大学院はてな :: 「部活の顧問を引き受けてください。自主的に。」

 頭に「北海道」が付く語の省略規則は面倒ですよね――と言語学の教授と話をしたのを思い出しました。

  • 北海道電力 → 北電(ほくでん)
  • 北海道新聞 → 道新(どうしん)
  • 北海道ガス → 北ガス(きたがす)
  • 北海道教育委員会 → 道教委(どうきょうい)
  • 北海道教職員組合 → 北教組(ほっきょうそ)

 さて,本日の研究会で討論の題材になったのは,北教組に所属する者らが,時間外勤務手当等の支払いを求めた事案。
 公立学校の教職員については,昭和46年5月に「給特法」が制定されたことに伴い,(1)俸給の4%にあたる教職調整額を支払う,(2)労働基準法37条は適用除外とし,割増賃金は支払わない,(3)公務のために必要がある場合には時間外・休日労働を命じうる,という制度になっている。そして,昭和46年7月5日文部省訓令28号により,「原則として時間外労働は命じない」としつつ,「臨時又は緊急にやむを得ない必要があるとき」に当たる場合(いわゆる限定4項目)に限って時間外勤務を命じうるものとされている。

  1. 生徒の実習に関する業務
  2. 学校行事に関する業務
  3. 学生の教育実習の指導に関する業務
  4. 教職員会議に関する業務
  5. 非常災害等やむを得ない場合に必要な業務

 ところが実態としては,休日において部活動の指導などに当たったとしても時間外勤務手当は支払われていないわけです。本件第一審(札幌地裁判決 平成16年7月29日)は請求を棄却。そして控訴審(札幌高裁判決 平成19年9月27日 判例集未登載)も控訴棄却しました。

 まずその一般論。

 「以上のような給特法,給特条例制定の趣旨からすると,教育職員がプロフェッションの一員であるとの自覚のもと,自主的に正規の勤務時間を超えて勤務した場合には,その勤務時間が長時間に及ぶとしても時間外勤務等手当は支給されないと解するのが相当である。しかし,時間外勤務等を行うに至った事情,従事した職務の内容,勤務の実情等に照らし,時間外勤務等を命じられたと同視できるほど当該教育職員の自由意思を極めて強く拘束するような形態で時間外勤務等がなされ,そのような時間外勤務等が常態化しているなど,給特法,給特条例が時間外勤務等を命じ得る場合を限定した趣旨を没却するような事情が認められる場合には,給与条例14条,15条,労働基準法37条の適用除外を定めた趣旨も没却しているとして,その適用を認めるのが相当である。」

 この枠組みについては,法制度の存在を前提にすれば肯けるところかと思います。しかし,それに続く箇所は,もう悪い冗談としか思えません。

 「前記認定のとおり,控訴人ら教育職員の担任するクラス,担当する校務分掌や部活動,年間教育計画などは,予め各教育職員の希望を徴したうえ,プロフェッションの集団である校長以下の全教育職員が出席する教職員会議で決定されるのであるが,各教育職員の割り当てられた職務を全て勤務時間内に処理してしまうことは極めて困難である。
 してみると,各教育職員は,必然的に時間外勤務等を行うことになることを前提として,教職員会議で職務分担等を決定しているというべきであるから,各教育職員が教職員会議の決定で割り振られた職務を行う必要上時間外勤務等に及んだとしても,そのような時間外勤務等は,教育職員が自らの意思に基づいて決定したところに基づくもの,すなわち自主的に行ったものと評価するのが相当である。
 なお,校長が教育職員にひたすらお願いしてクラス担任や部活動の担当を引き受けてもらうことがあるが,このような場合も,教育職員がプロフェッションの一員であるとの自覚のもとにやむを得ず引き受けたものと考えることができるから,引き受けた教育職員の自主的な決定というべきである。」