2024-12

2010・11・11(木)飯守泰次郎指揮東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

   東京オペラシティコンサートホール  7時

 飯守&シティ・フィルが展開中の「ベートーヴェン交響曲全曲シリーズ」――イーゴリ・マルケヴィッチによる校訂版使用――の、今夜は第3回。「第1番」と「第3番 英雄」が取り上げられた。
 それに先立ち、「レオノーレ」序曲第3番も(これはマルケヴィチ版ではない)。

 このシリーズ、注目はしていたのだが、漸く今回初めて聴くことができた。
 私は、マルケヴィチの校訂楽譜そのものを見ていない。それゆえ詳細を知る機会を得ないし、どこまでが「マルケヴィチ」で、どこからが「飯守」なのかも――如何なる演奏においても、指揮者自身の「解釈」は必ず混じって来るからである――確定的なことは解らない(註1)。

 だが、とりあえず今日の演奏を聴いて確認できたのは、スタッカートや錘点(楔)の区別が非常に明確であり、全曲が著しくリズム性に富み、尖ったメリハリのある演奏になっていることだ。
 随所に付された明快なアクセントは小気味よいほど強く、音楽をきわめて躍動的なものにしている。それを念頭に聴いているだけでも、興味津々、スリルを覚えるほどである。

 もっとも、その特徴にだけ関して言えば、新ペータース版やベーレンライター版などの楽譜が登場した時に、私たちはすでにそれらを体験済みだ。
 むしろ注目すべきは、それ以前の時期――1983年に他界したマルケヴィチが、いち早くそれらを含む問題点を考察したスコアを作っていた、ということであろう。

 スタッカート以外にも、おそらくもっと多くの興味深い問題が提起されていることだろう。
 第4楽章冒頭、第1主題がまずピチカートで登場したあと、木管が合いの手を入れながら繰り返される個所(第20~27小節)で、弦はピチカートでなく、アルコで演奏された。意外だったが、しかしこれは以前にも、誰かの指揮で聴いたような気がする(註2)。
 ただ、第1楽章最後の頂点でのトランペットは、主題を最後まで吹き切るという「伝統的な慣習」が相変わらず採られていたが、これは「マルケヴィチ」なのか、「飯守」なのか?(註1)

 飯守の情熱的な指揮のもと、シティ・フィルも見事な演奏をしていた。特にオーボエの1番奏者は素晴らしい。すこぶる聴き応えのある演奏であった。
 私個人の好みからすれば、前夜のプレートル&ウィーン・フィルによるトラディショナルな「英雄」よりも、今日のこの角張った「英雄」の方が興味深い。

 終演後、飯守泰次郎氏の叙勲(旭日小綬章)祝賀パーティが、ホールの2階ホワイエで行なわれた。

(註1)後日、有名な個人旅行エージェントの方から、出版譜をお借りすることができた。面白い校訂が山ほどある。「英雄」第1楽章最後の「トランペットの件」はマルケさんの校訂ではなく、飯守氏の考えであることが判明。

(註2)コメントを頂戴しました。ありがとうございます。

コメント

第四楽章のアルコのこと

録音だと、カイルベルト/ハンブルグ国立管弦楽団が同様に演奏しています。ずっと昔、実演かFM放送か、記憶が定かではないのですが、岩城宏之の指揮でも聴いた覚えがあります。そのような流儀があるんでしょうか?

「伝説のクラシック・ライブ」拝読しました。カトレーンのエピソードがが最高に楽しめました。

東条さんも、2年前の庄司を聴いていたのですね。あれはキリっとした若々しい演奏でしたね。この前の彼女は、「女」を感じさせるような部分が多々ありました・・・。どんな音楽家になるのだろう?

エロイカの楽譜の指摘。↑すごい人がいるもんですね。

ところで・・・飯守氏は、同曲異版の「展示会」をいつまで続ける気でしょうか。学者ではなく指揮者なのですから、いい加減、信念に基づいた仕事をしてほしいものです。それでダメなら、仕方ない。日本ではダメ指揮者ほど「初稿」や「版」に拘る。しかも演奏はルーティン。芸術とはそんなものだろうか?

日本人で、朝比奈のような指揮者はもう出て来ないのでしょうか?
プレートル&ウィーンPOはあれほど自由自在だったのに!

アルコの件

ワインガルトナー&ウィーンのSP録音もアルコでした。

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