[靖国キャンペーン]信者をなくすこと、それが解決策
高橋哲哉教授「靖国神社は苦痛を喜びに変える感情の錬金術」
▣ インタビュー/角南圭祐記者(フリーランス)
▣ 整理・写真/ギル・ユニョン記者
高橋哲哉・東京大学院総合文化研究科教授は、これまで靖国神社問題を研鑽してきた日本の代表的な良心的知識人だ。靖国神社に対する彼の苦悶は、2005年に韓国でも翻訳・紹介された『
결코 피할 수 없는 야스쿠니 문제(決して避けられない靖国問題)』(原題:『
靖国問題』ちくま新書)という著書に集約されている。彼は「靖国神社のもっとも重大な問題は、戦場に向かい死んでいった人々の悲しみを国家と天皇に対する喜びにすり替えてしまう“感情の錬金術”にある」と指摘してきた。彼は「靖国問題を解決する道は神社を物理的になくすのではなく、神社を尊び、崇拝する信者をなくすこと」だと語った。
宗教と軍隊が連結している国は日本のみ
ここ数年前から靖国神社問題が日・中・韓3カ国の外交的争点に浮上した。
=小泉前首相による靖国神社参拝の強行以降、そのような流れが目立ってきた。しかし靖国神社の問題はもっと本質的なものだ。靖国神社が問題になるのは、それが日本の軍国主義の“シンボル”(象徴)であるためだ。明治時代から太平洋戦争で日本が敗北するまで、日本の天皇や首相は侵略戦争に加担して死んでいった兵士たちのために靖国神社を参拝してきた。日本の軍人たちは死んだら天皇が靖国神社で自分たちのために追悼してくれるだろうと考えながら死んでいき、遺族たちもそう考えて家族の戦死という悲しみを受け入れた。靖国神社に祀られることは日本軍兵士の理想であり、模範だった。戦争が終わった後、靖国神社は国家から分離され、民間宗教法人の一つとして存続してきた。それでも(小泉首相の場合のような)首相の参拝や、厚生労働省との関係は継続してきた。最近、戦争を禁止した日本国憲法第9条の改正のような日本社会の保守化の流れの中で、靖国神社は再び論争の的になってきた。
日本では韓国や中国に国立墓地があるように、日本も国のために死んだ人を追悼する靖国神社のような施設が必要だという人々がいる。
=私も韓国や中国で靖国神社問題について講演したことがある。そのような問題提起もあるため、韓国や中国で靖国神社の問題を論ずる際はとても慎重に話さなければならない。どの国にもそのような施設はあるが、“宗教”と“軍隊”が連結している国は日本しかない。二つの結合を可能にするのは靖国神社だ。
国家が戦争という政策に国民を動員したが、それをどのように評価しているのかがそのような施設に表れる。靖国神社では、太平洋戦争を侵略戦争ではなく自衛のための戦争として教え込んでいる。まず戦争を起こしておきながら、「私は侵略をする」と言う者はいない。靖国神社が美化する日本の先の戦争は侵略戦争だったため、外国の追悼施設とは本質的に違う。
靖国神社が日本人の心に及ぼす影響は何か。
=私はそれを“感情の錬金術”という言葉で表現したことがある。戦争に行った息子を失った母親の心は苦痛に満ちているはずなのに、息子が靖国神社に祀られると宗教的行為によって苦痛は喜びに変容する。「天皇が我が息子のために祭祀を行っている」と考えながら慰められているのだ。戦場で戦い、死んでいった兵士たちも同じだ。
国家が靖国神社のような施設をつくる際に狙っているのはそのような“感情の錬金術”だ。靖国神社で遺族たちが慰められ、息子や夫の戦死を受け入れる。そのような心情を持つことになれば、また次の戦争を受け入れることなり、悪循環は続けられる。もしそのような施設がなければ夫や息子が死んだことに対する悲しみや怒りは、国家に向かうことになり、これは自ずから戦争に反対する動きにつながる。
韓国や中国では、“A級戦犯の合祀”が靖国神社のもっとも大きな問題だと見なす動きがある。
=A級戦犯の合祀は本質ではない。靖国神社問題は侵略戦争を正当化し、美化することにある。1978年にA級戦犯14人が靖国神社に合祀された。しかし“A級戦犯”が合祀されていない1978年以前には、靖国神社の問題はなかったのか?靖国神社は日本軍の戦争を肯定し、美化する施設であるからこそ問題になるのだ。A級戦犯は戦争を肯定し、美化した結果の一つなのだ。
自民党と遺族会と神社の共生
日本政府と日本の右翼を連結するものが靖国神社だという指摘がある。
=重要な問題提起だ。靖国神社の存在を支えてきたのは日本遺族会だ。自民党にとって遺族会は票田だ。それでも自民党は日本遺族会に金を出すことはできない。だから自民党は税金で年金や一時的な弔慰金を設け、日本遺族会に支給して支持を得た。日本遺族会は靖国神社を財政的に後押しした。しかし徐々に遺族数が減っている。2~3世の遺族たちが遺族会員に加入してはいるが、規模は小さくなりつつある。だから靖国神社の財政状況も悪化している。
靖国神社問題を解決する方法は?
=靖国神社を完全になくすことは事実上、難しい。誰が廃止するのか、どの省庁が解散命令を下すのか、政教分離を原則とする憲法20条に違反することにならないのかを考える必要がある。非常に複雑な問題だ。日本は民主主義国家なので信仰の自由は保障されなければならない。私と靖国神社は歴史観が違うが、歴史観が違うからといって禁止してはならない。では靖国神社はいつなくなるのか?答えは意外と簡単だ。靖国神社の主張する戦争観を信じる靖国信者がいなくなるときだ。靖国神社を尊ぶ人がいなくなれば、靖国神社は崩壊する。靖国神社の信者をなくすこと、それが唯一の現実的解決策だ。
(ハンギョレ21/2007年07月12日 第668号)