「股関節」が原因で腰痛が起きることがあります。知っていましたか? 書籍『すごい股関節 柔らかさ・なめらかさ・動かしやすさをつくる』を出版した、日本を代表するフィジカルトレーナーである中野ジェームズさんに、どうして股関節が原因で腰痛が起きるのか、どうすれば対策できるのかを動画付きで教えてもらいました。(日経Goodayより転載 第1回)

なぜ股関節が原因で腰痛が起きるの?

 上半身と下半身をつなぐ「要(かなめ)」である股関節には、日頃から大きな負荷がかかっています。この股関節に問題が生じると、腰が痛くなる場合があることをご存じでしょうか?

 股関節は、体の重さを支えるだけでなく、6つの方向に自由に動く特性を持っています。そのため、複雑な構造になっていて、23もの筋肉で支えられています。

 その筋肉の中には、大腿四頭筋や、ハムストリングス、大殿筋といった下半身の大きな筋肉が含まれますが、それだけではありません。股関節の奥のほうには、小さな筋肉がいくつもあって、股関節がさまざまな方向へ動くよう働いています。

 そうした小さな筋肉に不具合が生じることで、腰が痛くなることがあるのです。しかも股関節の奥のほうにあるだけに、対策も少しやっかいです。

 それでは、股関節の奥のほうにある筋肉とは、どのようなものなのか、イラストで見てみましょう。

股関節の奥のほうにある「外旋六筋」
股関節の奥のほうにある「外旋六筋」
(中野ジェームズ修一著『すごい股関節』より。イラスト:内山弘隆)

 お尻の大きな筋肉である大殿筋のさらに内側には、「外旋六筋(がいせんろっきん)」と呼ばれる6つの筋肉があります。

 名前を挙げると、梨状(りじょう)筋、内閉鎖(ないへいさ)筋、上双子(じょうそうし)筋、下双子(かそうし)筋、大腿方形(だいたいほうけい)筋、外閉鎖(がいへいさ)筋の6つで、いずれも一般にはあまり知られていません。

 これらの筋肉は、太ももを外側にひねる「外旋」という動きと、太ももを内側にひねる「内旋」という動きのために作用します。

 6つの筋肉が仲良く、スムーズに働いてくれるといいのですが、誰かが主張しすぎたりサボったりすると、一部にかかる負荷が大きくなってしまいます。サボってばかりの筋肉はどんどん弱くなり、働きすぎる筋肉はどんどん硬くなり、その結果、股関節の動きが悪くなったり、違和感や痛みが生じたりします。

 中でも硬くなりやすいのが、外旋六筋で最も大きな筋肉である梨状筋です。しかも面倒なことに、梨状筋の下には坐骨神経が通っており、筋肉が硬くなると坐骨神経を圧迫するのです。これを「梨状筋症候群」といい、腰痛の正体が実は梨状筋症候群だというケースも多いのです。

ウォーキングや登山をよくやると筋肉が硬くなる

 梨状筋症候群はランナーによく見られる症状の1つですが、普段からよく歩く人、ウォーキングを毎日する人、ハイキングや登山が趣味という人も要注意です。

 足を着地させるとき、バランスを保つために股関節の外旋・内旋の運動が必要になります。特に整地されていないデコボコの道を歩くときは、股関節を外旋・内旋させてグッと力を入れなければなりません。

 こうして外旋六筋が働きっぱなしの状態になると梨状筋が硬くなるので、ストレッチなどでほぐしておくことが大切なのです。

 また、長い時間座りっぱなしで腰が痛い人も、梨状筋が硬くなっているかもしれません。つまり、梨状筋は、使いすぎで硬くなることもあれば、使わなさすぎで硬くなることもあるのです。

 梨状筋などの外旋六筋をほぐすには、「モビライゼーション」という運動を行います。やり方は簡単です。床に座り、両手は体の後ろにつき、両脚は前に伸ばし、上半身の力を抜きます。両脚を付け根から内側、外側交互にユラユラと動かし、これを30秒程度続けます。次に、片方の膝を曲げて横に広げ、もう片方の脚だけを前に伸ばし、内側、外側と交互にユラユラと動かします。30秒程度続け、左右反対側も同様に行いましょう。

モビライゼーション
※正面から見た映像と斜めから見た映像をお届けします

 ポイントはなるべくリラックスして行うことです。自宅でテレビを観ながら行うイメージで、おなかの力も抜きます。片脚だけのモビライゼーションでは、曲げた脚の側の骨盤が固定されることで、もう一方の股関節を効果的に動かせます。

股関節の奥のほうの筋肉を伸ばす

 モビライゼーションだけでは梨状筋の硬さがとれない場合は、「インターナルローテーション」というストレッチを行います。これは、やり方が少し難しいストレッチですが、強い力で股関節の奥のほうの小さい筋肉を伸ばすことができます。

インターナルローテーション
※正面から見た映像と斜めから見た映像をお届けします

 まず床に両脚を開いて座り、片方の足のかかとを股間に近づけ、もう片方の足はお尻の後ろに持っていき、手で足首あたりを持ちます。息を吐きながら、手でつかんだ足を上へ引っ張り、30秒程度キープします。その後、床に戻し、これを5~10回繰り返します。

 ポイントは、足を引っ張る際に、大腿骨を根本から回すイメージで行うことです。足の裏を天井に向けるように動かすとうまくいくでしょう(少しでも痛みを感じたら無理に行わないようにしましょう)。

腰痛の原因が股関節の問題であるケースも多い(写真:maru54/stock.adobe.com)
腰痛の原因が股関節の問題であるケースも多い(写真:maru54/stock.adobe.com)

日経Gooday(グッデイ) 2024年11月13日付の記事を転載/情報は掲載時点のものです]

なかなか治らない腰痛、歩いたときの脚の違和感・こわばり、体の柔軟性不足、姿勢の悪さ……これらの悩み、原因は「股関節」にあるかもしれません。人は股関節から老いていく。そう言っても過言ではありません。一方で、「股関節ほどすごい関節はない」と著者の中野ジェームズ修一さんは断言します。股関節のしくみを理解すれば、どのような運動をすればよいかがわかり、自分で自分の体をよくしていくことが可能です。オリンピック選手やメダリスト、青山学院大学駅伝チームなどのトップアスリートから信頼され、一般の生活習慣病・ロコモ対策も指導する、日本を代表するトレーナーである著者が、実際に現場で行っているメソッドを余すことなく紹介します。

中野ジェームズ修一著、日経BP、1760円(税込み)