みらい‐き【未来記】
未来記
『捜神記』巻3-1(通巻49話) 後漢の永平年間、魯国の相となった鐘離意は、かつて孔子が乗った車を修理させ、また、孔子廟へ入って孔子遺愛の調度品を磨いた。その時下僕の張伯が玉璧7個を見つけ、1つを盗んだ。鐘離意が講堂内の甕を開けると絹布に書かれた文書があり、「後世、我が車を保存し我が調度を磨くは鐘離意。玉璧は7個、張伯その1を隠す」と記してあった。
『捜神記』巻8-5(通巻231話) 孔子が、少年に捕らえられた麒麟を見いだすと、麒麟は口から書物3巻を吐き出した。書物は幅3寸長さ8寸、各巻24字ずつから成り、「やがて劉邦が帝位につく」と記してあった。
『捜神記』巻8-6(通巻232話) 孔子が『春秋』『孝経』を完成させた時、空から白虹が降り、径3尺の黄玉に変じた。黄玉には、「劉邦が天下を治める」という内容の文字が刻まれていた。
『太平記』巻6「正成天王寺の未来記披見の事」 かつて聖徳太子が、百代に渡る世の治乱を見通して未来記を書き残した。それから7百余年後の元弘2年(1332)8月3日、楠木正成が天王寺に詣でて、未来記を披覧した。「日西天に没ること三百七十余箇日、西鳥来たって東魚を食らふ。その後海内一に帰すること三年」という文面から、正成は、北条幕府の滅亡と後醍醐帝の復帰・親政を読み取った。
『百年の孤独』(ガルシア=マルケス) ジプシーのメルキアデスが、マコンドの町とブエンディーア家の草創から終末までの百年間の予言を羊皮紙に書き記す。百年後に、ブエンディーア家の最後の生き残りアウレリャーノが予言を解読して、一族の終末の時が来たことを悟る。彼が解読を終えた瞬間に、暴風によってマコンドの町は消滅する。
『ブラウンローの新聞』(H・G・ウェルズ) 1931年11月10日夜、サセックス・コート49番に住むブラウンローは、同住所オハラ氏宛の、1971年11月10日付けの新聞を受け取った。国家も戦争もなく、出生率が1000人に7人という世界のありさまが、そこには記されていた。おそらく、40年後にオハラ氏は1931年の新聞を受け取るのであろう。
『太平広記』巻147所引『定命録』 張嘉貞は若い頃、官職名を書き連ねて封じた巻物2巻を、占いの老人にもらった。以後、1つの官職の任期が終わるごとに巻物を1行ずつ開くと、すべて当たっている。やがて嘉貞は重病になるが、まだ1巻が開けずに残っていたので見ると、全部「空」の字が書いてあり、嘉貞は死んだ。
『平家物語』巻2「座主流」 任安元年(1166)、僧明雲は天台座主に就任し、宝蔵中の方1尺の箱を開けて巻物1巻を見た。それは、開祖伝教大師が未来の座主の名をかねて記しておかれたものであり、新任の座主は、自分の名のある所まで見て、それより奥は見ずに巻き戻すならわしだった。
★1d.未来が記してあるかもしれないページを開くと、すべてが消え失せる。
『塀についた扉』(H・G・ウェルズ) ウォレスは5~6歳の頃、緑色の扉を開けて魔法の庭園を訪れた(*→〔扉〕3b)。そこで憂い顔の婦人が見せてくれた本には、ウォレスの誕生以来、彼の身に起きたすべてのことが描かれていた。ウォレスは夢中でページをめくり、緑色の扉を開ける直前の彼自身の姿を見出し、その先を知ろうとページをめくった。すべては消え失せ、ウォレスは灰色の道路上に立っていた。
『保元物語』上「官軍召し集めらるる事」 鳥羽院の死後、その子・後白河天皇に対して、崇徳院と左大臣頼長が謀叛をくわだてた。後白河天皇は対策を講じるために、鳥羽院の遺命を記した日記を披見すべく、使者を美福門院(=鳥羽院の后)のもとへ遣わす。鳥羽院は、かねて謀叛を予見しており、日記には御自筆で、内裏へ召集すべき武士たちの名前が書いてあった。
『青い花』(ノヴァーリス)第1部第5章 ハインリヒは旅の途中で洞窟の隠者に出会い、未知の言語(プロヴァンス語)で書かれた本を見る。いくつかの挿絵には、さまざまな人々に混じってハインリヒ自身の姿もある。彼の過去と現在を表す両親や隠者の絵姿とともに、彼が詩人となって皇帝の宮廷に列し、愛らしい娘を得る未来も描かれていた。
『失楽園』(ミルトン)第11巻 神は、禁を侵したアダムとイヴを、エデンの園から追放する。それに先立って、大天使ミカエルがアダムを高山の頂上に連れて行く。大天使は、カインによるアベルの殺害や大洪水など、未来に起こる出来事を、幻の形でアダムに見せる〔*次の第12巻では、大天使ミカエルは言葉によって、その後の出来事、イエス=キリストの誕生と死、世界の終末までの歴史を、アダムに語り聞かせる〕。
*地球の生命の歴史をパノラマ視する→〔地球〕8の『午後の恐竜』(星新一)。
*未来の自分自身の姿を見る→〔自己視〕2aの『クリスマス・キャロル』(ディケンズ)・〔自己との対話〕1bの『詩と真実』(ゲーテ)第3部第11章。
★3.宇宙の過去から未来まで、風景を見るように、すべて一望できる。どのようにしても、いささかもそれらを変えることはできない。
『スローターハウス5』(ヴォネガット) トラルファマドール星人がビリーに説明する(*→〔誘拐〕6)。「われわれは、きみたちがロッキー山脈をながめるのと同じように、すべての時間を見ることができる。全宇宙がどのように滅び、消えてしまうかも知っている。それは、いささかも変えることができない。琥珀の中に捕らえられた虫のように、われわれは各瞬間瞬間の中に閉じ込められている。不快な瞬間は見ず、楽しい瞬間に心を集中すべきなのだ」。
*いわゆる「ラプラスのデモン」も、これと同様の考え方であろう→〔予言〕6の『確率の哲学的試論』(ラプラス)「確率について」。
『ドラえもん』(藤子・F・不二雄)「しずちゃんをとりもどせ」 のび太がタイムテレビで、未来の自分としずちゃんの暮らしを見る。のび太としずちゃんの間には「ノビスケ」という子供が生まれているはずなのに、代わりに「ヒデヨ」という、出木杉にそっくりの男の子がいる。ドラえもんが「未来は変わることがあるから」というので、のび太は落ち込む〔*実は、のび太としずちゃん夫婦が、火星基地に出張中の出木杉夫婦の子を一時的に預かっていただけだった〕。
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