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「種苗法改正反対」で考えた農業における一般人の思い込みについて

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Byほんたべ

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最近SNSで話題の「放牧禁止反対」ですが、畜産を営んでいない一般人ができるのは、
SNSの投稿のシェアではなく、農水省が募集しているパブコメを書くことだと思います。


わたくし、大地を守る会で産地担当以前には広報におりまして、
生産者の取材でさまざまな方に取材させていただきました。
今考えると、農業について漠とした知識しか持っておらず「有機農業はとにかく大変」
という先入観というか思い込みを元に取材していたことを告白いたします。

取材=有機農業の苦労話を聞きに行っていた、ってな感じです。
消費者も社員もその苦労話をテコにして、有機農業を推進し支援していたのではないかと思います。

2000年、わたくしは有機農業推進室に異動し、半年後に産地担当になりました。
産地担当になってすぐ、広報時代に非常におだやかないい話、苦労話をされていた方が、
「大地の基準は厳しすぎる。まけない農薬が多すぎて、あれではできるはずがない」などと
非常に厳しい調子でわたくしにおっしゃっいました。

わたくしはその時、自分の立場が変わったことをハッキリと理解しました。

広報=お客様=いいとこ見せていいこと書いてもらう から、
産地担当=現場の社員=言いたいこと言って経験のないやつにはゴリ押し、になったのです。

わたくしはふわふわした「広報」の世界から一気に生々しい現実世界に突入し、
ようやく地面に降り立つことができたのでした。大地を守る会にはほんとに感謝しています。

で、先日の「種苗法反対」の騒ぎでふと昔のふわふわした自分を思い出し
思うところがあったので、書いてみました。

農業は食べものを作る仕事ですから、尊いと皆が思っています。
その仕事を担う農家も尊い存在である、と思っているのですが、
そこんとこに、なんかちょっと余計な思い込みが刷り込まれている気がします。

小・中学校の社会科で、江戸時代の士農工商について学び、毎週水戸黄門とか見ていると、
農民は搾取され、非常に貧しくて、泣く泣く娘を売ったりする、ような印象が刷り込まれます。
NHKの朝ドラでもおしんとか似たような感じで、さらにその印象が延々と上書きされます。

戦後は皆が貧しかったのでしょうがないかもしれませんが、現在はどうでしょう。

都市生活者は農村部で「農業」という仕事がどのように行われているかを知りません。
ずいぶん以前に刷り込まれた思い込みが粛々と心の中で生きている可能性があります。
農業=大変な仕事=貧乏、というような漠然とした思い込みです。

新規就農者で売り先がない方の中にはそういう感じの方もいらっしゃる可能性がありますが、
代々農業を営んでいて、長年その土地に暮らしている農家などを見ますと、
車はセルシオ、玄関がわたくしの家の居間より広い、みたいなお家がたくさんあります。

戦後、米麦養蚕を早々とやめて果樹栽培を始めた方などは、
ものすごい値段でりんごや桃、ぶどうが売れた、という話をよくされます。
大卒の初任給の数倍の月収があったから農業を継いだなんて言う人もいました。

現在では農産物価格は相対的に下落中、というか全然上がりませんから、
中山間地では農業を辞める人が多く、耕作放棄地が増え続けていますが、
平地で大規模農業が営める地域では儲かっててめちゃくちゃ調子がよくて、
規模拡大したくて土地の取り合い、みたいなところも数多くあります。

大地を守る会時代、小規模家族経営の方々とばかり話していたわたくしは、
退職後見聞きしたこのギャップ、儲かってる農家は自分の想像よりもはるかに多い
ということにかなりビックリしました。

で、一般の方々がこのような「農業」「農家」についての現実感を持っているかどうかですが、
持っていないのではないかとわたくしは思います。

種苗法改正に反対していた、農家とも農業ともあまりつながりがなさそうな方々の投稿には、
「農家さんが種を取れなくなるなんて」「農家さんを守らなくては」などの言葉が散見されました。
わたくしには、この言葉から以下のような思い込みが感じられました。

1.農家は皆自分で種を取っている
2.農家は守らなくてはならない存在である


1の思い込みはよくある話ですが、気になるのは2について、です。
「農業」ではなく「農家」が「守らなくてはならない存在」になっているのはなぜか。
わたくしには、「農家かわいそう」という潜在意識下での微妙な傲慢さが感じられるのです。

「農業」は守る必要があり、推進もしなくてはならないと思います。

それを実現するには、種を取っている(気がする)農家の野菜を直接買う、
そういう農家を知らないならスーパーで野菜をたんまり買う、米を食べる、
ちょっと割高になってきたらすぐ「高くて困るんですよねー」とか言ってもやしとキノコばっかり買わず、
高い野菜を買う、などで、SNSで人の投稿をシェアするのではないのではないかと思うわけです。

さらに、農家は「守って欲しい」と考えているのでしょうか。

産地担当になったばかりの時、桃農家の母ちゃんに「苦労話ありますか?」と聞いて
「あなたたちは苦労話とかよく言うけど、仕事なんだから苦労があるのは当たり前でしょう。
あなたも仕事してるんだから苦労話はあるでしょう。農家もサラリーマンも同じ」

冷静に切り返されたことがあります。

わたくしは激しく恥じ入りました。
「苦労話」を聞けば得々と話してくれると思った浅はかな自分に。

農業もデザイナーやカメラマンと同じ個人事業主であり、
なぜかうまく行かない人もいれば、バンバン売上を上げる人もいて、
死ぬほど営業する人もいれば、営業しないで愚痴ばっかり言ってる人もいます。

個人事業主としては、農家だけが特別な存在ではないのです。

わたくしは今回、「種苗法改正反対」と言っている方々のSNSの投稿が、
基本的に農家以外の方々だった、というのと、その方たちの言葉遣い、
「農家さんを守る」について、微妙な違和感を感じたのですが、皆様はどうでしたか?

とりあえず、すべきなのは具体的な行動で、野菜や米をたんまり食べましょう、
SNSの祭が終わっても、日本の農業が直面している問題は終わっていませんよ、と、
ちょびっと言いたくなった次第です。

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