資本の動きが遅い時の量的引き締め

というNBER論文が上がっている(ungated(SSRN)版)。原題は「Quantitative Tightening with Slow-Moving Capital」で、著者はZhengyang Jiang(ノースウエスタン大)、Jialu Sun(同)。
以下はその要旨。

We document shifts in investor composition during quantitative tightening, which suggest that investors adjust their portfolios at different speeds. To understand its implications for bond valuation, we develop a general equilibrium model which highlights the dynamic interaction between heterogeneous investors. In the model, long-term investors have higher risk-taking capacity, but face a portfolio adjustment cost; liquidity traders have lower risk-taking capacity, but can trade freely. Our model predicts a novel overshooting pattern: when the central bank unwinds its bond purchase, slow adjustment by long-term investors requires liquidity traders to absorb the imbalance, who demand a higher risk premium that creates excessive bond price decline and volatility in the short run. As a result, quantitative tightening is not simply a symmetric reversal of quantitative easing.
(拙訳)
我々は、量的引き締めにおける投資家構成の変化を明らかにした。そこでは、投資家が異なるスピードでポートフォリオを調整することが示唆される。債券評価にとってのその意味合いを理解するために我々は、性質の異なる投資家同士の動的な相互作用を特徴とする一般均衡モデルを構築した。モデルでは、長期投資家はリスク負担能力が高いが、ポートフォリオ調整コストに直面する。流動性トレーダーはリスク負担能力が低いが、取引をコスト無しで自由にできる。我々のモデルは、新たなオーバーシュートのパターンを予測する。中銀が債券購入を減らしていく時、長期投資家の調整が遅いことにより、流動性トレーダーが不均衡を吸収することが必要となり、彼らは高いリスクプレミアムを要求して、短期的な債券価格の過度な低下とボラティリティがもたらされる。その結果、量的引き締めは量的緩和の対称的な反転ではなくなる。

QEとQTの非対称性は世界の量的引き締め:我々は何を学んだのか? - himaginary’s diaryで紹介したように最近注目されるところであるが、長期投資家の動きが鈍いせいでQTの債券市場の波乱が大きくなる、というのは今まであまり議論されていなかった論点かと思われる。ただ、そうした現象が本当に起きるのかは実証研究による検証が必要な気がする*1。

*1:日本もこれからQTが始まるが、ただ日本の場合は、今回の波乱に見られるように米国の経済と金利の動向という外部要因の影響が大きく、また利上げによるキャリートレードの巻き戻しという固有の現象も生じるので、実証研究は他国よりも困難が伴うように思われる。