ボールを保持しようとしてボールを失ってしまう理由は様々ありますが、先週のブログで体の向きができていないこととスペラール(ラインを超え)する時に人が勝たずにボールだけが前進していることに触れていきました。
今回の記事では、
- 体の向き(オリエンタード)
- 体の向きを作れるポジショニング
- ボールが前進した時の選択肢(プレーオプション)
- 相手の脅威となるパス
のポイントを交えて、何故ボールポゼッションをしながら、前進ができないのかをCrecerFAの基準を使って解説していきたいと思います。
CrecerFAでの基本的な考え方
上記の記事を理解した上で、CrecerFAの判断基準を基に書いていきます。
個人戦術の最小単位
まず、個人戦術の最小単位の担当の整理を行いますと、攻撃側の白は、
となっています。
最終ラインは、4対3ですが、最小単位に分けると2対1が3つあります。
サリーダデバロンでの前進
この状態からビルドアップをする時に重要となるのは、サリーダデバロンの数的優位で勝って前進することです。
最終ラインが、勝たずにボールだけ前進すると、次のラインは、数的同数でのライン越えとなります。
この画像のような状態は、ボールを受ける選手も体の向きが後ろ向きですし、ラインの人数が同数なので、ラインを突破するのは非常に難しい状態です。
この状態でラインを突破するには、質的優位でどうにかするか。
前のラインから1人降りてきて、数的優位にするしかないです。
しかし、位置的優位や数的優位で勝って前進することで、次のラインも数的優位でライン越えをすることができます。
スペラール(ライン超え)
例1 数的優位を使ったドリブル突破
例2 位置的優位を使ったパスでのライン突破
ミドルラインの個人戦術の最小単位は、1対1が3つの数的同数なので、人とボールが勝った状態でラインを超えることで、4対3となります。
個人戦術の最小単位としては2対1が3つある状態となります。
次のプレーオプションを減らしてしまうサポート
ほとんどのチームでサポートがボール側に寄ってしまい、せっかく作った数的優位を活かせず終わってしまうことがあります。
この画像の状態ですね。
担当のディフェンスよりもボール側に寄ってしまうポジショニングです。
何が悪いかというと、まず、受け手の体の向きが外向きなので、受けた時のプレーが外向きになりやすい。
そして、ボール側へのプレーになりやすいので、ディフェンスのベクトルを揃え易く、プレスをかけやすいということ。
そして、プレーが外向きになりやすく選択肢が少ないので、次の選択肢が予想し易い。
これが、先週のブログで書いた体の向きを作れないポジショニングです。
プレーオプションを増やすポジショニングと体の向き
これを例2のようなポジショニングにすることで、体の向きが前向きになれますし、選択肢を右と左と両方持てるようになります。
こうするだけで、次のプレーオプションが増えます。
選択肢があるということは、ディフェンスは、後手にならざるをえません。
カバーが来た時のプレーオプションを増やす段階的サイドチェンジ
この位置的優位に対して相手のカバーが来たら、ボランチの継続のサポートでレーンを変えて行きます。
実はこれが一番の肝です。
上手くいかないチームは、ここの選択肢を作ることができていないのと、そもそもプレースピードとパススピードが遅いので、ここの選択肢を使えないのが、ポゼッションしながら前進できない原因です。
因みに、ここに通ると何故良いのかというと、まず選択肢が多い事。
勝てる選択肢がすでに右と左で2つもあります。
ディフェンスとしては、ディレイに持ち込むしかなくなります。
そして、ここでも数的優位でプログレシオンできます。
その先でも局所的に数的優位となります。
これがスペインのボール運びとなります。
同レーンでプレーすることが少ないです。
このサリーダデバロンとプログレシオンのボール運びをすると、技術が高いチームのボールは、このエリアでボールを失う確率がかなり少なくなります。
つまり、より安全に前進できるということです。
プログレシオンの時に次の場面で選択肢を減らさず、前進できるようにもっと工夫をするべきです。
エンリケのスペイン代表
エンリケのスペイン代表は、お手本のようなボール運びでした。
それ故にほとんどのチームが、ディレイを余儀なくされ自陣に押し込まれて、更にボールが奪えなくなるという現象が起きていました。
ただし、エンリケのボールポゼッションは、前進しても尚、ポゼッションを高めていたために相手ディフェンダーがゴール前を固めてしまうという状態になり、ゴールまでが遠かったです。
クロスの確率論になっていたので、ハーランドやレヴァのような選手がいたら、変わっていたかもしれませんね。
通常は、前進し始めたら、相手のラインが下がる前にフィニッシュまで行く方が良いです。
同レーンでのプレーが多い
日本は、同レーンの縦パスが多いです。
縦パスは、受け手の体の向きが後ろ向きになりますので、前進しにくい選択肢になります。
- 縦パスは、距離を稼ぐことができるが相手の脅威になりにくい。
- 横パスは、相手の体の向きを変え、動かすことができるが、相手の脅威にはならない。
- 斜めのパスは、ゴールまでの距離を稼ぎ、相手の体の向きを変え、動かすことができるので、相手の脅威となる。
基本的に縦パスというのは、相手のプレスが緩い場合や質的優位がある場合は、そこから前進できますが、当てて落とすことがほとんどです。
W杯前までの森保ジャパンのパス回しは、この当てて落とすが基本でした。
しかし、この当てて落とす前進は、バレるととんでもないカウンターの餌食になってしまいます。
何故なら当てて落とす先が分かってしまうと、対応されやすくなるからです。
そうならない為にも斜めのパスの選択肢を相手に突き付けておく必要があります。
まとめ
CrecerFAの判断基準を使って、ボールポゼッションをしながら前進ができない理由について、解説してきました。
ボールを失う理由は、ポジショニングや体の向きが悪いため、ボールの行きつく先が予想しやすくなっている事、追い込みやすくなっている事が原因です。
ポジショニングや体の向き、相手の脅威となる斜めのパスなど、様々な要素を加えることで解決できます。
特に、位置的優位や数的優位を活かして前進すること、プレーオプションを増やすポジショニングと体の向きの重要性、そして段階的サイドチェンジによるカバーへの対応などがポイントとなります。
また、同レーンでのプレーが多い日本チームの課題も指摘しました。
ただ、これが悪いわけではありません。
単にCrecerFAの考え方からすると、改善するポイントであるというだけです。
ボールポゼッションをしながら前進する為には、これらの要素を意識し、トレーニングや戦術の改善に取り組むことが求められます。