2015年4月24日金曜日

2015年TPA法案をめぐる問題―日本政府は「法案提出」に騙され、いかなる交渉も進めてはならない―




1.はじめに―2015TPA法案の概要


2015416日、米国にてTPA法案が議会両院に提出された。法案名は「the Bipartisan Congressional Trade Priorities and Accountability Act of 2015」であり、直訳すれば「2015年 超党派貿易の優先事項と説明責任に関する法律」である。提出者は共和・民主の超党派議員であり、通商問題を所管する上院財政委員会のオリン・ハッチ委員長(共和党)、同ロン・ワイデン(少数党)筆頭委員(民主党)、そして、下院歳入委員会のポール・ライアン委員長(共和党)の3名である。下院歳入委員会の民主党筆頭委員はサンダー・レヴィン議員だが、共同提出者には名を連ねていない(レヴィンはその後TPA法案を批判するレポートを提起)。

20141月にもTPA法案は提出されているが、審議されないまま廃案となった。その後の昨年1年間、TPP交渉自体は大きな進展がなかった最大の理由の一つは、「オバマ大統領には貿易促進権限(TPA)がない」というものだった。つまりTPP交渉各国は、交渉妥結をしても後で米国議会から内容が覆され再交渉となるのを避けたい。TPAを取得するまではぎりぎりの詰めた交渉には挑めない、との態度をとってきたのだ。特にカナダやチリは、「オバマ大統領にTPAがない間はいかなる譲歩もしない」と明確に主張してきた。

その意味で、米国で「いつ、どのような内容でTPA法案が提出され、果たして両院議会で可決されるのか?」ということがTPP推進・反対を問わず大きな注目の的となってきた。

201411月の米国大統領中間選挙後、議会における勢力は共和党優位に変わった(図1参照)。その後、年明けの1月からはもっぱらTPA法案の話題が中心となる。当初は1月下旬に出されるという噂もあったが実現せず、その後は2月か、3月か、とされ、とうとう416日まで遅れこんだのだ。なぜか。共和党・民主党両党の間でのTPA法案をめぐる駆け引きが難航し、内容での一致が難しかったからである。例えば、法案提出者でもある民主党のワイデン議員は、労働組合からの激しいロビイを受け「TPA法案にはTAA: Trade Adjustment Assistance (and enforcement)」を盛り込まなければ合意しない」と主張してきた。TAAとは、自由貿易の結果、失業した人への支援プログラムで、例えば失業者が職業カウンセリングやトレーニング、失業期間の所得補助や医療保険を受けられることになる。こうした内容を盛り込まなければ法案も提出できないとの主張するワイデン議員とハッチ議員との間で調整が進められてきたのだ(しかし結果的にTAATPA法案には入らず、「別法案」として提出されることになった)。

また後述する「為替操作禁止条項」をめぐる議会内での意見の対立や、秘密交渉に不満を募らせる両党議員に対する措置など、今回のTPA法案を提出し可決させるためにはいくつものハードルが存在していた。

こうした問題から法案自体の提出が遅れこんだわけだが、一言でいえば今回のTPA法案は、基本的に2014TPA法案をそのまま踏襲しつつ、何とか議会で「可決してもらうため」に、端々に各要望へのリップサービスを散りばめた法案といえる。例えて言うならば、夏休みの終わりの数日で大慌てで宿題をこなし、何とかいい点がもらえるようあちこちに「先生が気に入るような内容や表現」を書き込んだようなものだと私は思う。



2.TPA法案をめぐる論点

 

 新TPA法案提出の直後、米下院歳入委員会のスタッフが2014年法案と新法案の一言一句を比較し、相違点の一覧リストを作成した(註1)。これを見れば一目瞭然だが、法案のほとんどの部分は2014年法案と同じである(2014年法案も2002TPA法をほぼ踏襲している)。

以下にTPA法案の問題点を挙げる。これによって、いかにTPA法案が不十分で脆弱なものかをご理解いただき、間違ってもこのような法案の「提出」をテコに、日本政府は日米協議あるいはTPP全体交渉を進めてはならないということを強調したい。


(1)この法案は大統領に一括して権限を与える「貿易促進権限」法案なのか?


先述の通り、両院議会に提出された新TPA法案は「the Bipartisan Congressional Trade Priorities and Accountability Act of 2015」であり、直訳すれば「2015年 超党派貿易の優先事項と説明責任に関する法律」である。

 実は本来TPAとは「Trade Promotion Authority」つまり「貿易促進権限」といわれ、2002年のTPA法案はまさに「Bipartisan Trade Promotion Authority Act of 2002」(2002年超党派貿易促進権限法)という名称であった。だが2014年時のTPA法案提出の際には「Trade Priorities Act=貿易の優先事項に関する法律」という名称で出されている。内容は2002TPA法をほぼ踏襲したものである。頭文字だけをとった略称では同じTPAだが、大統領に貿易促進権限を与えるという意味あいよりも、議会から見た「優先順位」を定める法律の要素が強い。そして今回出された新TPA法案の名称には2014年法案にさらに「Accountability=説明責任」という言葉が加えられている。つまり新TPA法案は、大統領に全権を与える法律ではなく、①貿易交渉における米国にとっての優先順位を議会が規定し、②政府に対して国会議員への情報公開を徹底させるための法律であり、この条件を守っている限りにおいて、大統領に一定の権限を与えるというものだ。2014年法案の時点から、略称にした場合に同じ「TPA」にする意図が込められていたわけだが、今回の新TPA法案でも同じ手法が使われている。

 日本のメディアは2014年法案時点から「TPA=貿易促進権限」法案と表記している。しかし根本に立ち返ると、今回の法案の正式名称は同じ「TPA法案」であっても、日本語表記をする場合には「貿易の優先事項と説明責任に関する法」案とするのが正しい。単なる翻訳・文言の違いを指摘しているのではない。大統領への「貿易促進権限法案」と、議会の側から提起される「貿易の優先事項と説明責任に関する」法案とでは、意味する本質と印象が大きく異なる。TPA法案をめぐる「作為」はまさにこのような部分に象徴されているのである。


(2)TPA法案は大統領に「貿易権限」を無条件に与えていない。

法案では、「新しいメカニズム」として上院と下院どちらかが、交渉内容がTPAの要件を満たしていないと判定した場合、TPAの円滑な手続きを中断することができるしくみが盛り込まれている。言ってみれば一度与えた政府の権限を、交渉内容如何によっては議会が剥奪できるというものだ。これはハッチとワイデンの対立点であった「修正権限」にかかわるものであり、議会が政府に再交渉を求めやすくする条項が盛り込まれたといえる。この点も、本来のTPAの趣旨とは大きく異なるといえる。

しかしながら、この修正権限については、米国内でも議論が分かれるところではある。市民団体の中では、「修正権限が強められたといっても従来のしくみと同じであり、大統領に大幅な権限を与えてしまえば後戻りができなくなる」との懸念も表明されている(だからこそ米国内では市民社会からTPA法案に強い反発があるのだ)。おそらく今後の法案審議の中で、このメカニズムについては数々の論議が巻き起こるだろう。しかし現時点で、そのような意見対立や解釈の違いが存在するということ自体、新TPA法案の持つ脆弱性が露呈していると言わざるを得ない。
従来、日本では「TPAが成立しなければ、政権が合意に至っても、議会は内容について様々な修正を求めることができる。これでは各国は安心して交渉を進めることができず、これが交渉停滞の原因のひとつになっている」との解説がなされてきた。しかし今回の法案を文字通り解釈する限り、仮に法案が可決しても、議会には交渉内容に異議申し立てをし、大統領から権限を取り上げることが可能である。しかも2015TPA法案は2014年法案よりさらに議会の権限を強めている。要するに仮にTPA法案が通ったとしても、交渉相手国は決して「安心して交渉を進める」ことなどできないのである。



(3)情報開示についての非対称性―TPA法案では国会議員への情報開示を約束している。では保秘契約とはそもそも何だったのか? 日本政府はTPA法案が可決されたら、同様の措置を日本の国会議員にも保障するのか?

 新TPA法案と2014TPA法案との違いの一つは、情報開示に関する項目である。新TPA法案では、国会議員への情報開示として、全国会議員に加え「セキュリティ・クリアランスを得たスタッフも協定案を閲覧できる」という内容が追加された。また「各国政府が協定に署名する60日前には交渉内容を、一般の人もアクセス可能なUSTRのウェブサイトにて公表し、情報を更新していくこと、また協定が妥結した場合に米国の目的と利益にどの程度合致しているのかについての説明を掲載すること」という内容も付け足されている。

 これらの項目が加えられた背景には、交渉が始まって以来続く、米国の国会議員からの秘密交渉への批判の声がある。TPA法案提出の約1か月前の318日、USTR代表のフロマン氏は「今後、米国政府はすべての国会議員に交渉テキスト全文を閲覧できるようにする」との方針を示した。USTRのウェブサイトにも同様の内容が1月時点で掲載されている。これらは秘密主義を問題視する両党議員への措置であり、TPA法案に書かれた情報開示が意図するものと同じ趣旨であろう。つまりこれらはすべて秘密主義を批判する国会議員にもTPA法案に賛成してもらうための「説得材料」である。

 しかし当然、これらの措置がとられたとしても市民社会に完全にオープンにならない限り、TPP交渉それ自体が問題であるという点は残る。

 米国は新TPA法案で、いわば自己都合で情報開示に関する規定を書きこんでいる。しかしそれは、日本も含む11か国と交わしている保秘契約と矛盾しないのだろうか。他国が国会議員の閲覧も許していないのはこの保秘契約があるためであり、米国だけが許されて他国は許されないということはあってはならない。すでに新TPA法案が出される以前から、米国は条件付ではあるが国会議員への交渉テキスト閲覧を許可してきている。そのこと自体が非対称・不平等であるわけだが、果たして日本政府は「米国並み」の情報開示を本気で行うつもりがあるのだろうか?


(4)そもそもTPA法案が可決する可能性は極めて低い。


 すでに指摘してきたが、今回の新TPA法案は、2014年法案に、各方面からの批判に対する「対応措置」として変更を加えたものに過ぎない。しかも日米協議や安倍首訪米から逆算したタイムリミットぎりぎりに、乱暴な手を使って提出された「問題法案」である。法案提出がなされた416日の朝10時から行われた公聴会では、法案提出もされていないのに公聴会が「形式的に」開催されたことに対し民主党議員を中心として猛烈な批判の声があがった。法案の内容以前に、手続き面でも慎重かつ公正といえない。法案提出直後のニューヨークタイムズは、TPA法案は「オバマ大統領の再任以来、もっとも困難な法案審議となるだろう」と予測した。米国NGOパブリック・シチズンはTPA法案の問題点を指摘しつつ、「法案は賛否の可決にすら至らないまま消えていく可能性もある」と分析する。


 実際、法案が可決する見込みは低いと言わざるをえない。


 法案が出された直後の417日、マレーシアのNGOThe Consumers’ Association of Penang(CAP)」と「Sahabat Alam Malaysia(SAM)」は「マレーシアは米国のTPA法案に騙されてはいけない」と題した声明をリリースした(註2)。ここでは非常に冷静な「過去の実績」と「票読み」に基づき「TPA法案が可決される可能性は極めて低い」と指摘している。下記にその理由を引用する。


①米国ではこれまで提出された法案のうち実際に法律となったのはわずか2-5%である

②法案可決のために下院では定数435の過半数218人の賛成票が必要だが、実際には困難である。

 *今回の法案は、「出された時点で死んでいた」法案である2014TPA法案とほぼ同内容である。この時TPA法案を支持した下院民主党議員は、201人中、たった8人だった。民主党下院の院内総務ナンシー・ペロシでさえ法案に反対した。下院共和党では100人以下の賛成しかいなかったといわれている。

*法案成立の可否について、下院では、共和党が過半数を確保しているものの、オバマ大統領への不信と反発から、共和党右派(ティーパーティー等)を中心に法案への反対が見込まれている。3月、ウオールストリート・ジャーナル紙は「5060人の共和党議員がTPA法案に反対」と報じた。つまりTPA賛成の共和党議員は186196人であり、下院の過半数218人を得てTPA法案を可決するためには、最大32人の民主党議員の賛成が必要となる。しかし下院民主党でTPA賛成は15人ほどしかいない。つまり下院での可決は非常に困難である。

*主要な民主党議員がTPA法案に反対している(下記)。

・サンダー・レビン議員:下院歳入委員会のランキング・メンバー(上院または下院の少数党に所属するその委員会の最古参議員)。彼はTPA法案の問題点を指摘する6ページのリストを法案提出直後にリリースした。

・クリス・ヴァン・ホレン議員:下院予算委員会のランキング・メンバー。

・ハリー・レイド議員:上院院内総務。

・エリザベス・ウォーレン議員:影響力のある上院議員。


③そもそも大統領が議会からTPAを取得するのは大変に困難である。議会はビル・クリントン大統領の8年の在任期間中、6年間TPAを与えてこなかった。在任中、クリントン大統領は1995年、97年、98年の3回にもわたりTPAを議会に求めてきたにもかかわらずである。またその後のジョージ・ブッシュ大統領は、TPAを得るのに実に2年間も費やした。またTPAの期限が切れた後、大統領は2007年と2008TPA延長を求めたがいずれも議会は却下している。


 上記の理由の他に、「為替操作禁止条項」の記載について付け加えたい。

 ④為替操作禁止条項

TPP交渉に日本が参加する以前から、米国の国会議員の間では日本による円安誘導政策への批判が強く、日本参加以降も、これら議員は為替操作禁止条項をTPP交渉に盛り込むように強く求めてきた。今回の新TPA法案が提出される前、為替操作禁止条項が持ち込まれるのかどうかが注目された。というのも、為替条項をTPP交渉のテーブルに乗せれば、交渉は紛糾することは必至であり、ただでさえ懸案分野が残っている中で、米国自らが交渉をさらに難航させるという選択はしにくい。また議会の中には「そもそも日本の円安誘導政策は為替操作にあたらないのではないか」という意見や、「為替操作禁止条項は巡り巡って米国自身の首を絞めかねない」などの慎重論も根強く、議論を二分していたのだ。

 結果的に、為替操作は2014TPA法案の文言をすべて引き継ぎ、新TPA法案にも以下の通り盛り込まれた。


 通貨政策に関する米国の原則的な交渉目的は、米国との貿易交渉の相手国が、効果的な国際収支調整を避けるため、または交渉している相手国に対し不公平な競争上の優位を得るための為替操作を、協力メカニズム、強制力のある規制、報告、監視、透明性や適切と思われる他の手段を用いて、防ぐこと。


 実はこの為替操作禁止条項の条文についての評価は難しい。文言の趣旨は為替操作禁止であるが、実際にどのような手段や方法、メカニズムを使って実施するのかはあいまいである。結果的には、為替操作禁止を求める勢力にとっても、逆に入れずにTPP交渉を粛々を進めたい勢力にとっても不満が残る書きぶりであり、これによってTPA法案賛成に議員を取り込める可能性は低いと考える。法案提出後、すでに為替操作禁止条項については民主党からも修正要求が出てきている。もちろんここでいう「為替操作をする国」として想定されるのは日本や中国であるので、私たちも警戒していかなければならないことは当然である。


3.日本政府はTPA法案提出に「乗せられて」交渉を進めてはならない


 米国でTPA法案が提出された416日以降、日本政府は待っていたといわんばかりに動いている。甘利大臣はじめ関係者は「TPA法案提出を歓迎」と表明、426日からの安倍首相の訪米前に二国間協議を収束させることを目指した。考えてみれば法案提出された416日というのは日米協議の最中であり、日米協議が終わるまでというのがTPA法案提出のぎりぎりのタイミングだったともいえよう。

 法案提出がされたことを契機に、日米二国間協議は加速し、直後の19日からは日米閣僚会合が急きょ開催される運びになった。ここでは日米間の懸案である米の輸入枠や自動車に関する議論がされたと伝えられている。

 米に関していえば、そもそも「聖域」とされ国会決議でも「聖域を守る。守れなければ交渉撤退する」と約束しているにもかかわらず、米国からの主食米215000トン(主食用175000トン、加工用など4万トン)の輸入要求への妥協策として、「主食米5万トン輸入」などの案が政府から出されているという(それでも米国は納得していない)。これが本当であれば、まさに「なし崩しの譲歩」であり、国益に反する行為である。

さらに今回、自動車に関しても大きな問題が明らかになった。米国は関税撤廃を段階的にであれ行うことに難色を示してきた。その上で、原産地規則を厳しく設定するよう求めているというのだ。TPP参加国でない国による部品供給を受ける日本メーカーの車は「日本産」といえない、という論理だ。「日本産」といえるためにはTPP参加国でつくられた部品や生産・加工にかかった費用が一定比率を超えなければならない。NAFTAでは自動車で62.5%、日本が過去に結んだEPAでは約40%だ。TPPNAFTA並みの比率が適用されれば、多くの部品や現地組み立てを中国やタイと取引している日本車のほとんどは「日本産」といえなくなる。それでは困るのでどうすればいいか、といえば、要は「アメリカの部品を買い、アメリカの現地工場で組み立てなさい」ということになるわけだ。自動車に限らず他の製造業にとってもこれは無関係でない可能性もある。

自動車はもともとTPPにおける日本にとっての「攻める分野」であったはずだ。しかしそれがこのような形で逆に「攻められる分野」へと180度変質していっている。日本政府はいま何を「国益」と位置付けて交渉しているのだろうか。もはやこれは「交渉」でなく「一方的な日本の切り売り」としか表現する言葉が見つからない。そしてこのような行為が、可決する見通しも十分でなく形式だけ取り繕うために提出された「米国でのTPA法案」に乗じて行われていることに怒りを禁じえない。


TPA法案提出直後から、米国市民社会は猛然と怒っている。その内容はもちろんのこと、提出の経緯も極めて不透明で非民主的だったからだ。ワイデン議員の地元オレゴンでは連日のようにデモが行われ、421日にはUSTR前では労働組合など1000人がTPPTPA法案への反対デモを行った。デモの中で与党・民主党の会派に参加する無所属のサンダース上院議員は「これまでの自由貿易協定でも政府は雇用が創出されると言ったが誤りだった。TPPも失敗する」と訴えた。さらに422日には市民団体らがワシントンでデモを企画している。これら市民社会からの反対は、ダイレクトに国会議員へ伝わっている。この声を無視して、TPA法案賛成に回る議員(特に民主党)が多数いるとは私には思えない。安倍首相が訪米時にどれだけのリップサービスとラブコールをしたとしても、である。

ニュージーランドのジェーン・ケルシー教授は、「TPA法案提出は、5月下旬の閣僚会合を実現し、そこで妥結に持ち込もうとするための単なるデモンストレーションの効果しかない」と指摘している。法案はただ提出されただけであり、可決の見通しもない。そのようなものを根拠に、交渉を進めることはあまりに危険であり無謀である。


最後に、先ほど紹介したマレーシアのNGOの声明文から引用したい。そのまま同じことが日本にもあてはまる。


「これまで述べてきた理由から、マレーシアはただ単に議会に提出されただけのTPA法案に騙されてはなりません。米国の上院・下院の両院において実際にTPA法案が可決しないうちは、マレーシアは今後TPP交渉でいっさいの譲歩をしてはなりません。

 最も重要なことは、マレーシアはTPP協定にサインしてはならないということです。なぜなら、国連のエコノミストによる費用便益(コスト・ベネフィット)分析が明らかにしたように、『マレーシアの利益になる』とされているいくつかのTPP交渉分野で、実際には敗北し、そこで支払うコストはマレーシア社会のすべてのセクターにとって非常に重い負担になるのです」



【註】

1▼”Side-by-side Comparison of the 2014 and 2015 TPA Bills--Prepared by Ways and Means Committee Democratic Staff”