミステリの読書会だと思わないで……。


 さて、今回も読書会の始まる前に前編が終わってしまいましたな、わっはっは。「中身をレポしろよ中身をよ!」とお思いの向きには、今回ご参加下さったSF者・舞狂小鬼さんが当日の様子をブログにアップして下さってます( http://okirakukatuji.blog129.fc2.com/blog-entry-427.html )ので、どうぞそちらを。完璧なレポです。てかこれ読めばこのレポ要りません。


 思いがけずスリリングな幕開けとなった第10回読書会、さてどうなる?(中編へ続く)



◇大矢博子(おおや ひろこ)。書評家。著書にドラゴンズ&リハビリエッセイ『脳天気にもホドがある。』(東洋経済新報社)、共著で『よりぬき読書相談室』シリーズ(本の雑誌社)などがある。大分県出身、名古屋市在住。現在CBCラジオで本の紹介コーナーに出演中。ツイッターアカウントは @ohyeah1101。

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