「特別栽培農産物に係るガイドライン」の「無農薬」表示禁止のそもそもの理由
春めいてきました。区民農園は菜の花と豆のシーズンです。
先日Facebookを見ていたら【「食べ手」の皆様のご意見をお聞かせください
- "無農薬"という言葉について考えるプロジェクト」】という投稿を見つけました。
投稿者はわたくしの知り合いの農家がよく利用している「ポケットマルシェ」です。
ポケットマルシェ
https://poke-m.com/
なぜ今「無農薬」について考えるのか。読んでみましたがよくわかりませんでした。
というか2007年3月に「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」が改正され
現在では「無農薬」表示は禁止されています。
同等の言葉として使用できるのは「農薬:栽培期間中不使用」という表示です。
2007年当時、わたくしは大地を守る会で商品情報誌を制作していました。
商品カタログに掲載されている野菜の欄に、農薬の使用状況を記載していたため
「無農薬」という表示を「栽培期間中農薬不使用」に変更した記憶があります。
商品本体の表示じゃないんだから「無農薬」で別にいいじゃん! と思いましたが、
改正直後でやる気満々の農水省があちこちのスーパーに査察を入れていて、
とにかく何かあったら大地はすぐにやり玉に挙げられ新聞沙汰になることもあり、
下手な抵抗をして刺されるリスクは冒せないと、粛々と表示を変更したのでした。
ガイドラインなので罰則規定はありませんが、違反するとプレスリリースが出ます。
「優良誤認」なので「景品表示法違反」です。新聞に載ったりすると
それがどんなものか消費者が理解していなくても企業イメージはダダ下がりです。危険です。
が、十数年経った今では、大手コンビニが店頭で販売している野菜売り場に
でかでかと「無農薬野菜」と表示されています。もう誰も気にしていないのかも。
そんなことを思い出していたら、昨日「アンケート結果」が掲載されていました。
気になる方はFacebookでポケットマルシェを検索して、投稿をさかのぼって見てください。
わたくしはこのアンケート結果の「ご意見」部分を非常に興味深く読みました。
なぜなら「ガイドライン」を知っている人が非常に少なく、なんで無農薬表示がダメなのか、
きちんと理解している人も非常に少ない印象を受けたからです。
施行から10年以上経ってるのに、ガッカリ。誰の怠慢だ。
また、今さらですが【特別栽培農産物に係る表示ガイドラインQ&A】を熟読し
https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/tokusai_qa.pdf
きのことか水耕栽培についてはガイドラインが適用されないっつーのを知りました(汗
「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」で無農薬表示が禁止、とか言われても
ピンと来ない人のほうが多いと思いますが、たとえばこんな感じです。
ほうれん草の袋に「無農薬ほうれん草」と表示するとガイドライン違反ですが、
商品情報誌やサイトの商品説明欄で「無農薬で栽培しています」と書くのは
ガイドライン上禁止ではありません。しかしどこかから突っ込まれる可能性はあります。
店頭のPOP(個別商品の表示ではない)についてはとくに書かれていないのですが、
不特定多数の消費者への誤認を招く表示は原則禁止ですから、おそらく禁止です。
改正当初、農水省に確認したら「ダメ」と言われたと聞きましたからたぶん禁止です。
しかし今さらこのような一文を見つけてしまいました。
Q4の2(抜粋)
【2.他方、特定の生産者と消費者とが結び付いており、栽培方法などについて
相互に納得した上で売買されている場合は、表示が問題になるとは考えられないので、
ガイドラインの対象外となります。】
これを見つけて、ポケットマルシェのアンケートに、あえて無農薬「表記」
(表示ではないのがミソ)と書かれていることにわたくしは注目しました。
ポケットマルシェの販売方法は「特定の生産者と消費者が結びついている」ものです。
それと合わせ、サイト上の商品紹介内の表記であれば、対象が不特定多数の消費者ではない
&商品に直接表示されていないことになり、ガイドラインの適用範囲外と言えます。
つまり、ポケットマルシェのサイトで「サイト内では無農薬表記OK」と決めれば、
「無農薬」という表記は問題ないということです。だから「表記」なのでしょう。
そう言えばわたくしも、大地の野菜の記事を書くとき「無農薬で栽培されています」と
改正後しばらくの間、無駄な抵抗をしていました。
表示ではなく記事内の表記ならば問題ないはずだからです。
しかしわたくしはここで、そもそもなぜ「無農薬」という表示が禁止になったか、
という「そもそも論」を語る必要があると思います。
そもそもの理由が書かれているのは、Q&Aの(Q6)の2と3です。ざっくり言うと
1.消費者の「無農薬」のイメージが残留農薬ゼロとかで受け止められていること、
2.JAS法できちんと定められたルールに乗っ取り栽培したことを第三者が認証している
「有機農産物」よりも優良であると誤認している消費者がたくさんいること の2点です。
とくに大きいのが2です。
有機農産物のメリットは「第三者にきちんと基準通りに栽培していると認証されている」客観性にあります。
客観性を担保しているのは、生産者の記録と第三者による検査です。
この検査にも、基準通りの栽培にも、お金も時間もかかり生産者の負担は大きいのです。
それよりも「無農薬」のほうがいいと誤認されていることが問題なのです。
実は、一般的な農産物には、こういった第三者による検査などはありません。
そのため、生産者本人が「無農薬」と言っても事実かどうかは誰にもわかりません。
一回農薬まいてもほとんど無農薬。だから無農薬なんてよくある話です。
ここに流通が加わって「うちに出荷してもらっているこの生産者は無農薬です」
と言った場合はどうでしょう。双方が当事者のため、客観性はありません。
生産者が農薬をまいていても流通がきちんと確認できない、なんてことはざらにあります。
どちらも客観性がない=「言ったもん勝ち」でしかないということです
ここんとこが大地を守る会とは大きく違うところです(ちょっと古巣の自慢)。
大地では、生産者が「大地を守る会基準通りに栽培しているかどうか」
「基準通りに栽培しているとわかるしくみを生産者が持っているかどうか」を
第三者である有機JAS認証機関に依頼して、検査してもらっていました。
栽培については、農薬の予定や使う肥料・資材などを書く計画書を作付前に提出してもらい、
産地担当が年に数回訪問して現地確認を行うほかに、農薬の散布や肥料について、
出荷前に履歴を確認する部署が独立して存在し、すべてをデータベース化していました。
こと、確かさという点に於いて、大地を守る会は有機JAS認証と同等かそれ以上
(当該年度の履歴が追えるから)、と自負していました。
商品情報誌に「栽培期間中農薬不使用」と書いてあれば、
その生産者は栽培期間中に農薬は一度もまいていないと自信を持って言うことができたのです。
というような会社に長いこといた経験から言うと、
無農薬表記を「可」とするのであれば、ここまでやらないと確かさに欠け、
結局は「言ったもん勝ち」という評価しか得られないと思うのですが、
ポケットマルシェの方々はそこまで考えているのでしょうか。考えていてほしいです。
似たような言葉である「自然栽培」もとくに第三者の検査がされてるわけではなく、
言ったもん勝ちですから、そこまで考えなくてもいいのかもしれません。
なにしろ「消費者は相変わらずほとんど理解していない」のですから。
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