2018年12月21日、米国通商代表部(USTR)は、「日米貿易協定交渉の目的の要約」(以下、「交渉の目的」)と題された文書[1]を公表した。
さかのぼること約3カ月、同年9月に日米首脳会談が開催された。ここで米国トランプ大統領と安倍首相は、日米貿易協定の交渉を開始することに合意。その後、米国はパブリックコメントの実施や、それに基づく公聴会など国内的な準備を進めてきた。これらの結果をまとめたものが、今回USTRが公表した「交渉の目的」である。
「交渉の目的」は、2015年大統領貿易促進権限(TPA)法に則った手続きでもある。TPA法に基づき、米国政府は交渉開始90日前までにその旨を議会に通知しなければならない(日米貿易協定についてはすでに2018年10月16日に通知済)。また交渉開始の30日前までには、各交渉分野について包括的で詳細な交渉目的の公開が政府に義務付けてられている。今回の「交渉の目的」公表は、この手続きに該当する。つまり「交渉の目的」が公表された12月21日から30日後の2019年1月20日以降に、交渉開始できるという状況が整えられたのだ。
「交渉の目的」は、全17ページからなり、22の分野・項目が挙げられている。日米共同声明後に、日本政府は「この交渉は物品交渉に限るもので、名称はTAGという」と強弁してきたが、改めて、少なくとも米国側にはそのような認識はないことが明らかになった。22分野・項目のほとんどはTPP協定と重なるものであり、また米国がNAFTA再交渉時に掲げた「交渉の目的」ともほぼ一致している。つまり、包括的な貿易協定を前提としているものである。
本レポートでは、過去の米国の貿易協定を含めて検証しつつ、今回の「交渉の目的」について分析する。米国の目的や関心事項について、当然のことながら今後日本は交渉の中で対応を迫られていく。ところが、9月の日米首脳会談以降、日本側の準備や情報開示はまったく不十分と言わざるを得ない。日本には米国のような議会への交渉目的の通知・報告義務を定めた法律もなく、またパブリックコメントや公聴会など、国民に開かれた意見聴取の機会も一切持たれていない。2018年秋の臨時国会でも、日本にとっての本交渉の目的(攻める分野、守る分野を含めて)がほとんど審議されず、政府の主張する「TAG」という名称問題等、きわめて表面的な議論に終始した。さらに、2019年1月20日時点で、日本ではこの交渉の責任者が茂木大臣であるということは明示されているものの、情報開示や窓口となる担当省庁が明確になっていない。これらの点を改めて批判し、問題提起するとともに、市民社会の視点から、日米貿易交渉の重要分野と課題を分析する。
[1] Office of the United States Trade Representative
(USTR), United States-Japan Trade Agreement (USJTA)Negotiations;
Summary of Specific Negotiating Objectives, December 2018.