物理オフィスを完全に廃止した企業がある。「納品のない受託開発」で有名なソニックガーデンだ。同社では、社員全員がリモートワークを行っている。

 同社の倉貫義人 代表取締役社長によると、全面的なリモートワークの採用は難しくないという。「できないのは、技術的な問題というよりは、心理的障壁のほうが大きいと思う。馬車の時代は自動車が爆発するのではないかと恐れる人がいたし、カメラが登場したときは撮影されると魂を抜かれると思っている人がいた」と指摘。いずれは「なぜわざわざオフィスに行っていたのだろう」という時代が来ると予想する。

2分おきに顔を撮影

 同社には過去に、アイルランドからリモートワークを1年間行っていた社員がいた。この経験から、チャットとテレビ会議を利用すればリモートワークが可能なことを実感。人材募集の際に「勤務地不問」という条件を付けたところ、全国から応募が集まった。

 こうして地方の社員が増えるに従って、社内の雰囲気を共有するためにSkypeで音声をつなぎっぱなしにするようになった。しかし、複数の会話が始まると音声をつなぎっぱなしではうるさすぎるという問題に直面した。

 なんとか、同じオフィスで働いているという感覚を共有し、雑談したり気軽に声をかけて話したりしたい。そのために何が必要かを考えた。世の中にはチャットソフトはたくさんある。しかし、チャットだと人の存在感が感じられない。一緒に働いている感覚が持ちにくいのだ。オフィスにあってチャットにないものは何か。それは、社員が働いている様子や顔が見えることだ。

 ただし、すべての社員の動画を流すと、ネットワークの帯域が足りない。その解決策が「人の顔が見えるチャットソフト」だった。それまでの経験から、音声を常に共有する必要はないということもわかっていた。そこで、2012年にバーチャルオフィスを実現するためのWebアプリケーションとして「Remotty」を開発した。

 原型は1カ月くらいで完成。そこから100回くらいバージョンアップを繰り返している。開発にはRubyのWebアプリケーションフレームワークであるRuby on Railsを利用した。