老人党リアルグループ「護憲+」ブログ

現憲法の基本理念(国民主権、平和、人権)の視点で「世直し」を志す「護憲+」メンバーのメッセージ

緊急事態条項の危険性の生きた例示(トルコ政治)(2)

2016-07-26 22:22:29 | 民主主義・人権
では、トルコクーデター未遂の原因と結果。それ以降のエルドアン政権の強権的弾圧を見ておきましょう。

●クーデターの原因
・トルコ軍部はエルドアンのいうことを素直に聞かない。⇒建国者ケマル・アタチュルクの建国理念である世俗主義理念を維持したいと考えている。
・エルドアン大統領は、イスラム主義の強い法律を押し付け、メディアをコントロール下に置いている。オスマン・トルコ帝国の復活を狙っている⇒建国理念(世俗主義)に反している
・軍部(一部)は大統領の排除が必要だと考えて行動した。
・トルコでは、クーデターは珍しい事ではなく、何回も起きている。
などの理由が囁かれています。ただ、クーデターが失敗した現在も、本当の首謀者が誰だかはっきりしないところに、不可解さがあります。エルドアン大統領の自作自演ではないかと憶測されるのもそこのところに原因があります。

●クーデターの経緯(時系列)
(1)2016年7月15日夜。トルコ軍の一部が、ボスボラス大橋、ファースティフ・スルタン・メフメト橋を部分的封鎖。
首都アンカラ⇒軍用機で低空飛行。イスタンブール・アンカラの路上に兵士が展開。
アタチュルク国際空港(イスタンブール)の周辺に戦車が展開。国際空港に着陸予定の航空便はキャンセル。

(2)反乱勢力⇒フルシ・アカル参謀総長(軍のトップ)を拘束。
当日、エルドアンは休暇のため、リゾート地マルマリスに滞在。反乱勢力のリーダーたちは、攻撃を決定。反乱部隊25人が3機のヘリコプターに分乗。エルドアンの滞在するホテルに乗り込む。⇒彼らの到着数分前に大統領特別治安部隊により、エルドアンはホテルを脱出。別のホテルにかくまう⇒その直後、反乱部隊によりホテルは爆破される。
アルマリスの現地警察+大統領特別治安部隊⇔反乱部隊 との間で銃撃戦。⇒反乱部隊退散。
エルドアンはダラマン空港からビジネスジェット機でイスタンブールに向けて出発。⇒反乱勢力のF16戦闘機2機に妨害を受けるが、ミサイル攻撃は受けなかった。

(3)祖国平和協議会と名乗る反乱勢力が、TV、メールなどを通じて権力を掌握したと宣言。自らを国軍の上に立つ存在であるとアピール。クーデターの目的を「トルコにおいて憲法による秩序や民主主義、人権、自由といった価値観を保証し、回復させ、最高法規をトルコ全土にまで行き渡らせ、崩壊した秩序を回復させるために実行した」としたほか、「トルコがこれまでに締結した全ての国際的な合意や責任は引き続き有効であり、全世界の国家との友好関係が保たれることを希望する」とした。
さらに祖国平和協議会は、TRTに押しかけ、放送中の天気予報を中断させ、職員を後ろ手に縛り質問を禁じた後、数人を残して密室へと連行し、残ったアンカーウーマンであるティジェン・カラシュを銃で脅しながら声明文を読むよう強制した。(これは日本でも放映された)

(4)イスタンブールに向かったエルドアンは、スマートフォンのテレビ電話アプリを利用。CNNトルコに出演した。エルドアンは国民に対し、クーデターは成功しないとし、広場や空港に集まるよう呼びかけ、トルコ政府は、これは軍の一部が指揮系統から外れ、民主的に選出された政府を打倒する試みであり、トルコの民主主義に対する攻撃であるとした。反乱勢力の声明は軍司令官の承認を受けたものではないと指摘。トルコ政府は世界に対し、トルコ国民との連帯を求めた。

(5)16日夜明け前、アタチュルク国際空港に到着したエルドアンは記者会見を行う。一連の政権転覆の試みはイスラム説教師のフェットフッラー・ギュレンを支持する一派によるものであるとした。また、反乱勢力に関わった兵士らの拘束を開始していると宣言した。
しかし、反乱勢力は抵抗をやめず、午前6時半前に軍用機でアンカラにある大統領府付近で空爆を実施。数発の爆弾は大統領府の建物をわずかに外れ着弾。この攻撃により、多数の市民が負傷、逆に正規軍は反乱勢力が大統領府外に展開した戦車に対し、F16戦闘機による空爆を実施。また反乱勢力が衛星通信施設への攻撃に使ったヘリコプターは、正規軍によりアンカラのゴルバシで撃墜。

(6)ユルドゥルム首相、情報機関MITの報道官がNTVテレビに対し、クーデターは失敗したとの見解を表明。16日正午前、参謀総長代行がクーデターの失敗を宣言し、反乱は12時間足らずで鎮圧された。

以上、かなり詳細にクーデターの進展を見てきました。この通りなら、エルドアン大統領は、よく生き残ったな、と思います。特に、エルドアン大統領がダラマン空港からビジネスジェット機でイスタンブールに向けて出発した際、反乱勢力のF16戦闘機2機に航路妨害を受けるが、ミサイル攻撃は受けなかったという話は、相当眉に唾をつけて聞かなければならないと思います。

反乱軍にとって、エルドアン大統領を拘束するか、殺害できれば、クーデターは8割成功したと同じです。その機会をみすみす逃すなど常識では考えられません。この一事をもってしても、今回のクーデターの黒幕が誰かについて疑いがもたれるのは、仕方がないと思います。それはそれとして、次に何故クーデターが失敗したかを見ておきましょう。

●クーデターの失敗の原因
このクーデターが、エルドアンの自作自演ならば、失敗して当然なので、原因の考察の必要はありません。あくまで、そうではない事を前提に考えて見ましょう。
【失敗の原因】
•クーデター計画の準備不足
•軍全体で起こしたクーデターではなかった。
•国際社会の支持を取り付けることができなかった
•国民の支持を得られなかった

反乱勢力の計画がかなり杜撰だった理由は、クーデター計画が事前に漏れる恐れが出て、計画を早めざるを得なかった、と言われています。さらに軍全体の支持が意外に得られなかったため、一部の蜂起に留まった点が挙げられます。

同志社大学の内藤教授はこの点を重要視して、日本の2・26事件との類似性を指摘しています。
また、米国・日本・ドイツ・英国・ロシアなどの支持を得られなかった点も誤算だったとされています。

●異なる見解 ;米国陰謀説
F. William Engdahlという評論家は、CIA主導の陰謀説を唱えています。・・「絶望的なクーデター未遂事件の背後にCIAの陰謀」・・
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2016/07/cia-e027.html
その中で彼は、エルドアンが今回のクーデター未遂事件の黒幕として名指しをし、米国に身柄引き渡しを要求したギュレンについてこう述べています。
※注⇒文中のWEとは、William Engdahを指しています。

「Q: 軍のこのような動きの本当の理由は何だと思われますか?

WE: 軍内のフェトフッラー・ギュレン運動に忠実な将校のネットワークです。ギュレンは、100%CIAに管理されている工作員です。彼は、ペンシルバニア州のセイラーズバーグで、長年亡命生活を送っており、グラハム・フラーのような元CIA幹部や元駐アンカラ・アメリカ大使らから、安全な通行と、永住ビザも得ている。

ギュレンは、政治的イスラム教徒を、政権転覆の道具として利用するという、何十年もの歴史をもったCIAの狂った計画の核でした。
2013年に、イスタンブールや到るところで、反エルドアンの大規模抗議行動がおこなわれたのを想起してください。あの時、以前はエルドアンのAK党と結んでいたギュレンが袂を分かち、ザマンなど、ギュレンが支配するマスコミで、エルドアンを暴君と批判したのです。

それ以来、エルドアンは、ザマン紙や、ギュレンが支配する他のマスコミへの襲撃を含め、国内の最も危険な敵、ギュレンとその友人連中の根絶に向けて動いています。これは、善の救済者対悪のニーベルの戦いではありません。トルコ政治における権力闘争です。ギュレンCIAプロジェクトの詳細に興味がおありなら私の著書、The Lost Hegemon (ドイツ語版: Amerikas Heilige Krieg)をお勧めします。」・・

さらにエルドアンの外交政策の変更が大きな要因だと指摘して、以下のように述べています。

・・・「今、興味深いのはエルドアンの外交政策です。ロシアとの和解、ギリシャ国境までの、ロシア・トルコ・ストリーム・ガス・パイプライン交渉再開。同時に、エルドアンは、ネタニヤフとも和解しました。そして、最も重要なのは、エルドアンが、関係再開のためのプーチンの要求に応じて、トルコは、シリア国内での、ダーイシュや他のテロリストへの秘密支援や、トルコ国内での彼らの訓練、連中の石油の闇市場における販売などによる、アサド打倒の取り組みをやめることに同意したことです。(彼が、ジョージ・W・ブッシュやクリントンと、このタイトルを巡って激しい競争を展開しているとは言え)おそらく、アメリカ史上最も無能な大統領オバマにとって、これは大きな地政学的敗北です。」・・・

F. William Engdahlは、今回のトルコのクーデター事件をウクライナでのCIAの工作と同様なものだと指摘しています。米国の世界戦略の躓きが、大きな要因であると指摘しているのです。

ロシアのプーチン大統領が、もしクーデターが成功した場合、エルドアン大統領の亡命を受け入れると発言したのも、上記のような背景なら頷けるのです。つまり、エルドアンが米国一辺倒の政策を転換し始めたのが原因で今回のクーデターが計画された、という解説です。

事ほどさように、国際情勢は複雑で一面的解釈だけで、物事の真相は見えません。だからこそ、専門家(事実を正確に把握し、事実のみに基づいて、事の深層を明らかにできる)がきわめて大切になります。

日本メディアが駄目なのは、常に政権の意向(西側メディアの口移し)がバイヤスになったきわめて偏向した記事しか配信できない点です。今回のトルコクーデターは、世界の地政学的大転換を示唆している大事件です。西側メディアの言い分だけを垂れ流していて良いはずがないのです。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
流水

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第二次日中戦争は不可避 (ローマ人)
2016-07-27 00:13:43
恐ろしいタイトルであるが、最近の都知事選を見ているとありえる話である。当初自公が二つに割れ、野党は統一候補を立てた。その時点では鳥越候補の圧勝と思われた。その後、新聞、テレビ、週刊誌がすべて、鳥越候補をバッシングし始めた。今や鳥越候補は3位という。この調子でやられたら、憲法の改正(改悪)も戦争の開始も自由自在である。

ところが、自公がいかに頑張っても日本の消費は増えない。大企業中心に国民に10兆円がばらまかれても、消費ではなくて預金すると、海外の研究機関は見ている。日本の景気がよくないから、将来不安のために預金するというわけである。経済学者によれば、ヘリコプターマネー、赤字国債の無尽蔵な増発をすれば、日本経済はやがて崩壊するという。

自公政権がいかに旗を振っても、効果があるのは、カネで買収されたマスコミだけだということである。なぜ自公政権は国を滅ぼしかねない金融緩和をいつまでも続けるのだろうか。先を見る目もないし、アメリカFRBの言うままに、アメリカ経済が助かれば、日本経済がどうなっても構わないと思っているのか。

おそらく、日本経済の崩壊も、第二次日中戦争も不可避であろう。今だけ栄光のアベ一派も、先は永遠の苦悩にさいなまれることになる。ただしアベ一派に良心があればの話である。

日本の全マスコミが自公を応援すれば、野党が団結しても何ともならないというのが、私の個人的な見解である。あとは、経済崩壊、戦争による破たんの後で、それを推進した者たちの責任追及である。それさえできなければ、日本は永久に救われない国になる。

南沙諸島問題は二国間で協議することを中国・フィリピンで合意しているから中国外相が米国にサポートしてくれと依頼したとのニュースもあった。日本国内では中国は悪者扱いであるが、アジアの中では日本が孤立している。

日本国内でプロパガンダ戦略が成功しても世界の中ではままならないことが示されている。経済も政治も日本国民を無視したやり方だから、静かに衰退する日本のほうが、世界に迷惑かけないだけいいのだ。

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