朝鮮・中央・東亜の「憎悪」-死んだ権力に噛み付くことで紙面を埋める
折り返して見た「盧前大統領報道」
検察が流した内容そのままで事実断定
誇張・推測拡大再生産-捜査チームも「誤報乱発」
盧前大統領側の反発、釈明に対しては「苦し紛れの弁明」

「人身攻撃性ジャーナリズム」
「基本的な事実の確認すらちゃんとしていない質の低いジャーナリズムの典型」
新聞や放送は、今年の4月から第1面などの主要紙面を使って集中的に検察の盧武鉉前大統領への捜査に関する記事を垂れ流した。しかし、実際に取材報道の基本原則をちゃんと守ったかは疑わしいという指摘が多い。
朝鮮・中央・東亜など一部メディアの報道は、「憎悪ジャーナリズム」に近かったというのが多くの言論学者たちの指摘だ。今回の事案を扱いながら、盧前大統領に憎悪に近い攻撃的態度を見せたということだ。
例えば、盧前大統領を破廉恥に描写する「人格虐殺」に近い記事をあげることができる。『中央日報』は4月11日付34面に掲載された自社論説委員であるチョン・ジンフンの記名コラム「花柳関文、金銭関文」で「(パク・ヨンチャが)金ではなく糞をばら撒いたとしたら…その糞を食べて自分の顔に塗りたくり、全身にかぶった人がかつてこの国の大統領であり、その妻であり、息子だった」と書いた。この新聞は5月1日付2面で、盧前大統領の釈明を「妻のしたことを夫は知らない、お粗末な三流ドラマ」だと嘲笑した。
『東亜日報』は4月11日付5面で「600万ドルの男、完ショー男(完全にショーをする男)、賄賂鉉、盧グラ(ウソ)など、盧前大統領を批判する新造語があふれている」と伝えた。『朝鮮日報』のキム・デジュン顧問は4月27日付30面のコラムで人身攻撃的な表現で盧前大統領を攻撃した。彼はこのコラムで「盧武鉉ゲートに関わる金の性格と金額を見ると、それこそ雑犯(政治犯以外の犯罪)水準だ。…今は人々が興奮して徹底捜査を注文しているが、時間が経てばそれこそ汚らしくて嘆かわしい考えのみ残るだろう」と書いた。
ジャーナリズムの第一原則である「事実報道」がちゃんとできていない点も、メディアが反省すべき点として指摘された。担当捜査チームさえ、新聞や放送で大型誤報が何度もなされ、ブリーフィングを随時することになったと話すほどだ。東亜(4月11日)、朝鮮(4月14日)、中央(4月15日)は、盧前大統領が100万ドルを受け取った翌日、グアテマラ訪問途中でアメリカに1泊2日滞在したことに関して、留学中だった息子の盧建昊(ノ・ゴンホ)氏にこの一部を生活費として渡そうとしたためだろうという疑惑を提起した。また、朝鮮日報(5月4日付1面)は、盧前大統領のノートパソコンが盧建昊氏の会社に渡ったことに関して、事業参与疑惑まで起こりうると書いた。しかし、これらの記事は単純な疑惑提起に終わり、事実確認はまともに行われなかった。中央は日報5月4日付6面で、キム・マンブク前国家情報院長が盧前大統領に「建昊氏が留学生活中に数億ウォンの投資をしたが、損害をこうむった」という情報報告をしたという疑惑も検察が調査中だと報道したが、国情院も検察もそれを否定した。
『SBS』が5月13日、「ニュース8」で「グォン・ヤンスク夫人が1億ウォン相当のブランド時計2個を田んぼのあぜ道に捨てた」とした報道についても、検察は即刻これを否定した。それにも関わらず、東亜日報(5月15日付8面)は「ポータルにはネチズンたちがボンハ村のあぜ道で2億の時計を探そうという書き込みをしている」という誤報性記事を“拡大再生産”した。
盧前大統領側の釈明は軽く扱いながら、容疑内容は断定的に報道する偏向性も指摘された。朝鮮は4月15日付4面のトップ記事に検察側の主張をそのまま載せ、「盧前大統領が要求し、家族が受け取って使った包括的賄賂」だと断定的なタイトルをつけた。この新聞は、召還捜査が終わった後には「有罪が認められれば重刑は不可避であり、一審判決は年内に出るだろう」(5月1日5面)というふうに、裁判官まで自任している。その反面、盧前大統領が自分のホームページを通じて釈明するごとに、一部の新聞は「苦しい弁明」と責め立てた。
専門家たちは、検察のブリーフィングや特定取材源の1人か2人の言葉をそのまま信じて書いた結果、誤報あるいは推測記事が量産されていると指摘した。パク・ヒョンサン弁護士は「ニューヨークタイムズの報道ガイドラインによると、対立する取材源4人以上の確認を経なければならないとされているが、韓国ではたった一つの“ストロー”に依存して書きながらも“~と明らかにした”という断定をしている」と皮肉った。韓国新聞協会、韓国記者協会などが採択した「新聞倫理実践要綱」3条の報道準則は、「捜査機関が提示する被疑事実は、真実の有無を確認するように努力しなければならない」と明示している。
チェ・ヨンジェ翰林大教授は「言論が競争的な政治権力を攻撃する目的で、極度に偏向したニュース戦略を駆使する攻撃ジャーナリズム現象が今回は特に深刻だった」「健全な批判報道は傷を負うだけだが、批判を超えた攻撃報道は憤怒を引き起こし、それが盧前大統領を死へ追いやった原因の一つ」だと語った。
パク・チャンソプ記者
『ハンギョレ』2009年06月05日