2024-12

2024・12・13(金)尾高忠明指揮大阪フィル ブルックナー「8番」

      ザ・シンフォニーホール  7時

 尾高忠明が大阪フィルを指揮してブルックナーの「交響曲第8番」を演奏するのは、彼が音楽監督に着任した最初の定期演奏会(2018年4月)以来、これが2度目になる。
 大阪フィルでこの曲を指揮できるのは、その音楽監督あるいは首席指揮者などのシェフに限られる、という不文律があり━━これはこの曲に不滅の名演を残した故・朝比奈隆氏への敬意に基づくものだ━━事実、朝比奈氏以降にこの曲を指揮したのは第2代音楽監督の大植英次(2004年、2012年)、首席指揮者の井上道義(2015年)、そして第3代音楽監督の尾高忠明のみなのである。

 今回の尾高と大阪フィルの「8番」(ハース版)は、明らかに6年前の演奏の時と違い、何か一種の魔性的な力をより強く感じさせるものだったと言っていいだろう。
 尾高特有の緻密で整然たる構築性はもちろん今回も失われていないが、それ以上に凄まじいほどの強靭さが目立っていた。

 第1楽章終結近くの最強奏の中で音楽全体を押し上げて行く低弦のトレモロの底力、あるいは第2楽章スケルツォの同一音型反復の中における強烈なアクセント。そして第4楽章で繰り返される最強奏個所それぞれにおける巌の如き剛直な「決め」。こうした個所の演奏には、まるで往年の朝比奈時代の大阪フィルにも似た豪壮雄大な気宇さえ感じられたのだった。

 大阪フィルも、まさに渾身の演奏だったのではないか。第1楽章あたりでは、何かまだアンサンブルに落ち着きのなさというか、座りの不充分さが感じられていたのだが、第4楽章の第2主題の中で弦が一瞬フォルティッシモになった瞬間(ハース版総譜第85小節)の瑞々しく厚みのある音の美しさには、ハッとさせられたほどである。
 この第4楽章全体の充実度は、私がこれまで聴いた国内のオケの演奏の中でも、もしかしたら最高のもののひとつだったかもしれない。

 演奏に漲っていたアクセントの強烈さに鼓舞され、興奮していたお客さんも多かったようである。私の前に座っていた初老の男性など、要所の「決め」のたびにそれに合わせて頭を振り、ノリまくっていたが、演奏が終るとブラヴォーを絶叫し、おまけに「ヴンダーバー! ウォーッ! ワーッ!」などと声を限りに喚き続けていた。些か騒々しいが、私は微笑ましく見ていた(びわ湖ホールでもこれと同じような叫び声を上げている人がいるが、もしやこの人だったのか?)。

 尾高忠明と大阪フィルの畢生の名演。聴きに行った甲斐があった。コンサートマスターは須山暢大。(☞インターネット「クラシックナビ」速リポ

コメント

尾高/大フィル

尾高/大フィル音楽監督になられてから初でした。朝比奈。大植両氏の8番は聞いているが井上氏はショスタコのみ。今回20分前に2階の男のトイレが並んでいるのが驚きの現象。演奏は東条先生の言われる通り素晴らしいものでした。
特に3楽章のピアニッシモから立ち上がる主題の精妙さに感嘆、終楽章私の周囲の人もノリノリでした。精妙さはこのホールならではのものだったかも。ハース版で4楽章のヴァイオリンソロが胸にしみる(私の席では見えなかったのだが)4楽章コーダの金管の合いの手が弱かったのが残念でしたが行ったかいがありました。(ベーム/ベルリンフィルのライブ録音ではこの場所よく聞こえている)
コンマスのヴィオリンソロはハース版のごちそうですがこれが第一稿からきているのを東条先生のプログラムで知った次第です。

特別な曲で、素晴らしい演奏

大フィルのブルックナー8番を聴くのは、朝比奈隆指揮以来です。
大きなフェスティバルホールで最後列まで響かせるため、また朝比奈の薫陶から、大フィルの音量には定評があるということで、冒頭からしっかりした骨太の演奏で、沸き立つ気分になります。
第2楽章の中間部の、死者を悼むような美しい旋律をゆっくりめのリズムで演奏していく辺りでは、鳥肌が立ちました。
第3楽章もゆっくりめで、じっくり聴かせてくださり、最後の再現部での美しさは、いつまでも聴いていたい陶酔感に浸りました。
フィナーレも圧巻、力強い演奏で実に見事でした。最後の三音も朝比奈を彷彿とさせ、ブラボーの声も唸りような、腹の底から出てきたようで、聴衆の感銘を物語っていました。
1994年7月の朝比奈隆大阪フィルのブル8を故郷の前橋で父親と聴いたときには、震えるような感動だったことを覚えていますが、この日も素晴らしい演奏でした。
ブルックナーイヤーで、8番のシンフォニーも第1稿を聴くことができましたが、第2楽章のテーマが、レコード針が飛んでいるように繰り返されるのや、第3楽章の盛り上がったときのシンバルの3連発(ショスタコーヴィチの先駆け?)など、趣を削ぐような動きにはびっくりしましたが、ここへきて尾高大フィルのハース版で溜飲が下がった思いです。
先の1994年7月の演奏はCDになっていて持っているのですが、東条先生のレビューを読んで、その宇野功芳氏の解説を彷彿とし、改めてじわじわ感動が呼び覚まされた気持ちになりました。

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