(今さら)ネオニコチノイド農薬についての考察
2008年、いちご、メロンの受粉用のミツバチが足りなくなりミツバチ価格が高騰した。
理由はオーストラリアからの女王蜂の輸入が途絶えたことだと言われている。
現在では蜂は足りていて農家は困っていない。困ってるのは国産蜂蜜が売れない
個人の養蜂家だ。蜂を守るために今すぐに消費者ができることは、
中国産ではなく国産の蜂蜜を食べることである。
2008年に船瀬俊介氏の『悪魔の農薬ネオニコチノイド』が出て早6年。
初めて読んだ時には「何言ってんの? この人」と思ったのだが、
なんだか知らない間に巷に「ネオニコ危険!」という声が高まり、
最近では規制するための署名運動も起こってたりして、
ネオニコチノイド系農薬の問題については依然として現在進行形である。
この騒動のなかで発言している慣行栽培の農家はいないし、
農薬関係の科学者、ミツバチ・天敵の研究者などからの情報発信も見かけない。
これは主に消費者と農薬に反対する運動家の運動のようである。
わたくしはネオニコについてとくに規制を!とは思っていない。
農薬については今使用されているもの全体で考えるべきだと考えている。
たーくさん使われてるからさあ。それに殺虫剤だけじゃないし、コワイの。
あとひとつ。先日ちょっと嫌なことを見つけちゃったのだ。
Facebookでシェアされてたネオニコ規制の根拠の数値に恣意的な強調がされており、
知らない人のための説明がきちんとされていなかったのだ。
残留農薬基準値などは数値だけがひとり歩きしてしまう可能性があるから
注意書き等で説明しないと正しく判断できないのに、全くしてなかったのだ。
それはいけないと思うのよね。
てなわけで、こんなの書くことにしました。
ミツバチが必要とされている作物についてあれこれ書かれているが、
日本と海外では少し事情が違っていることを知る必要があるだろう。
日本ではまず、すもも、桃は人間が受粉するのでミツバチは使わない。これらの
花が咲く時期には寒すぎてそもそもセイヨウミツバチが飛んでくれないのだった。
ともかく、ネオニコは今日本で一番嫌われている農薬である。
そして人々がネオニコチノイド系農薬を「悪」とする根拠は以下の様なものである。
1.ミツバチを殺す原因のひとつと考えられている。
2.その効果を見るために、EUでネオニコの3剤(※)の使用が2年間規制された
※イミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサムの3つ
ではネオニコチノイド系農薬とはどのようなものかな?
まずネオニコチノイド系農薬は殺虫剤の系統の一つの総称である。
殺虫剤は農業だけではなく、市街地の樹木類、家庭菜園、家庭用と
幅広く使われており、古いもの、新しいもの、いろいろな農薬がある。
ネオニコ以外にも殺虫剤はたくさんあり、1205剤登録されている(平成19年)。
ちょっと乱暴だけど、毒性が高く、良く効く殺虫剤を順番に並べてみた。
1. 有機リン系・カーバメート系
催奇形性などの毒性が高いためすでにEUでは規制されていて、
米国でも安全の再評価をされてるって聞いたけど、どうなったかな?
いずれもそこにいる虫を全て殺すよく効く農薬。
果樹類によく使われ残留性も高く、何よりもまく農家が危険。
最近では続々と失効していて、防除暦からも姿を消しつつあるけど、
ホームセンターではあたりまえに買えるので使ってる人もいるだろう。
プロよりも素人菜園家のほうがコワイのでは? などと思ってしまうなあ。
・農薬名:スミチオン、オルトラン、ダーズバン、マラソンなど
りんごについては人間が受粉する場合と、蜂にお願いする場合があり、
ツツハナバチが使われることが多い。ミツバチよりも低い温度で飛ぶ小型の蜂で、
カヤの中に巣を作り女王はいない。飼うのも容易である。
山形県、長野県ではツツハナバチが使われていてミツバチを使う人は少ない。
2.合成ピレスロイド系
キンチョールとか電動蚊取りの農薬でお馴染み。家で使わないほうがいいよ。
絶滅系農薬なのでその場にいる虫を全て殺す。もちろん天敵も殺す。
知り合いの果樹農家が「合ピレまくとクモがわーっとたくさん落ちてくるんだよねー」
って言ってたのが忘れられない。クモは一度死んだらなかなか増えない益虫なのに。
・農薬名:アーデント、アグロスリン、アディオン、テルスターなど
3.ネオニコチノイド系
そもそも有機リン系農薬などの代替品として開発された。
最初にできたイミダクロプリドは日本人科学者が作ったもので、
「ネオニコチノイド系農薬」という名前も日本人がつけた(うんちく)。
残効性が高く、中には選択制のあるもの(クモを殺さない)もあり、絶滅系ではない。
難防除害虫によく効くので、畑作・果樹・米ともによく使われている。
農薬名:アドマイヤー(イミダクロプリド)、アクタラ(チアメトキサム)、
ダントツ(クロチアニジン)、スタークル(ジノテフラン)など
その他、天然のもの(除虫菊とか)、脱皮阻害剤とか、気門を封鎖したりとか
幼虫がおなかをこわすBT剤とか、殺虫剤にもいろいろあるがまあ、
これらは有機許容農薬になってたりするものもあるし別にいいか。
ネオニコは日本では7成分が登録されている。EUで規制された3つのほか、
アセタミプリド、チアクロプリド、ジノテフラン・ニテンピラム(EUでは登録なし)。
2014年2月からフィプロニルもEUの使用規制の対象に入ったが、
これはネオニコではなくフェニルビラゾール系。だから話題になってないのかな?
農薬名は「プリンス」。トウモロコシのアワノメイガ対策などに使われている。
さて、これらネオニコチノイド系農薬のメリットに、残効性の高さがある。
ミツバチに受粉してもらわないと困るのはメロンといちごである。
トマトやナスの受粉もミツバチと考えてる人がいるが、違う蜂である。
2007年頃、メロン、いちご農家は受粉用の蜂の価格が高騰してすごく困っていた。
以前は小箱に分けられて使い捨てされてた蜂もいたから、わたくし的には
バチが当たったのかもとか少しだけ考えてました。すんません。
昨今「定植時に粒剤で使用した農薬が最後まで残っている」と言われ、
非難の対象になっているが、実はこの残効性の高さがメリットなのである。
定植時の粒剤使用ってわかりにくいけど、日本では主に果菜類に使われており、
残効性は高いが可食部分(果実)には移行しないことが確認されている。
人間が食べる部分については問題無いということである。
「残効性が高いのがメリット」って言われてもピンと来ないよね。
例えば、有機リンや合ピレは「その場にいるものを全部殺す」が、
「農薬をまくと飛んでいってしまうもの」は殺すことができない。
散布後に畑に戻ってきたカメムシが「農薬かかんなくてよかったー」と
果実にちゅっと針を刺したりすると、お金をかけて農薬をまいた甲斐がない。
被害をなくすために農薬まいてるのに戻って来るなあ!って感じだ。
しかしカメムシにそんなこと言っても聞いてくれないので、
戻ってきたカメムシにもきちんと効くネオニコはすごーく便利なのである。
そうは言っても有機リンも残留性は高くて、5月頃にまいたものが
9月にもまだ果実に残ってたりして、雨何度も降ってんのに何で残ってんですか!
とか思っちゃうんだが、有機リンのことはあまり話題にならない。謎である。
EUではとっくに規制されてるが、そのことを知ってる人もあまりいない。
ネオニコの残効性の高さ、浸透移行性の高さは、作物の生育初期に有効で、
定植時の植穴に粒剤をパラパラと置けば初期の虫害が防げ、
その後の農薬が減らせるという大きなメリットがある。
厚生労働省がクロチアニジンの残留農薬基準値を引き上げるというので、
最近話題のかぶの葉。0.02ppmが40ppmに、つまり2000倍になるってので、
署名運動が起こっております。これで凍結されたらすごいなー。
しかしそもそもの0.02ppmという数字が不可思議なんだが、もしかして基準値がなくて
CODEXの数値を持ってきただけっぽいんだけど、誰か知りませんか?
農薬散布数を減らせるなんつーのはすごいことなのである。
なにしろ日本は単位面積当たりの農薬使用量が世界一の国なのだから、
農薬の使用量を減らせるなんて、すごいじゃないか!
しかも、この方法と天敵を組み合わせるとさらに農薬を減らすことができるのだ!
すごいぞ! なんてことはあまり誰も、言ってみれば農家も知らないようである。
そしてふと気づいたら、ネオニコと殺虫剤の説明だけで
なんか知らん2700字とかになってしまったのだ。
その他もろもろいろいろ考えたことは次回書きます。すんません。
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