農薬をまくのは農家の勝手?
SS(スピードスプレイヤー)で農薬まいてます。
ガアーッっていう大きな音がします。早朝の果樹産地に響き渡ります。
「ああ、今日は無風で晴天なのだな」と寝床で天気がわかるという。
産地担当時代、新緑の美しい5月は「作付」の季節であった。
「今年はこんだけ出荷してね」とかいう話をしに果樹産地に行き、
農家のお家に泊めてもらっては大酒を飲んでいた。
翌朝、スピードスプレイヤーという機械で農薬をまく音でよく目が覚めた。
窓から外を見ると、りんごや梨の樹がワサワサ揺れ、
農薬が高く吹き上がっている果樹産地ではおなじみの風景が見えた。
まだ酔ってて頭がふらふらするしで、この写真をいつも撮り損ねた。
そして、前夜、わたくしと同じように飲んでたはずのおじさまは、
もう起きて農薬をまいてたりするのだった。
今考えるとわたくしは仕事の邪魔しに行ってたのではないだろうか。
申し訳なかったなあ。
山梨のすもも農家を訪問した際、畑に濡れた犬、というか
何か動物のニオイみたいは、妙なニオイが漂いはじめたことがあった。
少し刺激のある不思議なニオイ。「これ、何ですかねえ」と聞くと
「ああ、隣の柿畑の人がさっき農薬まいてたから、それかな」と生産者が言った。
作業場に戻って作付の話をしていたら、急にめまいがして、
その後かる~く吐き気がし、頭がくらくらしてきた。
「なんか頭痛いんすけど、なんともないですか?」
「へえ? ほんたべさんは敏感だね~。俺らは何も感じないよ」
生産者は笑った。
難防除害虫「カイガラムシ」によく効く農薬「アルバリン」は
ネオニコチノイド系農薬「ジノテフラン」。EUには農薬登録はないが、日本の
ネオニコの残留農薬基準値はEUの10000倍!って煽りデータによく出てる。
農薬登録がないものに日本のデフォルト値0.01ppmを当てて、
10000倍ってのはダメだよね。って思うんだけど違うかな?
麦の取材中にお蚕を飼っている作業場を見せてもらったことがあった。
その建物に入ると、目が痛くて開けられなくなった。
刺激臭がして涙がぽろぽろ流れて止まらない。
「このニオイ、何ですか?」
「え? ニオイなんかする? ああ、ホルマリンかな?」
蚕の病気を防ぐためのホルマリンを7日前にまいたらしい。
わたくしは建物を出るまで目をしっかり開けられなかったが、
中ではおつれあいとばあちゃんが蚕の世話を粛々としていた。
涙でぐしゃぐしゃになったわたくしの顔をみてかあちゃんが一言。
「わたしら何ともないけどねえ。敏感なんだねえ」
「都会の子はヤワだねえ」的な空気を感じて情けなくなったが、
なにしろわたくし某D社勤務だし、酒には強くても化学物質には弱い。
そして、農薬やホルマリンが日常生活にいつもあると
人間は慣れてしまうのだろうかと考えた。
少量の毒を飲んでいると毒が効かなくなるようなものだろうか。
ボルジア家の毒みたいじゃありませんか?
難防除害虫「アブラムシ」。病気を媒介するしで野菜が出荷できなくなる。
めちゃくちゃ種類が多くて、果樹にはワタかぶってる奴とかもいて大変。
んでネオニコがよく効く。EUで規制されてるアドマイヤー、ダントツ、アクタラ
の他に、規制されてないベストガードとかモスピランもあるのね。
さて、アメリカでは、農薬散布後、農家はすぐに畑に入ってはいけないと
法律で定められているらしい。それは農薬の害から農家を防ぐためである。
日本にはそういう法律はない。農薬をまいた後、
自主的に畑に入らないということはできるが、法的な拘束はない。
食品衛生法で残留農薬基準値が定められてたり、
農薬取締法で希釈倍率や作物の適用が定められているが、
それは農家のためというより、消費者の安全のためだ。
「マスク・ゴーグル・カッパなどで身体を防護してまきましょう」
この指針だけで農家は農薬をまいている。
農薬の被害ってどれぐらいあるのかな?
平成23年度の農薬事故調査結果を見つけた。
これによると、人への事故・被害は36件で被害人数は48人である。
内訳は、農薬を飲料の空容器などに移し替えたため誤飲した例が9件、
管理・取り扱いがずさんだったために誤飲した例が7件、
散布時の装備不十分が7件などである。死亡例は誤飲が原因だ。
散布時の装備不十分というのは、マスクやゴーグルをつけずに
まいちゃったということであろう。この人たちに何があったかは不明だ。
難防除害虫「ダニ」。世代交代が早くて抵抗性がつきやすく
去年まで効いたものが今年はダメとかもあり、大変イヤな害虫。
高温でかんばつだと出やすくて、りんご畑が遠目に見て真っ赤になることもあり。
でもこれ、ネオニコは効かないのよね。ダニ剤ってのが別にあるの。
「農薬をさあ、一番まきたくないのはさあ、農家なんだよね。
まかなきゃ作れないからまくけどね。そういうこと、消費者は知ってるのかなあ」
むかーしりんご農家にこう言われたことがある。
わたくしは深く考えず、以下のように思った。
「しょうがないじゃん。まかなきゃ作れないんだもん。
嫌ならやめるしかないし、やめられないなら続けざるを得ないよね」
今思い出してもあまりにも冷たくて心臓のあたりがひやりとするが、
思っただけで言わなかった。
代わりに「あなたがりんごをどう作ってるか消費者にちゃんと伝える」と言った。
わたくしにできることはそれしかなかった。代わりにりんごは作れない。
当時のわたくしは、世の中のことを知らない無知な小娘であった。
農家が農薬をまくのは農家の勝手だとでも思っていたのかもしれない。
今ならそんな単純な話でないことはわかる。
昨今、WEBや雑誌で話題になるのは、農薬の毒性、残留農薬基準値、
そして、消費者の農薬被害の可能性とミツバチが死んでるという話である。
誰も農家のことを考えていないようだ。
皆、以前のわたくしのように、農家が農薬をまくのは農家の勝手だと
思っているのかもしれない。きっとそうだろう。
しかし、農薬の被害を直接受けるのは農家だ。まいてるその場にいるのだから。
ミツバチみたいに飛んで逃げたりできないのだ。
トマトに恐ろしい病気を媒介するってので、減農薬栽培をしてた農家を
一気に通常の農薬使用に変えたというコワイ虫「コナジラミ」。
ネオニコがよく効いてたけど、昨今抵抗性がついて効かなくなってるらしい。
これに効くのはEUで規制されてない「スタークル」とか。
「まかなくちゃ作れない」という言葉は
「そういう風に作らないと売れるものにならない」、あるいは
「食べていけるだけの収入が得られない」ということでもある。
ミツバチのためにネオニコの規制をという人のことがイヤなのは、
なぜ、なんのために農薬をまかなくてはならないのかという視点が
絶対的に欠けているからだと最近気がついた。
「まきたくないならまかなきゃいいじゃん」という人は、
まきたくない農家のものがちゃんと売れる世の中にならないと
農薬はまき続け無くてはならないのだと知る必要があるだろう。
それは、アブラムシやアオムシがついてたり、虫食いのある野菜を、
斑点米を、見た目の悪い果物を、今よりも高い価格で買えますか?
ってことでもある。
そういう社会がいつか来るかな?
消費税が上がって野菜の価格が高いといってる報道を見てると
「来ないだろうなあ」とつくづく考えてしまうのだった。
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