大学院はてな :: 出向拒否か,それとも退職か

 研究会にて昭和電線電纜事件(横浜地裁川崎支部・平成16年5月28日判決、労働判例878号40頁)の討議。出向先への受け入れが拒否されたことを契機として、使用者が「退職してもらうという選択肢しかない」「自ら退職しなければ解雇手続きをとる」と労働者に迫ったうえで表示させた退職の意思が、動機の錯誤(民法95条)により無効とされた例。
 原告(労働者)が出向予定先での面接日を間違えたり、不適切な言動があったり、工事記録を捨ててしまったことがあったり――と、問題のある労働者かのように見えたので、最初は普通解雇もやむを得ないかとの心証を持った。しかし、よくよく検討してみると、たしかに些細なトラブルは起こしてはいるけれども、普通解雇を有効にするほどの能力欠如が認められない。裁判になると「ふつうの人」が悪者に仕立てられていくのだけれど、その便法に乗せられてしまったらしい。そうなると、解雇が認められない状況下でなされた法律行為は無効と解するのが相当だろう。
 それにしても、釈然としない判決。使用者が為した退職勧奨を、(1)雇用解約の申し入れの意思表示であるとともに、(2)前記申し入れに応じない場合には解雇する旨の条件付き解雇の意思表示であると、かなりアクロバティックな構成をしている。本件で労働者を保護しようとすると動機の錯誤を使うしかなかったということなのだが……