有機農業の一時代が終わりを迎え新時代が始まりつつあると思う件
有機農業運動をけん引してきた方々の訃報が相次いでいます。
人は必ず死ぬものですから致し方ないとは言え、なんとなくそういうことはなく
皆さん永遠に生き続けていくのではないかなどと思っていましたわたくし。
その方々の訃報を耳にするにつけ、有機農業、というか有機農業運動の
ひとつの時代が完全な終わりを迎えようとしているのではないかと思います。
さて、その有機農業界の重鎮の方々が関わっていらっしゃった日本に於ける有機農業は
そもそもの目的が「環境保護」とか「持続可能性」ではなく
安心・安全を求める農家と消費者が主導する市民運動の形で産声を上げました。
当時は危険な農薬がまだたくさんありましたから農家の健康被害もかなりあったと聞きます。
「危険な農薬を使いたくない」という農家の思いと
「安全な農産物を食べたい」という消費者の気持ちがうまく合致し
今ではあたりまえですが当時は斬新だった「産消提携」という新しい流通を生み出し、
有機農産物は主に「意識の高い消費者がいる都市部」で大きく成長しました。
今なら「施肥設計間違ってるよね」と言われる虫食いでレースのようになっている白菜でも
「農薬をまいてない安全な野菜だから虫に食われる」みたいな理由でOKでした。
「堆肥をドカーンとまいて農薬を使わなければ安全な有機農業」と言っていた時代です。
有機農業技術の蓄積にはもう少し時間が必要でした。
有機農業が安全なのであれば危険な農薬を大量に使用する慣行栽培はどうでしょう。
農薬=悪、化学肥料=悪、どっちも使う慣行栽培=悪です。そしてキーワードは「危険」です。
慣行栽培は有機農業の優位性を語る際の「敵」として攻撃されることになりました。
実際には当時有機農業に取り組んだ農家が農協から出荷停止をくらったり、
嫌がらせをされたり村八分にあったりしていましたし(複数農家による伝聞情報)
農水省も有機農業には冷たく「あり得ない」とまで言った(元上司による伝聞情報)そうですから
有機農業を推し進めるにあたって障害がものすごく多かったのは事実でしょう。
障害が大きければ大きいほど集団の結束力は強くなるものです。
したがって、有機農業運動が生まれた1970年代から2000年くらいまで
「敵」は農水省やJAであり、慣行栽培の野菜も「敵」的な表現で語ることが多かったのです。
しかし2000年あたりで状況が大きく変わりました。
1999年に有機JAS法が施行され、2006年には有機農業推進法が施行されたのです。
有機農業推進法により国が有機農業を推進することが明確に示され、
有機農業を推進するための補助金がバンバン交付されました。
有機農業の町ができ有機農業推進団体が生まれ、有機農業界は喜びに沸きました。
有機農業が国の方針となった瞬間、実は有機農業界は国という大きな敵を失っていたのですが、
そのことに気づいた人はあまりいなかったのではないかと思います。
「大きな敵」を失った有機農業界の人々はこの喪失をどう埋めたか。
なぜか技術や思想・理念が違うものを排除する「仮想敵」を生み出す方向に力が働いたのです。
これは以前藤田和芳大地を守る会会長が語っていた「学生運動が失敗した理由」によく似ています。
「戦うべき大きな敵より身近な思想の違いが許せなくて仲間を攻撃してしまった」
手を繋ぎ、よりいいもの、理想のものを創り出す過程で違いが許せなくなったのかもしれません
本来なら一緒に有機農業の技術向上や流通のしくみづくりができたかもしれないのに、
理念や思想が違うだのその技術は有機じゃないだの小さなことに囚われるがあまり
小さな集団で小規模に補助金を取り合って事業を行う、みたいな結果、
有機農業推進法が施行されて以降けっこう無駄なお金と時間を使ったのではないか、
なんちてわたくしは今思うわけです。
(すべての人がそうではありませんが一部がそうだったことは事実)
しかしこれらをけん引してきた方々が表舞台から退くことにより、
有機農業の一時代、古い時代が終わり、まったく違う新しい時代が始まるのではないか
すでに始まっているのではないかと、わたくしは最近気づきました。
次世代の有機農業の人々はそれぞれの技術や思想の違いをことさらに言い募るわけではなく、
ゆるく連携し補助金を賢く利用しながら持続可能な事業を行っています。
なぜなら彼らが有機農業をスタートしたときにはすでに敵は存在していませんでしたから、
彼らは「仮想敵」など必要としていないのです。
それぞれの技術や理念や思想があろうがなかろうが、多様性を認め合い
固く結束して何かに立ち向かうのではなく、ゆるく連携してしなやかに息づく有機農業。
これからの時代の有機農業運動があるとすれば、そういうものになるのだろう、
なんちてわたくしは思っています。
ところで相変わらず仮想敵を作り攻撃をし続けている方たちもいますが、
時代に乗り遅れそのうちしょぼしょぼになるんじゃないかと思うので気をつけたほうがいいと思います。
多様性を認め合いましょう。その先にしあわせが待っています。
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