「文楽」を観劇して感激した話
「むすめ」のかしらの口元についているちいちゃなトゲ。
ここに布をひっかけて「よよよ」と泣き崩れたりする。
「むすめ」はまばたきができないが、その細工をすると顔つきがきつくなってしまうから。
まばたきできるのは「老け女形」と呼ばれるかしらなんだけど、
20歳以上の女性に使われるらしいんだけど、20歳以上で老けってどうよ。
タイトルにどうしてもこのダジャレを使いたくなってしまったわたくし。
オッサン化してきたのかしら。なんちて。どうもすみません。
実はわたくし、くまモンが好きである。
何が好きかと言われると、あのウツロな目と
キレた動きとふるまいが好きなのだが、
熊本県民にはデビュー当初、あのウツロな目が不評だったらしい。
あの目。全然つぶらじゃないし、どこ見てるかわからない目。
しかしなんとなくどこかで見たような気がしていた。
辻村ジュサブロー先生の「新八犬伝」「真田十勇士」を欠かさず見て、
犬坂毛野と霧隠才蔵のファンだったわたくし、
その後当然というか、お人形が好きになったけどお金はない。
骨董品屋ではジュモーや市松人形を見てはため息をついていた。
骨董品屋のお人形は、皆うつろな感じがする。
過去に持ち主にどんなに愛されていても、今はもうその主人はいない。
もう一度誰かに愛されることを待っている、うつろな感じ。
くまモンのウツロな目は、市松人形のうつろな感じに似ている。
ウツロなくせにキレるのがかわいらしいから好きなのだと気がついた。
なーんてことを、文楽見ながら考えた。
バックステージで出番を待つその他大勢のお人形たち。
けっこう味のある顔してたりして、舞台に登場するシーンもすこーしだったりするけど、
この人たち見てるのも何気に楽しいのです。
曽根崎心中に女中役で出てきたこの人、味があっていいよね。
なんとなく脇役の方が味があって生きてるみたいな感じがする。
お人形が右手で何かを持つ時には、こうやって指を通して
人間がつかむんだけど、舞台の上ではまるで人形が持っているよう。
きせるや刀やかんざしを持ったりするのよね。手の平も人間みたいに動くのだ。
曽根崎心中の徳兵衛をちょいちょいと叩くお初の手がかわいらしくて。
文楽は現在ユネスコの無形文化遺産に指定されている、
日本の伝統芸能である。当然だが人間国宝の方もいらっしゃる。
文楽とは、舞台の上で人形を動かす人形遣い(1体に着き3人)と
舞台の横(床)で三味線弾く人、浄瑠璃を語る人(太夫)の
三業で成り立つ三位一体の演芸である。(三業で成り立つ~ウイキペディアより)
昔テレビで文楽を見たときには、後でお人形を動かす黒子が気になり
全然楽しめなかったが、ライブで見ると全く気にならない。
右手とかしらを動かす人形遣いの顔は頭巾をかぶっていないのだが、
それも全く気にならない。
三味線がベンベンと奏でられ、義太夫節が語られ始め、
何言ってるかよくわかんないので、舞台横にある字幕を見ながらでも、
人形が登場するとその人形の動きに魅入られ、物語のなかにすんなり入れた。
人形は全くしゃべらないのにいつのまにか頭の中で
お人形がしゃべってるように感じ始める。
人形遣いによって、人形に命が吹き込まれるのだった。
動きにも表情にも制約のある人形だからこそ、
かえって表現できることがあるのだなあと初めて知った。
わたくしの脳はあれやこれやかなり補足しながら見ていたのだろうが
「曽根崎心中」の心中の道行の場面や「一谷嫩(ふたば)軍記」で
わが子の首を見て泣き崩れる相模の様子を見ていると、
人形なんだけどとても人間が動かしている人形とは思えない。
人形がまるで意思を持って動いているようなのだった。
床山さんというかしらの修理などをしているところを見せてもらった。
眉毛も目も口も動く男のかしら。このあたまの内部にくじらのヒゲが使われている。
くじらのヒゲ、このひらべったい部分。なんとなく、糸的なものを
想像してたけど、平べったいのね。ちょっと驚いた。ここに三味線の糸を通して、
表情を動かす。今は調査捕鯨のくじらのヒゲを使っている。こんなとこにもくじら。
かわいらしい「むすめ」のかしら。かわいらしさを損なわないよう
まばたきはできない。でも仕草だけで娘らしさが200%表現できるんだから、
やっぱり人形遣いってすごいのだった。まあでも、自分的には
まばたきできる老け女形の方がグッときちゃったなあ。
講演後、バックステージを見学させていただき、
「むすめ」を少し触らせてもらったのだが、あとで写真を見ると、
わたくしの持っている「むすめ」はうつろなお人形であった。
やっぱりお人形なんだなあとつくづく思ったのである。
人形遣いだけでは文楽は完成しない。セリフが個々についてたら
違和感があるだろう。三味線と義太夫節があってこそ、
悲哀も喜びも、時々は笑いもじゅうぶんに表現できるのだ。
人形遣いの動きと三味線と義太夫節が合わさって初めて完成する、
文楽ってすごいのだった。もう、今まで見たことなかったなんて、
すんごく損した気分なのだった。失敗したぞ。
まだ見たことのない方、文楽を見ることで人生がより豊かなものになるでしょう。
ぜひご覧いただくことをお勧めいたします。
新八犬伝を見てた人なら、たぶん、人形遣いを全く意識しないで、
物語に入れるでしょう。子どもの頃に我々の脳は、
NHKによってすでにそうなってしまってるはずでございます。
(プリンプリン物語見ててもそうなってるかも)
文楽について知りたい方、以下の本が入門書としてお勧め。
文楽に対する愛が満載、イラスト満載で、初心者でも楽しく読めます。
わたくしこれを読んでから見に行き、大変役に立ちました。
『熱烈文楽』中本千晶著 三一書房 1,890円
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