AFPによると、イスタンブールから春日芳晃氏は以下のように報じています。
(1)【7月21日 AFP】
トルコで先週末に起きたクーデター未遂を受けた措置として、20日までに約5万人の公務員が拘束または解雇されたことが分かった。
現政権に不満を持つ軍の一部勢力による15日のクーデター未遂に関連してこれまでに身柄を拘束された人数は約9300人で、中にはクーデターの黒幕として国家反逆の容疑がかけられている将軍や提督118人の他、兵士、警官、裁判官らが含まれる。
また、20日のメディア報道によると、解雇された教育省職員は前日から約6000人増え、2万2000人に上った。さらに、私立教育機関の教員2万1000人が免許を剥奪され、今後教職に就くことが禁じられた。スポーツ省でも職員245人が解雇された。同国の高等教育協議会も教員や研究者の国外出張を禁止し、国外滞在者の早期帰国を求めている。
エルドアン政権は、クーデターの首謀者は米国在住のイスラム指導者フェトフッラー・ギュレン師だと主張しており、粛清されたのは同師との関係を疑われる人々とみられる。
(2)エルドアン大統領は、20日(日本時間21日)に国家安全保障会議と閣僚会議を開催。政府が事件の「首謀者」と主張する米国亡命中のイスラム教指導者ギュレン師と、トルコ政府がテロ組織に指定する同師信奉者の団体への対応を、閣僚や軍トップと協議。
その後の会見で、★憲法に基づいて「暴力事件の拡大および公共の秩序の深刻な混乱」を理由に、全土に3ケ月の非常事態を宣言。この間に「テロ組織関係者を全て排除するため」としている。
「非常事態宣言」を受け、大統領を議長とする閣僚会議は今後、国会の審議を経ずに法律と同等の効力を持つ政令を発布できるようになった。エルドアン氏は、新たに出す政令で事件後の混乱の早期収束を図るとみられる。また、政権が任命する各県知事も大幅に権限が強化され、軍に指示できるようになった。
(2)の「非常事態宣言」の具体的内容がきわめて重要です。具体的には、『大統領を議長とする閣僚会議は今後、国会の審議を経ずに法律と同等の効力を持つ政令を発布できるようになった』と言う事なのです。つまり、憲法に違反した内容でも何でも法令で対処できるのです。どんなに、基本的人権を侵害するような法令でも、通す事が可能なのです。おそらく、エルドアンは、『死刑復活』も非常事態宣言が有効な間にやってしまうでしょう。
しかも、この宣言は延長が可能なのです。非常事態宣言中の権力者ほど、自らの権力に酔いしれる人間は いないのです。それはそうでしょう。自分に逆らう人間全てを合法的に逮捕・粛清・排除できるのです。独裁ほど、権力者が権力者である事を自覚できるものはないのです。こんな素晴らしい権力行使の権限を簡単に手放す人間はそれほどいません。たいていの場合、非常事態宣言は延長されます。
フランスのような先進国でも延長しています。オランド大統領がエルドアンと同じとは言いませんが、彼をしても「戒厳令」の持つ権力集中の誘惑に打ち勝つのは難しいのです。
まして、そうでなくても強権的体質のエルドアン大統領です。間違いなく、『非常事態宣言』の解消は長引くと思います。
当然ながら、「非常事態宣言」で弾圧・粛清・排除される側の人々も多数存在します。トルコの事例を見ても分かるように、軍・警察・司法関係・教育関係・労働関係など多数の人間が逮捕・拘束され、解雇されて職を失っています。この数は数万人(5万人以上)に上るようです。この人たちの家族・親族・友人などを含めれば、膨大な数の人々がエルドアン政権に深い恨みを抱き、決して忘れないでしょう。
エジプトのムスリム同胞団の例を見れば良く分かります。エジプト軍がクーデターで、ムスリム同胞団政権を倒して以来、穏健派イスラムだったムスリム同胞団も過激化しています。エジプトの治安はなかなか回復していません。それと同じで、ギュレン派と呼ばれる集団は、元々世俗派で過激な行動はしません。しかし、これだけ強権的な弾圧をうけると、激しく反発する連中も出てきます。今後、彼らがこれからどう動くかによって、長期的に見れば、トルコ国内は、きわめて不安定化していく事は間違いないと思います。
トルコの問題は、米国・EU・ロシアなどの大国の思惑と、シリアをはじめとする中東問題など世界情勢と密接不可分に絡み合っているので、簡単にこれが正解だと言えないのですが、問題は、エルドアン大統領率いるトルコがどのような方向に進むかを正確に見定める事だと思います。
もし、今回のクーデターにCIAが関係しているとしたら、今後の米国とトルコの関係は、そううまくいかないはずです。当然ながら、対ISについても、大きな変化が出てきます。以前から何度も指摘してきましたが、ISの資金源、かれらが使用している最新武器は、そのほとんどがトルコ経由のものです。
米国が後押ししている穏健なシリア反体制派の実態は存在しないと言ってよいのです。トルコなどで訓練された穏健派シリア反体制派なる集団は、米国製武器を供与されてシリア国内に派遣されます。そこで、ISやムスラ戦線などの過激派に降伏。最新鋭武器ごとシリアでISやムスラ戦線で戦うのです。米国が過激派に武器供与しているのと結果は同じなのです。
公益財団法人・中東調査会の金子真夕(かねこ・まゆ)研究員は、スプートニック日本(旧ロシアの声)で以下のように指摘しています。
・・「米国は今のところ、ギュレン師がクーデターを主導したという明確な証拠がない限り、引き渡しには応じられないというスタンスを貫いています。この引き渡し問題が長期化すると、IS・イスラム国対策をめぐる情勢に大きい影響が出かねません。
現在の米国主導のIS空爆作戦はトルコの軍事空港を拠点にしていることもあり、トルコの協力が不可欠です。またトルコが長年抱えているクルド問題について米国とトルコは立場を異にしていま す。トルコは、反政府勢力のクルディスタン労働者党(PKK)と激しい戦闘を繰り返しています。一方、米国は対IS作戦において、PKKの兄弟組織である シリアのクルド民兵組織(YPG)を支援しています。トルコとしては絶対に、YPGを認めるわけにいきません。また、米国大統領選挙の行方も注視するべきです。もしトランプ氏が勝利することになれば、トルコに対してより強固な姿勢をとりかねず、関係が悪化する可能性があります。」・・・
国際的にはIS打倒を叫びながら、実際には、IS支援をしてきたのが米国です。米国にとって、シリア情勢が沈静化し、アサド政権がそのまま継続すれば、米国の中東政策に齟齬をきたすのです。ここが混迷をすればするほど、武器は売れ、産軍複合体は潤うというわけです。この種の二枚舌、三枚舌を使い分けるのが米国流戦略と言う事です。この米国戦略と歩調を合わせ、協力しながら、中東における影響力を強めてきたのがエルドアン政権です。
ところが、シリアにロシアが介入してから、情勢が一変しました。米国などが主導してきたシリアのIS拠点への空爆。空爆前にどこが空爆されるか、ISはよく知っていました。情報がどこからか漏れていたのです。だから、いくら空爆しても、あまり効果が出ませんでした。
それに反してロシアの空爆は、ISは事前に何も知らないのですから、非常に効果があります。ロシアが介入して以来、ISの勢力は細る一方になりました。イラクなどでは、イラク国内のIS拠点への空爆もロシアに頼めという意見が出るくらいでした。イラクの人たちは、米国とISがお友達などと言う事は常識として良く知っているのです。米国もあまり国際的信頼が落ちると、これからの中東政策に対して良い影響を与えないのは理解しているので、IS拠点への空爆を強化せざるを得なかったのです。だから、米国はエルドアンと交渉して、トルコ国内の基地へ米軍機を置き、そこから空爆し始めたのです。
正直言って、この情勢はトルコにとって痛しかゆしでした。エルドアン政権は、IS支配下の石油などをISから買いそれを売ってかなり儲けていたのです。(※エルドアンの息子が中心になっていたと言われています)この儲けがなくなるのは、非常に痛いのです。
さらに、シリア難民を国内に積極的に受け入れ、彼らをシリア国内に返し、トルコの影響下の地区をシリア国内につくるという狙いもうまくいかなくなります。EU諸国もなかなかトルコをEUに加盟させないし、かなりエルドアンはいら立っていたはずです。エルドアンにしてみれば、お前たちが始めた戦争で生まれた難民を預かっているのは誰だ、というわけです。
昨年のEU諸国への難民の流入は、トルコ政府のEU諸国への脅しの側面が強いのです。「トルコを大事にしないと、お前たちは困るだろう」というわけです。EU諸国は、何とか、難民の流入を止めないと、大変な事になるのです。トルコを何とかなだめすかししなければ、自分たちが困るというわけです。
ところが、トルコのエルドアン大統領は、米国やEUのやり口に業を煮やしたのか、ロシアのプーチン大統領と和解をしたり、米国とうまくいっていないイスラエルのネタニエフ首相とも手を結びました。これは、米国ネオコン派の連中にとっては、非常に困る選択でしょう。ウクライナ問題をだしにNATOとロシアを緊張状態に置き、中東でもロシアの影響力を削ぎたいネオコン派の戦略にエルドアン政権が邪魔になり始めたのだと考えられます。
ロシアのスプートニック日本(旧ロシアの声)はこう報じています。
・「ロシア外務省のマリア・ザハロフ報道官は、NATOは、トルコでの軍事クーデターを阻止するため働く代わりに、偽りの『ロシアの脅威』なるものに取り組んでいた」・・・・。
ロシアにとって、現在のNATOと米国の動きが如何に脅威かを示すコメントです。
少し考えればすぐ分かるのですが、旧東ヨーロッパ諸国にミサイルを配備すると言う事は、カナダに米国向けのミサイル基地を配備すると言う事と同じです。もし、そんな事になれば米国はどうするでしょう。かってのキューバ危機どころの騒ぎでは済まないはずです。
それを承知で行うという事は、対ロシアとの核戦争も辞さず、という事なのです。一体誰がそんな事を望んでいるのでしょうか。世界は、米国のネオコン勢力の脅威をもう一度考えなければならないと思います。米国やNATOなど西側メディアの報道だけではその真実は見えてきません。イラク戦争が良い例ですが、米国は、常に倒したい相手に【濡れぎぬ】を着せ、自らを正当化してきたのです。米国の言い分だけを無条件に信じるなどというのは、今や自殺行為に近いのです。
オバマ大統領にとっては、プーチン大統領は目の上のタンコブなのです。今年も、世界で最も影響力のある人物にプーチン大統領は選ばれています。オバマ大統領の前には常にプーチンが立塞がっていたのです。BRIC“S各国には、米国主導の経済制裁でかなりのダメージを与えました。ブラジルはほぼアウト。中国もかなり危うい。ロシアも経済制裁で国内はかなりダメージを受けていますが、国内世論はプーチンを支持して揺らぎません。ロシアのナショナリズムは強固なのです。
その為、アメリカは、あらゆるところでロシアの後塵をはいし続けているのです。米国にとって本当に不都合なプーチン大統領なのです。オバマ大統領にとって、不快極まりない存在なのです。ロシアという国家。腐っても鯛なのです。日本・豪州・EUのように、対米従属路線など死んでも取れないのです。
アフガン、イラン、イラク、リビア、エジプト、ウクライナ、シリア等々。米国の工作をことごとく失敗に終わらせている。KGBの伝統を持つロシアです。米国の諜報活動をきちんと監視していたのでしょう。
この問題が顕著に見えるのが、ウクライナ問題です。ヤヌコビッチ元大統領(選挙で選ばれた大統領)を追い落とすための工作を担当したのがヌーランド国務次官補です。彼は、ウクライナ野党の指導者や国内のNPO、NGOなどを支援し続けました。投入した金額は、日本円で1兆円だと言われています。結局、ヤヌコビッツ大統領が亡命し、政権は瓦解しました。
しかし、この騒動の裏側を冷静に察知していたプーチン大統領(元KGB)は、電光石火、クリミア半島を民意を背景に統合しました。しかも、ウクライナ南東部はいまだウクライナ政府の行政権が及んでいません。当初の米国の目論見は大きく狂っているのです。このようにプーチン大統領はオバマ大統領の一極支配の野望を阻み続けているのです。
おまけに、エドワード・スノーデンを亡命させています。彼がやった暴露は、NSA(国家安全保障局)による、同盟国である国々の政治リーダーや企業の情報を盗聴していた事実です。これを知った世界は、驚きました。米国は謝罪と釈明に追われたのです。ウィキリークスとはニアンスが異なりますが、米国にとって、アキレス腱を攻められていると同じでしょう。とにかく、米国にとってロシアは憎いのです。
しかし、冷静沈着、感情に走らず、抑制的な手段を講じるプーチン率いるロシアの影響力は増すばかりです。イラン、エジプト、ウクライナ、シリアは、アメリカ一国主義から離れつつあります。最近では、トルコ・エルドアン大統領までが、反NATO、親露方向に動いているようです。
これが、今回のトルコのクーデターにつながっていると考えられているのです。上記に書いた米国のやり口を子細に検討すると、今回のクーデター未遂。エルドアン独裁体制確立は、世界の地政学的分岐点になる可能性が高いのです。ただ、その方向転換が、『非常事態宣言』の常態化のような手段でしか維持できないとすれば、まだまだ不安定な世界情勢が続く事になるでしょう。
さらに、トランプにしろ、ヒラリーにしろ、強いアメリカを標榜しなければならない訳ですから、ウクライナ情勢、シリア情勢、トルコ情勢などまだまだ余談は許せないと思います。
「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
流水
(1)【7月21日 AFP】
トルコで先週末に起きたクーデター未遂を受けた措置として、20日までに約5万人の公務員が拘束または解雇されたことが分かった。
現政権に不満を持つ軍の一部勢力による15日のクーデター未遂に関連してこれまでに身柄を拘束された人数は約9300人で、中にはクーデターの黒幕として国家反逆の容疑がかけられている将軍や提督118人の他、兵士、警官、裁判官らが含まれる。
また、20日のメディア報道によると、解雇された教育省職員は前日から約6000人増え、2万2000人に上った。さらに、私立教育機関の教員2万1000人が免許を剥奪され、今後教職に就くことが禁じられた。スポーツ省でも職員245人が解雇された。同国の高等教育協議会も教員や研究者の国外出張を禁止し、国外滞在者の早期帰国を求めている。
エルドアン政権は、クーデターの首謀者は米国在住のイスラム指導者フェトフッラー・ギュレン師だと主張しており、粛清されたのは同師との関係を疑われる人々とみられる。
(2)エルドアン大統領は、20日(日本時間21日)に国家安全保障会議と閣僚会議を開催。政府が事件の「首謀者」と主張する米国亡命中のイスラム教指導者ギュレン師と、トルコ政府がテロ組織に指定する同師信奉者の団体への対応を、閣僚や軍トップと協議。
その後の会見で、★憲法に基づいて「暴力事件の拡大および公共の秩序の深刻な混乱」を理由に、全土に3ケ月の非常事態を宣言。この間に「テロ組織関係者を全て排除するため」としている。
「非常事態宣言」を受け、大統領を議長とする閣僚会議は今後、国会の審議を経ずに法律と同等の効力を持つ政令を発布できるようになった。エルドアン氏は、新たに出す政令で事件後の混乱の早期収束を図るとみられる。また、政権が任命する各県知事も大幅に権限が強化され、軍に指示できるようになった。
(2)の「非常事態宣言」の具体的内容がきわめて重要です。具体的には、『大統領を議長とする閣僚会議は今後、国会の審議を経ずに法律と同等の効力を持つ政令を発布できるようになった』と言う事なのです。つまり、憲法に違反した内容でも何でも法令で対処できるのです。どんなに、基本的人権を侵害するような法令でも、通す事が可能なのです。おそらく、エルドアンは、『死刑復活』も非常事態宣言が有効な間にやってしまうでしょう。
しかも、この宣言は延長が可能なのです。非常事態宣言中の権力者ほど、自らの権力に酔いしれる人間は いないのです。それはそうでしょう。自分に逆らう人間全てを合法的に逮捕・粛清・排除できるのです。独裁ほど、権力者が権力者である事を自覚できるものはないのです。こんな素晴らしい権力行使の権限を簡単に手放す人間はそれほどいません。たいていの場合、非常事態宣言は延長されます。
フランスのような先進国でも延長しています。オランド大統領がエルドアンと同じとは言いませんが、彼をしても「戒厳令」の持つ権力集中の誘惑に打ち勝つのは難しいのです。
まして、そうでなくても強権的体質のエルドアン大統領です。間違いなく、『非常事態宣言』の解消は長引くと思います。
当然ながら、「非常事態宣言」で弾圧・粛清・排除される側の人々も多数存在します。トルコの事例を見ても分かるように、軍・警察・司法関係・教育関係・労働関係など多数の人間が逮捕・拘束され、解雇されて職を失っています。この数は数万人(5万人以上)に上るようです。この人たちの家族・親族・友人などを含めれば、膨大な数の人々がエルドアン政権に深い恨みを抱き、決して忘れないでしょう。
エジプトのムスリム同胞団の例を見れば良く分かります。エジプト軍がクーデターで、ムスリム同胞団政権を倒して以来、穏健派イスラムだったムスリム同胞団も過激化しています。エジプトの治安はなかなか回復していません。それと同じで、ギュレン派と呼ばれる集団は、元々世俗派で過激な行動はしません。しかし、これだけ強権的な弾圧をうけると、激しく反発する連中も出てきます。今後、彼らがこれからどう動くかによって、長期的に見れば、トルコ国内は、きわめて不安定化していく事は間違いないと思います。
トルコの問題は、米国・EU・ロシアなどの大国の思惑と、シリアをはじめとする中東問題など世界情勢と密接不可分に絡み合っているので、簡単にこれが正解だと言えないのですが、問題は、エルドアン大統領率いるトルコがどのような方向に進むかを正確に見定める事だと思います。
もし、今回のクーデターにCIAが関係しているとしたら、今後の米国とトルコの関係は、そううまくいかないはずです。当然ながら、対ISについても、大きな変化が出てきます。以前から何度も指摘してきましたが、ISの資金源、かれらが使用している最新武器は、そのほとんどがトルコ経由のものです。
米国が後押ししている穏健なシリア反体制派の実態は存在しないと言ってよいのです。トルコなどで訓練された穏健派シリア反体制派なる集団は、米国製武器を供与されてシリア国内に派遣されます。そこで、ISやムスラ戦線などの過激派に降伏。最新鋭武器ごとシリアでISやムスラ戦線で戦うのです。米国が過激派に武器供与しているのと結果は同じなのです。
公益財団法人・中東調査会の金子真夕(かねこ・まゆ)研究員は、スプートニック日本(旧ロシアの声)で以下のように指摘しています。
・・「米国は今のところ、ギュレン師がクーデターを主導したという明確な証拠がない限り、引き渡しには応じられないというスタンスを貫いています。この引き渡し問題が長期化すると、IS・イスラム国対策をめぐる情勢に大きい影響が出かねません。
現在の米国主導のIS空爆作戦はトルコの軍事空港を拠点にしていることもあり、トルコの協力が不可欠です。またトルコが長年抱えているクルド問題について米国とトルコは立場を異にしていま す。トルコは、反政府勢力のクルディスタン労働者党(PKK)と激しい戦闘を繰り返しています。一方、米国は対IS作戦において、PKKの兄弟組織である シリアのクルド民兵組織(YPG)を支援しています。トルコとしては絶対に、YPGを認めるわけにいきません。また、米国大統領選挙の行方も注視するべきです。もしトランプ氏が勝利することになれば、トルコに対してより強固な姿勢をとりかねず、関係が悪化する可能性があります。」・・・
国際的にはIS打倒を叫びながら、実際には、IS支援をしてきたのが米国です。米国にとって、シリア情勢が沈静化し、アサド政権がそのまま継続すれば、米国の中東政策に齟齬をきたすのです。ここが混迷をすればするほど、武器は売れ、産軍複合体は潤うというわけです。この種の二枚舌、三枚舌を使い分けるのが米国流戦略と言う事です。この米国戦略と歩調を合わせ、協力しながら、中東における影響力を強めてきたのがエルドアン政権です。
ところが、シリアにロシアが介入してから、情勢が一変しました。米国などが主導してきたシリアのIS拠点への空爆。空爆前にどこが空爆されるか、ISはよく知っていました。情報がどこからか漏れていたのです。だから、いくら空爆しても、あまり効果が出ませんでした。
それに反してロシアの空爆は、ISは事前に何も知らないのですから、非常に効果があります。ロシアが介入して以来、ISの勢力は細る一方になりました。イラクなどでは、イラク国内のIS拠点への空爆もロシアに頼めという意見が出るくらいでした。イラクの人たちは、米国とISがお友達などと言う事は常識として良く知っているのです。米国もあまり国際的信頼が落ちると、これからの中東政策に対して良い影響を与えないのは理解しているので、IS拠点への空爆を強化せざるを得なかったのです。だから、米国はエルドアンと交渉して、トルコ国内の基地へ米軍機を置き、そこから空爆し始めたのです。
正直言って、この情勢はトルコにとって痛しかゆしでした。エルドアン政権は、IS支配下の石油などをISから買いそれを売ってかなり儲けていたのです。(※エルドアンの息子が中心になっていたと言われています)この儲けがなくなるのは、非常に痛いのです。
さらに、シリア難民を国内に積極的に受け入れ、彼らをシリア国内に返し、トルコの影響下の地区をシリア国内につくるという狙いもうまくいかなくなります。EU諸国もなかなかトルコをEUに加盟させないし、かなりエルドアンはいら立っていたはずです。エルドアンにしてみれば、お前たちが始めた戦争で生まれた難民を預かっているのは誰だ、というわけです。
昨年のEU諸国への難民の流入は、トルコ政府のEU諸国への脅しの側面が強いのです。「トルコを大事にしないと、お前たちは困るだろう」というわけです。EU諸国は、何とか、難民の流入を止めないと、大変な事になるのです。トルコを何とかなだめすかししなければ、自分たちが困るというわけです。
ところが、トルコのエルドアン大統領は、米国やEUのやり口に業を煮やしたのか、ロシアのプーチン大統領と和解をしたり、米国とうまくいっていないイスラエルのネタニエフ首相とも手を結びました。これは、米国ネオコン派の連中にとっては、非常に困る選択でしょう。ウクライナ問題をだしにNATOとロシアを緊張状態に置き、中東でもロシアの影響力を削ぎたいネオコン派の戦略にエルドアン政権が邪魔になり始めたのだと考えられます。
ロシアのスプートニック日本(旧ロシアの声)はこう報じています。
・「ロシア外務省のマリア・ザハロフ報道官は、NATOは、トルコでの軍事クーデターを阻止するため働く代わりに、偽りの『ロシアの脅威』なるものに取り組んでいた」・・・・。
ロシアにとって、現在のNATOと米国の動きが如何に脅威かを示すコメントです。
少し考えればすぐ分かるのですが、旧東ヨーロッパ諸国にミサイルを配備すると言う事は、カナダに米国向けのミサイル基地を配備すると言う事と同じです。もし、そんな事になれば米国はどうするでしょう。かってのキューバ危機どころの騒ぎでは済まないはずです。
それを承知で行うという事は、対ロシアとの核戦争も辞さず、という事なのです。一体誰がそんな事を望んでいるのでしょうか。世界は、米国のネオコン勢力の脅威をもう一度考えなければならないと思います。米国やNATOなど西側メディアの報道だけではその真実は見えてきません。イラク戦争が良い例ですが、米国は、常に倒したい相手に【濡れぎぬ】を着せ、自らを正当化してきたのです。米国の言い分だけを無条件に信じるなどというのは、今や自殺行為に近いのです。
オバマ大統領にとっては、プーチン大統領は目の上のタンコブなのです。今年も、世界で最も影響力のある人物にプーチン大統領は選ばれています。オバマ大統領の前には常にプーチンが立塞がっていたのです。BRIC“S各国には、米国主導の経済制裁でかなりのダメージを与えました。ブラジルはほぼアウト。中国もかなり危うい。ロシアも経済制裁で国内はかなりダメージを受けていますが、国内世論はプーチンを支持して揺らぎません。ロシアのナショナリズムは強固なのです。
その為、アメリカは、あらゆるところでロシアの後塵をはいし続けているのです。米国にとって本当に不都合なプーチン大統領なのです。オバマ大統領にとって、不快極まりない存在なのです。ロシアという国家。腐っても鯛なのです。日本・豪州・EUのように、対米従属路線など死んでも取れないのです。
アフガン、イラン、イラク、リビア、エジプト、ウクライナ、シリア等々。米国の工作をことごとく失敗に終わらせている。KGBの伝統を持つロシアです。米国の諜報活動をきちんと監視していたのでしょう。
この問題が顕著に見えるのが、ウクライナ問題です。ヤヌコビッチ元大統領(選挙で選ばれた大統領)を追い落とすための工作を担当したのがヌーランド国務次官補です。彼は、ウクライナ野党の指導者や国内のNPO、NGOなどを支援し続けました。投入した金額は、日本円で1兆円だと言われています。結局、ヤヌコビッツ大統領が亡命し、政権は瓦解しました。
しかし、この騒動の裏側を冷静に察知していたプーチン大統領(元KGB)は、電光石火、クリミア半島を民意を背景に統合しました。しかも、ウクライナ南東部はいまだウクライナ政府の行政権が及んでいません。当初の米国の目論見は大きく狂っているのです。このようにプーチン大統領はオバマ大統領の一極支配の野望を阻み続けているのです。
おまけに、エドワード・スノーデンを亡命させています。彼がやった暴露は、NSA(国家安全保障局)による、同盟国である国々の政治リーダーや企業の情報を盗聴していた事実です。これを知った世界は、驚きました。米国は謝罪と釈明に追われたのです。ウィキリークスとはニアンスが異なりますが、米国にとって、アキレス腱を攻められていると同じでしょう。とにかく、米国にとってロシアは憎いのです。
しかし、冷静沈着、感情に走らず、抑制的な手段を講じるプーチン率いるロシアの影響力は増すばかりです。イラン、エジプト、ウクライナ、シリアは、アメリカ一国主義から離れつつあります。最近では、トルコ・エルドアン大統領までが、反NATO、親露方向に動いているようです。
これが、今回のトルコのクーデターにつながっていると考えられているのです。上記に書いた米国のやり口を子細に検討すると、今回のクーデター未遂。エルドアン独裁体制確立は、世界の地政学的分岐点になる可能性が高いのです。ただ、その方向転換が、『非常事態宣言』の常態化のような手段でしか維持できないとすれば、まだまだ不安定な世界情勢が続く事になるでしょう。
さらに、トランプにしろ、ヒラリーにしろ、強いアメリカを標榜しなければならない訳ですから、ウクライナ情勢、シリア情勢、トルコ情勢などまだまだ余談は許せないと思います。
「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
流水
アメリカ映画、アメリカドラマの刑事事件で日本と大きく違っているところがある。家庭の主人が殺されて刑事が家庭に来て奥さんに聞くのが、まずは奥さんのアリバイである。奥さんが殺された場合も主人のアリバイが必ず聞かれる。配偶者が第一容疑者なんだと、判を押したように聞いてくる。子供が殺された場合も親が第一容疑者になってしまう。車を運転していて人をはねてしまった、日本なら駆け寄り、様子を見たり、介抱したりするのが当然である。ところがアメリカの場合は被害者に触れれば証拠隠滅を図ったとっして刑事責任が重くなる。
以上の例から、アメリカ式国民統治のやり方が見えてくる。人情よりもまずカネが重要なのが、アメリカである。権力者は国民が家庭であれグループであれ、団結していては、統治できないと考えて、個人を砂粒のようにばらばらにしてしまうという方針を持っている。だから第一容疑者が身内になるのである。また人情などはないほうがいいから、被害者を加害者が介抱すると罰が与えられる。
日本では、江戸時代、家庭は国民統治の前提だった。だから刑事が親のアリバイを尋ねることはまずない。
親が子供に料理を作り、おいしく食べてほしいと願うことの先に、子が成長して、物を作ったり、レストランで料理を作るのは、人に喜んでもらいたい気があるからである。日常の中に日本の文化がある。文化があるから日本は政治がだめでも食べていける。
アメリカ生活では個人はかなりな緊張状態にある。だから大学で教師が学生が怠ければすぐ首になったり退学処分になる。だから、アメリカの大学は当然、レベルが高くなる。日本の大学では、教授も仲間同士で守りあうから、業績など関係なく教授でいられる。学生も高い入学金を払っているからと退学処分はまずない。
このような長所もアメリカにはあるが、日本以外の各国からアメリカが嫌われだしたのは、アメリカ特有の国民統治に関係があると思う。