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五月雨日記<仮の宿>

イラスト+漫画やアニメの感想等。 最近はプリキュアと東方多めです。

chapterⅤ-Ⅰ reality -現実-





「しんじゃやだ……おにいちゃん……!
 ひかるおにいちゃん……!しなないで……!!しなないで……!!
 かみさまたすけて……おにいちゃんをたすけて――!!」

それは、2年程前に遡る――
神社の境内で泣きじゃくる、小さな少女……
事故に遭い、生死をさ迷う兄を想い――涙が溢れる。

その少女に、巫女装束の娘が近付く……
軽く挨拶を交わして事情を聞いた後――
その巫女は優しく微笑む……

「あなたのお兄ちゃんが元気になるように、私も一緒にお祈りするね」

ほんの少し前まで、自分の容姿や性格を悪く言われて、からかわれて、
哀しくて泣いていた。その涙を拭って――

その時覗いた、彼女の心……
それが、“彼”が“彼女”を選んだ理由――


そして――小さな少女の兄もまた、彼女と同じ魔法の世界に
招かれて……その世界の中で彼女を殺めてしまう事……

更には、奇しくも同じ時……“彼”が出会った
巫女の娘と同じ年の、神頼みに訪れていた一人の少年……

3人共、同じ高校に通う事になる事……

それは、運命の悪戯か――

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「いよいよ……今日かぁ……」
6限目の古典の授業中、椿は想い人の事を考える――
今から数分後、その人物と初クエスト……
つまりは初デートみたいなもの……かもしれない。
そう、今日この日は――蓮との初クエストの日だった。
つまり、碧の暴走から――既に1週間が経過していた……

その1週間、椿はひたすら修行をしていた。雷音とは2人とも部活がない日は
一緒に放課後にクエストに行った。たった1週間――つまり、トータルでも
6時間程しか修業できなかった――それは、このゲームの特殊な設定……
1日1時間しか遊べない設定故、仕方のない話である。

「もっと修行したいのに……なんで1時間しか遊べないのかなぁ……
 普通のゲームなら、時間あったら何時間もできるのに……
 後から始めた人って絶対不利だよ……しかも私どうしてこんなに――
 魔法の調子が不安定なんだろ……?? 調子悪いよぉ……
 やっぱり調子良かった時が――偶然……だったのかな……??」

心の中で――思う。椿は自分の“力”に――違和感があった……。
その違和感は竜を助けた時以来――気になって仕方がない……。
蓮と初めて会った時、瀕死の蓮を助けた時――椿は、一瞬で傷を治す事ができた……。
だが、竜の時は同じようにやっても、なかなか治らなかった……。
他人を助けたい、その気持ちは――変わらないはずなのに――
攻撃魔法もまた、以前昂に放ったのと同レベルの魔法は――使う事ができなかった。
いつもクエストに行っても、その威力はその時の半分にも満たないのだった。
桃の話によると、RPG化したての頃は――
そんなに強力な魔法は使えないのが普通らしい……。

「まぐれかぁ……少しでも追い付きたいのに……もどかしいな……それに――」

椿はある2人の人物について考える――

「……もっと遊べたら、碧さんや竜さんにも会えたかもしれないのに……」

この1週間、この2人とは時間が入れ違った為か……一度も会えなかった……。
碧には10日程前のお礼――体力回復のお礼がしたいから――
暴走の時は、色々な事が1度にたくさんあって忘れていたが……
思い出した後は常に1つ、魔力回復アイテムを持ち歩いていた。
いつ碧に会っても、渡せるように――

「竜さんにも……会いたいのに――」
その理由は、1週間程前に遡る――それは、碧の暴走の翌日の事だった――

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「椿ちゃん、昨日はメール返せてなくてごめんね!」
「ううん、色々大変だったと思うし気にしてないよ!大丈夫だった?」

それは竜が初期化しかけた次の日の休み時間――
その日の前日、椿は竜と桃を置き去りにして蓮の元へ行ってしまった……
魔法が解けてから……2人の事が気になって雷音にメールをしたが、
雷音はメールを返してなかったのだ……

「ありがとう、心配かけてごめんね。ちょっと……余裕なくて……
 こっちは大丈夫だった。……椿ちゃんの方は?蓮に会えた?」
「ありがとう、私も大丈夫だったよ。蓮さんにも会えたし……」
「そっか……良かった。ところで椿ちゃん、変な質問するけど……
 ……その……魔力の譲渡って、し……舌……入れるもの、なの……?」
「……え……? 舌……??」
雷音の思いがけない質問に、椿はぽかんとしてしまう……

「蓮はどうだったの!? 入れなくてもできる物なの!?」
「えっと……あ……あまり覚えてないけど……触れるだけだったと思う……
 ……って!?もしかして……!?」
たどたどしく答えつつ、椿は察する……雷音は真っ赤になっていた。

「……竜に……いきなり……強引に譲渡された……しかも……
 舌入れられた……普通は……入れなくても成立するんだよね……?
 それに……すごく長かった……けど……」
「えっ……?蓮さんは……数秒位だったよ?そんなに長かったの!?」
「え!? そんなに短いの!? 
 それだけですむのに、どうしてあんな……あんな真似っ……!!」

雷音は――忘れられない、生々しい感触を思い出す。
それは、椿にとっては――想像もつかない……大人の世界のキス……
2人がそれぞれ経験した「魔力の譲渡」……
それは長さも質も全く異なるものだった……。

「うーん……私は竜さんとは少ししかお話した事ないし、たくさんお話
 してる雷音ちゃんの方がよく理解してるだろうなって思うけど……」
「……してないし! アイツ何考えてるか分かんないし!!」
「……そもそも、蓮さんの時は……他に方法がなくて仕方なくって
 感じだったけど、竜さんはそんな感じじゃなかったよね?
 魔力回復のお礼だったら、魔力回復アイテム渡すのが普通だと思うん
 だけど……わざわざ譲渡にしたのって……雷音ちゃんの事がす……」
「ないないない!!それはない!!
 多分アイテムだったら断るだろうな的な感じだってば!!」
「好き」……椿がそう言おうとする前に、雷音はその言葉を打ち消す……

「……でも好きじゃない人に……
 そんなに長く……そんなにすごいのしないと思うんだけど……」
「……!でもでも!それはきっと……アイツ遊び人なんだよ!
 その場のノリで女の子にすぐキスするような!なんか……キスも
 すごく慣れてる感じしたし……うん、それでだよきっと!!
 それに昨日スマホで色々調べたけどっ……そんな、キスしたからって
 好きだとは限らないし!好きじゃなくてもできる人はできるもの
 だって! それに…現実世界に彼女いるかもしれないし!
 意味なんてないよ!絶対!!」
「……だけどそもそも、竜さんってずっとセーブ使ってないんだよね?
 あんな風に助けたの、雷音ちゃんの事大切に思ってるからだって思うよ?」
「……でも……ゲーム!ゲームでの事だし!!そんなの……ありえない……
 ありえちゃ……いけない……!!……そもそも私は………」
「……え……?」
「……!! なっ…なんでもないっ……!!」
雷音は何かを言い掛けたが――はっとした表情で止める。

「……雷音ちゃんは――竜さんの事……どう思っているの……?」
「え……??」
「あっ……ごめんね!雷音ちゃん、セーブの事とか
 竜さんの事、よくわかってる感じもしたし……泣いちゃう位心配してたし
 ……長く一緒に遊んでるみたいだし……そもそも嫌いだったら
 相手の事ちゃんと覚えてたり、関わる事すらしないと思うんだけど――」
「……何言ってるの椿ちゃん!? 私はアイツにセクハラされたのが
 許せなくてこらしめたくてバトル続けてただけで……!!
 それで自然に覚えちゃってただけなの!竜の事っ……好きとか
 そんなんじゃ……! そっ……そそそそんな事より!!
 それより!そうそうそう!!椿ちゃんの事!蓮とはどうだったの!?」
雷音は赤面しながら――強引に話を反らした。
「え……えっと……今度一緒にクエストにも行く事になって……」
ひとまず雷音の希望に沿う為、椿も雷音に合わせ――話題を変える。

「へ~すご~いっ! おめでとっ!」
「ありがと……でも……創造者さんからの命令で……」
「えぇっ!? “創造者”にも会ったの!? どっ……どんな人だった!?」
“創造者”とは、普通のプレーヤーは、めったに会えないようだった……。

「えっと……この前言った――ヒトモドキ殺しちゃった……男の子――」
「ああっ! この前言ってたね~!! そっ……その子なんだぁ……」
「“昂”さん……っていうんだけど――蓮さんは、彼には逆らえない
 みたいなの……それに、蓮さんは私の事――嫌ってるみたいだし……
 蓮さん――かなり嫌がってて……」
「え?何それ?蓮、殴りたくなってきたんだけど……」
沈んだ表情を見せた椿に対し――雷音は蓮に不信感を抱く。

「そっ……そんな……!!私がこんなんだから……仕方ないんだよ……!」
地味で可愛くないし性格も誇れる部分がない……
自分が蓮に好かれる要素はない――椿はそう、感じていた。
「そんな事ないし!椿ちゃん優しくて礼儀正しくて良い子だって思うよ!
 それに……そもそも……それって椿ちゃん限定なの?」
「え?」
「蓮が誰かと一緒にいるの、聞いた事ないし……そもそも人間嫌いじゃないの?
 椿ちゃんは悪くない!椿ちゃんの人柄は私が保証する!だから自信持って!」

そう言って雷音は笑う――
「ありがとう、雷音ちゃん」
雷音の言葉に励まされ――蓮や昂の言葉を思い出す。

蓮は――「ニ度と『他人』の力は借りない」という言い方だった。
そして昂は、蓮が「女嫌い」とはっきり言っていた。
それに――事情はよく分からないが、昂は椿が関わる事で、
蓮の望みの実現に大きく近付くとも言っていた。
レベルの低さから――足手まといになる可能性が高い。
でも――1日1時間、修行してできるだけの事をしたつもりだ。
……だから、もう進むしかない。

「じゃあそろそろ、次移動教室だから、ばいば~い♪」
それから――雷音が教室を出た後、椿は思う……。


「……雷音ちゃん、竜さんの事完全に意識してた……
 でも無理ないよね……あんな事しちゃった竜さんも多分……
 ――少なくともお互いに嫌ってはないとは思うけど……
 ……もし竜さんが遊び人さんでいい加減な気持ちだったら……とにかく
 確かめたい……それにしても、あんな雷音ちゃん初めて見たなぁ……
 恋する女の子な一面っていうか……そもそも雷音ちゃんって確か――」

椿は思い出す……。明るく気配りもできる雷音は男子から告白される事も
あるらしい。でもいつも断り続けている……。その理由を――椿は知らない。
聞いてはいけないかもしれないと思い、触れないでいる。
そして――その事実は、ひそかに羨ましいと思い続けている事だった。

「2人が会うのが先かな…それとも私が先に……竜さんに会うのかな……」

実際――この1週間は、雷音は桃の時、自分のプレイに集中できてなかった……
この1週間、桃とのクエスト中――桃の様子は、明らかにおかしかった。
常に何か気にかけているようで――元気に振る舞っていても
時折その振る舞いには違和感があった。それはきっと――
竜に会ったらどうすれば良いか――わからなかったからだろう……。

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そう考えていた時――
「妃宮さ~ん! 内職はしてないみたいだけど、ぼーっとしない!」
「すっ…すみません…!」
尾藤先生の声で我に返る。今は――古典の授業中なのだ。

「今日は手加減しませんよ~!いっぱい質問しますね!
 『あやしがりて』の意味!」
「不思議に思って!」
「『おはする』の活用の種類、活用形!」
「サ行変革活用、連体形!」
「『この児のかたちけうらなること世になく』の、現代語訳!」
「この児の容貌は清らかで、美しい事は世に比べる物がなく……です!!」

「……相変わらずさすがねぇ、だけど!しっかり授業にも集中しなさいね」
「すみません……」
古典教師の質問攻めにも素早く答え、無事に正解を叩き出せはしたが――
授業に集中できていないのは事実だった為、椿は素直に反省した。

「……今は授業に集中しなきゃ……そういえば、この話……
 懐かしいなぁ……清らかで美しい……やっぱり、羨ましいかも」
授業で触れている物語――それは、古典文学ではあるが
昔話として、絵本でもよく読んでいた物語でもあった。

そして数分後、椿は――約束した場所へと向かった。

コメント

おはようございます

後に同じ高校に通うことになってしまうとは
まさに神様の悪戯いや運命だったんでしょうね

椿ちゃんの能力がうまく発動できなかったり安定しないのは
相手を助けたいって思いとは別に個人的な感情とか想いが
影響しているのかなと感じました

  • 2017/08/30(水) 08:00:39 |
  • URL |
  • 荒ぶるプリン #-
  • [ 編集 ]

ガールズ・トーク・パニック!?

 こんにちは! にゃるせです。

 序盤から、いままでとはまた違う嵐が訪れるのを予感させる、始まりでした。「少女」「彼」「彼女」そして、ゲームを中心としていた物語が現実と絡み合っていく。
 徐々に高めつつ、でも、今回のメインは予告にもあったガールズトーク!? というところでした。

 
 椿ちゃんはもっと自信をもっていい、という雷音ちゃんに深くうなずきつつ。でも、自分に自信を持つ難しさはよくわかる。
 そんな椿ちゃんだけれど、古典での名解答(ここのくだり、面白かった!)のところと、多分無理な要求をなさったあのお姫様とつなげていくのは上手だった。今回から、椿ちゃんの人柄や魅力がより濃く出ていて、それがどう物語に影響するのか楽しみ!

 雷音ちゃんもその感想や感覚や、ごまかしてしまいたいのは乙女なら当然だよ……! 触れる、というのはよほど親しい距離じゃないと怖いもの。状況が状況だったとはいえ、普段は喧嘩友達のような関係の人とだったら、なおさら混乱してしまう。
 でも、落ち着いて、自分の気持ちと相手の気持ちを考えられるようになったら、違う関係が始まるだろうから。
 そうなったときにどうなるか、見守りたいな。

 あとは、二人とも次に備えて一日一時間、しっかり強くなろうとしているのがすごい。椿ちゃんは蓮君とのクエスト、大変なのがこれまでからわかっているけれど。それでも、良いきっかけになるといいね。
 本格的に動き出した『バトルキャラクターズ』。リアルとゲームが絡み合った先に、何が待ち受けているか。
 次回も期待しています!

 入れ損ねてしまったけれど、しいさんの書く会話劇はいつもリズミカルで重要な内容も挟みつつで、きちんと練って書かれているのをちょっと参考にしています。キャラを動かすのは、こういう感覚なのかなって。

 それでは! 失礼します。

  • 2017/08/30(水) 10:50:40 |
  • URL |
  • にゃるせ #-
  • [ 編集 ]

わぁー

椿ちゃんと雷音ちゃんの
ガールズトーク炸裂ですねー。
それは、初めてのちゅーの後ですし、
たいへんなコトにー。
ゲームの中でもそれは、やっぱりねー。
竜くんは罪作りですねー。
乙女なお二人かわいいのです。
仲良しでうらやしいなぁ。
そして健気な二人。
椿ちゃんは、蓮様のために
一生懸命修行で桃ちゃんは、
竜くんを捜して…
きゅんきゅんしちゃいますぅ。
これから過酷な展開なんですよね。
風月先生あんまり二人をいぢめないで下さいね。
そして最初からしくまれた関係?
すごい伏線ですぅ。
あ。やっとお姫様わかりました。
なるほどそれは、無理難題を言いますね。
ますます楽しみなバトキャラ
風月先生執筆頑張って下さいね。

  • 2017/09/02(土) 05:47:11 |
  • URL |
  • TYPE MM04 #LkZag.iM
  • [ 編集 ]

おはようございます。

序盤の場面を補足する場面かなと思いましたが、
まだ謎のままですね。色々と想像させてくれるのは、
小説ならではかなと思います。

ガールズトークに花が咲いて微笑ましいですが、
竜君はとても罪深いことをしましたね(苦笑)
男性と女性では行為そのものに対する捉え方が
違うような気がしますが、竜君は「キスというのは
そういうものじゃないのか」と軽く言いそうな……

良く考えてみると日本の昔話って何が言いたいのか
分からないものも多いですよね。
めでたしめでたしだったり、悲しげな別れだったり、
でも子供の頃はその話で喜んでいたのが不思議です。

  • 2017/09/03(日) 11:18:00 |
  • URL |
  • ひもたか #J9QgpxCQ
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