上月雨音 『SHI-NO 空色の未来図』

 上月雨音(こうづき・あまね)の最新刊『SHI-NO ―シノ― 空色の未来図』(ISBN:9784829164105)を読みました。シリーズ第8作。
 実家に帰省した〈僕〉宛てに届いていたのは,自殺した女の子からの年賀状。《死者からの手紙》の発信者は誰であったのか? 
という展開になりそうな出だしなのに,話はのっけから奇妙な方向へとシフトしていきます。それというのも年賀状の差出人たる彼女,大薙詩葉(おおなぎ・うたは)は《予知能力者》であったから。現在を生きる主要登場人物は,詩葉の妹であることり,詩葉の幼馴染みにして〈僕〉の親友である雄一郎,それに詩葉の母。関わってくる人物は限られているのに,《死者からの手紙》に加えて放火事件まで起こって問題は重畳的になっていきます。
 そこへ尋ねてくるのが,志乃ちゃん,キララ先輩,真白たんの3人組。〈僕〉とは別行動を取っているけれども,彼女たちのために用意されていた《死者からの手紙》が伴奏を奏でます。

「つまりこれは,大薙詩葉が作り上げたゲーム。過去に死に,未来に生きる彼女からの挑戦状です。」
169頁より引用

 〈僕〉と志乃ちゃん,過去に書かれた手紙と現在に起こる事件と未来の予知。こうした多重構成によって一連の事件が立体的に組み上げられていきます。
 ボクっ娘にして巨乳な姉に,ちょっぴり病んでる妊娠3か月の妹(高校2年生)。大薙姉妹というキャラクターも魅力的に描かれておりました。
 『空色の未来図』が伝えるメッセージですが,『ひぐらしのなく頃に』の第7話〜第8話を想起させます。時空を超えた事件への介入であるとか,旧家の因習であるとか,村落共同体へ外部から参画する主人公であるとか,そういった配置もそうなのですが,何よりも動機に関わる部分が。例えば,こんな台詞。

「誰か一人では無理だった。そんな事をする力も意味もなかった。けれど,もし全ての人がそれを望むのなら,どうだろう?」
247頁より引用

 とはいえ『ひぐらし』のような超展開は無いので,詩葉の死が覆ることはありません。作中では頻繁に《手紙》を介して快活に語りかけてくるので詩葉の不在は糊塗されるのですが,読了後に事件のあらましを確かめていると確かに詩葉は此処にはおらず寂寥の感を覚えます。せっかくの(胸部脂肪組織が抜群に充実した)キャラなのにカラーイラストも無しだなんて……
 漢と漢は拳で解決,という箇所はどうにも難がありましたけれども,この巻のメッセージ性の強さは際だちます。名言が豊富。
 いま富士見ミステリー文庫で展開している作品の中で最も勢いのある『SHI-NO』。その中でも,この第8巻の出来は良かった。志乃ちゃんをサイドヒロインに下げても『SHI-NO』という作品が成り立つ,ということを示せたのは大切なこと。


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