紙屋高雪 『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』

 発売日に注文してあった紙屋高雪(かみや・こうせつ)『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』(asin:4806713562)が届きました。
 「紙屋研究所」については御存知の方も多いでしょう。これまでその存在を知らなかったという人は,私から本書の内容解説を通して説明するよりも,直接にアクセスして触れられた方が理解が早い。

 私はというと,紙屋さんに心酔するシンパを自認しておりますので(政治的には中道左派ですけれど)発売情報が出たところで即座に購入を決めました。
 こういったウェブ起源の書籍化商品を購入する目的としては,(1)作者に対する有形の支援活動として,(2)書籍独自の付加価値が欲しくて,(3)可読性ないし一覧性の向上を求めて,(4)紙の上にインクで固定させた状態で保管するため,ということが挙げられるかと思います。私の遍歴だと,COCO『今日の早川さん』は買いましたが,小島アジコ『となりの801ちゃん』は購入を見送り,ざちお『はねむす』は古本に手頃な値段がついていたので入手して,とか。
 本書『オタクコミュニスト〜』の場合,収録されているのは約30本の記事。従って,コンテンツを所蔵(アーカイブ)する目的としてならば,かなり劣ります。しかし作者自薦集としてみれば唸らされる出来。ウェブサイトでは時系列に沿って(つまり発表順)に並んでいますが,本書ではテーマ別の構成を採っています。

かかる章題のもとにこれらの作品をこの順で並べられていることに興味が持てるならば,本書は手にする価値があると考えます。それぞれ個別には既に読んでいるものであっても,総体としての組み立てによって味わいが生まれています。ワインとチーズのマリアージュ(相乗効果)のように。各章の締めくくりには《マンガではないもの》を置いてフレーバーを加えているのも演出として評価できるところでしょう。編集の妙味ですね。
 ちなみに,このあとの章は次のように続きます。

  • 第2章 恋愛とセックス――ぼくの脳の8割くらいを占める関心事
  • 第3章 仕事――働くとは面白いことかつらいことか
  • 第4章 結婚・子育て――生活と家族が生成する
  • 第5章 実家・学校時代――自分の根拠をみつめる
  • 第6章 戦争と政治――無関心といわれても

 個別の作品評ですが,ウェブ掲載の元文章と対照させてみると,大筋では異ならないものの細部に手が加えられています。きづきあきら+サトウナンキ『いちごの学校』(これは2007年8月7日に書かれた新しいもの)を例に取りますと,ブロックにして3つほど削られていました。陽気婢『えっちーず』『内向エロス』の項では,ラブコメに関する一般論が書き改められていたり。これらの修正により,評論の精度は向上し洗練されています。
 「ウェブで見られるのを,わざわざ1,890円を出して買う必要あるのか?」と思われる方々へ向けてのメッセージを送ります。書籍版で読んでみる価値,ありますよ。
▼おとなりレビュー

*1:余談。本書を開くまで「エビちゃん」というのが女性だということを知りませんでした。お笑い芸人だと思ってたよ。テレビなんて観ないからなぁ...