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     どのようにすればよいか?(how to do)は、どんな場合に何をすべきか(what to do)に還元される。

     論文の書き方を説明するのに、〈論文には何が書いてあるべきなのか(構成要素は何か?〉〈なぜそれらの構成要素は必要なのか?〉を解説して、答えにかえよう。
     
     論文構成の標準的な型式(Style)を、その構成要素Introduction(序論), Methods(方法), Results(結果) And Discussion(考察)の頭文字を構成順に並べてIMRAD(いむらっど/ˈɪmræd/)と呼ぶ。
     頭文字は構成を記憶するには便利だが、なぜそれらの構成要素が必要なのか理由を納得した方が身につくだろう。

     以下に、論文の構成要素について、その論理構造を説明し、それぞれで何を書くのか簡単な例をいくつか挙げる。


     Introduction(序論)
      背景と必要性Backgroud and Necessity of the study 
      先行研究 Rrevious studies
     Methods(方法)
     Results(結果)
     Discussion(考察)
     Conclusion(結論)







    1.論文は「根拠付けられた主張」である

    trig-3.png

    (Why to write)
     論文の中核は「根拠付けられた主張」である。
     したがってその中心になるのは、上にある論証三角形である。
     結論Conclusionに論文全体の主張が書かれる。これを根拠付けるために
     論文では結果Resultsと呼ばれる部分に、得られたデータがまとめられ、
     考察Discussionと呼ばれる部分で、結果からなぜ結論の主張が言えるのかが、結果の解釈/分析を通じて、説明される。

    (What to write)

    結果Results
    1 図表でデータを掲示する
    2 データの傾向を述べる
    3 データの相違を述べる
    4 変化の有無、傾向を指摘する
    5 判明した事項を述べる

    検証型の考察Discussion
    1 結果を再確認する
    2 結果を解釈する
    3 結果と仮説との関係を示す
    4 原因を推測する
    5 予想と異なる結果について述べる

    論証型の考察Discussion
    1 中心的な問題や考察の視点を示す
    2 ある前提・条件・仮定のもとに議論する
    3 問いを立てて考察をすすめる
    4 比較して論を展開する
    5 対比させて論を展開する
    6 原因・結果を述べる
    7 根拠に基いて判断や主張を述べる
    8 問題点や反論を受け止めたうえで主張を述べる
    9 これまでの考察の要点を整理する

    結論Conclusion
    1 研究行動を振り返る
    2 研究結果をまとめる
    3 研究結果から結論を提示する
    4 研究結果を評価する



    2.新データが信頼できることを根拠づける

    trig-4.png


    (Why to write)
     根拠付けのベースになるデータは、多くの場合、新たに得られたものである。したがって、そのデータがでたらめでないこと、またデータ収集に際して不備や不正がないことが言えなくてはならない。
    そのために、データが信頼できることについて、次の論証三角形が必要になる。
     データを得た方法がすでに確立したものであれば、どのような手続きでデータを得たかを記述すれば、「何故その方法で得たデータが信頼できるのか?」については改めて論じなくてかまわない(ので省略されることが多い)

    (What to write)

    方法Method
    1 調査・分析対象を述べる
    2 対象を分類する
    3 実験・調査の方法、データ処理の方法を述べる
    4 理論的枠組を述べる



    3.その主張が新知見であることを示す

    trig-2.png


    (Why to write)
     学術の世界では、その研究で得られた知見が、既存の学問体系に何を付け加えるのか、既存の学問体系のどの部分を拡張するのか、どの方向へ一歩進ませるのかは、その研究を行った者/発表する者自身が明らかにしなければならない。
     つまり研究の〈住所登録〉は、その研究を行った者/発表する者が行わなくてはならないのだ。
     「この研究は新しい(新知見を含む)」ことの証明は、論文の最初(Introduction)に書かれることが多い。論文の最初を読めば、それを読むべきかどうか読者にすぐに分かるようにだ。
     「この研究は新しい」という主張を根拠付けるために
    論文の主張である結論Conclusionとともに、先行研究としてどのようなものがあるかが述べられる。論文の主張は、先行研究に対して、どこが異なり何が新しいのかが説明される。つまり、先行研究を背景に置くことで、この研究の新しさが明らかになるのである。

    (What to write)

    先行研究 Rrevious studies
    1 研究分野で共有されている知識を示す
    2 先行研究の存在を示す
    3 先行研究の全体的な特徴を示す
    4 先行研究の知見に言及する
    5 先行研究についての解釈を示す
    6 先行研究が不十分であることをしめす



    4.この研究の必要性、重要性を示す

    trig-1.png


    (Why to write)
     研究はただ新しければよい訳ではない。
     まだ誰もやってないことが証明できても、それだけでは、あまりにアホらしくて誰もやっていなかっただけかもしれない。
     「なぜ穴を掘るのか?」と問われ、「まだ穴が掘られていなかったから?」だけでは答えにならない。「埋蔵金をみつけるため」「タイムカプセルを埋めるため」とまで答えて、十全な答えになるのと同様に、この研究は何のためか?研究が追いかける問いに答えることで何が得られるかまで、説明する必要がある。
     研究の新しさを示すためには先行研究を背景に置く必要があったように、研究の必要性/重要性を示すためには社会的コンテキストを背景に置く必要がある。
     もちろんここで問われる有用性は、すぐに物質的利益が得られるものに限定されない。我々や我々の社会がどのようなものであるか/ないかが明らかになることは、それだけでも我々や社会を変える力となる。我々は不断に自身を解釈することで、我々の感じ方や考え方を作り直し、行動の仕方を作り変えている(こうした自己認識自体が、何人もの研究の蓄積によるものである)。その積み重ねで、我々自身や我々の社会を維持し作りなおしている。
     我々の知は、元から社会に埋め込まれている。だからこそ、社会への折り重なりを自覚的に掴み直し、研究の意義を社会的コンテキストを背景に捉え返す必要がある。

    (What to write)

    背景と必要性Backgroud and Necessity of the study
    1 研究対象を示す
    2 問題の現状を説明する
    3 状況の中で特に注目すべき事例に言及する
    4 疑問・推論を提示する
    5 研究の必要性・重要性を示す



    5.論文は4層の論証三角形から構成される

    bigtrig.png
    (クリックで拡大)


     繰り返そう。
     論文は、4つの論証の三角形からなる。

     中核になるのは、上から3つめの「この主張は正しい」という論証三角形である。
     ここで論文の主張(Conclusion(結論)に述べられる)が、Results(結果)と、それを結論に結びつけるDiscussion(考察)によって支えられる。

     Results(結果)の正しさを示すために、上から4つめの論証三角形「このデータは信頼できる」がある。
     このデータの信頼性はMethods(方法)によって支えられる。すでに確立した方法であれば、「なぜこの方法で確かなデータを得られるか」は改めて論じられない。

     この研究を、これまでの先行研究と結びつけ、どこが異なり新しいかを示すために、上から2つめの論証三角形がある。
     
     この研究が新しいことが示せても、さらにこの研究の意義を示すために、一番上の論証三角形がある。
     上2つの論証三角形は、Introduction(序論)の背景と必要性Backgroud and Necessity of the studyと先行研究 Rrevious studiesにおいて書かれる。



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