それで、当該エントリをアップしたときになかった動画(8年前にアップ)を発見したので、載せようと思った。David Lee Rotuが本格的に劈掛門(Pekkwar)を練習、演舞している動画で、先に紹介した通り、Kung Fu Tai Chiのアカウントだ。Rotuの中国武術の稽古が、PVで垣間見せたレベルのものを凌駕していて、本格的なものであったのがわかる。
ところで「八極に劈掛を参ずれば 神鬼も怕れる 劈掛に八極を参ずれば 英雄嘆くも及ぶ莫し」という言葉が、武術コミックや武術雑誌で紹介されたことがあって、八極拳とともに武術雑誌でこの言葉も取りあえげたりされるようになった。まあこの言葉については過剰に受け止めた日本の中国武術マニアを見ていて、老師の一人が、「そんなん何でも八極加えたらすげーみたいな話にしたら、武術の学びや理解として問題があるから注意しなさいよ」って戒めたくらいだったから、当時、良くない影響もあったのだと思う。ゲームのウェポンや課金みたいに考えたらだめなのである。
劈掛拳はその独特の歩法と肩関節の高い自由度により振り回される掌打、拳撃は一般の打突系の武術に比べ、想定外のロングレンジからの攻撃をも可能とし、変化に富み、超接近戦を得意とする(決して遠間を苦手とするわけではない)八極拳と組み合わされて死角なしの完全体となるという話だ。因みに翻子拳などもそうだけれど、振り子のように振る腕が拳撃=ストレートパンチにもなる理由は、多分、拳撃の理路を理解していないと無理だと思う。理想的なものは、垂らした腕にナイフを持ち、腕を曲げず90度振り上げるように打ち込める。切り上げにならない打突となり、質的にもとても速い。
実際には、それに「双拳の密なるは雨の如く、脆快なること一挂鞭の如し」の翻子拳の融合体として完成されている。八極拳は、強力な門派が中国各地にあるが、その名家、通備門武術のお家芸となっている。
一つ重要な点として、先のエントリのロスが使っている腿法(蹴り技)は長拳系の基礎腿法であり、おそらく中国武術のベーシックとして学んだ技であるという部分だ。ここに貼った動画は、劈掛拳そのもので、PVに出てくる腿法とは、別のものである。
中国武術を学べるような道場は、クラスが複数に分かれ、複数の門派を教えるところは普通にあるだろうし、長拳は基礎トレーニングやベーシックとして普通に学ぶことも多い。彼の受けたプログラムがそうなっていたとしても不思議ではない。通備門にももちろん強力な腿法=蹴り技はあるが、これもまた今ではインスタやyoutubeで数ダース目にすることができるのにちょっと軽い目眩を覚えるけど、アプリケーションとしては戳脚という技の体系であり、およそ長拳系のそれでは絶対に目にすることができない技とその運用である。
伝統拳も今はすごいことになっている。自分の頃は練習も闇夜にまみれて人に見せないこと、が鉄則であった。秘匿主義では門派の人的資源も伝承も潰えるし、欧米格闘技の強さのパフォーマンスにボコボコにされる明後日の中国武術の達人(あんた誰?)の動画による風評被害から守る必要も出てくる。白兵戦に使えるコアテクは、中国政府の管理下にもあり、公開せずにある程度分かりやすい情報を出していくのはもはや普通の路線になった。
ってことまで書いておきたかった。長くなってしまった。動画、貼りたくても2つ以上、貼れないからまた次だなって思っている。
実は、ここまでが枕話であり、本当に書きたかったことは、Rothが空中を飛び行っている擺脚だが、およそ実戦の技とは遠いと思われていた擺脚と類似する空手の技が今は、試合でも主要ウェポンの一つになっていることと、本来の中国武術的な擺脚の用法と、なぜ日中どちらでも伝統武術において、本の最近まで回し蹴りが一般化しなかったのか、という話につなげようと思っていたのだけれど、本日はここまでにしとうございます。
バートン版の『千夜一夜物語』(日本語訳)では、シェヘラザードはどう、話を終わらせていたか、急に気になったけど、実家に戻れば全巻があるが、忘れた。
私が庭で稽古するときに、チコがパトロールから戻ってきたり、彼が忙しくないときには、時々こんな感じで、私を眺めていた。もうそういう光景は失われてしまったのだが、彼の白い胸の毛とその匂いはいまだに忘れることはない。生成AIの猫は、香りまでの再現は、今のところ多分無理で、脳をハッキングしてなんとかするしかないだろう。