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「昔の○○の味がする」キャッチーだけど気のせいな言葉

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Byほんたべ

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こと果物において「昔の品種」は作りにくさとか食味とかの関係で、
作られなくなったものは淘汰されたと考えてもいいと思います。
ほんとにおいしいよねってものもあります。オリンピアとか。
そういうのを見極めるのは大変なのです。


先日某昼の番組を見ていたら、愛知県のファーストトマトが紹介されていました。
ファーストとは品種の名前で、頭がとんがってる特徴的な形をしています。

昭和の時代に作られていた品種ですが、皮が薄くて作りにくいとか
アタるとかの問題で、皮の硬い他品種に取って代わられました。よくある話です。
その後、ファーストの良さに注目した愛知県でブランド品種として作られるようになった、
なんつー歴史と合わせて「昔のトマトの味がする」と紹介されていました。

「昔のトマト=昭和の品種」という意味なのでしょうが、栽培されているハウス、
そしてできあがったトマトを見ると、水を切っててけっこうな技術が必要な感じです。
農家の方の努力や栽培技術をさらっと「昔のトマトの味」とか言われててどうよ、
なんちてしみじみ思いつつ、昼ごはんを食べたわたくしでした。

「昔の〇〇の味がする」は非常にキャッチーな言葉で、昔は良かった的な、なんつーか、
ノスタルジーというのか日本人がことさらに好きな情動というのか感情というのか
なんかよくわからないものに訴えるので非常にしばしば使われます。

ほんとうにおいしかったのかどうか誰にもわからないのがミソです。
わたくしも以下のような「昔おいしい=気のせい」経験をしたことがあり、
それ以来、このワードには気をつけることにしています。

昔おいしい経験その1

とあるりんご農家の畑に「印度りんご」が一本残っているのを見つけました。

「印度」。わたくしが小学生のころに食べてた記憶のある、ふるーい品種です。
なんか甘くておいしかったような記憶があり、これはぜひ食べてみたいと言ったところ、
今年で切っちゃうから、採れたら何個か送ってやるよ、と言われました。

10月下旬、心待ちにしていた印度が届き、ワクワクしつつ産地担当全員で食べたところ、
もさもさした食感とボケたような味で、だれもおいしいとは言わず、
中には「これ、ボケてんじゃない?」とか言い出す失礼なやつもいました。

印度は貯蔵用りんごなので、年明けにでんぷんが糖化しておいしくなるりんご。
ですから、10月末の印度を評価してはいけないのですが、酸味はほとんどなく、
ぼんやりとした甘さを感じるのみで、貯蔵後にこれ以上おいしくなることはないだろう、
と、容易に想像がつきました。

つまり、印度はそんなにおいしいりんごではなかったのです。

当時60歳近かった先輩が一言「印度ってこんな味だったんだねー」と寂しそうに言いました。
「昔は紅玉や国光しかなかったからかな。もっと甘くておいしいと思ってたよ。
今のりんごの味に慣れちゃったんだね」

わたくしたち日本人は現在、ふじだのシナノゴールドだのドルチェだのスイートだのと、
業界の方々の努力により、世界一おいしくて糖度も高くバリエーション豊かなりんごを楽しんでいます。
昭和の時代においしくとも、淘汰品種である印度がおいしくないのはあたりまえなのでした。

昔おいしい経験その2

「昔の味」は記憶のなかにとどめておくほうがいいと学習したはずだったのですが、
わたくしたちは「味来」という甘いとうもろこしが登場したとき全く同じ轍を踏みました。

「味来ってさあ、甘いだけでおいしくないよねー」
試食をした同僚ほぼすべてがそう言いました。

とうもろこしはちゃんとした食感があり、もちもちしたのがおいしいのであって、
ぐしゃっとしたような食感でただ甘いだけの味来はともろこしじゃない、
なんでこれが人気なのかわかんないとか、農家の方々もおっしゃっていました。

が、ある日、昔の品種と食べ比べたところ、甘いだけとかバカにしていた味来は、
もちもちしてそんなに甘くない昔の品種よりもはるかにおいしかったのです。
もちもちよりも糖度が大事。なぜならわたくしたちヒトは甘いものが好きだから。

「昔の品種の味」とか「昔の〇〇はおいしかった」はとてもキャッチーで
そう言うとなんとなくそんな気がするのですが、わたくしは言いたい。

それは気のせいです(断言)。
※とくに果菜類、果物の場合は顕著

食べ比べれば今の品種のほうがおいしいのがある意味当然なのは
日々行われている品種改良で、よりおいしく食べやすく作りやすい品種が生まれているからです。

さらに言うと、昔の品種でも栽培技術によって前述のファーストトマトのように、
以前と比較して、はるかに食味が向上しているものもあるでしょう。
それを十把一絡げに「昔のトマトの味がする」とか言われるのは農家的にどうなのか、
品種改良している方々的にどうなのか、なんちて思うわけです。

とは言え、ほんとにおいしかったけど、新品種におされて種が売れなくなって
淘汰されるもの(例えば昔のほうれん草とか)も時折あるので要注意です。
さらに、ネコブ耐性のブロッコリーなど、作りやすい品種に改良した結果、
食味が劣ったものもありますが、一般的に気づかれることはありません。

というか、こういう作物は「昔の品種の味がする」とはあまり言われないので、
とくに問題ないのかもしれませんねえ。ヒトとはめんどくさいものですなあ。

とりあえず、テレビや雑誌で「昔の品種の味がする」と言ってたらそれはほぼ
「気のせい」だと思ったほうがいいのではないかと思う次第です。

その一言で農家の技術とか品種改良の努力とかがチャラチャラと流れていく気がして、
わたくしはその都度、ひとりで憤っているのでした。


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