コント:ポール君とグレッグ君(2012年第10弾)

3月の統計発表の時と同様、マンキューとクルーグマンが直近の雇用統計を受けて雇用人口比率を描画している。

グレッグ君
景気回復のモニタリング
ポール君
今では失業率が問題のある指標だということを誰もが知っている。というのは、働いている人が増えたためではなく、単に仕事を探している人が少なくなったために低下することがあり得るからだ(9月はそうではなかったが、最近そうしたケースがあった)。従って、失業よりは雇用を見るのが一つの代替手段となる。単純な指標としては雇用人口比率があるが、それによるとここ数年は状況の改善が見られない:


しかしこれはこれで問題がある。この指標は16歳以上の働いている人の割合なので、急速に増えつつある高齢者層が分母に含まれていることになる。彼らはもう働き続けたいとは思っていないかもしれない。そうした人口動態上のバイアスをどのように修正したら良い?
一つの答えは、以前僕がやったように、働き盛りの成人である25歳以上54歳以下に焦点を当てることだ。Calculated Riskは昨日それをやって、過去1年間に本当の改善が見られたことを指摘した。これは優れた簡便法だ。しかし、都合の良いデータを拾い上げている、という(誤った)非難を浴びる恐れがあるし、情報を捨象してしまっている。
ということで、もっと良い指標を紹介しよう。人口動態を固定した雇用だ。これは、人口の年齢構造が変わらなかった場合に雇用人口比率がどうなっていたかを見るものだ。
ここでの計算では、16-24、25-54、55歳以上の3つの年齢層に人口をグルーピングする。それは、労働統計局のデータベースで雇用人口比率が利用可能なグルーピングだ(スクロールしてone-screen data searchをクリックしてご覧)。その上で、2007年の総人口*1の比率で加重平均すると、こうなる:


ふむ。確かに過去1年間に小幅な改善があったようだ。それに、9月の数字も例外的なものではなく、過去数ヶ月のデータのノイズみたいなものからトレンドへの回帰のように見える。
ちなみにこの傾向は、異なる調査統計である雇用統計とも概ね整合的だ*2。そちらも雇用が人口より若干速く増加していることを示している。
という訳で、ロムニーの見解に反し、これは本物の景気回復だ。小幅だけど、現実のものだ。もちろん、社会主義者の統計担当者による陰謀があると信ずるならば話は別だが…。


マンキューは「Monitoring the Recovery」というブログタイトル以外のコメントを特に記していないが、Mark Thomaは、彼が明らかに景気回復傾向を否定しようとしているものと見做して、「彼は分かっているはず、ないし分かっていて然るべきで、クルーグマンが事実関係を明確にしている(He knows better, or ought to, and Paul Krugman sets the record straight)」というコメントを添えて両者のエントリにリンクしている。
また、Econlogのデビッド・ヘンダーソンは、(事業所調査統計と家計調査統計の違いについて解説した)マンキューの後続エントリとクルーグマンの上記エントリを紹介した上で、家計調査における増加分の873,000のうち3分の2は、労働統計局のいわゆる経済的理由(=雇用時間が削減された、もしくはフルタイムの仕事が見つからなかった)によるパートタイムの仕事だ、と指摘している。

*1:civilian noninstitutional populationの定義はWikipedia参照。

*2:このクルーグマンエントリに呼応した訳でもなかろうが、マンキューの後続エントリでは事業所調査統計(establishment survey)と家計調査統計(household survey)の違いについて自著の教科書から引用する形で詳説している。