【映画】『TITANE/チタン』(2021年) 愛と恐怖、狂気の果てに | ネタバレあらすじと感想
▼ 映画『TITANE/チタン』の作品情報
【原題】Titane
【監督・脚本】ジュリア・デュクルノー
【出演】ヴァンサン・ランドン、アガト・ルセル、ギャランス・マリリエ他
【配給】ディアファナ・ディストリビューション
【公開】2021年7月
【上映時間】108分
【製作国】フランス・ベルギー
【ジャンル】ボディホラー、スリラー、ドラマ、SF
【視聴ツール】U-NEXT、吹替
キャスト
アレクシア:アガト・ルセル
ヴァンサン:ヴァンサン・ランドン
アドリアン:ギャラン・マリヤ
ジャスティーヌ:ラエス・サラミ
アレクシアの父親:ベルトラン・ボネロ
アレクシアの母親:ドミニク・フロ
ネタバレあらすじ
本作『チタン』あらすじ
ジュリア・デュクルノー監督の映画『チタン』は、驚異的な映像美と衝撃的なテーマで観客に強烈な印象を残す作品です。本作は、「人間の肉体と機械の融合」という斬新な題材を通じて、アイデンティティ、孤独、愛、そして家族の形を問いかけます。
物語は、幼いアレクシアが父親と共に自動車で出かける場面から始まります。道中、アレクシアは後部座席で暴れ、父親の運転を妨害します。その結果、車は事故を起こし、アレクシアは頭に重傷を負います。手術の結果、彼女の頭蓋骨には チタン製のプレート が埋め込まれ、金属と共に生きる身体となります。
手術後、病院の駐車場でアレクシアが車を愛おしそうに抱きしめる描写があり、彼女の人生が非凡な方向へ進んでいくことが示唆されます。
時は流れ、大人になったアレクシア(アガト・ルセル)は、エキゾチックなカーダンスショーのパフォーマーとして働いています。
彼女は挑発的な衣装を身にまとい、観客の前でスポーツカーと共に踊り、その美しさで観客を魅了しています。しかし、彼女にはもう一つの顔があります――彼女は連続殺人者 なのです。
ショーが終わった後、興奮した男性ファンが彼女に接近し、しつこく言い寄ります。アレクシアは冷静に、そして残酷に彼を殺害します。彼女の暴力性は制御できないものであり、やがて警察の捜査網が彼女に迫り始めます。さらに彼女は、異様なことに車と性的な関係を持ち、次第に妊娠の兆候を見せ始めます。彼女の腹部には エンジンオイルのような液体 がにじみ、身体が金属へと変容していくかのような異変が起こり始めます。
警察の追跡を逃れるため、アレクシアは髪を切り、鼻を折って顔を変え、行方不明の少年 アドリアン に成りすまします。アドリアンの父親である消防士 ヴァンサン(ヴァンサン・ランドン)は、長年の喪失感から解放されるかのように、アレクシア(アドリアン)を自分の息子として受け入れます。
ヴァンサンは心身ともに頑強な男ですが、年齢と共に肉体的な衰えを感じており、筋肉増強剤に頼っています。一方、アレクシアはアドリアンとして新しい生活を送りながらも、自身の妊娠と身体の異変を隠し通そうとします。しかし、ヴァンサンとの奇妙な共生が始まるにつれ、アレクシアの中に 人間的な感情 が芽生え始めます。
ヴァンサンは何もかも知っているかのように、アレクシア(アドリアン)を疑わず、無条件の愛を注ぎます。その愛情は、アレクシアがこれまで経験したことのないものであり、彼女の孤独な心を揺さぶります。しかし、彼女の身体は限界に近づいており、チタンの胎児は彼女の肉体を蝕んでいきます。
物語のクライマックスで、アレクシアはついに自分の正体をヴァンサンに明かします。ヴァンサンは驚きながらも、彼女を受け入れ、出産を手助けします。アレクシアは最後の力を振り絞り、金属の胎児 を産み落とし、息を引き取ります。ヴァンサンは新たに生まれたその命を抱きしめ、涙を流しながら愛おしそうに見つめます。
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映画のテーマ
『チタン』は単なるホラー映画ではなく、肉体の変容と機械化、人間関係の再構築をテーマにした作品です。アレクシアの暴力性や身体の異変は、彼女の孤独や疎外感のメタファーとも取れます。また、ヴァンサンとの関係性は、血の繋がりを超えた 「愛」や「家族」 の形を示しており、観客に深い問いを投げかけます。
ジュリア・デュクルノー監督は、グロテスクで過激なビジュアルを通して、観客に 美と醜、愛と暴力 の境界を考えさせる独自の世界を作り上げました。『チタン』は観る者を圧倒する作品であり、カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したことも納得の、異色かつ革新的な映画です。
考察や感想
映画『チタン』(Titane)は、ジュリア・デュクルノー監督による挑戦的な作品であり、観る者に強烈なインパクトを与えながら、アイデンティティ や 家族の再定義、そして「人間と機械の融合」をテーマに描いています。本作は、肉体の変容というホラー的な要素と、無条件の愛や救済といった普遍的なテーマを組み合わせた、非常に深い作品です。
アレクシアの存在と機械との融合
物語の中心にいるアレクシア(アガト・ルセル)は、人間でありながら機械とも共存する存在です。幼少期の事故で頭部に埋め込まれた チタン製のプレート は、彼女の肉体と精神に深い影響を与えています。大人になったアレクシアは、車に対して異常な愛情と性的欲求を抱き、機械と交わることで「人間の枠を超えた存在」となっていきます。
映画における 機械との融合 は、現代社会におけるテクノロジー依存や人間の身体改造を象徴しているとも考えられます。人間らしさとは何か、機械との共生はどこまで許されるのか、といった問いが観る者に突きつけられます。また、アレクシアの身体が妊娠によって変容していく様子は、女性の肉体が「生命を宿す」ことで変化する現象のメタファーとも取れ、肉体の美しさと不気味さ が見事に表現されています。
無条件の愛と家族の再定義
物語後半では、アレクシアが行方不明の少年 アドリアン に成りすまし、消防士ヴァンサン(ヴァンサン・ランドン)と共に暮らし始めます。ヴァンサンは、息子を失った悲しみから逃れるように、アレクシアを アドリアンとして受け入れ、無条件の愛情を注ぎます。この関係性は、血の繋がりを超えた家族の形を示唆しており、愛とは何か、家族とは何かを問いかけます。
アレクシアにとって、ヴァンサンの存在は 救済 でもありました。彼女はこれまで殺人や機械への異常な愛といった孤独な生を送ってきましたが、ヴァンサンの無償の愛を受け入れることで、人間としての感情が芽生えます。ヴァンサン自身も、アレクシアを受け入れることで「父親」としての役割を再生し、互いに欠けた部分を補い合う姿が描かれています。
肉体とアイデンティティの関係性
『チタン』では、肉体の変容が重要なモチーフとなっています。アレクシアの頭に埋め込まれた金属、妊娠による体の変化、そしてアドリアンに成りすまそうとする行為――これらは、彼女が自身の アイデンティティ を見失いながらも、新たな存在として再構築しようとする姿を象徴しています。
特に「性別」や「肉体の形」に対する概念は本作で曖昧にされています。アレクシアがアドリアンに成りすます過程で、彼女の肉体が女性から中性的なものへと変わる様子は、ジェンダーやアイデンティティの固定観念への挑戦でもあります。監督はこれを通じて、人間の本質は 肉体ではなく、存在そのもの にあるのだと主張しているように感じられます。
総評と感想
『チタン』はホラー、スリラー、SFといったジャンルの枠に収まらない異色作です。そのグロテスクなビジュアルや衝撃的な展開は観客に不快感を与えるかもしれませんが、その裏には 深い人間ドラマ と 普遍的なテーマ が隠されています。
特にヴァンサンとアレクシアの関係性は、本作の核と言える部分です。無条件の愛、他者を受け入れる寛容さ、そして「存在そのものを愛する」というメッセージは、血の繋がりや見た目を超えて心に響きます。
一方で、視覚的な暴力や奇抜な設定に抵抗を感じる人も少なくないでしょう。しかし、この 不快感や衝撃 こそが、現代社会の「固定観念」や「人間の限界」に揺さぶりをかける強烈な表現なのです。『チタン』は単なるホラー映画ではなく、観る者に 人間の本質とは何か を問いかける、革新的な作品です。
全体として、『チタン』は 「愛と救済の物語」 として受け取ることができます。その異様な世界観と挑戦的なテーマは賛否両論を呼びますが、確実に 記憶に残る作品 であり、観る者の価値観に強く揺さぶりをかける映画です。
本作から得た教訓
「人間の本質は肉体や見た目ではなく、無条件の愛と受容によって真に理解される存在である」
評価点 78点
お薦め度 76点
2021年 108分 フランス/ベルギー製作
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