スティグリッツの高頻度取引批判

フェリックス・サーモンがロイターを去って3ヶ月近く経ったが*1、去る少し前の記事で、アトランタ連銀におけるコンファレンスでのスティグリッツの高頻度取引批判を紹介していたのに今更ながら気が付いた。
以下はサーモンのまとめたスティグリッツの論点。

  • 市場は活発過ぎ、変動的過ぎることがあり、また、そうなるのが常である
    • 国際資本市場ではそうした野放図な市場は厚生を低下させるというコンセンサスが出来つつある。高頻度取引についても同じことが言える。
  • 高頻度取引はネガティブサムゲームである
    • 高頻度取引自体はゼロサムゲームであるが、高頻度取引を実現するための実世界のコストを考えるとネガティブサムゲームであると言える。
    • 理論的には高頻度取引によって社会的厚生が改善する可能性があるが、以下に見るように実際にはそれは起きていない。
  • 高頻度取引は価格発見を改善しない
    • 価格発見自体は社会的厚生を改善するが、より早く価格発見が行われることによる改善があるとは考えにくい。
    • むしろ、より早い価格発見はボラティリティを高めるが、それは一般に良いことではない。
  • 高頻度取引は価格発見の見返りを本来与えるべきでない人に与える
    • 情報を持つ人々に先駆けてロボットが売買を行うフロント・ランニングでは、情報に投資した人々が本来得るべきレントをロボットが掠め取っていることになる。その結果、市場の情報量が少なくなる。
  • 高頻度取引は重要な情報を見出そうとするインセンティブを損なう
    • 現在の株式市場は注文やフローに関する情報に極めて敏感になっており、ライバルを出し抜くための偽の注文が溢れている。その結果、無用な情報が増える一方で、有用な情報が少なくなる。
  • 高頻度取引は重要なタイプの流動性を高めない
    • 個人投資家にとっての株式市場の流動性はかつてないほど高まっているが、マーケットメーカーがもたらすより社会的に重要な流動性は少なくなっている。
  • 高頻度取引は自然な流動性を減らす
    • 高頻度取引の時代では、大きな指値注文を場に晒しておくのは馬鹿げている。というのは、その指値を変えたいと思う情報が出たまさにその時に、それがあっという間に執行されることになるからである。従って、各取引者が指値を晒す時間はコンマ何秒に限定されることになり、市場全体の流動性は減少する。
  • 社会的に有用な市場と無用な市場の区別は重要
    • 誰かが勝って他の誰かが負けたからといって社会的厚生が高まるとは限らない。
  • 高頻度取引は社会的に無用であり、それを言うならば金融の多くもまたそうである
    • 経済に占める金融の比率が高まるに連れ、成長率は鈍化し、ボラティリティが高まり、世界金融危機が起き、あまりにも多くの優秀な人々が実体経済部門ではなく金融部門に吸い寄せられていった。それらの人々が短期取引によって大金を稼ぐ時には、長期的な価値を生み出すことよって金を得ているわけではない。しかし、長期的な投資抜きでは成功した成長は覚束ない。
  • 何か手を打つべき
    • 高頻度取引を禁止すべきではないが、税制などによって活動を抑制すべき。

*1:cf. ロイターに移籍した頃の記事の紹介。